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New Testament  作者: 巫 夏希
第五章 真実を追い求める者
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7

 西暦2015年。


 鷹岬は今日も深夜まで残っていた。上司にはまだ終わらないのかとヤジを飛ばされ、同僚には助け船をだそうかと優しく声をかけてくれたが、しかし彼はそれを凡て断って一人で調べている。


 何故ならば、調べていくうちにこれがあまりにも巨大なものを引き摺り出してきたから、だ。


「何だよ、これ……」


 パソコンの画面を見ていた鷹岬は、思わず呆れ返ってしまった。


 それは、あの事件の被害者リストから共通点を洗いだそうとしたときのことだった。


 それは、今までもやっていた至極当たり前のことだった。


 しかし、それが見つかった。


 幾度となくトライしたはずなのに、はじめてそれが浮かび上がった。


 それはエラーなのか、それとも……? それは誰にも解らない。解りようがないのであった。


 しかもそれは普通ならばあまり記述しない事項でもあった。何故ならば『それ』が原因と疑われると文字通り国が変わってしまうためだ。


 そして。


 恐る恐る――と、彼はそれをゆっくりと読み上げた。


「どの人間も神道の名家出身であり、国を挙げて守る必要がある。さらに被害者の一人である古屋拓見は……なんて読むんだ?」


神憑かみつき、だろ」


「ああ、そうですね。……えーと神憑きに一番近いとされ、梓巫女の末裔であるとも言われている」


「で? それがどーいう意味なんだ?」


 その声に違和感を抱き、鷹岬は後ろを振り返る。


 そこにはエスプレッソが入ったコーヒーカップを二つ持った乃木の姿があった。


「の、乃木さん!?」


「別にそんな慌てることもなかろうよ。お前はまだあの事件の捜査をしているだろう……そう思ってな、もう夜も遅いがこうやってお前にエスプレッソを淹れたというわけだ」


 そして乃木はエスプレッソを一口啜った。


「……で、その梓巫女やら神憑きやらはどういう意味なんだ?」


「恐らく名前の通りだとは思うのですが、何せそっちの道に詳しくはないものですから」


 その言葉に、乃木は小さく頷く。どうやら何か考え事をしているようでもあった。


「……一人そういう道に伝がある。話を通しておこう」


「いいんですか!?」


「なに、ただの腐れ縁だ。俺の大学時代の後輩だが、頭がキレすぎるってんで窓際部署に送られちまったがな。今からそいつに電話して、話でも聞いてみることにしよう」


 そう言って乃木は携帯電話を取る。あまりの行動の早さに鷹岬は押されているが、それに慌てることなくエスプレッソを一口啜った。


「……大丈夫だそうだ」


 乃木は暫く電話で席を外していたのだが、鷹岬のところに戻ってきて直ぐにそう言った。


「どこにかけたんですか? 場所くらい聞いておかなきゃと思うのですが」


「神霊事象調査課といってな、警察庁の地下深くにある部署だ。そこはある意味『問題児』ばかりが集められる場所で……俗にこう呼ばれている」


 息を吸って、乃木は話を続けた。


「虚数課、とな」



 ◇◇◇



 桜田門。


 よくテレビで流れている警察ドラマの場面展開である三角の建物が上空から撮られる映像を見たことはないだろうか?


 その場所こそ警察庁であり、日本警察のトップであった。


「本庁に行くのはあまりにも久しぶりだな……」


 鷹岬は今日、幾度となく緊張していた。


 それは勿論日本警察のトップである警察庁に向かうから――であるが、彼がもし粗相のあるようなことをした場合、警視庁全体のイメージを損ないかねないためでもある。


「乃木さんも一緒に来てくれれば良かったのに……用事がうまいタイミングでぶつかっちゃうんだものなぁ……」


 そう。


 今彼はたった一人でここに来ていた。前日までは乃木も行く旨を伝えていたのだが、今日になって用事が入ったといい、今日は休んでいるのだという。


「まぁ、どうこうしてもしょうがない……か」


 鷹岬はため息をつくと、警察庁の玄関をくぐった。


 さて、実際にここまで来たとはいうものの、鷹岬は行き先である『虚数課』の場所を知らなかった。乃木に問い質しても教えてくれなかったため、仕方なく警備員に声をかけて場所を聞こう――と辺りを見渡した。


 しかし辺りには警備員など一人もいなかった。


(休憩時間か?)


 鷹岬は思ったが、無論そんなはずはなかった。


 何故ならば、その玄関ホールには人間が誰一人としていなかったからである。


 幾ら何でも、流石にこれはおかしかった。


(何だ、何だ、何だ!? いったい何が起きているっていうんだ!?)


 慌てる鷹岬はさらに玄関ホールを見渡す。しかし見渡したからとはいって、そこにいる人間が増えるとか、そういうことはなかった。


「幻覚、か……!?」


 そう呟いて、鷹岬は慎重に一歩踏み出した。


 ちょうどその時だった。


「お待ちしておりました」


 不意に、背後から声が聞こえた。振り返るとそこには一人の男が立っていた。


 ひどく痩せ細った男だった。目の下のくまは広く、見るからに不健康そうだった。


「……あなたですよね? 警視庁から来た鷹岬といった刑事は」


 男が訊ねると鷹岬は小さく頷いた。


「それでは虚数課へご案内させていただきます。虚数課ですが、普通の方法では決して行き着くことの出来ない場所になっております。迷わぬよう、きっちりと私の背中を見ながら……お願い致します」


 そう言って男と鷹岬はエレベーターホールへと向かった。エレベーターホールにも人が居らず、まるでこの世界には鷹岬と彼の二人しか居ないのではないか――と錯覚してしまうほどだ。


「今、確かに『この空間には』私たち虚数課とあなただけしか存在は居ません」


 まるでその想像が聞こえていたかのように――男は言った。


「どうして……ですか?」


「あなたは変わった力も何も持っていない。ですから、私たちの力を何も理解出来なければ身近にも思えないでしょう。だからこそ、私たちはこう言わざるを得ません。『位相』が違う、と」


「位相?」


 鷹岬はそれを聞いて顔を顰めた。


「まあ、それを聞いても解らないのが大半です。この世界に足を踏み入れなければ、到底解らないことですから」


 そして、彼らはやってきたエレベーターに乗り込んだ。

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