千一 志七郎、諸々済んで説教受ける事
「だから! なんで! そこで! 魔法を使わないで戦うの! 貴方達は!」
翌朝一番でワイズマンシティへとマギーさんが馬を走らせ、襲撃が有った事を政府に知らせると、今度は渋る事無く降伏した傭兵達を引き取りに軍隊がやって来た。
死体の始末や其奴等の収容なんかの後始末は、全部軍と牧場の皆がやってくれるとの事で俺達は後腐れ無く当初の目的通り、南の国境近くに有る遠駆要石を経由して街へと戻る事にした。
報酬云々は個人的にやり取りするのではなく、事後承諾でも冒険者組合を挟むのが外つ国の流儀だと言う事で後日改めて席を設ける事で合意したのだ。
麦街道を南に下り奴等が根城にしていた牧場跡地を少し過ぎた所に目標の要石は有り、其処に付いたのは昼にも未だ大分早い時間だった。
其処でサクッと冒険者組合経由でお花さんの屋敷へと帰って来た所で、戦いの経過を報告させられその内容に激怒した彼女に、俺達は纏めて説教を食らって居ると言う訳だ。
「本当に全く……コレだから猪山の脳味噌まで筋肉で出来てる連中は、貴方達は何の為に態々世界の反対側まで留学してきてると思ってるの! 鋼の巨人の板金鎧なんて雷属性の魔法で簡単に抜けるでしょう!」
鬼や妖怪を相手にする時には、事前に対象の属性に対する相性を知識として持っていなければ、反射されたり吸収されたりする可能性が有り、不用意な攻撃魔法の使用は逆に危機を招く原因にも成り兼ねない。
そして人間が相手の場合、その装備が一体どんな物なのかを見抜く目が無ければ、同様に手痛い結果を招く事に成る。
けれどもそうした相性の問題さえ無ければ、攻撃魔法と言うのは相手がどんなに堅牢な鎧を纏っていようとソレを殆ど無視して大きな被害を与える事が出来る強力な攻撃手段なのだ。
特に今回の様に相手が多数の場合、広範囲に被害を与える事が出来る魔法を使う事で圧倒的な有利を作る事が出来たのは事実である。
「いやいやお花さん、相手がどんな装備をしていてどんな魔法が効くのかを見抜くなんて真似そう簡単な事じゃぁ無いでしょう。彼奴等は揃いの装備を整えて居た訳でも無くどんな魔法を撃てば良いのか俺でも判断は付かなかったですよ」
人間やソレに類する種族……所謂『人類』は、基本的に全ての属性に対して全く耐性を持って居ない、故に装備を調える事で魔物が使う様々な妖術に対して対策を取るのだ。
俺が以前使って居た四色の鬼亀の甲羅を使った鎧が解り易い例で、アレは一揃いで火、水、風、土の基本四属性全てに対して『無効』の耐性が付く物だった。
今の鎧も前の物程では無いが鬼亀の甲羅を副素材としてあしらった事で、四属性に対しては『半減』の耐性が付いて居る。
「勉強不足を威張って言うんじゃ有りません! ソレに半減や無効までは兎も角『反射』や『吸収』の効果が有る防具は早々有る物じゃぁ無いし、複合属性に対する物とも為れば更に希少、だからこそ複合属性を扱える魔法使いには上位の階位を与えられるのよ」
素材と成った魔物が反射や吸収の耐性を持っていたとしても、ソレを素材にしたからと言って必ずしもその相性を引き継ぐ訳では無く、多くの場合は無効程度に効果が落ち着く物なのだと言う。
無論、絶対にソレを引き継がないと言う訳では無く、加工の仕方次第で反射や吸収の効果を持った防具を作る事は不可能では無いが、ソレが出来るのは名だたる名工の手に掛からなければ難しいのだそうだ。
「基本の四属性に対する耐性を持つ防具は決して珍しい物ではないし、ソレを作る事が出来る職人も少なくは無いわ。けれども複合属性ともなればソレが出来る職人は何処にでも居る訳じゃぁ無いし、ソレを作る費用だって半端な額面じゃ無いわ」
世界の上から数えた方が早い冒険者であるお花さんですら、三種複合属性に対する耐性を持つ防具は水+風+土=闇に対して無効とする物を一つ持っているだけで、二属性複合ですら反射や吸収の効果を持つ物は一つも無いと言う。
「単属性は兎も角、二属性以上の複合属性に対する反射や吸収の効果を持つ防具は、下手をしなくても何処かの王家の宝だとかそう言う格を持つ品よ。一寸名が知れた程度の傭兵風情が持っている訳が無いのよ」
……つまり単属性の広範囲魔法で薙ぎ払う様な行為は軽々にするべきでは無いが、複合属性で仕掛ける分には反射や吸収の様な危険は考える必要は殆ど無いと言う事か。
「とは言え、余が契約して居る黒江は闇の霊獣故に雷属性は使えぬが……毒や氷に砂の魔法ならばなんとか成ったかも知れぬと言う事か」
雷属性は火と風の複合属性で、闇翅妖精の黒江は火属性を持たない為に雷の魔法を使う事は出来ないが、水と土の毒や水と風の氷に風と土の砂ならば使う事が出来る。
金属鎧に雷属性の通りが良いのは何と無く想像が付くが、魔法に依る攻撃と言う意味では毒や氷も選択肢としては有りだった訳だ。
「座学の授業でもこの辺の事はちゃんとやった筈なんだけれどもねぇ……特に志七郎君には時属性の刀を作る云々なんて話をしてた時にきちんと説明した筈なんだけれども?」
鬼亀の討伐に行って大量の甲羅を手に入れた事で、装備を更新する際に彼女に相談した覚えが有るし、その時の授業の中で確かに防具の属性や武器の属性に関して習った覚えは有る。
んでもその際に複合属性防具の希少性とかの話は有っただろうか?
いや多分その時にも話には出てたんだろうが、あの時は今の素材で作れる物の事ばかりに気を取られて聞き流してしまったのかも知れない。
「炊飯魔法の研究も精霊魔法学会と言う組織としては大歓迎だし、火元食贔屓の私としても嬉しい物では有るけれど、魔法を武の方面で活かす事こそがこの留学の趣旨なんだから、先ずはソレを最優先にきっちりとやりなさいな」
……耳が痛い、確かに俺も武光も何方かと言えば氣を絡めた武芸でなんとかする事を優先し、ソレで手が出ない場合の手段として精霊魔法を見ている面が有るのは間違い無いのだ。
「それに同じ魔法を使うにせよ攻撃魔法だけが手段じゃぁ無いわ。付与魔法や状態異常魔法だって有るでしょう。搦め手も含めて無数の選択肢の中から最善を選び出すのが本当に優れた魔法使いなのよ」
そうした搦め手を含めた行動指針を選び出すのは割と得意だった筈なんだが、此方の世界に生まれ変わってから少し……いや、可也脳筋寄りに成ってしまった気がする。
うん、手札が色々と有るんだから使わなければ損だよな確かに。
「確かに余等の勉強不足だったな。余は兄者以上に手札を持っているのだから、ソレを活かす術を考えねば成らぬ。お花先生の言う通り奴の鎧を打ち砕くと言う思いが頭に居付いてしまったのは反省せねばならぬ事だな」
前世と言う下駄を履いている俺とは違い、武光は今生の努力だけで様々な技術を身に着けた『万能の秀才』とでも言うべき才能の持ち主であり、その実力は年齢からすれば間違い無く突出した物と断言出来るだろう。
でもだからこそ一つの手段に拘る必要は無く、最も効率良く戦う術を選ぶ頭が必要に成るのだ。
四属性全てを扱える俺とてソレは他人事では無い、一つ多くの属性の魔法が扱えると言う事はソレだけで、戦いの幅が馬鹿みたいに広がるのである。
ソレを学ぶ為の留学だったと言うのに、俺は確かに炊飯魔法に傾倒し過ぎて居た事は、武光以上に反省しなければ成らないだろう。
「俺も少し魔法が使えるからと調子に乗って居た部分は有る様に思える、いや剣術を優先し過ぎて居たが故に魔法を軽んじて居たかも知れない。折角の留学なんだ反省してもっと学ぶ姿勢を変えなければ成らないな」
魔法をぶっ放すだけが魔法使いじゃぁ無いのは、お花さんやセバスさんの様な『魔法格闘家』の存在が示して居る。
俺も彼等と同様に剣と魔法をもっと最適な形で扱える様に努力せねば成らないな……と反省するのだった。
次回更新は通常だと31日深夜ですが、1日の日に朝から出なければ成らない用事が有り、帰りも少々遅く成る為、次回更新は6月2日深夜と相成ります。
ご理解とご容赦の程宜しくお願い致します




