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New Testament  作者: 巫 夏希
第五章 真実を追い求める者
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「地球の偉い人間たちは私の計画を聞いてホイホイ乗り出した。……どうやって私は口減らしをしたかって? 簡単な話だよ、ロボットを操り、人間を滅ぼしたのさ!」


「ロボットで……人間を滅ぼした、だと……?」


「驚くか? 驚いたのか? ……ここで驚いていては身が持たない。未々ビッグなことが待ち構えているのだからな」


 オール・アイは小さく笑うと、ゆっくりと歩き出した。


 軈てそれはガラムドの目の前で立ち止まった。


「ガラムド、あんたには記憶が残っているはずだ。まだ産まれていない記憶かもしれないが、あんたにはこの世界でいうところの『旧時代』の記憶があるはずだ。何せあんたの両親は……旧時代から逃げおおせた人間なのだから」


「旧時代から逃げてきた……?」


「ロボットで人間を滅ぼした、とは言ったが正確に言えばそれは誤りだ。確定した歴史の上で言うならば、ロボットを用いて人間を滅亡寸前まで追い込んだ……と言った方が正しいだろうな」


 そして、オール・アイは話を続けた。


「ロボットは知恵が与えられず、人間から命令が与えられるか、或いはそのようなプログラムをすることで漸く動くことが出来る。……だが、そこで私は考えた。ロボットに知恵を与えてしまえばいい、ロボットが『人間への反逆』を企てるようにすればいい……とね」


「旧時代であったロボットの反逆は……あなたの差し金だったと言いたいんですか!」


 そう声高に言ったのはガラムドだった。先程彼女は旧時代が滅んだのはロボットの反乱によるものだと語った。


 それが事実であるというなら。


 オール・アイの言ったことが事実であるとするなら。


 旧時代が滅んだのは、オール・アイが仕組んだもの……ということになる。


 彼女はそれを『つまらないから』という理由で行なったのだ。


「他の……その時代に、その世界に住む人間の気持ちを考えたことはないのか!」


 リニックはもう我慢できなかった。


 押し込めた感情を爆発させるように、オール・アイに向かって駆け出す。


 しかし。


「――弱い」


 たった一言だった。


 その、たった一言で、リニックの身体は固まってしまった。


「き……貴様……! 何をした……!」


「じたばたする虫を虫ピンで留めたまで」


 そう言うとオール・アイは軽く腕を上げた。それに作用するように、リニックの身体がふわりと宙に浮いた。


「リニック!」


 ガラムドがどうにかして彼を助けようと力を加えるも、


「無駄よ。今のリニックには強力な防御結界が働いている。これを解除しない限り、幾らカミとはいえ作用させることは出来ない。考えてもみろ。この世界を作った……天地開闢ではないときに生まれたカミが、お前たちがこの星に住む以前から多次元宇宙を監視してきた私に叶うと思っているのか?」


 静かに、そう言った。



 リニックの身体が十字架へと向かっていく。


 その代わりとしてメアリーは解放され、その場に倒れ込んだ。


「さぁ。最高のショウタイムを始めようじゃあないか」


 オール・アイは指を鳴らすと、リニックを十字架に固定した。


「ぐ……あ……離せ……!」


「離せと言われてみすみす離すやつがいるわけないだろう? 考えなくても自然に出てくる解答であり結論だ。私たち監視者は多次元宇宙を監視し続けてきた。中には人間が巨大なロボットを開発したり、人間が滅ぼされロボットの世界になったりと見ていて楽しい世界ばかりだった。……だが、私が監視を命じられたこの世界のつまらなさと言ったら計り知れない。そしてこの世界に住む人間どもがとても可哀想になってきたのだよ」


 リニックはその間もずっと喘いでいる。


「……だからこの世界をあなたのおもちゃ箱のように扱ったとでも言うの?」


「おもちゃ箱……か。そう言えば聞こえがいい。君たちの世界を正当化するためにそのように言ったのだろうが……しかしくだらない。私はその聞こえがいい単語を敢えて言わないでこう言おう。この世界は私の実験場だよ」


 その単語を聞きたくなかった。


 頭の中にずっと浮かんでいたのに、その単語を聞きたくはなかった。


 実験場という、可愛げも無くて聞こえも悪くて無機質な、その単語をガラムドは聞きたくなかった。


 自分が住んで、今はカミサマとなり管理を続けているその状態が実はまやかしで、あろうことかその世界を実験場と宣ったオール・アイが許せなかった。


「……でも、私は信じない。この世界があなたによる実験のフィールドだということは、絶対に信じない。この世界は私や、リニックたちが居て完成した世界なの。それは変わらないし、変えることは出来ない……!」


「往生際の悪い。まだ私の話を聞いても疑っているというのか。ならば説明してみろ。『どうして知恵の木の実は存在している』んだ? 一番最初にそれを手に入れたのはガラムド、お前とされているが実際には違う。手に入れたのはお前の父親だ。もっと言うなら、お前の父親が未来から持ってきたものが、知恵の木の実の最初だよ」



「それじゃあ……知恵の木の実は……」


「タイムパラドックスによる代物だよ」


 ガラムドの質問に、オール・アイは静かに答えた。


 オール・アイは十字架に押さえつけられたリニックを見て、微笑んでいた。彼女は今の状況を楽しんでいるようにも思えた。


「……リニック・フィナンスは今や磔になっている。最低で最悪でくそったれで今にも虫酸が走りそうなパーティーがこれから始まる。それは誰にも止められないし止めることは出来ない。……強いて言うなら、今そこで倒れているメアリーくらいだ。だが、今の彼女はとてもそんなことが出来る精神ではないがね!」


 そして、オール・アイは腕を高く掲げた。


 それと同時に――ゆっくりとリニックが磔にされた十字架が地中に埋まっていく。


「リニック!」


 ガラムドとレイビックはそれを止めようとするも、壁がそれを遮った。


「く……! オール・アイ、あなたいったい何を……!」


「解っているだろう? それはとても簡単なことだよ。……この世界を無に帰す。この世界は頑張ったよ。私の欲望を満たす、良い実験場へと成長してくれた。だが……もう必要無くなった。要らなくなったのだ。だから、管理者である私自らがこの世界を完全なる無にする。どうだ? まったくおかしな話ではなかろう?」


 狂っていた。


 オール・アイの考えは、とてつもなく狂っていた。そんなことは誰でも思い付くわけではない。寧ろ、思い付く方がおかしい。


 にもかかわらず、彼女はそれを饒舌に語っていた。


 オール・アイ。


 多次元宇宙を監視する役割を持つという彼女は、普通の人間では考え付かないようなおかしな理論を平気で言う存在だった。


「まるであなた自身が凡ての中心のような言い草ね……!」


 ガラムドは低く、小さく、轟くように言った。


「あなたはそうでないと言えるのかしら、ガラムド」


 対して、オール・アイはまだあっけらかんとした表情を浮かべている。


「……そういうあなたは、たぶん一生人間のことなんて解り合えないのでしょうね」


「解り合う? 解り合いたくもないね、ヘドが出る。私はこの世界を、あまりにも長すぎる時間観察してきた。とてもとてもとてもとても、長かった。見ていて浮かべた感想は……たった一つだったよ」



 ――人間など、この世界には必要ない!



「要らないのだよ。人間など、この世界から! 彼らはこの世界を私利私欲のために使い、そして資源を食い尽くしていった。このままならあとどれくらい持つか解ったものじゃあない。要はそのくらい迄にこの世界は疲弊している! 貴様らが『旧時代』と宣う時代についてもそうだった。過ぎた科学が世界を汚し、過ぎた科学は争いを産み出した! ……これがどういう意味だか解るか?」


「人間は過ぎた科学によって、世界を破滅へと追い込んだ……あなたはそう言いたいつもりなの!? 引き金を引いたのはあなたのくせに……!」


「だがその状況まで追いやったのは他でもない、人間だ。私はその背中を少し押してやったに過ぎないよ」


 オール・アイは完全に沈んでしまったリニックと十字架のあった場所を横目に、小さく頷いた。


「……さて、もうタイムリミットだ。この世界を破滅へと追いやるスペシャルゲストをお呼びしよう。出でよ――」



 ――“オリジナルフォーズ”!!



 その刹那、会議場のステージが真っ二つに割れた。


 そして、地中から、一体の獣が姿を現した。その巨大な図体には様々な生き物の顔が浮かび上がっていた。


 オリジナルフォーズ。


 二千年以上前、そして百年前の二回に渡ってこの世界には姿を現した悪の化身。


 それが今、再びこの世界を破滅へと追いやろうとしていた。





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