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東方藍蓮花  作者: 空椿
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藍色と交錯 賢人は敵だ

「流石に有象無象は弱いねぇ」


「変に曲がらない弾幕なんて避けやすいだけね」


「どんな技術があっても、使い手が弱かったらこんな物よ」


 こちとら全員実力者、しかもここ最近で進化を遂げているのだ。技術発展してようが、使う人物が弱いのなら敵では無い。

 技術があるなら、一般階級の兵士にも強力な兵器を渡せば良いのに……と考えたかもしれないが、それは出来ない。貴方は強力無比な破壊兵器をポンと渡せるか? 不安で胃が縮む事になる。


「三人が前を行ったお陰で助かったわね。混乱した戦線を殲滅するのは楽だったもの」


「スペルカードに手を伸ばすような事も無かったな」


「油断大敵とは言いますけど、流石に油断もしたくなる程ですね」


 玉兎を殲滅した直後の皆。月の都の中心部が既に目の前という状態だが、警備の者まで倒したので打ち止めである。

 実は大半の警備は幻月にやられてしまっていたり。迎撃の為に神風特攻したり、視界に入ったから有無を言わさずに攻撃されたりだ。


 幻月は派手に暴れたが、これでも死者は居ない。あの幻月が死なさず殺さずをやるのは想像し難いが、現に皆生きているので良いだろう。

 ちなみに、幻月が暴れてる事を皆は知らない。


「さて、そろそろ姉妹が出て来るかしら?」


「依姫さんなら尋常に勝負! だね」


「豊姫は?」


「どうしましょうかねぇ」


 紫のスキマと小町の能力を合わせたような能力の持ち主の豊姫。科学技術でぶっ飛んだ場所だ、兵器を取り出したりこちらをどこかに飛ばしたりと、手段はいくらでもある。

 汎用性に長ける依姫に比べれば、直接の戦闘力は下がるだろう。しかし厄介さでは依姫を越すかもしれない。出来れば会いたくない。


「……で、これからどうします?」


「藍色さえ連れ戻せたらこっちの勝ちだから、怪しい所を虱潰しに探せば良いのよ。何もない所に煙は立たないでしょう」


「簡単に煙が上がれば楽出来るのだけどね」


 そりゃあそうだ。


「……つまり、楽に終わらせられるわけだな?」


 と、魔理沙が都の一角を指差す。つられて目線をそちらに向ければ、確かに煙が向こうの方から月の空に昇って行くのが見える。

 一応言うなら、指さしている煙は進行方向……つまり、まだ向かっていない場所の物という事になる。


「……いや、何であんな所から煙が?」


「迷子の幻月が退屈しのぎに暴れてるんじゃない?」


 ……納得出来なくもないのが恐ろしい。


「じゃあ、あっちに行けば良いわけ?」


「他に行く宛も無いですね。私は賛成ですよ」


「オーケイ。じゃあ」


「ちょいと待っておくれ」


 ここで小町が制止。何事だろうか?


「二手に分かれないか? 相手に頭のキレる奴が居る事だし、全員一塊で行動するのは危険だよ。人数多いと動きにくいのもあるしさ。そして片方はアレに向かって、もう片方は怪しい所が無いか探索ってトコ」


「ふむふむ。で、構成は?」


「異変解決組と毎度の一行で良いと思ってるよ。不慣れな組み合わせでもないし、まぁ自然じゃないか?」


 まぁ、変な所は無い。大半の皆は何も言わなかったが、少数の賛成案があったのでそのまま決定した。

 一応メンバーを言うと、霊夢、魔理沙、早苗、紫の異変解決チームと、藍色の抜けた一行のチーム。案外繋がりの強いチーム分けな気がする。


「あの煙の調査はあたい達でやるよ。機動力があるそっちは都全体の調査を頼んだ」


「大した事無かったら幻月の探索でもするわ」


「了解。また後でね」


 やると決めたら行動は早い。皆元々協調性の低い生活をしていたせいか、誰かが案を投じたら素早く従う癖が根底にある様子。

 結果、襲撃隊は二つに分かれてそれぞれの役割を果たす為に走る、飛ぶ。


「もう兵士をブッ飛ばす必要は無いわね?」


「まぁ、その兵士が来ないから……」


「じゃ、手っ取り早く行きましょう」


「了解」


 ルーミア。何をしでかすか分からないような女性ではあるが、この皆は旅という行程を経て、少なからず彼女を理解したらしい。

 故にやることは皆同じ。足並みを揃え、一、二、三のタイミングで跳ぶだけだ。


「闇夜「ダークネスレイヴン」」


 影が流れに誘われ、一粒一粒の闇となって急速に鳥を作る。やがて出来た大きな黒鳥に、四人は見事着地。そのまま加速して一気に現場へと向かった。


「よく分かったわねぇ」


「流石に慣れたよ」


「あらあら。流石に計算外ね」


「えへへ」


 この様な状況下でも、マイペースな雰囲気を作れるのは幻想郷民の強みだろう。いつもそうだし。


「そう言えば、フランは太陽が平気になってたりしたっけ?」


「いきなり何かしら」


「いや、空……」


「あぁ」


 月の空は地球のそれと変わらない。今は真昼つまり太陽の元である。しかしいつの間に気付いたのか、フランは傘を差していないのに平気そうだ。


「月と幻想郷じゃあ色々違うんじゃない?」


「太陽光がダメなのは共通な気が……」


「じゃああの太陽が偽物って事でしょ? それで良いじゃない」


 フラン本人に締められたが、まあ良いかと皆はそれ以降の議論は無かった。その内永琳に聞くなり綿月姉妹に尋問するなりすれば良いだろうし。


「と言うわけで、件の場所に到着したわけだ」


「流石に早いなぁ」


 降りる前に地表を確認してみる。

 何かが暴れた後……と言うか、何かを燃やしている感じの煙。その源にあるのは、紙ととれる物体。それに点る火。


「……何だあれ」


「さぁ……焚き火か何かかな?」


 奇っ怪な物を見る四人だが、その焚き火の隣に誰かが座っているのに気付いた。


「……誰?」


「さぁ……」


 対応に困っていると、その人物はおもむろに焚き火に棒を刺し、何かをそこから出して……


「出来た出来た、焼き芋!」


 焼き芋!?


「ううん良い臭い。やっぱりいつものいかにも高級高級してる物より、こういう庶民的な物が良いわぁ〜」


 …………と、豊姫……


「あぁん、美味しそう! 頂きます!」


 これまた幸せそうに焼き芋をかじる月のトップ。不思議な光景な気もするが、そもそも私生活を知らないので何とも言いようが無い。

 思わず黙り込んだ四人に気付いているかも分からないが、とりあえず芋が美味しそうである。


「はぁぁん……幸せ〜」


 幸福である事をこれ以上なく振りまく顔を空に向け、芋を持つ手を上げる。

 瞬間、顔は一気に冷ややかになり、氷を想起させる笑みを向けてきた。間違い無く、皆を捉えている。


「あなた達も食べる?」


「食えない奴ね〜」


 そう言った瞬間、ルーミアが身を乗り出す。


「少し待ってなさい」


「あいよ」

「りょうか〜い」


 と言うわけで三人は待機。ルーミアだけが豊姫の前に降り立つ。


「貰えるかしら」


「良いわよ〜」


 自分が食べてた芋をルーミアに手渡し。雑にかじってみれば、ホクホクした芋の食感が口に広がる。しかし……


「無駄に甘いわ」


 美食家の口には合わなそうだ。


「間接き〜っす」


「調子も狂うし……」


 珍しくペースに乗せられるルーミア。気が付けば、先程の冷ややかな笑みはどこへやら。またニコニコした表情を浮かべている。


「で、何か用かしら」


「用、用ね。じゃあ率直に言うけど」


「藍染のあの子はダメダメよ?」


 ……先手を打たれた。ルーミアの目が光り、情報戦の意志を示す。

 対する豊姫の笑みも様子が変わり、抗戦の構えだ。


「理由は教えて貰えないの?」

「どうしても聞きたい?」


「言わなくても良いわよ、予想するから」

「秘密は女の子の宝石箱よ? 暴いちゃうのね」


「悪趣味でしょう」

「よく言われるのね」


 会話が噛み合っていないようで、お互いには通じているらしい。更に、お互いの頭はお互いを読み合おうとフル回転、少しでも互いから情報を得ようと必死だ。


「あなたは不思議な人ね」

「あなたも黒い人ね」


「真っ黒だもの」

「私は?」


「雲かしら」

「綿飴みたい」

「それはそれは」


「……うふふ」

「……アハハ」





 十字剣と、扇子が交錯する。まき散らされるのは、明らかな殺意!


「満月符「フルムーンライトレイ」!」

「星符「局地的新星爆発」!」


 極太の光線と、光すら歪める小柄だが強力な爆発。お互いは瞬時に危険性を判断し、離れる事で一度仕切り直す。


「……隙は見せていなかったハズだけど、次の行動を予測されて一瞬先に反撃? 地上の穢れの塊の癖に、やってくれる」


「やられた。こちらの読心方法を理解して、全ての記憶を引っ掻き回して読ませてくれなかったなんて……化け物かしら」


 読み合いと言う攻撃。お互いが互角に見えるが……


「いや、違う。問題はそれより……」


 右手に十字剣、左手には十字短剣を構えるルーミア。いつもの余裕、そこに無し。


「死合いの為のスペルカード……!?」


「悪いのだけど私、藍色はず〜っと見て来たの。幻想郷に来た時も、冒険してた時も、月に来る直前も」


 扇子をバッと広げ、不敵な笑み。


「だから、たくさん知ってるわ。アナタのコト」


「……マズい」


 実力は未知数。これに関しては多分自分が勝てるだろうと確信している。だが、しかし。

 こちらは相手を全く知らないが、あちらはこちらをよく知っている。つまり……


「情報量に、差が有りすぎる……!」


「ルーミアさん!?」


「小傘来なさい。フランと小町は幻月を探して、迅速に!」


「あ、ああ!」


 三人が飛び降り、黒鳥は素早くルーミアの隣を陣取る。小傘はルーミアの真後ろに降り立ち、傘を畳んで構える。フランは小町の手を取り飛翔、月の空に消えていった。


「実力なら私は負けると思うわよ〜、あなた達みたいに強くは無いから。でも……」


「……何かしら?」


「私、案外賢いのよ」


「もう少し嘘をつきなさい、賢人さん」


「負けないから」


 賢人二人の戦いは、既に五十手先まで進んでいた……







「……あ」


「さて、どこまでお話しましたっけ」


 一瞬、とは行かなかった。流石にお互いが手練れな為、二や三の撃で勝負はつかなかった。だが、しかし。


「そうですね、姉様の部屋に案内しましょう。そこならゆっくり話せるでしょうし」


「……う、ん……」


 床に突き刺した剣を抜く。部屋の一角にあった、剣の刀身による山はゆっくりと地面に消えた。

 その中心に居た、大きな翼の少女。彼女の翼は、あんなにも紅い物だっただろうか。


「しかし、予想外に強い妖怪でした。危うく腕を消し飛ばされるかと。しかし、彼女は暴走すると止まらないのですね」


 駆け寄るような事はしなかった。知り合いとは言え、そこまで親しい間柄では無いから。しかしながら……


「故に彼女は私の警告を無視し、結果的に祇園様の怒りを買いました」


 藍色の肩を押しながら、壊れた部屋を退出。藍色それに抗う事も無く、ただただ彼女の血溜まりを見えなくなるまで見つめていた。


「彼女があのままなら、あと十人居ても叩き伏せられますね」


 紅い翼が、一瞬だけ揺れた。しかしながら二人の歩みは止まらず、やがて部屋には一人だけになった。







「……行ったな」


 がばっと起き上がる幻月。元気そうで何よりだが、起き上がった瞬間にゲボッと血を吐いてしまう。


「やれやれ、バケモンかありゃァ。あんなのに単独で勝てる奴なんて居ねェんじゃねェか?」


 血をゴボゴボと吐きながら、それでもなおケロッとした顔で言う樣は恐ろしい物だ。

 幻月がこんな状態なのは、身体のダメージは目も当てられない程に溜まっているものの、本人の体力や気力が有り余ってる故の現象。つまりコテンパンにやられたと思わせつつ、全力なんぞハナから出していなかったという事。

 ただ、仮に全力だろうと負けていただろうなーと、本人は考えている。


「さて、これからどうしたもンか。こんな体で長距離の移動は面倒だなァ」


 進行形で血が噴き出しているというあまりの重傷も問題だが、先の剣山の仕業で衣服の意味が無くなってしまったのも問題だ。現在彼女の白い肌を覆っているのは、布ではなく自分の血のカーテンという事になる。恐ろしい。

 そんな事はどうでも良いとばかりに、先程何があったかを思い出しつつ次の行動を幻月は思案する。


「……頭が回らねェな。血が足りん」


 と、ここで誰かが近づく気配を感じた。誰かが壁から姿を現した瞬間に顔を向け、あまりにも鋭い睨みを見せる。すると……


「あ、ああああ、あの……」


「おォ?」


 壊れた壁から姿を現した玉兎が、青ざめた顔で固まってしまった。先程幻月を発見して、わけもわからぬ内に逃がされた二匹の内片方だったかな……と、霞む思考で思い出す。


「なんだウサギ」


「えっとえっとえっと、あの、その……」


「……ハァ」


 余計な体力を使わせるな。という顔をしながら立ち上がり、玉兎の前にのそのそ移動する。


「あわ、わ、わわわわわわ……」


「……おい」


「はひぃ!?」


「息を大きく吸え」


「ひっ……え?」


「ゆっくりな」


 スー。


「ンで、ゆっくり吐く」


 ハー。


「落ち着いたかチビスケ」


「は、はい……」


「全くなァ。で、何の用だ?」


「あの……」


 予想外の優しさに触れつつ、次の一言は……


「ち、治療しましょうか?」


「……敵に塩送って良いのか……?」


「怪我人は皆平等って言われましたので……」


「……あー、じゃあ頼むわ。死にそうだし」


「じゃ、じゃあ運びますね」


 小さいながら、しっかりと幻月の肩を組んで移動。移動する間の時間を利用して、先程の戦闘を振り返る事に。


 最初にぶつかったのは右手に持たれた剣と右手の爪だったか。確か自分が先に仕掛けて、依姫は防御の姿勢だったハズだ。

 綺麗に受け流されたが、その勢いのまま相手の右半身の方にすり抜け、相手の岩のように強靭な足腰を利用して左肩に右の手をかけて回転、左の手で頬を刈り取るつもりでいた。


「……頭イテェ」


「出来る限り安静にしてくださいね」


「歩かされてる時点で安静もクソもねェだろうが……」


 しかし頭を反る形で回避され、更に急に力を抜かれたので支えていた右手が外れた。消えなかった勢いのまま依姫の正面に吹き飛び、力を入れ直した依姫が急に突っ込んできて右の膝が入ったわけで。

 その後部屋の一角に吹き飛び、体勢を立て直す前に依姫が剣を床に突き立て、剣山に閉じ込められて詰み。「動かない方が身の為だ」と言われたが無視して剣山を破壊しようとしたら、花の蕾のように閉じて危うくミンチという始末。


「……で、死んだフリしてやり過ごして拾われたわけか」


「どうしたんですか?」


「いや、なぁ……治療も良いが」


 そろそろ口の中に貯まった血を吐き出し、多少ビクついた玉兎にこう言った。


「出歩いても変な目で見られない服をくれ」


 巫女服も疲れるもんだ。






 そしてこちらは異変解決組。

 最早未来予知の域に達しているであろう博麗の勘は、誰ぞの敗北も見事に察知したらしい。


「ん?」


「霊夢、どうした?」


「いや、幻月は大丈夫かしらねーって」


「何故いきなりそう考えたんですか……」


「そろそろ派手にやられてそうだから」


「いつもの勘か?」


「多分」


 溜息一つ。


「で、紫。何か見つけた?」


「あなたが見つけてないなら私も同じよ」


「ああそう……」


「結構グルグル回ったけどなぁ。もしかしてもう何も無いんじゃないか?」


 都をぐるっと回ったものの、怪しい巨大な建物がある以外に異変は見当たらない。強いて言うなら、一行が向かった方の煙が激しくなっている位だろうか。

 どの位巨大なのかと言えば……そうだな、紅魔館と白玉楼を足して二で割らなかった位か…………分からない? 大方そんな感じだって認識してくれ。


「ルーミア達の方は何かあったみたいだけどね」


「どうします? 合流しますか?」


「いや、このままあのデカい建物にお邪魔しましょうか」


「あそこにですか? まあ、いかにも何かありそうですけど」


「窓から煙が漏れ出てるのもいかにも怪しいもの」


 ……まあ、少量ではあるが漏れ出ているのには間違いない。


「多分幻月もあそこでしょ。勘でしかないけど多分そうよ」


「勘なら仕方ないな。突入するぜー」


「はい!」


「忙しないわね」


「今更」


「何してんだい、置いてくぞ?」


 とりあえずまあ、建物に侵入する事に決定した。


「じゃ、いつも通りの入り方で……」


 ゴソゴソと懐を漁り、八卦炉を取り出す魔理沙。それは良いのだが、もう一つの必要な物がいつまで経っても出てこない。


「……どうしたのですか?」


「あー、うん……」


 頬をポリポリ掻きながら、霊夢に言った。


「霊夢。スペルカード、忘れたぜ」


 間。


「隣の人に見してもらいなさい」


「ひっでぇ!?」


「同じ星に通ずる物があるから大丈夫でしょ」


 プププと笑う紫に対して怒り、顔を赤くして涙目になってしまう魔理沙。『隣の人』の早苗はそんな魔理沙をなだめる役に徹するのだった。


「からかうのは抜きにして、痛い忘れ物ね」


「ですよ。どうするんですか?」


「んぁー……しばらく下がってるぜ」


 まあ、早めに気付けて良かったという事で……


「自分でなんとかしなさいよ。私は知らないわ」


「わーかってるって……じゃあ、後任せたぞ」


「お任せ下さい!」


「じゃあ、そこの罪の無い壁には壊れてもらいましょうか」


 紫がスペルカードを取り出す。壁からしてみれば解せない事この上ないだろうが、彼女は無機物に与える情を持ち合わせてはいないらしい。しかし……


「紫、私がやるから下がってなさいな」


「いえいえ、お二方の手を煩わせるわけには」


「アンタは私より弱いんだから下がっときなさいよ」


「そんな事はありません!」


「いや、私がやるって言ってるのだけど……」


 揉めた。まさかの場所で。流石にこれはイラッと来たのだろうか、魔理沙の顔が引きつる。


「なんでもいいからさっさとしろよ……」


「ちょっと待ってよ。今決めてるから」


「ごめんなさい~」


「だから、私がやるって……」


「じゃあ全員でやれよもう」


 その発想は無かった。的な顔をした三人であった。


「やれやれ……どの道私に出来る事は無いんだ。しっかりしてくれよ」


「先が思いやられるわね」


「ホントだよ」






「適当に腰かけて下さい。時期に姉樣が来ますから」


「……む」


 藍色が通されたのは依姫の私室。必要な家具は一通り揃っており、色も茶系統で統一されている。案外和を想像出来るのだが、どうなのだろうか。

 本棚には大量の本が並んでおり、その全てが神道に含まれる神に関する物だ。勉強熱心な様子も見て取れる。


「私の私室です。可愛げも無くて済みません」


「うん」


「は、はは……」


 ド直球に可愛げが無いと言ったに近しい。は、さておき。藍色は道中ずっと気になっている事があった。

 いや、既に気になる事はあるのだが。それとは別の事だ。先程の幻月とのぶつかり合いの辺りだが……


「さっきの剣」


「剣の檻のような現象についてお聞きですか?」


「……うん」


 理解してくれていたらしい。


「あれは祇園様の力です。私を依代に祇園様を降ろしその力を借りて相手を閉じ込めた。簡潔に述べればこういう認識で間違いは無いでしょう」


「祇園様?」


「『神須佐能袁命』です。スサノオ、聞いた事はありませんか?」


「一応」


 じゃあ、とばかりに次の質問……


「もう質問はよして下さい。私はあなたに余計な事を教えないかと怖くて仕方がない」


 は出来なかった。


「全く、どうしてこうも好奇心が強いのか」


「……じゃあ、これだけ」


「……聞くだけ聞きましょう」


「どこまで私を知っているのか」


 しばし黙想し、質問の答えを思案する。


「貴女の旅仲間よりは詳しい程度です」


 一行を馬鹿にする言い方ではない事から、比較対象として有効な物を選んだつもりらしい。


「さて、質問は終わりです。後は姉様が全てを決めます」


「……何で決めるの?」


「……終わりだと言いましたよ?」


「何で」


「分かりましたよ! 答えますから本当に止めて下さい!」


 ……どうやら、押しに弱いらしい。


「貴女は好奇心が強く、旅をして様々な所を回るのはよく知っています。姉様が何度も話していましたし、私ももう耳にたこが出来る程聞きました」


 そして、と追加。


「貴女は遥か昔に、何度も何度も月に来ています。だから、私達からしてみれば貴女は『見知った人物』なのです」


「見知った人物」


「時に姉様は特別貴女と親しかった。それはもう、私よりも姉妹の関係と言える程に」


「親しかった?」


「姉様が特別執着していたとも言います」 


 おい。


「……結論は必要ですか?」


「要らない」


 つまりどういう事か?


「姉に許可を貰わないといけないって事」


「う~む、当たらずしも遠からずと言うべきでしょうか……」


「……む?」


 何はともあれ、豊姫が来ないと何も進まないようだ。


「……にしても、少し遅いですね。いつもは一瞬ですけど」


 先程本人によるワープを体験した藍色からしても、少し不自然な状態らしい。

 何故遅れているのか、確認する為に依姫は藍色に断りを入れてから部屋を出た。


「ん」


 退屈になったので、本棚の本を読み漁る事に。

 とはいえ全てが神道に関連する物で、専門的な事も多いので正直チンプンカンプン。でも読む。


 でもすぐに頭が痛くなってきた。藍色はこういうのは苦手なようで。

 本を戻し、何とか自分でも読めそうな本が無いかを探す。


「……うー」


 まぁ、無いのだが。漢字ばかりのよく分からない本しかここには……

 しかし、藍色本人の口数が少ないからか異様に部屋が静かだ。依姫帰ってこーい。


「……何これ?」


 と、依姫の机から何かを発見したようだ。その好奇心は猫の如く、素早くそれを手を取った。

 手帳に見えるそれは、開いてみると日記らしい。毎日つける物というよりは、何か特別な事があった時に書いているようだが。

 見事に興味を示したのか、途中から開いた日記をどんどん遡って行く。玉兎の事、姉の事。自分の事。色々な事が書いてる中、こんな事も書いてあった。


「第二次月面戦争」


 あの事も見事に日記に書いてあった。となると、第一次月面戦争も勿論書いてあるだろう。

 しかし、その前にページが無くなってしまった。どうやらこの日記はパート云千という単位の物らしいので、おそらく以前の物がどこかにあるのだろう。


「……お邪魔、しました」


 探すという選択肢しか無かった様子。わざわざ能力まで使って場所を特定、ふらふらとどこかに消えてしまった。


「済みません、唯今戻りまし……あれ」


 依姫とは、丁度行き違いの状態になる。


「まさか、また好奇心に動かされて……」


 察しが良いな。机を確認すると、最初と位置が変わった自分の日記。


「……ああ、あそこかしら?」


 向かうしかない。早々に部屋を後にし、とある部屋へと向かった。






 今日の幻想郷、場所は……


「仮に全知の神が居たとしましょう」


「ただし、全能では無い。これが前提」


「彼に銃撃を仕掛けたと仮定」


「彼は弾丸の避け方を知っているけど、それを避ける程度の能力が無い。じゃあどうしたか?」


「彼は予め防弾チョッキを用意し、銃撃を防いだのよ」


「行き過ぎた知能は未来予知と同じ。相手を把握出来ているという事はつまり、あらゆる行動の可能性を知られるという事」


「いかなる能力をもってしても、いかなる作戦を企てようが、それら全てに『対策』されては無力と同義なのよ」


「さて問題です。私は貴方達二人をずっと観察していた。あくまであの子の隣に居た人物としてだけど」


「対して貴方達は何も知らない。そして、対峙する互いは未来予測すら可能な賢人」


「勝つのはどっちでしょうね?」


「当然私だけど」


「言うと思ったわよ、畜生め」





「二人が何言ってるのか分からない……」


 ……月は、荒れていた。 

 私は後悔はしても反省の出来ない奴なのかもしれない。そんな空椿です。はっぴいばぁすでい、とぅーみー。



 幻月さんやられました。早いですねぇ……

 とは言いましたが、本人がマジで戦る気では無かったので、結果的に負けは必然でした。実際、肉弾戦しか仕掛けていません。

 それでも、正直覆しがたい差が二人にあります。と言うわけで、今回依姫さんの勝ちです。


 豊姫もあらぶっちゃいました。私は彼女達を一体どうしたいのか……?

 一応頭の中ではこの二人、藍蓮花式ルーミアに肉薄するレベルのチートです。特に豊姫。次回辺りでどれ位チートなのか、ルーミア&小傘の戦闘で存分に発揮しましょう。お楽しみに。


 そう言えば、文中依姫が使った『女神を閉じ込める祇園様の力』ですが、あれは少し原作効果と違う部分があります。

 まず、書籍の依姫は祇園様の力を使って相手を閉じ込めました。刀を地に刺すと、刀身が地面から檻のように出て来るという感じです。そのままなら上に逃げられますが、『祇園様の怒りに触れるのでやめとけ』的な発言がされています。作中ではそれ以上の使い方が無かったので闇の中です。


 藍蓮花の依姫が使った祇園様の力は、『剣』を突き刺すと檻のように刀身が現れ、抵抗、脱出を試みようとすると祇園様の怒りに触れ、剣の蕾が閉じます。これは書籍に無い方法なので注意。

 何故剣なのか? 元々は空椿の調べ不足ですが、修正の前に思った事がありまして。


『あれ、そう言や神様に関連する武器って剣の方が多い?』※あくまで空椿の知識の範囲です。

 となり、刀より剣の方が良い気がしてきたので、原作と差別化をはかりました。

 藍蓮花での綿月姉妹は旧作キャラ並に設定を肉付けをしました。幻月程酷い事にはなりませんが、ルーミア並には酷い事になりました。ので、この二人も『半オリジナルキャラクター』という扱いになる可能性があります。予めご了承下さい。


 ちなみに、現在半オリジナルキャラクター候補に挙がっているのは、綿月姉妹を除くと『幽香』『文』『幽々子』『幻月』えとせとら。もしかしたらまたキャラクター設定として出すかも? ゆっくり考えます。



 長くなりましたが、今回はこれにて。ではノシ

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