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転生少女は傍観できない  作者: 月月月
一章「巻き込まれた少女」
11/21

少女、将来を考える

0.


「駅前?」

「のデパートね。最近いろいろリニューアルしたらしいから中間終わったら遊びにいかない?」

「いいかも。私とほか誰が行くの?」


 学校では気弱少女を偽っている私を、中学時代から付き合いの紫は面白そうに観察していることが多いから、今回遊びに行くのもその一環だと思ったんだがどうやら違ったようだ。

 やや心外そうな顔で、違うよ、と否定される。


「たまには二人でデートもいいでしょう」

「よしノった。テスト期間始まる前に日時とか決めちゃおう」


 四月、五月ってあっという間にすぎていく。委員会決めだとか委員会の引継ぎだとか、私は気弱な女の子らしく環境委員に収まっている。図書委員にほんとはなりたかったんだけど、非情で有名な副会長が図書委員のオブザーバーだから遠慮しておいた。なにげに図書委員って競争率高いし。そしたら真奈美ちゃんと一緒になっちゃったわけだけどね。

 忙しい二ヶ月を乗り切ったと思ったらすぐに中間だから嫌になる。前期、後期でテスト数が少ないのはいいけど範囲が広いのだからやっぱり普通の三期制の方が良かった気がしてきた。後期は選択別のテストもあるのである。なんだか考えるだけで憂鬱になる。いや楽しいことを考えよう。この学園……秋休み、秋休みがあるのだ。一週間だけど。課題が山のように出るけど。ダメだ、先を見ても嫌なことが頭をよぎる。

 そう、テストだ。私は社会人を経験してはいないけど記憶では高校生活は二度目ということになっている。それでも未だに慣れないのだから、テストは学生にとって定期的に行われる大イベントと言っていい。

 その上、この学園は生徒数が多いくせに一位から百位までを五教科、後期は九教科の総合点とともに発表されるようになっている。これには選択が含まれていないが、これは落とすと内申に関わってくるのでこちらもしっかり勉強しなければならないことに変わりはない。


「それにしても、全く成績落とさないねぇ。遊は」

「普段から結構マメに勉強してるから。来年からはどうかわかんないよ」


 なんたって私が踏み入れたことのない高校三年生の領域だ。

 と言いたいところだが、この高校はカリキュラムぐちゃぐちゃになってるので転生前の記憶はとっくに使い終わっている、という感じだ。学園の授業は問題の解説が主体で、各教科ごとに先生たちは定期的に会議を行って授業内容の検討を行っているし、制度といい、先生といい、生徒たちといい研究熱心すぎて怖い。なんて余談はともかく。

 確かに、安定して五位以内につけているし、一位を取る時も少なくない。同率二位なんて時もある。だからこそ転落するとすぐバレるだろうし、その時後ろ指差されるのが怖いので安定した成績を得るために勉強も習慣になってしまっていた。

 三年もたぶん大丈夫とか、勉強が習慣とか言ったら絶対嫌味なので言わない。どうせ宇宙人扱いされるだけなのだ。ここら辺の思考は、記憶によるものが大きいのだと思う。でも未だに社会という科目に何故歴史と地理が一緒くたになって含まれているのか理解できないし、いきなり英語や数学が分類されるのにも納得がいってない。あまり勉強も好きじゃないから、ガリ勉とか宇宙人とか言うのはやめてほしい。


「ううん、進学考えると、遊は来年特進?」

「」


 三年からは特進、理系、文系に分かれるがどうするのか、ということだろう。数年前は二年から選択に移ったのだが、カリキュラムの都合で三年からの選択に変わったんだと一くんから聞いた。ここで選ぶ選択で、受けられる大学も決まってくるのだ。

 思わず、無言になる。転生前……記憶では看護師になりたいと思っていた。父子家庭だったが、死んだ母親が看護師で、憧れていたから。

 でも今は以前以上の学力もあるし、家は経済的にも余裕がある。両親は、自分の将来いきたいところにいきなさいと言ってくれている。以前と比べれば圧倒的に恵まれている生活なのにも関わらず、未だに私は夢を掲げられずにいた。


「遊?」

「いや実は、将来とか進路とか、まだ決めてないんだよね」

「え、そうなの?意外だなぁ、遊ぶはしっかり将来とか見据えてると思ってた」

「ううん、」

「でも、安心したかも」


 紫がこちらをみて微笑む。


「だって、無数の職業があって、選択肢があるわけでしょ?私、その無数を知る為にこの学校にきたようなもんだし」

「私も、そう」

「だよね」


 学園は、エスカレーターでそこそこの大学にいける、三年前加わった高レベルで幅広い選択の授業、名のしれた高校なので進学率がいいことがメリットとしてあげられる。無数を知る……選択授業のことを紫は言ってるのだろう。私のきっかけも無数を知る、そこにあった。なにかしら、紫とは考え方が合うのだ。


「だけどさ」


 遊ぼう、とはしゃいでいた時とは打って変わって真剣な表情を作る紫に、どきりとする。


「だけど、なんだかこの学校きていろんなこと知ったらもっとよくわからなくなっちゃった。それでも周囲は早く将来決めろっていう。あともう一年もしないで選択しなくちゃいけない。むしろ親が敷いてくれたレール歩いた方がよっぽど簡単なんだけど、案外そういうことって親は否定的だし」

「自由に選ばせることこそが教育の模範的回答、っていうのが最近の風潮だから」

「そうなんだよねぇ。でも遊は基本教科だけじゃなくて他の教科もハイレベルだし、目標なんてあって当たり前、みたいな感じだと思ってた」

「何それ」

「気を悪くしたならごめん。でもさ、そうだと思ってたからこそ、完璧超人の遊も悩むんだなって思うと安心した」

「そっ、か。ところで紫は将来とか決まってるの」

「一応方向は決めようと思って。夏休み終わるまでには決めるつもり、まだまだ勉強不足なんだけどねっ」


 前を見据えて言い切った紫に、なんだか憧れてしまった。総合的年齢でいえば私よりも半分幼い女の子だが、しっかりとした考え方。反対に自分が勉強不足なのだと感じさせられたある六月の、放課後だった。……誰だ勉強なんて余裕って言った奴。

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