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New Testament  作者: 巫 夏希
第二章 ≪貴族≫在らざるもの、人在らざる。
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19

 神殿協会が成立したのは、今から凡そ二千年以上も前に遡る。まだこのように『魔術』や『錬金術』といったものが確定しておらず、人々は旧時代にあった文化をそのまま用いることしか出来なかった。さらに、その時代は旧時代の科学を継承し、巨大なロボットによって、それを戦争の媒体にして用いていたのだという。今からすれば、幾分考えづらいことだし、資料がそれほど残っていないために(ガラムド暦二一一五年現在、信頼出来る資料は神殿協会の資料のみとなっている)、結局はそれ自体が『正しい歴史』なのかどうかも怪しいと議論されているところである。


 しかしながら、それは現在では『旧母体』と言われ、現在の神殿協会とは大きく分け隔てられた存在となっている。


 何故か?


 それは、現在の仕組みと旧母体の仕組みが僅かではあるが異なる為である。旧母体は『方舟』を探し、今までの歴史を『肯定』することを目標としていたが、現在では寧ろその逆の立ち位置にある。しかし、一般市民がそれを知ることも、そんなことこそ有り得ないのだった。


 なぜ、彼らが今までの歴史を否定し、彼らに謂わば都合のいい歴史を作り上げたのか。そして、人々はなぜそれに呆気もなく騙されてしまったのか、少なくとも神殿協会の一握りの人間以外にとって、それはまだ誰も知り得ないことだった。


「……脆い、カミサマとは? どういうことだ?」


 シャリオが小さく訝しげに訊ねる。男は笑って話を続けた。


「つまり、人々の信頼を得られなかったんですよ。だって、そうでしょう? カミサマは人々の信仰を生きる糧とします。つまりは、生きる糧が足りなかったからこそ、ガラムドは永遠の命を得ることは叶わなかった」


「人々の信仰を得られなかった? 神話の上とはいえ、人々を従えたカミサマだというのに、か?」


「そんなもの、神殿協会わたしたちからしてみれば、小さく、滑稽な存在ですよ。たかが人間同士の間から生まれた存在は、カミサマではない。いや、カミサマであるには信仰さえあればいいのです。……あとはどうにでもなる」


 シャリオは男に対し、「そうだな」とだけ告げ、外を眺めた。


 外は、雪がちょうど降り始めたところだった。



 ◇◇◇



 話は変わり、トラウローズに再び舞台は移る。


「くそっ、ない。ない。ないぞ!? いったい『アブソリュート』は何処にあるっていうんだ!!」


 リニックとメアリーを先頭にチームはラスパルダッガー家の中を走っていた。


 そもそも、魔導兵器『アブソリュート』とはどのようなものなのか、はっきりと解っているのはメアリーとジークルーネだけだった。


 アブソリュートは小さな大砲のような(『小さな大砲』という説明に大きな違和感をもつが、こうとしか説明しづらいものがある)外装をしており、その砲口から撃ち放つシステムだ。しかしながら、そう難しくはない。やろうと思えば、子供にだって操作出来る代物だ(だからとはいえ子供に操作させればとんでもない大惨事になるのは理解しているので、操縦区画にはパスワード制で入ることが出来るようになっており、誰でもむやみやたらに入られるようにはなっていない)。


 つまり、屋敷の何処かにはそれを隠すスペースと、そこへ入る入口が確かに存在するはずなのである。


 しかしながら、今現在歩いている時点ではそのようなものは見つかっていない(無論、そのようなものを探し出すために魔法等を行使している)。


「ない……、そんな馬鹿な……!」


 メアリーは自分でも気付かないうちにイライラが募ってきていた。そして、それはメアリー以外の人間が見てすぐ理解出来るくらいのものだった。


「ま、まだ全部探しきっていませんし……、大丈夫だと思いますよ?」


「隠していても、見つけなくてはならないのに、見つからない。一番の問題は、魔導兵器を動かすために必要な『魔力炉』。あれを動かした形跡がまったくもってないのよ」


 魔力炉。


 名前の通り、魔力を生成する炉のことだ。魔導兵器は大量の魔力を消費するためか、これの装備が必要最低限となる。


 魔力炉は大きさが大小様々であるが、魔導兵器に接続しているのは一番小さくても一つの部屋を埋める程はある。魔力炉自体で一番小さいのは手のひらに乗る程度だが、制御が難しいために、魔導兵器などに用いられることはそうそうない。


 だからこそ、彼女たちは『不自然な箇所』を探している。例えば、一つ分部屋が抜け落ちていたり、変に天井が低くなっていたり、不自然なケースというのはたくさんある。


 しかしながら、その『存在し得るはずの不自然』が見つからなかった。何処を探しても、普通の屋敷(その規模こそ不自然ではあるが)だった。


「……ここが、最後の部屋ね」


 最後の部屋に辿り着いたメアリーは、扉のノブを回した。


 扉の中は――何もない白の空間だった。比喩としていえば、壁も見当たらない。そして、その部屋の奥に、誰かが座っていた。


 『それ』は白い髪だった。肌も透き通るように白く、目はそれを際立たせるような赤だった。白いYシャツに黒のズボンを着た『それ』は、一言で言えば学生のようにも見えた。


「あなたが……ラスパルダッガー……?」


 全く別の容貌を予想していたメアリーは、それを見て面食らってしまった。


「いいや、違うよ」


 それは笑って答えた。


「ならば……あなたは誰、何者?」


「僕は『トワイライト』。今はそう呼ばれている」


「……トワイライト、ならばあなたは何故ここに居るの?」


「何故って……。これを起動させるからに決まっているだろう」


 トワイライトは小さく微笑み、右手にあるそれを見せつける。それは小さな立方体だったが、直ぐにメアリーはそれが小型の魔力炉であることを理解した。


「小型の魔力炉……!? いや、けれどそれを使って『アブソリュート』は起動出来ないはず!」


「いいや、違うよ。『制御出来ない』ってだけさ」


 トワイライトはそれを握り締めて、言った。


「――だが、もし僕がそれを『制御出来る』としたら、どうだろうね?」


 刹那、遠くから小さな地響きが聞こえた。それが何を意味するのか、メアリーたちには解らなかった。


「外を見てみるといいよ。きっと面白い風景が見れるはずだからね」


 トワイライトは笑う。メアリーたちはそれを聞き、窓から外を眺めた。


 そして、そこに広がっていた光景は、彼女らの予想を大きく裏切ったものだった。


「……トラウローズが飲み込まれている……!?」


 そう。


 トラウローズの首都が、いとも簡単に黒い何かに飲み込まれているのが見えた。


 真ん中に突如発生した黒い『それ』は、トラウローズの人という人、家という家、街という街を飲み込んでいく。その姿はまるで、ブラックホールのようだった。


 そして、それを見てメアリーたちは何も言えなくなった。


 圧倒的に圧巻されてしまった。


「……どうだい」


 メアリーはトワイライトが耳元で囁くまで、その存在に気付かなかった。


 抗えない。


 メアリーは自ずとそう感じていた。


「……すごいでしょう? 僕が開発したわけじゃないんだけどさ」


 そう言ってトワイライトは己の指をメアリーの首筋に這わせた。その度にメアリーは小さく疼く。


「これが予言の勇者の最後かぁ……。何十年も独りだったからたまっちゃった?」


「なに……をっ」


 トワイライトはメアリーの正面に回り込み、まるで新しい玩具を手に入れた子供のような、無垢な笑顔をメアリーに見せた。


「……こういうことだよ」


 そして小さく座り、メアリーの薄ピンクの唇にトワイライトの唇は近付き――そしてくっついた。メアリーはそれに逆らおうと思えば逆らえた。しかしながら、何も逆らえなかった。抗うことも出来ぬままに、メアリーはトワイライトの口から直接流し込まれた『何か』をそのまま受け入れて――飲み込んでしまった。


 そして漸くトワイライトはメアリーから離れ、呟く。


「今、君たちは僕の力で動けないわけだけど、一つある情報を教えてあげるよ。『サキュバス』って知っているかなぁ? まぁ、簡単に言えば淫魔なんだけどね。僕は男だから『インキュバス』っていうんだけれど、まあそんなことはどうだっていい。ただね、僕たちには効率を良くするために、幾つか僕ら独自のやり方があるんだ。その一つが『淫魔の口付け』っていうんだけど……あとは言わなくても解るかな?」


 そして、トワイライトが指を弾くとリニックたちは身体の自由を取り戻した。


 それと同時にメアリーも自由を取り戻した。しかし、それは少しだけぎこちない動きを見せていた。


「……伏せろ!!」


 リニックの声と共に、リニックたちにたくさんの火矢が襲い掛かってきた。しかしながら、リニックの咄嗟の行動で、リニックたちに被害は出なかった。


 そして、それを撃ったのは。


 他でもない――メアリーだった。



つづく。

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