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New Testament  作者: 巫 夏希
第二章 ≪貴族≫在らざるもの、人在らざる。
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2

 ターミナルの中はきらびやかなものだった。ここがアースの玄関口となる場所だからというのもあるのだろうが、実際に入ってみればそれはもう空港にしては豪華過ぎる内装に誰しも目を奪われる。


 リニックも、その一人だった。


「すごいなぁ……」


「その感じだとターミナルに行ったことがあまりない感じかな?」


「リニューアルする前は一、二回連れていってもらったんですけどね。リニューアルしてからはまだ一度も」


 リニックの言葉にメアリーは頷き、ターミナルの廊下をさらに歩いていく。


 最終的には奥にあったカウンターに辿り着いた。早朝から激務だったのだろう、受付の人間は大きな欠伸をしていた。ある切欠で長い時間眠りそうだった。


「すいません十時のトラウローズ行きに予約したホークリッチなのですが、まだ大丈夫ですよね?」


 シルバはあくまでも何かの用事で遅れた人間を気取っていた。


 シルバのそれが受付の人間に通用したのかどうかは解らない。だが、シルバはさらに演技を続ける。


「妻たちはもうトラウローズに向かったのですが、私とこの子たちだけは……この子たちは妻から任されたもので、何が何でも今日中にトラウローズに着きたいのですよ、難しいでしょうか?」


 そう言われると慌ててしまうのが人間というものだ。“データが本物かどうか”調べずに直ぐに受付の人間は、午後十時発トラウローズ行きの搭乗者リストの空きを調べ、そこに『S.Hawkrich』ら三人の名前を放り込んだ。


 そしてチケットが発行されるまでに――そう時間を要さなかった。


「ありがとう、助かるよ」


 そう言ってシルバはカウンターゲートへと向かった。リニックたちもそれに付いていった。


「……すごい演技ですね。俳優にでもなれちゃうんじゃないですか?」


「俳優か」リニックの言葉にシルバはせせら笑った。「だけどそれもいいかもなぁ。すべて片が付いたら俳優に転身するってのも面白いかもしれないね」


「そういえばシルバもチケットを取ったようだったけれど大丈夫だったの?」


 メアリーの言葉にシルバはうなずく。


「……私はここで戻ります。何か言われたらこう言ってください、『急に仕事が入ってしまったので、お父さん一人だけアースに残りました』ってね」


「了解した」


 そう言ってメアリーとシルバは別れた。


 メアリーたちはその後直ぐにカウンターゲート内にあるエレベーターに入って、N46番ホーム……トラウローズ行きの宇宙船が停泊しているホームに辿り着いた。


 N46番ホームはもう乗り込む人間がメアリーたちしか居ないようで、静寂に包まれていた。


「時間がないわ。……急ぎましょう」


 そう言ってメアリーたちはホーム内に停泊していた小型宇宙船に乗り込んだ。この宇宙船は一階から三階まではあるのだが、二階が一番広く、一階と三階はその半分くらいの大きさだ。宇宙船内はあまり人が乗り込んでいなかった。メアリーたちが座席を確保したのは、その中でも三階席だった。


「……ええと、ここね」


 メアリーが到着し、リニックたちに指示した席はその三階の、右側のフロアだった。


 その座席は窓に面しており、その窓から宇宙を眺めることが出来るものだった。しかし、座席が質素(少しではあるが、穴が目立つ)であるからここの座席の値段はそこまで高くないのだろう、とリニックが悟るまでそう時間はかからなかった。


 そして、メアリーたちは宇宙船のそのシートに腰掛け、その中でリニックだけがベルトを締めた。


「少年、まだ早くはないかな。まだ出発アナウンスすらしていないぞ?」


「だってそんなときに慌てて出来ませんでした~だったらどうするんです? そういうのも含めて事前にやるんですよ」


 メアリーの言葉にリニックはベルトを引っ張るなど、ベルトの強度を心配するような素振りを見せて答えた。


『間もなく、トラウローズ行き最終便が出発致します。ベルトを締めてお待ち下さい』


「ほら」


 頭上から聞こえた(恐らく機長による)アナウンスにリニックは笑ってみせた。


 それにメアリーは何も言わずにベルトを締めた。



 ◇◇◇



 宇宙船の一番の失敗率を誇るものは、旧時代でも現代でも『出発して大気圏を脱け出すまで』である。誇るべきではないのだが、このタイミングで計器や機体が何らかの異常を起こし、そして予測不可能の事態に陥る……そんなケースが今も昔もあったらしい(昔に関しては断定することなど出来ない)。


 しかし、それが今の時代、漸くそれを防ぐとされる画期的な宇宙船が開発されたというのは記憶にも新しい。


 宇宙船ターミナルを建造、さらに摩擦力の向きを強引に(ある程度の法則は存在する)変更させ、それを主な力として宇宙へと向かう……というのがその宇宙船を開発した技師『R』の言い分だった。


 Rは、表舞台に現れることはない。


 Rは、一説には人の何十倍の寿命を持つとされている。また、旧時代の生まれとも思われている(DNA構成が現人類とは異なる形式であったため)。


 他にも、彼(性別すら解らない。便宜上彼となっているだけである)には様々な公開されていない逸話がある。


 また、資料が殆ど失われていたりするために、彼については様々な説が産み出されている。


 曰く、複数人で構成される『工房』のようなもの。


 曰く、タイムマシンなるものを開発したため旧時代と現代を行き来しているということ。


 曰く、人間ではなくそれ以外の部類であるが、あまりに高い技術を所持していたために人間界には出ないもののその高い技術のみを提供する存在だということ。


 何れもが嘘か真かはそう簡単に判別出来ない。しかしながら、これには変わりない。


 『Rという人間は世界の技術を何段階か進歩させたカミサマのような存在』であったということは、世界どこを回っても変わらないし、これに異を唱える人間はそう居ない。


 この世界の技術者とはRのような人間ぎじゅつしゃにほんの少しでも近付きたいと考えている。それは彼自身が未だにこの文明の技術レベルを遥かに上回るものを持っているからだとされている。


「……まぁ、こんな鉄の塊が魔法を使わないで良く宇宙に飛べると思うよ。まだ技術は解明していないんだろう?」


「Rが描いた設計図は解りやすいものらしいですが、技術自体は解明出来てないってのもおかしな話ですよね。あぁ……会えたらいいのにな……」


「そう簡単に世界の頭脳を会わせてくれるとは思えないよ。諦めたら?」


 ジークルーネはそう携帯に打ち込んだ画面をリニックに見せた。


「そんなことは知ってますよ……。あっ、そろそろトラウローズじゃないですか? ほら、あの赤茶けた星……というか小惑星みたいな……」


 リニックが窓を指差したのでそちらを見ると、そこには小惑星があった。小惑星は殆どが赤茶けており、申し訳無さ程度に湖があった。


「なんだあの湖涸れそうじゃないか? 他にも水源が無さそうだし……どうするんだ?」


「確か話題になってましたよね。あと一年もつか怪しいとか……。まぁそうなったら水は全部輸入になるんですかね」


「水源は地下には無いのか?」


「あったら特に使っているでしょう。あれほど大きくて水源ゼロってのも逆に珍しいと思いますけどね。仮に水源があったら随分濾過されて美味しい水が飲めるとおもうんですけれどね。だってトラウローズの主となる成分は石灰岩ですよ?」


 そのとき、リニックとメアリーの会話に割りいるように、天井からノイズが響いた。


『――ブツン。えー、皆様お待たせいたしました。トラウローズに間もなく着陸致します。停止して、ベルトのロック部分にあるランプが消えるまではベルトにはお触りにならないようにお願い致します。繰り返しお伝えします――』


 アナウンスを聴いて、メアリーは笑った。


「もうすぐトラウローズだ。さて、どんなものがあるのやら。楽しみだなジークルーネ?」


 メアリーの言葉にジークルーネは何も言わずにただ頷いた。


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