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そこまで考えて、ふとメアリーは思った。リニックが特攻したのはイルファ兄妹、つまり『二人』だった。しかし、アイス・ウェボンの標的となったのはバルト・イルファただ一人だった。
つまり、これが意味するのは――!
「ほんとうに人間というのは、戦い方が甘過ぎますわね。私たちが常に二人で居るからといって、それが戦いの時にも適用されるわけがないでしょう?」
メアリーの頭上から声が聞こえたとき、一瞬彼女の思考は停止した。
そして、メアリーは水柱の中に取り込まれた。
「―――!」
メアリーは何とかそこから出ようと模索する。そして、そのもがく様を見に来たのか、ロマ・イルファが姿を現した。
「おやおや、滑稽ですね。これが百年前私たちを倒し、リュージュ様を倒し、世界に平和をもたらしたという『勇者』のお付き? いや……その末路と言った方がいいですかね?」
ロマの顔は笑っていた。まるで、もう手も足も出ないでしょ? と言いたげに。
しかし、メアリーはその状況にいても笑っていた。
それにはロマも「?」と頭の上にはてなマークを浮かべていた。
そして。
ロマは後ろから突然殴られた。振り返ると――そこに居るのは『メアリー』だった。
「どういうこと……? 私は確かに感知魔法をこの空間一帯で発動させたはず……!」
「魔法でもかかりが弱いところと強いところがあってね。それを利用すれば、気配を消す魔法だって変装だって出来るわよね?」
そのメアリーの言葉を聞いて、ロマは気を失った。
◇◇◇
「邪魔が入ったけれど……これでなんとか大丈夫ね。しかし……まさか彼らが警備に当たっているとは思わなかったわ」
ロマとバルトを縄でくくり(これで何とかなるとはメアリーたちも思っていないが、何もしないよりかはましである)、メアリーは漸く一息ついた。
「……大分時間を取られてしまいましたね。幾ら監視魔法が途絶えていようとも彼らが居るとなると、もう見つかっている可能性も視野に入れないと」
「罠の可能性も、否定は出来ないわね」
リニックとメアリーの会話を、フローラたちはただ聞くだけしか出来なかった。
「罠は最初から想定済みだったでしょう」
リニックはメアリーに、もはや諦めている気持ちを込めているかのように溜め息をつきつつ、言った。
その言葉にメアリーを除いた全員は驚いた。
「ほんとうなんですか、メアリーさん」
ビアンカが訊ねると、一瞬微笑んで、直ぐに呆れたように息をついた。
「あぁ、どうしてリニックくん、黙っておけないのかしら?」
「ここまで来て黙っておくわけにもいかないでしょうよ。流石にメンバーにはこれ以上無理だと思いましたし、あなただってそう思ったのでは?」
リニックの言葉を聞いて、メアリーは小さく笑った。
「そうね、確かにその通りよ。私と、序でにいうならリニックくんは今回のことを『罠と踏んで』かかった」
「どうして罠だって決めつけられたんですか?」
質問をしたビアンカの顔を見て、メアリーは小さく微笑む。それを見て、ビアンカは更に解らなくなるのであった。
「まだ最初のときはもしかしたら……という感じだけだったんだけどね。私たちは、初めにトラウローズに着いた時にも彼らの襲撃を受けたんだよ。その時は、まさかここでも戦うことになるとは考えてなかったがね。……そして、確信したのは今だ。監視魔法を解除したとはいえ、先程の戦闘で既に幾らか時間が経っている。にもかかわらず、イルファ兄妹は仲間を呼ぶこともなかったし、今も新しい敵が来ることもない。ここまで言えば何処と無く『怪しい』ことは解るだろう?」
メアリーの言葉に誰も反論出来るものは居なかった。誰も皆、口をつぐんでしまったのだ。
しかし、彼女は、メアリーは、まだ完全に全員に心を許したわけではなかった。何故なら、彼女は見ていたからだ。
あのさっき、皆が驚きを隠せなかった中、レイビックだけはまるでそのことを知っていたかのように微笑んでいたことに。
◇◇◇
プロセス、『リバイバル・プロジェクト』第七十五次報告について。
ターゲットは予定通りにトラウローズにある魔導兵器『アブソリュート』を破壊するために向かって、イルファ兄妹と接触した。
段階的にプロジェクトは進み、概ね順調に進んでいるものとみられる。
――プロセス中断。任務実行を強制した『組織』について、新たなプロセスを定義。
『組織』はプロジェクト開始当時に設立され、今までもプロジェクト成就に尽力していたが、今回、プロジェクトを主として実行している者と、それらの間に軋轢が生じた。
これを放置しておくと、プロジェクトが欠損する可能性も充分に考えられる。よって、現段階をもって『組織』の解体を決定し、新しく『組織』を設立するものとする。
新しく設立する『組織』は、既存にあった『組織』の古来の流れは受け継ぐものの、そのメンバーは刷新するものとし、その『組織』を、既存の組織と考慮するために『パンザマスト』と名称を定義することとする。
パンザマストに関して、更に新たなプロセスを定義。
『組織』が失敗したのは、上に管理団体が存在しない、ピラミッドの頂点にいたような組織システムだったため、これを改良する。結論として、新規に『パンザマスト』の管理団体を設立し、第三者目線から管理していくよう努める。
プロセスは以上。
◇◇◇
その頃、アース。
神殿協会と呼ばれる、政治でなく宗教で世界を統治した団体のある講堂でのこと、一人の女性と男が話をしていた。
「……ということです。シャリオ枢機卿」
「まさか、『アンダーピース』の一部の人間が、他の惑星にまで言っているとは……。いったい、彼女らの望みはなんだと言うのでしょう?」
シャリオは呟いて、首を傾げる。彼女は男に言われたように、『枢機卿』と呼ばれる地位にいた。枢機卿はいわば神殿協会の『トップ』にいる存在で、神殿協会の中でも五人しか居ない存在だ。組織内の総人員が七千人(単に信心深い信者は数に含めておらず、『神殿協会』に正式に加入して、本部他関連施設に在籍している人間のみを指す)ということを考えると、枢機卿の偉大さが何処と無く解るだろう。




