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転生少女は傍観できない  作者: 月月月
一章「巻き込まれた少女」
9/21

少女、選択ミス?

0.


 さて、皆さん。突然だが、この学校の制度をご存知だろうか。

 通称、学園と呼ばれるこの高校は総合学科、というものが存在する。総合学科とはつまり、日本の後期中等教育を行う課程に設置される学科のうち、選択履修により普通教育と専門教育の両方を総合的に施す学科のことである。

 他の学校はどうだか知らないが、この学園では必修の時間割と別に、授業の選択が行える。

 一般的な「学年制と単位制の併用による教育」では進級して卒業するという方式を取り、進級するためには各学年ごとに定められた単位を取得しなければならない。勿論、時間割も選べず、クラスを作って時間割は学校側が作成するだろう。その学年で単位が取得できずに「留年」となると、ほとんどの場合その学年すべての科目を再履修しなければならない。

 だが学園は違う。学年による教育課程の区分を設けない「単位制による教育」であり、"必修科目の単位習得"をするための時間割と、総合学科独自の履修の時間割、自分で"科目を自由選択"できる時間割がある。まぁ、普通高校と似たり寄ったりの気もするが、とにかく自分で選んで学べる時間割がある、というのが重要なのだ。


 前置きはこのくらいでいいだろう。wikiを引用してまで、ここまで長々と語ったには勿論理由がある。

 私が何を言いたいかって、平生はかかわらないであろう先生との交流があるということを説明したかったのだ。


「貴方が小宮遊さんで間違いありませんネ?」

「そうですけど……」


 授業終了後、静止をかけられたかと思えばいきなりのぶしつけな質問に眉をひそめる。相手への不信感などではなく、ただ、少々その相手というのが面倒な他人だっただけだ。

 これからはグローバル化が進む時代だ。将来のために英会話を選択した私が間違っていたとは思わない。思わないが。あ、ちなみにフランスとスペインも選ぶことができる、一応。

 目の前にいる色素の薄い外人ハーフ、光明寺先生。フルネームを光明寺オブジョレイ海という光明寺先生は主に一年の英語とこの英会話を担当する教師だ。15歳までカナダに居て、今は26歳。独身。中学校生徒会長の光明寺智行とは、叔父甥の関係。これは学園の一部の生徒しか知らない秘密、だが本人たちが別段隠しているわけではない。

 なぜここまで詳しいのかといえば、彼が攻略対象者だったからである。大事なことなのでもう一度言うが、彼は、攻略だったのである。


「授業終了は何時ですカ?」

「今日は七時限目まで授業が入っていますが……」

「私用で申し訳ないのですが、終わったら第一英語課研究室まで来て頂けますカ」

「分かりました。七時限眼が終わったら第一英語課研究室ですね」

「ええ、ではお待ちしていまス」


 今までいかに退屈といえども授業を真面目に受けていた私に、成績面でなにか注意を受けるなんてことはないと思いたい。

 だとしたら用件はなんだろうか……光明寺先生、私用で呼び出しとか嫌な汗が止まりません。


1.


「失礼しま……えっ?」

「あ、あそぶちゃん! っと間違えた、遊ぶと書いてゆうき先輩でいいんですかね?」


 そうきおったか。

 私は研究室に入るなり幾千をかけぬけた戦国武将のような心地になってしまった。

 七時限目が終わると大体の生徒が部活か、または帰宅という中一人、南校舎から教師棟に向かう私は浮いていたに違いない。緊張を抑えながら英語課研究室を訪れると、そこには光明寺くんと光明寺先生の二人がいただけだった。

 その場で呆然とするわけにも行かず、研究室に入ると先生の私用という意味に当たりがついた。ということは、今回の首謀者は光明寺くんということか。


「お久しぶりです光明寺くん。えっと、こちらになにか用事があったので?」

「ううん。叔父さんに頼んで遊先輩を呼んでもらったんです」

「すいません、僕はどうもこの子に弱くてですネ……」

「叔父さん? 頼む? 状況がよくつかめないんですが」


 いきなりの情報開示に戸惑ったふりをする女生徒を演じながら、すばやく相手の意図を測る。光明寺くんとは一回、あの日に話しただけだ。それから全く音沙汰はなかったし、あの日からは意図的に中北校舎には近寄らないことにしていたから何故彼が叔父さんに頼んでまで私に会いに来たのか検討もつかない。あるいはあの日のお礼か何かかもしれないが、それにしては日がたちすぎているような気もする。あの日が4月の半ばくらいだったから、一ヶ月くらい過ぎている。


「ええと、叔父さん……光明寺先生は僕のお父さんの弟なんだ。でね、僕相談聞いてもらったでしょ? だから次の日お菓子を作ってお礼をしようと木で待ってたんだけど、なかなか会えなくて。最初は自分で探そうとしてたんだけど、読みが違ったから全然見つけられなくて。そこで今度は仕方ないし、叔父さんにお願いして遊ぶ先輩を探してもらったんだ。ちょっと時間経ちすぎちゃったかも」

「そういうことでしたか。私、あの場所に頻繁に行っていたわけではなかったのであれからはさっぱりでした。わざわざありがとうございます」


 大嘘つき、自分でもそう思いながら、すらすらと建前を並べる。

 光明寺先生はいつの間にか消えていた。っておい、研究室に生徒を残してっていいんですか。


「嘘つき」

「え?」

「僕、知ってるんです。先輩が僕と真奈美先輩たちのやり取りをあそこから覗いてたこと」


 光明寺くんの纏っていた雰囲気がにわかに威圧感へと変わった。ここで黙ってはいけないと思っても、口をつぐんでしまう。

 沈黙、彼は肯定ととるだろう。しかし私が口を噤んでしまうくらい、それだけこの状況は想定外だ。まさか気づいているとも思えなかったし、それに気づいていたからといって野次馬は他にもいたのだから私だけがこうやって呼び出されるのは腑に落ちない。

 あの時の相談もすべて計算の上だったということだろう、相手も小僧と馬鹿にできないところが苦惜しい。


「肯定は沈黙とみなしますよ? 何故、貴方はあそこからこちらをみていたんですか」

「光明寺くんは、何が言いたいんですかね」

「聞いているのはこちらです。一体、何が狙いなんだ?」


 ぐっと肩を押されるが、女子相手にそれほど力を入れるわけにもいかなかったのか手加減されているようだ。

 狙ってるものなんてありません、しいて言えば平凡に面白おかしく毎日を生きていきたいだけです。そう答えられたらどれだけ楽だろう。

 しかし、狙いか……君たちを娯楽として楽しんでいました。なんて最低過ぎてそんなことはいえる雰囲気ではない。

 よく考えなくともこちらは最悪のことをしていた。光明寺くんがそれでこんな殺気だっているのかなんて私の知らないところだが、ふざけたことを言ったらどやされそうだ。

 でも、やるなといわれるとやりたくなるのが人の性というか、私の腐った性である。ふざけた返答で返すことにしてみた。


「狙いといっても……笑わないでいただけるとうれしいんですけど、それに年下にこういうことを打ち明けることにも抵抗があるんですけど」


 ここで光明寺くんの眼に疑問の念が写ったのを見逃さなかった、これ案外いけるかもしれない。


「実は私、恋愛愛好家なんです」

「はぁ?」


 素っ頓狂な声が響く。どうにも私の回答が理解できなかったらしい。私は彼らを傍観していたという点で全くうそをついていないし、彼を脱力させるにはこれが効果的だと思ったから実行したのだがずばり、ビンゴだったみたいだ。力の抜けた腕をそっとはずす。

 美形の顔はいつ見ても美形のままだが、ちょっと可哀想なので軽く説明を続ける。


「人の恋愛を見るのがすきなんです。だから、真奈美さんのめぐる貴方たちの恋愛模様は興味深くて。もちろん、初対面の光明寺くんの恋愛相談に乗ったことも私のこの趣味に関係しています。見世物のようにして光明寺くんを不快にさせてしまっていたのなら申し訳ありませんでした」

「いや、え、でも……」


 光明寺くんは戸惑ったような表情をすると、納得したようにうなずいた。


「そうだったんですね、僕がちょっと思い違いをしてたみたいです。手荒くしてしまってごめんなさい」

「いえ、私の方に非があるので。というかそろそろいいですか?」

「あ、はい……それにしても、ちょっと怖い人なのかと思ってたから、可愛い趣味があってびっくりです。またね、遊先輩」


 思わぬ切り替えしにどぎまぎしていたら、ちょうどそこへ光明寺先生が入ってきた。この人聞いてたんじゃないだろうな。

 入れ違いに教室を出ながら、ホッと息をついた私である。 


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