ゼンマイ
「何だこれ…?」
そこに瀬戸川と湯村も
部室へ入って来る。
「よっ、春島、望月さん。
…ん?おー、これって
あれだよね、ゼンマイ回したら
進むやつっしょ?知ってる
知ってる~。
で、何でこんなのあるの?」
「いや、俺も今来たばっかで」
龍也は望月の方を一瞥する。
「…これ」
望月が龍也に差し出したのは
一枚の紙だった。
「?」
何やら短い文章が書いてあるようだ。
紙に書いてあるそれを、龍也は読み上げた。
『真相が知りたいならゼンマイを
反時計回りに3周回せ。』
真相…?それはもしや、
寺西のことなのだろうか。
むしろ今この状況で、『真相』と
言われたらそれしか浮かばない。
そしてこの玩具はただの
玩具ではないのか。ゼンマイを
回すと、一体何が起きると言うのか。
「…意味が分からないな…」
「部室に来たらこれがあってさ…
これってちーちゃんのことなの
かな?だとしたら…」
望月は俯き、震えていた。
龍也は何も言うことが出来ない。
「仮にこれが寺にっちょんの
ことを指すとしてさ、この
ゼンマイ回したらどうなるんだ?
真相って…寺にっちょんは事件に
でも巻き込まれてんのか?」
瀬戸川も事態が
把握出来ず、狼狽える。
「だとしたらこれを置いたのは
寺西を事件に巻き込んだ『犯人』
…ってことになるのか?」
湯村が推測する。
「憶測と言えど、その可能性が
高いよな。寺西が何らかの事件に
巻き込まれていて、犯人がこれを
置いた…。」
「でも何の為にだ?
真相に近づくのは犯人にとって
不都合じゃないのか?寺西が
事件に巻き込まれたことを
俺たちに知らせるのが犯人に
とって何か利益になるのか?」
最もだ。仮に今までの憶測が
正しいとするなら、この
『犯人』の行動は不自然過ぎる。
「でも…」
望月が口を開く。
「このゼンマイを回したら…
何か分かるんだよね?
分かるかもしれないんだよね?
ちーちゃんが今どうなって
いるのか……」
「…おい、まさか回すのか?
爆弾とかかもしれないぞ…。」
「そうだね、湯村。
そうかもしれない。でも、もし
本当だったら?回したら
どんな形でかは分からないけど、
ちーちゃんについて
何か分かるとしたら?
その可能性があるのに、
これを回さなかったら、
私達はちーちゃんを見捨てる
ことになるんだよ?」
「…その言い方卑怯だろ…」
「…」
望月は、まっすぐ湯村を
見つめる。暫くして、湯村が
目を逸らした。
「…分かったよ…。
回したきゃ回せよ。どうなっても
俺は知らないからな。」
「湯村ならそう言って
くれると思ってたよ」
望月がニコッと笑った。
「春島も、瀬戸っちも、
良いよね?」
「ああ、構わない」
「俺は大丈夫だよ。
回しちゃってくれっ!」
「…じゃあ…いくよ…」
望月がゼンマイに触れた。
そしてゆっくり、ゆっくりと、
書いてあるとおり、ゼンマイを
反時計回りに回して行く。
1周する度に、カチッカチッと
音がなる。不気味だ。
そして3度目の音が、
部室全体に響いたーーーー。
3話目です。読んで頂いた方、
ありがとうございます。ここからが
この話の本番だと思っております。
これからもよろしくお願いします。