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東方藍蓮花  作者: 空椿
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藍色と信頼 盲目は敵だ

 大きな建物の壁が、突然破壊される。壁は衝撃で瓦礫と化し、空いた穴から藍色達が脱出。即座に四方に飛び去る

 直後に、宙を舞う瓦礫の大半が消え、穴から扇子を開いた豊姫が顔を出す。その眉間には皺が寄っている辺り、どうにも友好的には見えない。


「ッハァ!? アブねェ!」


「三途の渡し守が三途を渡るのは勘弁したいね」


「三途にすら行けそうに無いんじゃない?」


 壁をぶち壊したのは幻月とフラン。せーの、は無かったが、息の合った拳撃は一同の退路を作った。


「おい紫、スキマはどうなんだ?」


「駄目ね。完全にジャックされてる。開きそうに無いわ」


 紫のスキマは『境界を操る程度の能力』の副産物であり、紫が元々転移、転送に関する能力を持ち合わせていた訳ではない。

 対する豊姫は本家本元、列記としたワープ系の能力持ち。いかに力量で勝ろうが、偽物は本物には勝てないのだ。


「それよりどうするんですか!? あの人相当強いんですよね!?」


「奇跡でどうにかしなさいよ」


「起こらないから奇跡と言うのですよ!?」


 今正論を言ってどうする。


「兎にも角にも、紫を連れて逃げ……」


 行動指針を提案しようとした霊夢が、何かに気付く。


「ちょっと、藍色は何処よ」


 ……あ。


「依姫さんも居ないよ!?」


 幻月が連れてきた玉兎も居ない。藍色を連れてバックレたのか?


「藍色は後だ! 何度でも取り返せるンなら、今は逃げるぞ!」


 どよめく皆を幻月が即座に奮い立たせ、逃げを選択する。


「そう、思ってたわ」


 しかし、残念。逃走経路には既に豊姫が居り、臨戦態勢……殺る気満々で立っていた。


「逃げても無駄よ。私の能力で何処にでも行けるもの」


 扇子を広げ、一行に降り下ろそうとした時。行動に移す影ひとつ。


「殺らせやしない!」


 小町の突撃。同時に鎌を振り回す!


「まず踏み込んでの袈裟斬り」


 力強く踏み込んだ袈裟斬り、回避する。


「次に体勢を変えつつ、右からの横凪ぎ」


 一度身体を捻ってからの右横凪ぎ、回避する。


「そして突然背後に移動しての」


 豊姫が体を反転。


「唐竹、と」


 最後に降り下ろされた鎌を扇子で止めた。

 小町としてはかなり力を入れたはずだが、豊姫は微動だにしない。むしろ、鎌の反動で小町の方が浮いてしまう程。


「私って非力だから、扇子に防御システムを追加しておいたのよ。正解みたいね」


「こいつ……ッ!?」


「そ、し、て」


 また体を反転させ、鎌を防御していた扇子を開いて降り下ろす。


「こうよ!」


 放たれた分解の風は、『フランの援護射撃』の矢を綺麗に滅した。矢に巻き込まれないように直前に離れた小町は、豊姫の見えていたかのような対応に、呆気に取られる。止まらない風は真っ直ぐにフランに突き進むが、霊夢が首根っこを掴んで引っ張り、事なきを得た。


「お前、後ろに目でもあるのか?」


「あるわけ無いじゃない。ただ、来ると分かっていただけよ」


 遠目に見ていた魔理沙に対して語り、急にその姿を消す。能力を使って移動したと察した紫だが、その豊姫が目の前に現れ、扇子を広げた。その扇子を持つ手には、沢山持ってるスペルカード。


「裂符「刹那的飛翔鎌鼬」」


 今度は手加減無用。亜空をも切り裂く爪が、紫を本気で消しにかかる。


「境符「速と遅の境界」!」


 ただ、これは回避が間に合う。とてつもない速度でその場から脱出し……


「鬼さんこちら」


 またも危機に晒される。逃げた方向は既に豊姫の想定に収まっていた。


「全速力だぜ!」


 そこへ魔理沙の単純な突進! 勿論豊姫に回避されたが、紫はその隙にまたも逃走する。


「……そして、こうなるのよね」


 何がどう来るか分かって、何が成功への最短ルートか分かろうが、この数の強者相手に目標を即座に殺害は出来ない。最短とは瞬殺とイコールではないのだ。

 ただ、最短ルートは分かるのだから、後はその通りに事を為すだけの簡単な作業。行程を全て終わらせれば、目的は達成される。


「……良いの。藍色が居れば、良いのよ」


 それによって心の底に涌き出る欲求を、彼女は満たす事を既に諦めていた。








 此方、藍色。

 実は皆が建物から脱出した際に、依姫が藍色を引っ張って別の方向に逃走したのだ。それを目撃した玉兎が、それに着いていってこの状態が出来上がった。これを豊姫が把握してるか……してるんだろうか?

 現在、建物の外……霊夢たちの反対方面にて集まっている。戦闘の音は聞こえないが、激しさを増しているのは明らかだろう。


「……面倒な事になりましたね」


「はわわ、はわわわわわわ……」


「落ち着いて」


「はいっ! いままま今すぐ落つちつきまままます藍色さま!」


「……落ち着いて」


 とりあえず様付けも気になるが、まずは深呼吸させる。


「さて、どうしましょうか……」


「ルーミアと小傘を探したい」


 藍色が右手を上げる。


「……あの二人を?」


「頼りになるから」


「……そうですね、今は味方が多ければ」

「依姫様」


 ザザッと現れた玉兎達。手には武器を構え、並々ならぬ雰囲気を漂わせている。


「……皆? どうしましたか」


 依姫が対応したのを確認すると、一人の玉兎が代表のようにそれを告げた。


「豊姫様のご命令です。藍色様を引き渡して頂けますか?」


「え?」


「反抗するなら捕らえなさいとも聞いております。多分無理でしょうが、そこは数で圧倒させて頂きますよ?」


 それを言うだけの数はあるのか、今まで何処に居たのかと言える数の玉兎が三人を囲む。


「これは……一体?」


「一人の玉兎が、豊姫様のご命令をネットワークに伝えたのよ。行くべき場所とか、相手取る人物とか、全部ね」


「全部? …………ねぇ」


「違います違いますごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


「…………落ち着いて」


 すー、はー。


「面倒ですね」


「お、大人しくして下さいよ~……」


 ……何故か視線は藍色固定だな。


「やだ」


 そして藍色は断った。


「変符「命中率と回避率」」


 藍色を中心に花火が発生。弾壁と言えるその代物を回避するのは難しいのか、流石に距離を取って逃げに入る玉兎達。

 第二波と共に戻ってくる黄弾にピチューンする玉兎を視界の済みに置きながら、三人はドタバタと逃走を始める。


「何か打開の方法は」


「正直ありません」


「えぇ~!?」


 依姫はズバッと諦めていた。


「私には、の話です。貴女には出来ます」


 その視線は、やはり藍色。


「貴女の能力は、時に全てをねじ曲げる程に強力な力を発します。だから私は思う」


「……何を?」


「貴女の能力で、全てを一度に解決出来ないかと」

「駄目」

「言うと思いました」


 三人で走りながら、依姫は少し笑った。


「おそらく貴女はこう言うでしょう」


「「それで全てを解決しても、結局は何も解決しない」」


「よ、よく分かりましたね……」


「これでも、姉様の次に藍色を知っていると自負していますので」


 少し誇らしげだが、すぐにキリッとした顔になる。


「藍色の能力を大きく使わないとして、それでも少しは使わないとどうにもならないでしょう」


「どうしても?」


「可能性が無いとは言いませんが、あまりにも非現実的です」


 息が上がった玉兎を藍色が担ぎ上げ、尚も走る。いつの間にか包囲網が広まっているらしく、右や左から網やら何やらが飛んでくるのを回避しつつ、尚も、尚も走る。


「ぜー、はー、はー……」


「運動不足」


「お二方が速すぎるんですぅ~……」


「……それで、何か」


「貴女の力を借りれば、方法は一つだけ」


 藍色の手を掴み、依姫は神を降ろす。


「急ぎますよ! 「韋駄天様の御御足」!」


 ズンと踏み出した一歩で、世界が後ろに流れて行った。

 そう思える程に速く、そして力強い。


 三人は玉兎達の包囲を無理矢理突破し、都を走り抜ける……








「派手な事になってるわね……」


「どうしようどうしよう……」


 月の上空を飛ぶ鳥。その上に乗る二人は眼下の地獄の大合戦を見詰めていた。


「豊姫……本人の実力は決して高くはないけど、並外れた情報能力は知恵の神と称しても良いかしら。恐ろしい事」


「今はそんなこと言ってる場合じゃ」


 続きを言おうとした時、それを手で制したルーミアは驚くべき事を告げる。


「残念だけど、私にもお手上げなのよ。勝てるビジョンが見当たらないの」


「……えっ!?」


 確かに力勝負なら負けないだろう。ただ、自分が考える事の常に先を行かれてしまう。

 ようは後出しジャンケンと似たような物な訳で、ルーミアの言葉はその様な意味を含んでいるようだ。


「どうしましょうかね……上には上が居るとは常々思ってたけど、こんな所で出会っても……」


「ルーミアさんがお手上げだと私もどうしようも無いんだけど……」


「腕っぷしは良い方じゃないの」


「皆の方が荒事大好きじゃない!」


「そうね、小傘は弾幕担当だもの」


「ふざけてる場合じゃないのー!」


 拳でポカポカしてくる小傘の相手をしつつ、ルーミアは頭を悩ませる。


「探してやるわよ、蜘蛛の糸。地獄の一丁目なんてお断りなのよ……」


 悩み悩み。それでも一本の正解への道を探して、月の空を行く。


「まだ勝負はついていないのよ」








「一つ問います、藍色」


 不意に、問う。


「貴女の帰る場所は、何処ですか?」


 自分の事を、言い含めて。


「分からない。でも言う」


 藍染の妖怪は、そのまま答えた。


「知らなくても、分からなくても」


 さも、当然かのように。


「あれが『家族であった』と、私は感じた」


 ああ、藍色。

 貴女は、顔も忘れてしまった私を、

 貴女の為に帰る場所を壊さんとする姉を、

 まだ家族と言ってくれるのですね。


「依姫」


「私は貴女に賭けます。貴女の旅の軌跡に賭けます故に一つ問います」


 ハッピーエンドは、好きですか?










「小説は読まない」


 はは、そうでしょうね。

 私です。


 長い時間をかけましたが、今回は短めに締めました。その代わり、次は長くなりそうです。


 プラン無しでグダグダ進んで来ましたが、やっとこさ今回のドタバタの終盤に辿り着けました。長かった。


 さて、次回か次々回で騒動も終焉を迎える事に……なれば良いのですが。


 短めに終わるとします。では今回はこれにてノシ








 きっと皆、欲しい物の為に欲しい物を我慢している。


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