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New Testament  作者: 巫 夏希
第三章 デストルドー
38/91

8

 リニックたちは『何でも屋』に会いにいくため、街を歩いていた。生憎人の姿等は見当たらないが、恐らくこの街の殆どの人間が敵であると見ていいだろう。


「……にしても、厄介だ……。えーと、どの辺を右に曲がるんだったか?」


「地図を見た限りだと、次の角で右折となっているわね」


 レイビックは巨大な紙の地図を見て言った。


 紙媒体は電子データに比べれば劣る。例えば昔のものを保存するなら、紙で取っておくのでなくそれをスキャニングして電子データにしておくことで半永久的に保存しておくことが可能となる。


 しかしながら、実際にそれを多様しているのは、どちらかといえば貴族とかそちらばかりが使っていた。理由はコストパフォーマンスが悪すぎるからだ。一見電子データ化するのだからペーパーレスにでもなるかと思いきやそんなことは一切ない。結局は金持ちの娯楽にしか過ぎず、そのため値段も跳ね上がっているというわけだ。アースはそんなことなど一切なく、庶民にも使えるリーズナブルな物(ただし性能は劣る)もあるし、それをアースに住む庶民なら安く使えるので、アースの庶民は喜んでいる、わけだ。


「……とはいえ、紙の地図ってのはもうちょい使い勝手よくならないもんなの? データはないのか、データは」


「あるよ、ほら」


 そう言ってリニックは自らが持つ古い型の携帯電話の画面を見せる。


 そこにはリニックの言う通りこの周辺の地図が見えていた。


「それがあるなら、どうしてわざわざ紙を使うんです。データがあるならそれでいいでしょう」


「この携帯電話は型が古いもんだから電池があんまり持たないんだよ。色々と使えるから電池はセーブしおかないといけないから」


 そうは言うものの、実際リニックはそれを使うのが面倒というのもある。電子データは使い勝手がいいように見えるがあくまでもそれは人を選ぶ。リニックはどちらかというと、電子データが苦手な部類に入る。しかし、研究者はそんな好き嫌いなどしてはいけない、というのが彼の祖父の考えで、実際には使うことが出来るのだが、好き好んでそれを使うというわけでもなかった。


「彼処ですね」


 レイビックが唐突に指差す。そちらを見ると――そこには『107』と書かれたドア、何でも屋の入口があった。



 ◇◇◇



「ルーニー教がテロを開始したそうです」


 アースにある神殿協会本部は喧騒に包まれていた。他の宗教団体のテロにより神殿協会の支部が壊滅した――その情報を聞き、男は舌打ちした。


「今は枢機卿様も居ないんだぞ……!? 狙ったかのように蜂起しやがったあいつらめ!! 機人ロボットが信仰の対象な時点で怪しい場所だったが、やっと本性を出したわけだ」


「は、はぁ。そうですね」


 報告を終えたシスターは小さくため息をついた。


「……枢機卿様はいったい何処に行かれたのだろうか、指示を仰ごうと思っていたのだが」


 男はそう言って歯ぎしりし、持っていた缶コーヒーを飲み干した。


 シスターはシスターで再びため息をつき、手に持っていた資料を観る。


「枢機卿方の行き先なら、先程総務課に訊ねて来たのですが、ちょうどトラウローズに居るとのことです。教皇様曰く、枢機卿様にお任せしよう、とのことでした」


「なるほど。それでは、私が出なくてもいいということだな」


 シスターからその報告を聞くと、一瞬で顔が明るくなった。


 シスターはそれを予想していたのかシニカルに微笑む。


「――あぁ、そうでした」


 思い出したようにシスターは付け足す。


「実はあと一つ大事な事案があるんですが……」


「なんだ。さっさと――」


 ――言いたまえ、とでも言おうとしていたのか、その顔は明らかに面倒臭そうな表情だった。


 その言葉が不自然に途切れたのには、理由があった。


 シスターが持っていたのは資料ではなく、細身の長い剣だった。その刀身は男の脇腹を貫いていた。男の白い聖職者用の着衣が赤く染まっていく。そしてそれを見て、男の顔には苦悶の表情が広がっていた。


「“何をしているんだ”と、あなたはそう思っているでしょう。けれども、こうなったのは凡てあなたが悪いんですよ」


 シスターは剣を思い切り引き抜く。すると今まで剣が刺さっていた場所からはどくどくと血が流れ出していた。そしてシスターは血で汚れた刀身を、白いシルクの手袋で拭くとそれを外し、床に捨てた。


「……私が……、何をしたと……!?」


「まだ言い逃れするか。……ならば、私たちの名前を聞けば、多少は思い出すかな? 私はディガゼノン聖軍虚数部隊――通称『銀翼騎士団』団長シルフェ・シルバライアだ」


 その言葉を聞いて、男は何も言えなくなった。


 銀翼騎士団。


 ディガゼノン聖軍に存在しているとされるある部隊のことだ。言い方が曖昧なのは、実際にあるのか確認した者が少なく、信憑性が薄かったからだ。その活動は一言で言えば『教皇直下に活動する』。教皇が死ねといえば、騎士団は一斉に首を斬る。それほどに従順な部隊こそが銀翼騎士団だ。


 銀翼騎士団はその目的の一つ(ただし、噂に過ぎない)に『裏切り者の処罰』がある。神殿協会を裏切った人間は、敵である。だから、処罰を下さねばならない。その為に、銀翼騎士団は『如何なる者に対して殺害を行っても構わない』権利を有している。この権利を有しているのは、銀翼騎士団と枢機卿、それに教皇と、あとは僅かのリーダーのみである。


 つまり、今この状況において、シルフェ・シルバライアはこの男の殺害が可能だということだ。対して、男は武器など持っていない(前述の権利を持った人間でなければ、武器の所有も認められないのだ)。


 そして、男の絶叫が響き渡った――。


 事を済ましたシルフェは振り返って、指を鳴らした。すると、何処からともなく同じような容姿のシスターが三人姿を現した。


「――人払いは済ませてあるようね」


 シルフェが呟くと、シスターたちは頷く。


「ならば、あれを片付けておいてちょうだい。ちゃんと綺麗さっぱりに、ね。残しちゃダメだから」


 シルフェの言葉を聞いた直後、シスターたちは『動かなくなった男の身体を伴って』姿を消した。


 そして、何事もなかったかのようにシルフェはゆっくりと通路を歩き出した。



 ◇◇◇



 リニックたちが何でも屋のドアを今度はノックせずに入ると、まるで待ち構えていたかのようにルーナがそこに立っていた。


「……まさか来るのが解っていたのか?」


「まさか、こんなに早くルーニー教に見つかるだなんて、思いもしませんでしたが」


 やはり解っていたようだった。彼女には予知能力でも備わっているのだろうか――そんなアホらしいことすらも考えるほどだ。


「で……調べてくれたのか」


 リニックたちが何でも屋のオフィスに招かれ、リニックは質問をぶつけた。対して、ルーナはクスクスと笑っていた。


「なあ、どうなんだ。見つかったのか、見つからなかったのか」


「結論から言えば、見つかりました。問題は……その場所です」


「場所なんて関係ない。急いで探さなくてはいけないんだ」


 リニックの表情には焦りが見えていた。ルーナはため息をついて、話を続けた。


「言いたいことは解る。だけれど、場所が問題外過ぎる。もしかしたら、諦めてもらう可能性すらある」


「諦める。そう言われてはいそうですかと返すとでも思っていたのか。危険だかなんだか知らないが、行く。さっさと教えてくれ。俺はそれを頼んだはずなんだが」


「……後悔するなよ」


 そしてルーナはリニックに一枚の紙を手渡す。そこにはこう書かれていた――『ルーニー教本部』、と。


「これは――っ!!」


 リニックは思わず慌ててしまった。次いで、レイビックらもそれを見て同じく愕然とする。


 ルーナの話は続く。


「……ルークが今ここに居ないのは、この事実を発見したからだよ。はじめ、まさかこのような『大物』に引っ掛かるだなんて思いもしなかったがね」

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