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New Testament  作者: 巫 夏希
第二章 ≪貴族≫在らざるもの、人在らざる。
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ボツ原稿(若干閲覧注意)→http://wp.me/p1MQDT-29

 もう、リニックにとって休んでいる暇などなかった。メアリーが敵の手に堕ち、ジークルーネがそれにより生きることさえままならない状態にまで陥った。


 もう、彼は誰にも頼れなくなった。


 ゼーベック空港は人が殆ど居なかったが、生憎営業は行っていた。それだけが、彼にとって救いだった。


「……別に君達もついてこなくて大丈夫だけれど」


 彼の後ろにはローザ、フローラ、レイチェル、レイビック、エスティの五人の女性がいた。


 彼女たちを代表してフローラが答える。


「先程ので男たちは殆ど駆り出されましたからね。それに、トレイクさんに『リニックさんについていくように』と言われましたゆえ」


「そ、そうか。まぁ確かに、仲間は多い方が頼もしいものな」


 ゼーベック空港三番カウンターにてアキュア行き飛行機六人分の旅券を購入し、彼らは飛行機へ乗り込んだ。


 彼らが乗り込んだ飛行機は小型で定員十五名のすごく小さなものだった。即ち、彼らが乗り込むと飛行機の約半分を埋め尽くすことにもなる。


「こんな小さな飛行機で大丈夫かな……」


「どうした、ローザ?」


「ローザは怖がりですからね」


 ローザに代わってエスティが答える。


 怖がるローザをエスティが宥めながら座らせたことで、なんとか全員が席に着いた。


 それと同時に、飛行機はゆっくりと飛び立った。


 目指すは水の惑星、アキュア――!



 ◇◇◇



 その頃、闇に覆われた会議場。


「……あいつが捕らわれたらしいな。少し『想定外』のことだったが」


「少しだけ、ほんの少しだけ、あいつはやり過ぎましたね。まさかここまで自由過ぎるとは……。計画から外すというのは今からでは難しいものがありますからな……」


「そこが非常に厄介であり、恐ろしいところだ。我々ヒトの誰かがヘマをしたなら、そのときは裁きを下せばいいのだが、生憎やつはヒトではない」


「そもそもやつ……『トワイライト』とは何者なのですか」


「私もやつに一度しか聞いてないから曖昧ではあるのだが……、なんでも『観測者』と呼ばれる部類らしい。しかし時々ヒトにそのオーバーテクノロジーを分け与えて、ヒトがどういう道筋を歩くのか、観測するアブノーマルなこともする……今はその段階だと聞いた」


「なるほど……つまり我々の足掻く様をほくそ笑んでいる、と」


「ほくそ笑んでいる、ってのは少しだけ間違いがあるかなぁ」


 闇の会議場に、抜けた声が響いた。そして、それは誰なのか、彼らが全員は把握していた。


「……トワイライト、なぜ貴様がここに……!」


「僕の役目は一旦終わったんでしょう? だったら、少しは話を聞いときたいのもあるし、話についていけない裏の世界の人たちに少し状況説明しておく必要もあるからね」


 トワイライトは、これを友達の家に遊びに来たかのように、楽しそうにくつくつと笑った。



「確かに僕は君たちのいうところにある『観測者』という立場だ。その定義から従えば、僕は君たち人間には干渉することはない……そう思っているのかもしれない」


 トワイライトは一旦わざと話をここで区切る。そして、話はまだ続く。


「けれども、そんなことをしていては冗長な展開もずっと見続けてないとダメになるんだ。ビデオ機能みたいに早送りとかコマ送りコマンドがあれば確かに便利なんだけどね」


「……つまり、つまらない展開を見るのが嫌だから、自らがストーリーを改変してしまおう、と言いたいのか……!?」


「まぁ、それに近いかな。僕らはカミサマみたいに絶対的な立場にはいないけれども、それでも一定の地位であることには変わりないんだよね。だからカミサマの下位互換? みたいな存在でもあるし、そう説明した方が君たちにも理解出来ると思うんだけれどね」


 トワイライトは自分でやろうと言ったその説明すらも、ひどくつまらなそうに言った。


「そういえば――あいつはどうした? 君が捕らえた、あいつは?」


「あぁ、メアリーのこと? 彼女なら調教しているよ」


 闇からの質問にトワイライトは一言で答える。


「調教、だと……?」


「あぁ、うん。魔弾アメーバってのを聞いたことはないかな。いや、ないかもしれないな。なにせ二千年も前のことだからね。……まぁ、それはいいや。ともかく、それを僕なりに改良してみたんだ。オリジナルは魔術回路を体内に形成させるシステムなんだけど、僕のはそれを継承し、かつ色んなものをバランスよく配合しているんだ」


「しかし、調教とは……。我々に出した報告では、『あっさり陥落した』と聞いているのだが?」


「そうなんだよ、あのときはね。けれども、彼女があっさり僕の『淫魔の口付け』を打開しちゃったもんだからさ、こっちも本気出しちゃったんだけど。こうなっちゃったら、もうどうしようもないよね」


「どうしようもない、とは?」


「今ならまだ救える可能性はあるだろう。何故なら、身体はしたにしろ、心まではぐちゃぐちゃにしてないからね。けれども……そうだね。アース時間で二日もあれば、彼女の心は完全に廃れる。……言うならば、廃人になるってことだ」


 そうしてトワイライトは微笑む。その表情はまるで人間が醸し出す表情とは思えないほど(確かに、人間ではないのだが)だ。


「僕の『調教』の様子を、見せることは出来ないけれども、少しは教えてあげなくもないかな。手段は秘密だけれど、簡単に言えば精神まであるものに依存させる。ちょうどそんな感じかな」


「……あるもの?」


「それは教えられないよ」


「何故だ?」


「……僕の楽しみだからね。それに関しては申し訳ないけど、見せるわけにはいかないよ」


「楽しみ?」


「あぁ。……最初は敵意剥き出しだったやつを調教すると、僕になんでも命令を聞く奴になるんだ。その過程が、僕は大好きなんだよ」


「……解った。これまでにして構わない。それならば……、とりあえずメアリー・ホープキンについては引き続き任せる」


「当たり前だ。こんな上玉手に入れておいてみすみす手離せやしないね」


 そして、闇とトワイライトの会話は終了した。



第二章


第三章へつづく。

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