姿を消した日常
寺西が鞄から取り出した、
ゼンマイ式の玩具。それは
自分達が持っているものと、
全く同じものだった。
寺西は無言でゼンマイを回す。
何周か回した後その手を止め、
こちらを見て彼女は言った。
「じゃあね、皆。バイバイ」
言い終わると同時に、寺西は
部室から姿を消した。
誰もそれを止めることは
出来なかった。
「…真相どころか、益々意味が
分からなくなってきたぞ…」
湯村が粒やく。確かに、謎が
増えただけで、肝心な部分は何
1つ解決していない。
寺西に一体何があったのか。
このゼンマイの玩具を部室に
置いたのは誰なのか。
そして寺西は今どこにいるのか。
寺西が去ってからしばらく、
龍也達は放心したようになっていた。
長らく無言だった部室で、
ようやく1人が口を開く。
「俺達が今まで話していたのは
あくまで3日前の寺西なん
だよな…。今の…元の時間での
寺西は一体どこで何を…。」
龍也だ。
「大丈夫かなぁ…。うぅっ…。
ちーちゃん…。ちーちゃん…。
誰なんだよ…ちーちゃんを
あんな風にしてるやつは…。
ちーちゃんを返せよぉ…」
望月が堪えきれなく
なったように涙をこぼす。
「あ、悪い…」
泣かせてしまった。失敗したか。
「ううん、春島が謝ること
ないんだよ…。ごめんね…
泣いちゃって…。皆辛い
のにね…。情けないなぁ…」
「いや、そんなことは…」
「…………くそっ」
湯村が俯いたまま、
悔しさを声に出す。
「…とにかく…ん?」
瀬戸川が何か言おうとして、
やめた。何かあったのか。
警戒し、龍也は辺りを見回す。
が、部室内に異変は無い。
「…どうした?」
「え、いや…
何か足音聞こえないか?」
「足音…?」
耳を澄ましてみると確かに
聞こえた。時計を見ると
とっくに7限目が終わっている。
全く気付いていなかった。
「…マズイな、そろそろ俺達が
部室に集まって来る時間だ。
足音は、もしかしたら俺かも
しれん。とりあえずもう一度
元の時間に戻ろう。」
湯村の言葉に龍也は頷き、
ゼンマイの玩具を手に取る。
今度はゼンマイを
時計回りに3周回した。
『カチッ…カチッ…カチッ……』
何も変わっていないように見えて、
やはりそこは先程とは違う
場所だった。デジタル時計の
日付を見てみると、
11月6日となっている。
となると、やはり自分達は
過去にタイムスリップしていた
ことになる。こんなことが
ある得るのだろうか。いや、
実際今ここで起こったのだ。
「…戻ってきた…みたいだな。」
「ああ…」
「…ごめん、今日はもう…
帰っても良いかな?
ちょっと…疲れちった」
望月が頼りなく笑った。
「…そうだな、今日は…。
少なくとも今からワイワイ
話す気にはなれないよな…。
色々とありすぎて疲れた。
解散にしようぜ。」
龍也も望月に同意する。
「…だな。」
「仕方ない…か。でも皆、
明日はまた元気になって
来てくれよ!いつまでも
暗くなってちゃ絶対ダメ
だからな!OK?」
瀬戸川が陽気に大声で話す。
無理している。見え見えだ。
でも瀬戸川は瀬戸川なりに
できる事をしようとしている。
この状況で尚、瀬戸川が明るい
発言をしたことに関しては、
素直に尊敬出来た。
「そうだな。明日はまた気持ち
切り替えて学校に来るよ。」
龍也は笑顔を作って答えた。
湯村も、望月も少しだけ笑った。
暗い表情だった4人が、ほんの
一瞬ではあったが、明るい、
希望に満ちた顔になった。
5話です。読んでくださった方、
ありがとうございます。
結構投稿にも慣れてきました。
しかし、他の小説を読ませて頂くと、
やはり格の違いを痛感しますね。
精進します。レビューとか評価もして
くれたらありがたいです。
まだ0なんですよね…。悲しい…。
ではまた6話で。
これからもよろしくお願いします。