そして何かが壊れてゆく
『カチッーーーーー』
「……寺西…?」
意味が分からなかった。
ゼンマイを反時計回りに
3周回し終えたその瞬間、
目の前に制服姿の寺西が
現れたのだ。寺西が現れたこと
以外は、何の変化も無かった。
自分達がいるのは、英会話部の
部室だ。間違い、ない。
「久しぶり、皆…。
来ちゃったんだね…。」
寺西が口を開く。嬉しそうな
顔をする反面、どこか
悲しそうにも見える。
「ちーちゃん…
今までどこ行ってたの…?
心配したんだよ…。」
望月が目に涙を浮かべて、
寺西に抱きつく。
「…ごめんね…沙奈…
ごめんね…本当に…」
寺西がそれを母親の
ように宥める。
「で?」
湯村が寺西を睨む。
「で?って何?」
寺西はけろっとしている。
湯村の睨みに臆さず、表情も
変えずにその言葉を発した。
何かが違う。
寺西はこんなタイプの人間では
無かったはずだ。
もっと、何というか、もっとーー
「…お前…何かロボットみたい
だな。以前のお前はもっと
人間らしかった。」
湯村の発言でピンと来た。
そうだ。もっと寺西は人間らし
かった。感情が豊かで、誰よりも
人間らしい人間だった。
「…そうかな?」
相変わらず、表情を変えない。
「うおっ!?」
今まで黙っていた瀬戸川が、
急に大きな声をあげた。
「うるっせーな…。何だよ…」
「時計!そこ!ほら!」
瀬戸川が部室にある
デジタル時計を指差す。
『11月3日15時01分』
それは、ちょうど3日前ーーー
寺西が早退したあの日を
表していた。どういうことだ。
「あ、気付いた?そうだよ。
今ここは11月3日…。皆は
今6限目の授業を受けてるんじゃ
ないかな?」
「ど、どういうことだよ…。
このゼンマイは、時間を操る力
でもあるってのか?」
「そうだよ。それは…小型の
タイムマシンみたいなものかな。
時計回りに回したら未来へ、
反時計回りに回したら過去へ
移動することがーーー」
「待て」
湯村が寺西を止める。
「何故お前が…
この玩具について知っている?」
「…さぁ?何でだろ?」
寺西は少し笑った。
湯村の表情とは対照的だ。
「肝心な部分は何一つ
話すつもりは無いんだな…」
「そうかもね。」
「…ここが3日前なんだと
したら、お前は早退してる
はずだよな。」
「確かに、そう言って私は
教室を出たね。」
「何故ここにいる?」
「…私は3日前の私じゃない
かもしれないよ?」
「いや、お前は3日前の
お前だろ。制服着てるし」
「…だからって3日前とは
限らないんじゃない?」
「もしかしたら3日前じゃない
かもな。でも3日前より後の
お前ではないはずだ。
それ以降お前は学校に来て
いない。なら制服姿である以上、
お前は少なくとも3日前か、
或いはもっと前のお前だ。」
「そう思うなら
そうなんじゃない?」
「なら、質問が戻るがお前は
何故ここにいる?まるでーーー」
「まるで俺達がここに来る
って分かっていたみたいだ、
でしょ?」
寺西が湯村の言おうと
したことを先読みした。
「…そうだ。」
「湯村は…変わらないよね…。
そうやって…」
「そんなことは聞いてない。
何故お前は俺達がここに
来ると知っていた。」
「…さぁ?」
「…っ。てめぇ…!!!」
「やめてよ!!」
湯村と寺西の会話に、望月が
割って入る。
「何で喧嘩するの!?せっかく
ちーちゃんと会えたのに…
何でそんなにちーちゃんを
責めるの!!?」
「沙奈…怒らないで…。
悪いのは私だから…。」
「あぁ、そうだ。
悪いのはお前だ。さぁ、話せ!」
「だからやめてって湯村!!」
「ちょっ、皆、一旦落ち着こう
ぜ?な?望月さんも湯村も頭冷やして…。
喧嘩せずに…さ…。」
「…悪い。」
湯村が謝る。
「湯村は…悪くないだろ。
お前がムキになるのは、
それだけ寺西を心配してたって
ことなんだから。」
龍也は湯村をフォローする。
「…いや、俺が悪かった。」
何だ。何なんだこの感じは。
5人の、英会話部の絆が、
少しずつ崩れていくようなーー。
「…じゃあ、私はもう行くね。」
寺西が立ち上がる。
そして鞄から何かを取り出した。
「…おい、寺西…それ…」
寺西が取り出したのは、
龍也達が持っているものと全く同じ、
ゼンマイのついた玩具だった。
4話目です。
読んでくださった方、
ありがとうございます。
少しずつですが、読んでくださる方が
増えてきていて、とても嬉しく思います。
これからも頑張ります。
どうか見放さないでください(笑)
ではまた5話で。