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序章 警部、殉職する事

「警部、全員配置完了しました」


 部下の報告を聞き、俺は小さく頷き肯定の意を示した。

 そして、そのまま静かに大きく息を吸い、拡声器のスイッチを入れる。


「君たちは完全に包囲されている、無駄な抵抗は止めておとなしく出てきなさい!」


 閑静な住宅街のハズレに位置した3階建ての廃ビルに、拡声器を通した俺の怒声が響き渡る。


「くぁwせdrftgyふじこlp!!」


 すると、どこの言葉かも分からない怒鳴り声を上げ、犯行グループの数人が窓から顔を出し、投降するのかと安堵の色を浮かべた俺達に対し、突如発砲した。


「被害は! 死傷者は居るか!」


 慌てて、パトカーの陰に飛び込みつつ、被害確認を求める。


「被害無し、全員無事です」


 さほど時間を置かず被害報告が集まるが、その間も絶えることなく犯行グループによる銃撃は絶え間なく続いている。

 幸いにも、犯行グループの持っている銃はさほど強力な物ではないようで、パトカーが十分遮蔽物として役立っているが、それだっていつまでも保つ保証は無い。


「このままではマズイな、流れ弾で周囲に被害が出かねん。……やむを得ん、反撃発砲を許可する。これは正当防衛である。万が一の責任は俺がとる」


 ……どうしてこうなった! そう叫びだしたかった。責任を取ると言った以上、犯行グループに死者が出れば俺の責任だし、かと言って発砲許可を出さず警察官に死傷者が出ればやっぱり俺の責任だ。


 そもそも、捜査四課マルボウの俺がなぜ、外国人マフィアと銃撃戦などしなければならんのだ。

 こういうのは機動隊なり、SATなり、専門部署の仕事だろう。そう言いたかった。



「警部、よろしいのですか」


「しょうが無いだろう、このまま手を拱いていても応援は来ないんだから」


 こんな大捕り物なのに、応援は来ない。

 なぜなら、今日は主要国首脳会議サミットの為、各国首脳が日本を訪れておりその警備にかなりの警察官が動員され、同時に某宗教団体の指導者が死刑執行されるということで、奪還などの可能性があり、そちらの警備にも力が入れられている。

 更には、広域指定暴力団前組長の法事があり、そっちにもかなりの人員が投入されている。


 なぜ、そんな日に俺達はこんな面倒な包囲戦など行っているのか。それは、明らかに警察の動員力が不足する今日を狙って、銃器やら麻薬やらの大量取引が行われると、情報タレコミが入ったからだ。


 情報をくれた顔馴染みのヤクザによると、本当はそいつの居る組がこの取引に乗り込んで叩き潰すはずだったが、急に前組長がぽっくり逝ってしまったため、来ることできなくなったらしい。

 情報の出処がアレなこともあり、最小限の人員で来たのだが、それが完全に仇になったようだ。

 まったく、どうしてこうなった。俺はただのんべんだらりと公務員生活がしたくて、警察官になったというのに……。


 俺は小さくため息を吐き、腹を括った。

 最悪、懲戒免職となる可能性もあるが、それはそれでまぁ良いだろう。それなりに貯金もあるし、趣味を隠す必要もなくなる。


「一斉射撃の後、突入制圧せよ!」




 唐突だが、俺はいわゆる隠れオタクである。


 親兄弟、そして先祖に至るまで、代々公務員という公務員至上主義の家庭生まれた俺は、

 引退警察官で剣道師範資格を持つ曽祖父に、物心ついた頃には竹刀を握らされ、さらには将来当然公務員と成れる様、勉学についてもかなりハードなスケジュールを積み上げられた。


 そんな抑圧された学生時代、彼女の一人でもいればまだ良かったのだがそんな甘酸っぱい青春の思い出などなく、2次元に癒やしを求めたのは、中学校に入って間もなくの事だった。

 かと言って、親方日の丸至上主義で、頭の硬い家族はオタク文化(サブカルチャー)全般を極度に毛嫌いしていたため、自分の部屋にそういうものを置くことは叶わず、友人宅や図書館などで楽しむほかなかった。


 だが、そんな日々が一流高校入学時に、褒美として買い与えられた携帯電話によって一変する。

 そう、ネット小説だ。


 電池と電波がある限りどこでも自由に、手軽に読めるそれは俺の生活の中心になった。

 その結果、入学時トップクラスだった成績は徐々に低下し、大学はせいぜい2流半、公務員試験もI種どころかⅡ種も怪しく、ノンキャリで警察官に成ることとなった。


 晴れて社会人と成った後も、規律厳しい寮生活ではオタク趣味全開とは行かず、隠れオタクとなるしかなかった。


 だが、学生時代のようにサボってネット小説を読むわけにも行かず、昇進し現場を離れ管理職となれば、激務から離れられると自分に言い聞かせ、少しでも趣味を楽しむ時間を作るため、可能な限り効率的に仕事し、昇進試験のために勉強することを心がけた結果、俺は35歳にして警部まで昇進し、地方署とは言え課長職に付くことが出来た。


 だが昇進の結果、責任は重くなり仕事は増えた。現場での張り込みが無くなったり、書類仕事が増えた分自由になる時間は増えた気がするが、それも思っていた程ではなかった。


 そんなある日、いつもの様に昼休みにお気に入りのネット小説を読もうと、私用の携帯電話スマホの電源を入れた所、ヤツから連絡があった。


 そして、今に至る。



「警部、制圧完了しました」


 そんなことを思い出しているうちに、どうやら終わったらしく、部下がそう報告してきた。


「死傷者は?」


「幸い、双方ともに命に関わるような負傷者は出ていません。何人か撃たれましたが、防弾チョッキで止まっています。犯行グループについても、せいぜい手足を撃ちぬいた程度です」


 どうやら、懲戒免職は免れたようだ。あとは、責任者として最終確認をすれば、問題ないだろう。


「よし、一応俺も内部を確認しておこう。報告書も上げないといけないしな」


「警部、防弾チョッキ付けてないんですから、前には出ないでくださいね」


「既に制圧済みなら、問題ないだろう? 君は本当に心配症だな」


「まぁ、一応ですよ一応」


 十数人が取り押さえられ、連行されていくのを横目で見ながら、俺は部下に先導されビルの中へと踏み込んだ。


 廃ビルのわりには思った以上に綺麗な室内を、一部屋ずつ懐中電灯の灯りを頼りに確認して行く。

 事前情報通り銃器に麻薬と思われる白い粉、違法コピー品と思われる大量のCD? DVD?の山、その他にも不正品と思われる携帯電話などなど、いろいろな物が押収されていく中、3階までひと通り何事も無く、確認を終えた。


「どうやら、問題なさそうだな」


 1階まで降りビルの出口に差し掛かったところで、俺はそうつぶやき気を抜いたその時だった。


「くぁwせdrftgyふじこlp!!」


 突如、そんな叫び声とともに、数発の銃声が鳴り響いた。


「警部!!」


 おそらく、たまたま外に出ていたのだろう、一人の男がバリケードテープの外で拳銃を構えているのが見えた。


 取り押さえろ! そう叫んだつもりだった、だが俺は声を上げることが出来なかった。

 どうやら、あの男の撃った銃弾が俺の胸を撃ちぬいたらしい。


「な、なんじゃこりゃぁ……」


 そう、かすれる声でつぶやき俺の意識は闇に落ちていった。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] うーん、テロリストとかなら1人になっても銃撃戦バッチコーイかもしれませんが、所詮は売人。 しかも警備の数が少ないからと、狙った日に取引しようとする狡賢い犯罪グループ。 立てこもり時な…
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