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東方藍蓮花  作者: 空椿
99/114

藍色、絆を染める

「先手必勝ぉ! 霊符「夢想封印」!」


「「0014」!」


 飛んできた光の玉を、夢想封印と同じ光の玉で相殺。直後に右手側から突進してくる人影に、扇子を構える。


「人神「永久回帰斬」! はああっ!」


 妖夢の新スペル! 二本の刀を多方向から振り回し、目にも止まらぬ連続攻撃! それら全てを扇子で受けきり、それでも出来た動作後の小さな隙。


「断つ!」


 次は斬れると判断し、二本の刀を縦に降り下ろす!


「「0023」!」


 仕留める為の斬撃は、靴の裏で発生した爆発で飛び退き、回避される。


「はあっ!」


 それでも行かせるまいと、神速の返す刃! 剣の軌道を読んだのか、絶妙な身体の捻りでかする程度に留められる。


「メイド秘技「殺人ドール」!」


「「0009」!」


 自分の周囲を取り囲んだナイフを、自身を中心に発生した衝撃波でもって吹き飛ばす。


「お任せします!」

「任されたよ! 全く、即興で何でもやりやがる」


「なら、アタシ達も手を変え品を変えるだけだ! 行くぞお姫様ァ!」


 鬼が笑う、鬼が走る! 後ろに下がったメイドの代わりに躍り出た二人が、豊姫に突進を始めた。対する豊姫の対策は、スペルカードではなく扇子。


 地面を踏み割る、初めの一歩!


「この扇子は衝撃を通さないと、知らないとは言わせないわよ!」


 その言葉を聞いて、萃香が大きくニヤつく。それがどうした、と言わんばかり。

 尚も向かってくる身体に強烈な恐怖を感じたが、既に射程圏内。逃しはしないと足が伸びる。


 狙いを定める、追撃の二歩!


「「0033」!」

「四天王が新奥義ィ!」


 扇子が輝き、翼と見紛うかのように光を大きく散らす。受け損なう訳には行かないと、予測済の頭で一片のズレも無く、防ぐ!


「「三歩壊覇」!」

「「三歩滅殺」!」


 獲物を食い千切る、トドメの三歩! 大と特大の鬼の拳が、両脇から挟むように繰り出される。

 それは光の翼に接触すると、まるで拳と拳がぶつかり合ったように音を鳴らし、やがて止まる。

 物と物がぶつかった衝撃だけで地面が大きく割れるとは、誰が予想しただろうか。


「凄い力! 一撃の威力は止められたけど、そのまま押されて潰されるかと思ったわよ!」


 そうは言いつつも、現に拳は止められた上、それ以上押す事が出来ない。


 これは、向こうの全力全開。見えない何かを目指して、道なき道を突き進むかのような。そんな力のこもった攻撃。

 一つ一つはやはり予測の範囲内。しかし想いか根性か、はたまた別の要因か。それぞれがほんの僅かに予測を上回る。

 止められると想定していた鬼二人が、地を蹴って後ろに下がる。


「大嵐「風神様の道標」!」


 豊姫が何かを行動を起こす隙を与える前に、文が大竜巻で豊姫を巻き上げる。空に浮かび、隙だらけの状態を狙った吸血鬼姉妹の手には情報の無い槍が握られている!


「棘槍「スピア・ザ・ゲイボルク」!」

「罪槍「ロンギヌス」!」


 片や刺々しく、鋭い槍。片や赤々と燃える、長い槍。そのどちらも半端の無い力を秘めているのが目で分かる程、存在感を放っている。

 構えは投げ槍。鏡あわせのような動きで、豊姫に狙いを定めている。勿論、黙ってやられる訳には行かない。


『素直に受ける気は無いと分かっての事かしら?』


 そう言いかけたその時に。


「貴様の」


 ふと聞こえた声で、頭から消えていた存在を思い出す。バタフライ効果。小さな物の積み重ねが、豊姫の勝利への一本道をねじ曲げる。

 だからこそか? それともまた、別の小さな要因か? どちらにせよ遠くで『こいしと並んで立つ河城みとり』に気付けなかった。


「『能力その物』を禁止する!」


 次の瞬間、豊姫を襲う強烈な違和感。出来て当たり前の行動が、出来なくなったかのような錯覚に襲われる。

 ああ、やられた。それも、特大の爆弾よりも質の悪い物を。

 それでも、何故笑う?


「……ならば!」


 兎に角防御、防御、防御である。残された数瞬で、練れるだけの対策を練り上げる!


「「0052」!」


 巨大な盾が豊姫の前方に発生し、防御、受け流しの構え。

 それを止めたら、その間に出来る更なる対策を追加する。如何なる状況にも対処してみせる。


 相手は情報の無い攻撃だけど、使い手の情報を参照し、その思考を予測すれば、どういった物かは予測可能だ。問題は無い。


「……とでも、考えているのかしら?」


 ふと呟いた、レミリア。

 強く地を踏み、フランに槍を構えさせたまま自分だけが刺々しい槍を投げた。

 その槍は盾に強く衝突し、発生した衝撃だけで豊姫が怯む。それでも盾は自動で体勢を変え、槍は空の彼方に消えた。


「フラン!」


「オーケイ! どおぉぉりゃあああ!」


 力一杯の叫び、フランの燃える槍による第二波が盾に衝突する。威力と言う面で見れば先程の物より桁違いに高く、白紙のスペルカードを出そうとした豊姫の身体が大きくぐらつく。

 それでもそれを止めた盾が、また体勢を変えて地面に槍を向ける。当然、あらぬ方向に飛ぶ槍を視界に収めたのだが……


「良いね良いね、盛り上がってきた!」


 気が付けば、隣に居る死神。更に言えば、先程弾いた筈のロンギヌスが眼前に迫っている!


 盾は……近くに無い。視界の奥に、ポツンと浮かぶ盾。そもそも、浮いている筈の自分が地面に立っている。

 豊姫と指定した地面の距離をゼロにした。それを仕出かした隣の死神は、笑いながら鎌を振りかぶる。

 非常にマズい。と言うかそのままだと死ぬ。流石にそれは冗談ではないので、槍の対処と鎌の対処を同時に行う方法を頭から引っ張り出す。


「穴符「画期的転移横穴」!」


 迫る槍と、鎌の先端に現れた黒い横穴。それら二つを吸い込み、今度はそれが小町に牙を剥く!


「おお!?」


 しかし、それは小町の目の前で止まる。

 接触までの距離を伸ばし、結果的に停止しているように見えるだけなのだが。


 小町が怯んだその隙に、その場を移動して……と、足を動かそうとしたその直前の事。


「さて、私が何の為にフランより先に攻撃したか、これで分かるか?」


 豊姫の目の前に突き刺さる槍。先程のレミリアの槍だが、おかしい。

 右手側にも、左手側にも、果ては後ろにも。上をみればまだまだ大量に降り注いでいる。

 正に槍の雨。そして少しばかり止まった豊姫の足に、違和感が走る。


「……足が!?」


「財宝「テュールのグレイプニール」。ですよ」


 虚空から生えるように伸びた紐。足に絡まり締め付け、最早その場から一歩も動けはしない。


「手際が……良いわね!」


 能力を封じ、更に足に地面に縫い付ければ、最早動く事は出来ない。

 これを狙っての事。いくら単体で無双が可能な存在であろうと、その場を動けないというだけで行動を大きく制限出来る。


 反撃のスペルカードを取り出そうとした時、その場を動かずに取り出したそれは的のような物に見えたのか?


「ばん、ばん、ばーん!」


 二丁拳銃の速打ちが炸裂。それは豊姫の手のスペルカードと、カードホルダーを見事に撃ち抜く。

 弾丸はホルダーの中で止まり、ほんの数枚を残して真ん中に穴を開けた!


「くうっ!?」


 反撃の手を封じられる。次第にワクワクしてくる豊姫に、また別な場所から声がかかる。


「お教えしましょう、綿月豊姫。その天才的な頭脳は確かに凄まじい。しかし……」


 豊姫の耳に入る自信に満ち溢れた、しかし何処か事務的に告げるような声。


「地獄の閻魔は、貴女よりも多く策を知っています」


 この時豊姫の考えは、目の前の閻魔からは少し離れていた。

 気になるのは、何故自分の予測を上回り続けるのか。そうでなければ、見えていた勝利への道筋は変化しない。

 しかし今、その道筋は消えている。何をしたのかが、答えを導ける自分の知識でもってしても……


「分からない。そうお考えのようですし、お教えしましょう」


 現れたのはさとり。彼女は豊姫の考えを言い当ててから、自分を指差し、告げる。

 思考その物を遮断し読めなくされない限りは、『程度の能力』に劣る読心術で読めない相手でも容易く見抜く。覚妖怪の本領発揮である。


「私達全員に、正体不明の種が仕込まれています。それによって私達の『考え』を正体不明にしてあります」


 流石に、聞いたら理解は可能だった。成る程、それでは読めないのも無理はない。

 目の前で起こる現象に対して予測は可能なのに、その根本的な目的が見えない理由が分かる。


「さて、この状況でも未だに打開策を広げている貴女に言わせてもらいましょうか」


 映姫の後ろ。本を捲りながら、賢者は告げた。


「策と言うものは基本的に個人で全てを為すより、数人で役割分担し実行した方が効率的よ」


 パチュリーの目が豊姫を見据える。目線を外さぬまま、右手だけの指示で複数人を動かす!


「河符「河童の川流し」!」


 一番手、にとり。動きを封じられた豊姫に向け、巨大な河を召喚! このままでは溺れかねない。


「「0088」!」


 だが、そうそう簡単にはやられない。直ぐ様弾丸が届かずに生きていたスペルカードで対策を練り、自身の周囲に空気の膜を作る。溺れてなるものか。


「しかぁし!」


 大きな掛け声と共に、流水を滑るように水面を移動してくる二番手、村紗。見ようによってはスノーボードのそれにも見える動きで、豊姫に一直線!


「『溺れさせる』と言う行為において、舟幽霊に勝る者無し!」


 何処から出したのか柄杓を振りかぶり、空気の幕に軽く当てる。まるで水泡が割れるかのように幕が消え、忽ち豊姫は水の中へ。


「水難事故は舟幽霊の専売特許さ!」


「おいおい! 溺れさせるだけなら河童もやるからな!?」


 水の上で河童と幽霊が怒鳴りあっているのが聞こえるが、息を止めながら思考する豊姫には気にならない。


 こうやって水に沈めて、何をするつもりなのか? 次は何をして、自分の予測を上回るのか? その目的は何なのか?

 正体不明の種による影響もあるが、それでも今一目的が読めない。一応、持ち物全ては耐水性くらい持ち合わせているが……


「雷符「轟音雷撃ボルテックス」!」


 河全体が揺れるかの如き衝撃。そして、水中を駆け巡る電流が豊姫に襲い掛かる……が、それ自体は人や妖怪を倒すような攻撃力とは言い難く、多少痺れる程度。

 ……何事? そう思う間に水が消え失せ、やっと呼吸が出来るようになる。


「ぷはっ!」


「ふー、お仕事終了だ」


 良い汗かいたと、にとりが笑顔で額をぬぐっていた。多分それは汗ではなく水滴だ。

 そしてにとりの足元には目を回す村紗。どうやら喧嘩の軍配は河童に上がったらしい。


「……今のは、何?」


 攻撃のつもりならあまりにも生温いわよ? と言う豊姫に、返答したのは椛と、雷の仕掛人の衣玖。


「分からないなら、自分の持ち物を確認してみれば良い。『隈無く』な?」


「ご安心を。もう何もしませんので」


 ……はて? 言われた通り、ずぶ濡れの自分の持ち物を確認する。『もう何もしない』に引っ掛かるが。

 撃ち抜かれたカードホルダー、もう殆ど使えない中のスペルカード。後は扇子と……


「…………あら?」


 扇子を地面にぽいと落っことし、服の中を更に確かめる。

 その手付きは段々荒々しくなり、ついには。


「ちょっと!?」


 乱暴に服を脱ぎ捨てた。


「待ちなさい!?」

「わぷ」


 星が自身の上着を即座に脱ぎ、豊姫に投げ付ける。いきなり過ぎて何処からか破ける音がしてしまったのが悔やまれる。毘沙門天の大事な服なのだが。

 星本人は肌着を着ているので問題は無いのかもしれないが、豊姫はその行為そのものが問題かと思われる。まあ豊姫本人は元々お転婆気質なので、これ以上のマズイ事をやらかしている可能性は多いにあるのだが……


 閑話休題。星の上着だけの豊姫が、先程の自分の服を乱暴に振ると……


「何よこれ、『全部台無し』じゃない!?」


 ゴロゴロと転げ落ちてくるそれは、全て機械。形も大きさも様々だが、服の何処に入っていたのかと言わんばかりの量。

 その全ては当然の如く水に濡れており、物によっては未だにバチバチと帯電している。


「……それが君のスペルカードの正体だろう?」


 豊姫が落とした機械の一つをネズミが回収。ナズーリンがそれを手に取り、見せ付けるように持ちながら言う。


「スペルカードとは本来、自身の能力を引き金として使う物だ。能力を使えなくされてはそれの使用も不可能」


 機械を適当にぽいと投げる。にとりがスライディングしてまでキャッチしたのは放置するようだ。


「しかし、自身の能力を禁止された状態でスペルカードを作り、防御をした事で確信を得たのさ」


 能力は使えないがスペルカードが使える。

 つまり、何らかの支援によってスペルカードを機能させている可能性。その答えは、豊姫の足元に転がる機械が物語っている。


「その切っ掛けは、レミリアお嬢さんが見付けたわけだ。いやはや、正に地獄に見えた蜘蛛の糸のようだよ」


 咲夜が伝えたレミリアの伝言は、これ。聖達との共同作戦で得た勝利の糸口。


「後はご覧の通りさ。ただ、水や電気への対策程度は当然してるだろうとうちの科学班が言うものだからね、一工夫した」


「一工夫…………ああ、もしかして炎の槍かしら?」


「その頭の回転は流石と言うべきだね」


「揺らぐ炎に微弱な破壊の力が備わっていて、機械に小さな傷を生じさせた。その傷に激流と電気をぶつけ、ショートさせた。かしら?」


 ナズーリンが河童の姉妹を見詰め、頷いたのを確認。

 先程村紗が空気の膜を容易く割れたのは、自身の能力で水難事故を起こしたと言う要因だけではなく、フランのロンギヌスでスペルカードが破損していたと言うのもある。

 完全に壊れたわけでは無いので、発動自体は可能だった辺り、本当に微小な傷だったのだろう。


「お見事。それで? 丸腰になった私を皆でフクロにするの?」


 言ってはみたが、そうではないとは流石に分かる。だが分からないのが、敵意どころか戦うと言う気配その物が薄れていく。


「賛成派は居るでしょうね。怪我させられたのは間違い無いし……」


「その筆頭みたいな貴女がそれを言うのね? 青を通り越して白い肌だけど」


「ルーミアさん、そろそろ死んじゃうよ……」


「やーねー、そんなにヤワじゃないわよ」


 たははと笑って見せるルーミアだが、どう見ても大丈夫に見えない。


「ま、私は良いのよ。今は貴女が問題だから」


「……ん?」


「仕込みはしておいたわよ。後は頑張んなさい……おっとと」


 歩いてすらいないのにふらつくルーミア。


「ちょっと幻月~、アンタの妹連れてきてよ~」


「本気で死にかける前にとっとと呼べよアホ! ほれ行け!」


「私は別に治療班と言うわけではありませんが他ならぬお姉様の頼みとあらば応急手当て程度は」


「とっとと行けドアホ!」


「早く早く!」


 言うだけ言って連れ去られたルーミアを見て、幻月の大きな溜め息。豊姫すら溜め息。


「あの宵闇もキツい時はキツいんだね」


「貴重な写真だわー」


 聞こえてくる笑い声。先程の事すら笑い話になっている。

 豊姫に酷い目にあわされた筈の幻想郷の面々も、その豊姫に報復も何もせず何故か。談笑を始めている。


「……いや、ちょっと待って?」


 これには、流石の豊姫も疑問符を量産した。

 直接攻撃した訳ではない者は兎も角、八雲紫防衛戦の面子は色々恨みが積もっていても仕方無い筈なのに。

 レミリアや聖も、相当深手だった筈なのに、今も治療を受けながら。


「ああ、疲れた。紅茶はある?」


「紅茶、飲んだ事が無いのですよ」


「あらそう? 咲夜、住職に取って置きの茶葉を使って振る舞って」


「いえいえ、そこまでして頂かなくても……」


 正直、気が気でない。明らかに怪しい。豊姫の心境は正にそんな感じで、これをハッピーエンドと言うには無茶が過ぎるぞと声高々に言いたくなる。むしろ敵意満載の方が理解が出来て、精神的に楽なのにとも思う程に。


「……あァ? こっち見んな」


 あ、敵意満載の人物が居た。この状況下では、むしろ安心してしまうのが何とも言えない。


「ねぇ貴女」


「なンだよ」


「この状況は何?」


「俺に聞くなよ」


 幻月もよくは分かっていないようだ。


「八雲紫サマのご命令でなァ。遅刻した奴待ちだとよォ」


「……遅刻、ねぇ」


「頼むから聞くなよ、かったりィ。周りの奴らがどんな結末をお望みかは知らねェが、八雲はもう結末が見えてるらしいしな」


 それだけ言い切り、盛大な舌打ちをして背を向けた。


「……八雲紫の指示?」


 その八雲紫の姿が見えないので真意は分からない。しかし彼女が皆の行動をそこで終了させ、『誰かを待たせている』事が理解出来た。


「……分からない事がこんなに怖いとはねー」


 新鮮だなぁ、と豊姫はふと呟いた。この時点で、豊姫の目には勝ち筋も負け筋も見えない状態。

 後は待つだけしか出来ないが、ここは信じて待ってみる。


「そうね~、あの子にかかったら分からない事だらけなのよね」


「あら?」


 これは遠くからの声。誰かと思えば、今まで欠席していた天子ではないか。


「天子じゃないか。何してたんだ?」


「迷える子羊の救済と迷子の補導かしらね」


「分かる言葉で喋ってくれ」


「いーのいーの。ほら、ド本命連れてきたから許して」


 後ろを親指で指差し、自分は横に逸れる。で、ド本命と言うのは……


「……藍色? 依姫も」


 欠伸をしながら歩く藍色と、心配そうな顔の依姫。


「あの子がこの戦闘最後の一手。勝ち負けを決める終止符なのよ」


「……成る程、私とあの子の問題から発展したものね。確かに理に叶ってるかしら」


 いつもの足取りで豊姫の前に歩き、向き合う形で立つ。


「……藍色」


 返事無し。


「ごめんなさい。色々」


 沈黙。


「久し振りに会えて、冷静さを失っていて」


 黙して語らず。


「ショックを受けて、暴走してしまった事を」


「じゃんけん」


「えっ」


 振り上げた手。驚く豊姫。


「ぽん」


「あ、え?」


 藍色はパー、豊姫はグーである。

 人は驚くと手を握ってしまう。つまり、そう言う事。


「私の勝ち。敗者は勝者の言葉に従い、実行するのが昔からあるルール」


「ちょっと、待って。整理がつかな」


「だから」


 押し通す。その動きは、何故か手慣れている。


「喧嘩はおしまい」


 いつの間にか、藍色の手には本がある。


「…………それ、依姫の日記?」


「そう」


 藍色がページを捲る。手の動きはある一点で止まり、豊姫に内容を見せる。


『件の妖怪の名を『藍色』と言うらしい。服装と良い容姿と良い、「正に」と言う言葉を地で行く名であると思った』

『ところで、藍色を姉様が捕まえてきた日、どういう方法をとったのか聞いてみた所』


 妹の見慣れた字を読み進めて。


『酷いんですよ。月の技術をこれでもかと使って玉兎達大勢で追い詰めて、逃げられなくなった所を』


「……あはは、はははは」


 笑う。


「やだも~! 貴女そんな事まで書いてたの!?」


「ええ、全て書いていますよ。貴女と藍色の事は」





『いきなり『じゃんけん』をけしかけて、驚いてる間にパーで勝ってしまったんですよ。これ程酷い策を私は知りません』

『しかしながら、これ程平和な解決策もそれほど無いでしょう。形はどうあれ、誰一人死なずに事は収まったのですから』


「紫から言伝てを受けて依姫を探し、ルーミアから言伝てを受けて藍色を連れてきた」


 自信満々。それを形にしたような顔の天子。


「姉を見てきた依姫だからこそ見える解決策があり、豊姫と親密に付き合っていた藍色だからこそ出来る実行力がある」


 策とは、大昔を再現する事。


「幻想郷の技術をこれでもかと使って、逃げられなくなった所を」


 つまりそれは大昔、豊姫が藍色にやった事。


「いきなり『じゃんけん』をけしかけて、驚いている間にパーで勝ってしまう」


 それは単純な勝利だけではなく。


「どう? 平和的でしょう?」


 月の民が藍色を迎えたように、今度は幻想郷の民が豊姫を迎えてやるのだと。


「…………じゃあ、私はこうされれば良いのね?」


「む?」


 藍色の手を引っ張り、今度は自分が人形のように抱かれる形になる。


「……姉様」


 呆れた依姫が、豊姫に言った。


「風邪を引きますよ」


「うふふ」


 笑顔になった豊姫を確認した周りの皆が、急にバタバタと倒れた。


「え、ちょ、どうしたのよ」


「どうしたもこうしたも、無いよ……」


 そこで、一同の心は一つになる。





「疲れた……」


「…………あの時の玉兎達とそっくりですね」





 持ち前のトラブルメイカー気質が不運を招いたのか。それは結局よくは分からないが。


 見た事も無い知人との、初めての再会に始まり、奪還作戦と大暴走。

 何年待ったのか、感動の再会を果たした想い人に言われてしまった言葉が突き刺さってしまった。


 ショックは計り知れないだろう。だから剥き出しになってしまった、長い時間で形の変わった愛。

 しかしそれでも戦いを通して少しずつ直った形は、最後の最後に型にぴったりとはまったのだ。


 かくして、月を舞台にした幻想郷史上最大の異変は、収束を迎えた。

 残すのは、異変の終わりにある後始末と、その先にある祭り。





「藍色」


「……ん」


「まだ、夜更かししてなさいよ」


「……頑張る」







 それと、残されたもう一つ。


 日はまだ昇らない。しかして、明けない夜もまた無い。

 夜風をそよそよと受けながら、藍の蓮花は偽りの太陽と、青い星を見上げていた。







「そろそろ時間ですよ」


「さあ、もう寝なさい。明日も早いのですから」


「夜更かししていては、大きくなれませんよ?」


 …………


「あと、すこしだけ」


 私が力尽きたと思った人は正解です。

 さて、色々書きましょうか。


 守矢の二柱が居ない理由は書いていませんが、キチンと理由があります。

 神降ろしの出来る依姫の立場が敵なのか味方なのかよく分からない状況で、神である二人が戦力に加わっている状態でいると、二人が神降ろしの対象になり利用された時、戦力の減少から瓦解する可能性があります。

 その可能性を考え、初めから戦力の内に入れずにいた。と言う訳です。


 と言うわけで、あえて幻想郷に残しました。妹紅が居なかったり、美鈴が居なかったりと、全員で突撃していない理由も、戦力のごっそり居なくなった幻想郷の防衛という面があります。

 数人減らしても結局キャラが多いので、私自身の負担も減らしたかったのです。最悪な裏話ですね。


 今回の目玉、豊姫さん。恐らく東方二次創作界最強の原作キャラになってしまったと自負しております。化けの皮さえ剥がれれば勝算は多々ありますが。

 彼女のスペルカードはどういう物か? 色々な見方が出来ますが、RPGにある装備に付属されたスキル…………という言い方なら何とか理解して貰えるでしょうか。様々な装備で身を固め、その性能を引き出すためにスペルカードと言う媒体が使われたと思ってください。

 また、前半の名前有りのスペルカードは兎も角、後半の数字スペルカードは完全に消耗品です。八雲紫の作ったルールの例外となり得る使い方ですね。今後の彼女にご期待下さい。


 依姫はぶっちゃけ、あまり力を発揮できませんでした。私の検索能力では八百万の神々の詳細を調べきれず、結果的に曖昧になりました。書いていて最も苦しい結果です。

 身体能力的な面だけを見れば、彼女もまた作中屈指の実力の持ち主です。ただ今回あまり良い所が無かったのは、半分は豊姫、半分は私のせいです。ごめんね依姫さん。


 新スペルカードが出たと言うことは、スペルカード集を忘れてはなりません。勿論全部書きますよ。

 月突入前の、まだスペルカード集に書いていない物を含めると、新規は驚異の十五枚! なにこれ怖い。十月までにまとめる未定……いや、予定です。


 それと、途中挟んだ藍色の夢。あれはこれからの問題となります。

 キチンとした対話が出来るようになった豊姫の口から、どんなお話が出るか楽しみに。これから展開が加速するかも。


 さて、今回の連続投稿が終わって、それでも残った一つの大問題。


「俺がヤられッぱなしな事の落とし前はァ、どォ付けるんだよ! アァン!?」


 と、幻月さんがお怒りの事でしょうか。くわばらくわばら。


 といった辺りで、これにて失礼します。

 今度は早めに更新できれば良いな(白目

 ではノシ

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