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New Testament  作者: 巫 夏希
第二章 ≪貴族≫在らざるもの、人在らざる。
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18

「……しかしまぁ、困った話ですね。どうやって対処するか。トラウローズの支部に連絡はしましたか?」


「一先ずは。ですがあちらも何か起きたらしくてですね……そう人員を割けられないとのことで」


 男はシャリオに、ある書類を見せる。それは一番上にあった紙に大きくこう書かれていた。


「『第二次疑似神化形成計画』? 第一次がどこかにあったとでも?」


「それはわかりません。ですが、嘗てはあったものではあると思いますし、それは失敗したということも」


 男からそう言われて、改めてシャリオはそれを眺めた。見た感じ特に変わっている様子もなかった。『第二次疑似神化形成計画』とは、約二千年前旧母体の神殿協会が崩壊したのとその同時期に第一次疑似神化形成計画が行われ(しかしながら、それを知る人間は多くない)、今回はその二回目となる。


 疑似神化形成計画とは、名前の通りカミサマを作り上げる計画だ。自分が信じたいカミサマが居ないのならば、自分達でカミサマを作り上げればよい――そう考えた神殿協会のメンバーにより計画が組み立てられたと言われている。


 そして今回のは……その第一次を修正し、あらたに今回のデータを追加する。前回は未遂に終わってしまったそれをとてつもなく年月をかけて、最終的な結果に導こうとしているのだ。それは、そんな簡単なことではない。


 世界を覆す程のオーラは無く、むしろ改めてそこに乗ることになって、そこで消費するエネルギーがバリア等に使われるというものだ。


「……一先ずだ。この計画のやつをどうして私に見せた? それほど重要であるようにも見えないが」


 シャリオがある程度資料を流し見して、男に訊ねた。男もシャリオ同様資料を眺めていた。


「――それがですね、ある情報が入ったのですよ」


「情報?」


 シャリオは首を傾げる。男は話を続ける。


「その計画、一通り見てどう思いました?」


「どう、って……。人間の手でカミサマを作り上げるとは愚問だと思うがな。やはり、カミサマはそういう存在ではないと思う」


「へえ……、まあそう思いますよね」


 そう言って男はくつくつと笑う。それを見て、シャリオはイライラが募っていた。


「なんだかそういう風に待たされるとイライラするから、できることならさっさと言ってくれ」


「簡単に言えば、カミサマを人間が生み出したケースってあるということです。完全に成功して未だにそれは世界に一定の力を轟かせている」


「まさか……それは」


 シャリオはそれが何なのか解ってしまったようで、言葉を失った。


「そうです」男は小さく微笑んで答えた。「……この世界を作り、魔法の基礎を作り上げたとされるカミサマ、ガラムドの存在は人間だというのです」


 その言葉を聞いて、シャリオはとうとう何も言えなくなった。


「人間がカミサマになった……だと?」


 彼女は驚いていた。何故なら、今までのケースならば、カミサマという存在は人間よりも早く生まれ、そして人間はそのカミサマのダウングレード版として、この世に生を受けるのだ。


 その理論の、謂わば真逆を行く存在。


 それが、実在する? それは彼女にとって果たして知り得たかった情報なのかどうかは……彼女自身も曖昧だった。


「……話を続けますと、そのバージョンで行ったからかもしれないのですが、そのカミサマとやらが神界へと向かったことは勿論のこと有り得ません」


「完全なカミとなっていなかった、とでも?」


 シャリオの言葉に男は頷く。


「カミサマというのは、脆い存在であってはならない……そう持論を展開する学者も居るくらいです。つまり、ガラムドは脆いカミサマだった……ということになります」


 脆い存在であってはならないというのに、脆い存在だというのは何とも矛盾していることだとシャリオは考える。


 確かにカミサマとは人々の信仰あっての存在だ。そう、特殊な存在であるから、ある分野(それは単数であっても複数であっても構わない)において、ある程度の強固な力が必要である。ある立ち位置を保持した存在こそが、カミサマとして人々に信仰される存在で、かつ信仰されるべき存在である。


 カミサマがその存在意義を破れば、それは勿論のことカミサマではなくなる。カミサマがカミサマじゃなくなる……即ち、『神落ち』が起きる。似たような現象として、カミサマ以外の霊体がカミサマとなる非常にレアなケースとして『神堕ち』もあるが、この時点ではそんなものは関係ないに等しい。


 カミサマという存在は殆ど減ることもなく増え続けているらしい。『らしい』というのは実際にカミサマが『増える』タイミングに誰も出会したことがなく、ある日気付いたらその存在がカミサマとして成立していた――。そんなケースが大半を占めているからだ。何故なら、カミサマは人々の信仰あってこそだが、裏を返せばそれによってカミサマを作り出すことも不可能ではない。偶像崇拝というケースがあるように、その偶像に人々の信仰を集めることで、その偶像に「自分はカミサマなんだ」というイメージを植え付ける。それにより自我が芽生え、最終的にそれはカミサマとなる。このケースを『神移し』といい、最近(といってもいつの時代も)のカミサマの誕生とはこのケースが殆どを占めている。


 しかし、そうもむやみやたらにカミサマが増えていくと、彼らの(または彼女らの)意見は散文していってしまう。それをまとめるために、古来から、カミサマはある場所に集まり集会を開く。しかしながら最近は幾何学的に増加するカミサマの全員が、ある一定の場所に集まるなど不可能に近く、よって暫く昔から『代表制』が取られており、今はそのように為されている。


 しかしながら、彼女たちが居る『神殿協会』とはそのような仕組みをとる組織ではない。カミサマは多数いるわけもなく、唯一神である(無論、殆どの宗教がそのようなスタイルをとっている)。


 神殿協会は昔からこの世界で、宗教団体としてこの世界に名前を利かせている。しかしながら、そんな長い歴史においても『神殿協会の宗教システム』を詳しく知る人間は少ない。

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