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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
精霊溜まりと新たな契約 の巻

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千三 志七郎、図書室に通い詰め推測を黙して語らぬ事

 と、そんな訳で魔法(スペル)図書室(ライブラリー)でワイズマンシティの勢力圏内に有る四つの精霊溜まりに付いて色々と調べている内に、準備期間である三日はあっという間に過ぎて行った。


 なにせ俺達がそれぞれ何処の精霊溜まりに割り振られるのか、お花さんは当日まで内緒と言い出した所為で、全員が四箇所全ての出現する魔物(モンスター)や、地形等の情報を頭に叩き込まざるを得なかったのだ。


 とは言えその意図は理解出来る、精霊魔法をより深く学んで行けば精霊溜まりに向かう機会は、今回だけでは無く今後何度も有るだろう。


 その時に成って一々『泥棒を見てから縄を綯う』様な対応を続けて居る様では、其奴は決して大成する事は無い。


 古来より『段取り八分の仕事二分』と言う言葉がある通り、事前準備が万全に行われて居るならば、その時点でやるべき物事は八割(80%)が終わっているのだと言う事だ。


 逆に言えば万全の準備を怠れば、その分だけ実作業の効率はどんどん落ちていくと言う事でも有る。


 今回の事だけを考えるならば、それぞれの行く場所に対してしっかりと対策を取れば、十分と言えるのだろうが、長い目で見るならば今の段階できっちり勉強しておいて損は無い筈だ。


 ちなみにワイズマンシティの国内に有る精霊溜まりは、西の海に浮かぶ『水霊(ウンディーネ)(アイランド)』北の国境近くに有る『(ブルー)の森(フォレスト)』東の荒野にぽっかり口を開いた『火姫マリナの臍(ネーブル)』と呼ばれる大穴、そして南東の山間部に有る『西風の谷(ゼフュロスバレー)』の四つである。



 水霊島は名前と立地の通り水属性の精霊溜まりで、碧の森の奥には土属性の精霊溜まりと成っている洞窟が有り、火姫の臍は地の底まで続く大穴で下まで降りると底には岩漿(マグマ)が流れ、西風の谷はその名の通り海側から吹く風が其処へと流れ込み大陸の奥へと抜けていく。


 精霊魔法学会(スペルアカデミー)の初代学長が此の街に学会を作ったのは、地元振興の思いと同時に此れ等精霊溜まりが比較的近い場所に纏まって存在していたと言う立地面での要因も割と大きいと図書室に有った本には書かれていた。


 外つ国では割と何処にでも精霊と言うのは存在して居ると、火元国で受けたお花さんの授業では習ったが、下位の精霊はマトモな思考能力も無い様な力の塊と言って良い様な存在で、何処にでも居る其れ等とは契約を結ぶのは難しいのだと言う。


 故に下位精霊の取り纏め役で有る中位精霊と交渉する事で、しっかりとした契約を結ぶ必要が有り、ソレが居るのが世界各地の精霊溜まりと言う訳である。


 なお『火元国に精霊は存在しない』と言うのは、中位以上の精霊が住む精霊溜まりが無いと言う事で有り、様々な自然現象が起こっている以上、ソレを担う下位の精霊自体は一応居るらしい。


 稀に産まれてくる加護持ちの天然精霊魔法使いとでも言うべき者が、産まれながらに契約して居る精霊と言うのは、殆どの場合そうした知能を殆ど持たない下位の精霊だと言う。


 武家の子や町人階級でも比較的裕福な商家や鬼切り者の子ならば、初祝の儀でそうした技能持ちだと発覚した時点で、幕府と京の都の陰陽寮へ届け出をして、該当する単属性の魔法だけが記載された呪文書(スペルブック)の写しを与えられるのだそうだ。


 対して貧農の子だったり腐れ街やその周辺の貧乏長屋に住む様な、初祝の義に奉納する賽銭も用意出来ない様な家の子が加護持ちだった場合、初陣に出た辺りで戦場(いくさば)での極限状態の中で暴発させる事で自身が加護持ちだった事を知るのが大半らしい。


 ……うん、小鬼の森で火属性の魔法を暴発させる様な事が有れば、下手をしなくても山火事でとんでも無い被害が出ても不思議は無いな、幕府が銃器同様に術者を規制するのには、其れ相応に理由が有った訳だ。


 多分、家安公の時代には彼自身が学会で黒の称号を得る事は出来たとは言え、お花さんの様に『学閥』とでも言うべき物を構成していた訳でも無く、多数の学生を留学させる事が出来る程に太い伝手(パイプ)が用意出来なかったのだろう。


 しかし今回はお花さんと言う学会の重鎮に、寅殿と言う錬玉術師だけで無く其処から派生した義肢師達にも影響力を持つ人物が留学に手を貸してくれたからこそ『術師育成の令』なんていう幕府の方針を丸っと覆す政策を敢行出来た訳だ。


「なぁ武光、ソッチの水霊島に付いて書かれた本に悪食粘液に関する記述は有ったか?」


 ただ……精霊溜まりに付いて書かれた本を色々と読んで居たのだが、どの本にも地下迷宮(ダンジョン)には必ずと言って良い程に出現する筈の悪食粘液に関する記述が一切見つからなかった。


「いや、水霊島にも悪食粘液が出たと言う記録は無い様だぞ」


 武光が今読んでいる『水霊島の魔物』と言う本なのだが、ソレにも記載が無いと言う事は本当に出現しないと言う事なのだろう。


 悪食粘液はその名の通り悪食で何ても食い尽くす粘液状の魔物で、外つ国での呼び名は『スライム』である。


 スライムと言うと始まりの街近くに出現するあっさり倒せる雑魚……と言う風に扱っているネット小説が前世(まえ)の世界では割と多かったが、この世界に出現するソレは斬撃も刺突も打撃……其れ等全ての物理攻撃が無効と言う厄介な存在だ。


 んで魔法ならば簡単に倒せるかと言えばそんな事も無く、出現した個体に依って通る属性が毎回違うと言う極めて面倒な性質を持っている。


 そんなヤバい存在が何故地下迷宮には必ず出現すると言われているのかと言えば、奴等は地下迷宮の環境を整える為に存在して居るからだと言う。


 地下迷宮内に死体が放置されて居ればソレを喰らい、地下迷宮の壁が破壊されれば其処を埋める様に隙間に入り込み硬化し壁を修復するのだ。


 だがソレが此の街周辺の精霊溜まりには出現しないと言う事は、其れ等の場所は地下迷宮と言う『整えられた場』では無く、自然に構築された天然環境だと言う事で有る。


「となると、余り大きな魔法で周辺に被害を出すのは避けた方が良いと言う事に成るな。下手に環境を破壊して今後の契約に影響を出す訳には行かない」


 神々が実在し世界樹(ユグドラシルサーバー)権能ちからに依り、天気すらもが管理されたこの世界だが、各地気候や地形は彼等が一つ一つ手作りして居る訳では無く、地震なんかの天災も含めて精霊に因る所が大きいと言う。


 精霊溜まりと言うのも恐らくは、そうした力が集まり易い天然の地形だからこそ成り立つ場所なのだと思われる。


 まぁ手元の本を読む限り、各地に出現する魔物は対応する属性をきっちり見極めて魔法をつかえれば、最下位の攻撃魔法でも十分一撃で倒せる程度の強さしか無いらしいので、大規模な破壊に繋がる様な魔法を使う必要性は先ず無い……筈だ。


 と、こんな事を考えている時点で色々とヤバい(フラグ)が立っている様な気がしないでも無いが、危険な化け物がそう簡単に出る様な場所ならば初心者向けの契約の場として使って居ない筈だし大丈夫だと思いたい。


 一応、記録に残っている限りでは、火姫の臍で何処かから岩漿の河に乗って流されて来た火竜(ファイヤ・ドラゴン)が出た事が有るらしいが、ソレも凡そ二百年前に一例有っただけらしいので、余程運が悪くない限りは出会す事は無いだろう……無いよな?


 いや……神の加護を持つ者はソレに相応しい試練に巻き込まれる運命に有るとか言う話だし、俺が行った所で大きな騒動が発生すると言う可能性は決して捨てきれない。


 うん、何処に割り振られたとしても最善の行動が取れる様にきっちり勉強して置く必要が有るな。


「なぁ武光様、もしもオラ達の相棒が持ってねぇ属性の精霊溜まりに行くなら、オラ達も契約して来た方がええんだべか? オラの輝騎は水属性を持って()ぇがらなぁ、上手く契約出来ればオラ達も時の魔法を使える様になるんだべか?」


 成る程、そう言う組み合わせの可能性は考えられるな。


 普通の精霊魔法使いは複数の精霊を同時に召喚する事で複合属性の魔法を使う訳で、俺達の様に複数の属性を持つ霊獣を最初の契約対象とする者は極めて稀だ。


 特に四属性全てを宿す四色霊獣と呼ばれる存在は世界中を見渡しても極めて稀で、お花さんが契約している霊獣の中でも世界に四体しか居ないとされる古龍(エンシェントドラゴン)だけが該当すると言えばどれだけ希少か解るだろう。


 対して武光達三人が契約している三色霊獣は四色程希少では無いが、其れ相応に珍しい存在で、其処に足りない属性の精霊を一つ足すだけで四属性複合魔法の『時』や、ソレ以外の二属性と三属性魔法も使える様に成るのだから彼等に追加契約をさせる可能性は高い。


 彼等に足りない属性を考えると、武光が火姫の臍、お忠が碧の森、(ラム)が水霊島、そして余った西風の谷に俺が割り当てられると言う事に成るんじゃなかろうか?


 とは言え、推測でヤマを張って外したら命に関わる案件な訳だし、此処は手堅くきっちり全ての場所に付いて勉強させておくべきだろうな。


 そう考えた俺は、脳裏に過ぎった推測を口に出す事無く黙々と勉強させ続け、決行当日の朝を迎えるのだった。

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