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東方藍蓮花  作者: 空椿
86/114

藍色と圧倒 抵抗は敵だ

 永遠亭別室。


「はい、椅子」


「ん」


 お婆ちゃんが座ってそうな揺れる椅子に座り、精一杯くつろぐ藍色。禍は適当な椅子を引っ張って座り、着いてきたナズーリンと椛は立ったままである。永琳は藍色の隣を陣取って立つ。


「話って?」


「難しい話ではない。楽にして聞いてくれ」


 一応体調を気遣ってくれているようだ。

 取り敢えず、少ししてから話を始める禍。藍色も聞く体制に入った。


「私はこの世界に来てから、少し彷徨ってな」


 どの程度の範囲を移動したかはよく分からないのだが。椛は度々意識を向けていたようだが、黙ってるばかりだ。


「そうしてこの世界を見て思った。『なんと自然豊かで、落ち着ける場所だ』とね」


「そう?」


「私の居た世界は混沌としていたからな……」


 本当に想像も出来ない世界ですね。


「この世界の美しさ、豊さ。天魔はどうか分からないが、少なくとも私は帰還を躊躇う程だよ」


「……後で、紫の前で言ってあげて」


「ん? 分かった」


 きっと照れるな。さて置き。


「私は帰らないといけないのかもしれない。天魔もそう言ってるし、帰った方が良いのかもしれないが……」


 目を閉じて、一度深呼吸をする。


「この世界で永住するのも、受け入れられる自分が居る。この世界で死んで、この世界に骨を埋められる自分が居る」


「……そんなに、心動かされる事があったの?」


「大きな出来事は、無い」


 あらら。


「ただ、小さな出来事が沢山あったよ。私は、その出来事一つ一つが微笑ましく思えた。猫が集会をなす屋敷、妖怪の屋台……」


 それらを語る禍の顔が、少し綻んでいた。


「私は、壮大な出来事に疲れていた。だからこそ、この世界は私を癒やしてくれた。それが心動かされた事」


「……そう」


 流石に『ふぅん』と一蹴する気にはならなかったようだ。空気は読める。


「だが、向こうが私の在るべき世界なのも事実だ。未練もあるし、友人も居る」


 少ないが……と言った禍の顔は形容し難い物で、それに対してツッコミを入れる事は出来そうにない。


「帰るか、帰らないか。その境界線に私は佇んでいる。私には、どちらも捨てれない」


 つまりは、日常の未練と非日常の魅力だ。


「……会って数分の者に聞くのはおかしいだろう。しかし、私は失礼を承知で問いたい」


 藍色は、この時点で何かを理解したようだ。


「私はどちらを選べば良い? 全て捨ててきた私には、求めるという選択が出来ない……」


 ナズーリンが椛に耳打ちする。


「気付いていたのか?」


「禍の悩み事にか?」


「うむ」


「心が読めるとこうなる、と答えるさ」


 だからこそ道を示した、同郷の者を友人に持つ藍色に。多分それだけだろう。


「……禍霊夢」


 藍色は静かに、静かに口を開けた。


「あなたの人生に、私如きが口を挟むのは正直気が引けるし、未来を読めるわけではないから選択が正しいか分からない」


 でも。


「とりあえず私が言えるのは」

「藍色、少し待って」

「む」


 急に永琳が口を挟む。何事かとその顔を見ると、口を閉じて周りを見詰めていた。

 皆、異変はすぐに気付けたようだ。


「室内で、風だと?」


 皆の髪が揺れていた。


「この部屋は密室。細かな隙間こそあるけど、風が流れてくる程ではない……」


 永琳はすぐに分析を開始している。まぁ、結論はもう出ているみたいだが。


「風が室内で生まれている……?」


「自然現象として有り得るのか?」


「天地がひっくり返れば」


 藍色の前で『有り得ない』は少し言いにくい。


「避難する」


「そうね。禍さん、藍色頼める?」


「私にか? 自分で言うのも何だが」


「早く」

「お前はお前で遠慮し」

「早く」

「…………分かった」


 おんぶ。ナズーリンは扉をスパンと開き、迅速な避難を手助けした。しかし無念。


「伏せろ!」


「に゛ゃっ」


 椛が流れ弾……いや、風を察知。避難が完了する前に永遠亭が大破してしまった。


「何よもう! 永遠亭は大破する運命なの?」


「今のは天魔の仕業だな。何をしているんだ彼奴は……」


「良いから離れるぞ。捜符「オリハルコンディテクター」」


 更に迫る風の刃を、強化されたロッドで叩いて破壊するナズーリン。本当に防御は強いな……


「ルーミアは?」


「先程、夢子を拉致して竹林だ」


「む……」


 頼ろうと思ったのに。見れば、ルーミアと夢子どころかフランや小傘も居ない。八雲メンバーも紫と藍以外居ないし、永琳以外の永遠亭の皆は見事に退散していた。


「……状況的に不味くないか?」


 小町と咲夜は遠巻きに見ているが、荷物が多くて今はまともに動けそうにない。片付ける場所があればなんとか。

 文は……上空で天魔と激突していた。早過ぎて目が追い付かない。


「紫」


「あら永琳。ごめんなさいね、屋敷を守るのは無理だったわ」


「また建てれば良いわよ。それより薬の保管庫がね」


「九尾が守ってる」


 ここは椛が告げた。


「で、どうする? あの天狗ふた」


 爆音、紫の真横に弾丸が炸裂した。やけに生々しい音がする弾丸だが。


「……天狗!」


「あや、あやややや……」


 ガバッと起き上がり、目を二〜三度パチパチさせたのは弾丸ではなく文。


「いやぁ強い。これはちょっと舐めてかかると死ぬわねぇ」


 ハハハと笑ってみせる文。しかし、早速頭から流血している所が全く笑えない。


「おい、文」


「まぁまぁ、私はまだまだ負けないわよ。ああいう強者から勝ちを奪っ」


「隙有り」


 真上から、薪割りのように葉扇の叩き付け。あまりの神速に、文以外は風に飛ばされる。


「避けて下さいよ。相手にもならない」


 悲鳴が上がる暇すら与えぬと言いたいのか、言い切る所か言い出す前に竜巻で文を巻き上げた。


「軽々しく私に勝つと言わぬ事です。私は貴女を一蹴出来る実力を持っています」


「天魔! お前が本気でやると死」


「禍霊夢」


 天魔は禍を手で制す。


「一対一の真剣な試合ですよ。邪魔は許しません」


 続く禍の制止も聞かず、再び空に飛んだ天魔。


「禍霊夢」


 いち早く戻ってきた紫が声をかける。


「勝ち目が無くても真剣勝負。気持ちは分かるけど、好きにやらせなさい」


「だが!」


「殺させはしないわ。この世界にもルールはあるから」


 違う、と禍は言った。言葉は風にかき消された。







「さて、右腕をただの付属物にされた気分はいかがでしょうか」


「最悪」


「それは良かった」


 開始早々に右肩を破壊され、右腕は役立たずにされてしまった。かといって神経まで完全に断たれたわけではなく、無理に落とす時の痛みは想像出来ない。つまる所、ただの邪魔物になっている。


「さて、続けましょうか? 貴女から申し出たのですし、降参は許しませんよ」


「冗談」


「言うと思いました」


 天魔の姿が、風に吹かれた砂のように消えた。そう感じる間に、体を何ヶ所も叩かれる。

 あまりにも速すぎて、追い付くどころか姿の一片すら最早見えない。一と数える間に十を入れられる神速の中、悠長に言の葉を紡ぐ余裕も無い。

 だが、しかし。


「幻想」


 策も、瞳も。まだ死ねないようだ。


「風靡!」


 渾身の力で宣言した。


「おや、まだ速くなりましたか」


「うげ!?」


 にも関わらず、ピタリと横を陣取り呑気に会話する天魔。ぎょっとした。しかもこの高速の中、しっかりと音を届けてくるのも余裕の内に入るのだろうか。

 ちなみに、速度を出すのに全力を注ぐ文には現時点では出来ない芸当だ。つまり、文の声は天魔の耳に届かない。


「成る程、先程密かに左手を忍ばせていた札から力を感じます。それの影響ですか」


「気付くの早すぎでしょう……」


 流石に実力者だからな、気付けない事は無いだろう。


「しかし残念。それで速くなったつもりでしょうが、まだ私の手加減の二割にも届きません」


 ちなみに、と付け加える。


「今現在は遊んでいます。先程の禊で、戦うまでにも満たないと決定付けました物で」


 禊……は、さっきの葉扇振り下ろしだろうか? いや、それよりも。


「……遊び、ですって?」


 返事が来る筈が無いのだが、既に敵意すら持ち合わせていない天魔の瞳に怒りを超越して、空虚にすらなる我が心。もうなんと反応を返せば良いのやら。


「おや、可哀想に。戦意すら見失いましたか。これは対戦相手として」


 葉扇を構える。見えているが、ただ飛ぶばかりで避ける気すら湧かない。


「トドメが必要ですね」


 そういえば、なんで並んで飛んでるんだったかなぁ。





「天狼「流星激昂 -オーバーバニッシュ-」!」


「おや?」


 宣言が聞こえ、トドメを一旦中断。文に意識を向けつつも声の出所を探す……までもなかった。

 進路を予測したのか、あるいは見えていたのか。小さな嵐が天魔と文の間を縫うように通過した。当然天魔は風の流れを正したが、茫然自失状態の文はいとも簡単に風に巻かれて進路が地面に向かった。


「おっと」


 流石に堅い大地と抱擁さする事はせず、先程の嵐の犯人が文を優しく受け止めた。


「あまり上司のプライドを踏みにじらないでくれないか。こう見えて小心者なのだから」


「これは失礼。私は勝ちに貪欲なのでして」


 椛が、やっと止まった天魔を睨む。


「一体どの様なご用件で? 出来る事なら対応しますよ」


「用件は二つ、質問と申し立て。順に言おう」


 木陰に文を下ろし、一度溜め息。


「お前達の世界の住人は、剣で斬られても平気か?」


「これまたおかしな質問です。が、YESと答えられてしまうのが少し困った所ですね」


「それは良かった。では申し立てだが……」


 どこから取り出したのか、いつか藍色が渡した大剣を構えてみせる。


「癪に障った。一太刀入れさせろ」


「おや、狂暴な馬鹿犬ですね。力の差が見えていないのでしょうか?」


「馬鹿犬ではないな」


 両手で柄を握り締め、いつでも相手を叩き斬れる状態に持って行く。


「馬鹿狼だよ。上司をやられてイラつく、な」


 格上だろうが何だろうが、その鋭い瞳は曇らない。







「……止められなかったわね」


 伸ばした腕をどこにやれば良いのか分からなくなった永琳。


「止める気がそもそもあったのか?」


「微妙。まぁ、あの狼のようにわざわざ加勢までする程では無いわよ」


 戻ってきたナズーリンに対応。皆、軽かったから割と遠くに吹き飛ばされたらしい。何人かはまだ戻って来ない……


「まぁ、勝ち目は薄いと思うけどね。あの実力差では」


「無いわけじゃないのね」


「藍色の存在があるからな」


 成る程、と呟く。


「……そういえば、その藍色は?」


「禍が背負ったままだと思うのだけど」


「禍霊夢は手ぶらだぞ」


 え。


「……禍、藍色は?」


「ん?」


「え?」


「おい」


 間。


「…………あ」


 どうやら、天魔に飛ばされた時に手放してしまったらしい。


「スマン、探してくる」


「お願い」


 禍が竹林の中に駆け出した。十中八九迷うだろうが、大丈夫だろうか?


「それもそうだが、薬師」


「何かしら、賢将さん」


「あの乱闘を止める手段はあるのか?」


「あると思う?」


「無いとは思わないな」


 天魔と椛の戦闘は更に拡大し、流れ弾……いや、風が竹を容赦なくえぐり取る。二人ともよくやる……


「まぁ、永遠亭の敷地をこれ以上増やされても扱いに困るし……ね。じゃぁ、探し人をお願いしようかしら」


「探すなら専門だよ。任せてくれ」


「じゃ、ルーミアか十六夜咲夜のどちらかを。二人なら容易に止められるから」


「……咲夜は付近に居なかったか?」


「とっくに退散して離れてしまったわよ。じゃあお願い」


「はいはい、引き受けよう」


 ナズーリンが居なくなった所で、永琳は藍の所に移動した。


「八雲紫は?」


「紫様は被害拡大を防ぐ為、迷いの竹林全体に結界を張っている。今は外だな」


「そう。妖怪兎達や輝夜は分かる?」


「危険を察知してとっくに逃げ出してるよ。迷いの竹林のどこかには居るだろう」


「それを聞いて安心したわ」


 悩み事が消えて良かっただろうが、状況はまだ変わっていない。椛と天魔の激突は続くばかりだ。


 椛のスペルカードは、剣撃を風の奔流として飛ばす遠距離に対抗する物のようだが、風に通ずる天魔にはほとんど無力に近い。

 それでも、剣を振り切った所を狙おうならば噛み付かんばかりに牙を剥かれ、まだ遊びの感覚である天魔は少し困った様子だ。あれなら時間は稼げるだろう。本気になったら分からないが……


「永琳、一応聞こう」


「何?」


「思わず倉庫を優先して守護したが、仮にここが風の塊によって破壊された場合どうなる?」


「……そうね」


 考える時間はさほど無かった。


「薬と薬が混ざって猛毒と化し、更にそれが気化して辺り一体の土地が死ぬと思うわよ」


 言葉も出ない。


「動物の勘って素晴らしいわね」


「私も心底そう思うよ」


「私も動物になりたいわ……無理だけど」


「呑気にしてないでお前も何かしら手伝ってくれ……!」


「はいはい」


 永琳はスペルカードを取り出す。


「英知「堅牢地神の護法」」


 硝子のような六角形の物体が永琳の周辺に次々と現れ、素早く藍の結界に張り付くように構築された。


「それは?」


「単純な結界よ。あなたの結界に合わせたから、楽になるとは思うわ」


「……助かった」


「とは言え、本気でも無さそうなのにあの威力だと長くは保たないでしょう」


 ナズーリンが早く帰ってきてくれるのを待つばかりである。


「嗚呼、なんでこうも皆好戦的なのか……」


「さぁ。誰のせいだろうかな」


 ……分かってるんじゃなかろうか?







「やれやれ、困った事になったもんだよ」


「そうね」


 竹藪の中に身を隠しているのは小町と咲夜。巧妙に気配を隠しているのは流石だが、実はそう遠くない場所に小傘とフランが居るのに、それでいてお互いに気付いていないのはちょっとどうかと思う。


「さて、どうする? あの騒ぎ」


「……天魔? 私達ではどうにも」


 小声で囁いているが、お互いはしっかり聞こえているようだ。まぁ、そうでなければもっと声が大きいだろう。当然だが。


「一応、両者同意の上で始まった事だもの。私達が止めてしまうのは不粋じゃないかしら」


「まぁ、そうだけどね」


 天魔に吹き飛ばされた辺りで戦闘の経過が分からなくなってしまったので、二人は文が戦意喪失し、椛が乱入した事を知らない。第三者から情報があれば……


「でも隠れるってのもまた……」


「仕方無いじゃないか。あたい達の手荷物的に、流れ弾は怖いからね」


 実は、藍色の服は八割は出来たらしい。ただ、現状が現状なので呑気に続ける事も出来ない。

 まぁ、隠れるよりは安全そうな場所を探した方が良い気もするが、そこは魔が差したのかもしれない。安全な場所なんて無いのかもしれないが。


「まぁあの乱闘、止めようと思えば時間を止めて直接止められるでしょう」


「やらない理由は……」


「当人達の邪魔はすまい、とね。此処は不干渉を貫くつもりよ」


「そうかい。まぁ、あたいもたまには休んで……お?」


 向こう側から何者かの気配がするようだ。別に追っ手から逃げてるなんて事は無いのだから、小町が竹藪から出て対応を試みた。


「……死神か?」


「頭に『元』がつくよ。確かあんたは『禍』だったかな?」


 こうして顔を合わせるのは初めてである。


「こんな所で何をしているんだい?」


「人を探している。騒動の際に放り出してしまったようでな……」


「……探し人の名前は?」


「藍色」


「おん?」


 それうちの子です。


「生憎だけど、あたいも場所を把握出来てないよ。分かればすぐに飛んでいくのにね」


「残念だ。では失礼す」


「それはそれで、禍霊夢とやら」


 立ち去ろうとした禍を止める小町。しかし禍は尚の事小町に足をしっかり向けない。


「随分と大きな殺気を隠し持っているじゃないか。どうしたんだい?」


「……何の事だ?」


「いやはや、隠し事が上手いんだね。あたいもすぐには気付かなかったよ」


「何の事だと聞いている」


 睨みを利かせる禍。小町は少々冷や汗を流す。


「いやいや、あたいも沢山の人間を見て来たからね。あんたの隠す殺気が何なのか分かっちまうよ」


「殺気など隠してはいない」


「どっこい、あんたに似た奴を知ってるあたいには分かっちまう物さ。当ててみせようか?」


 ニヤリと口角を釣り上げる。


「燃え上がる戦闘意欲を、何か……恐らく自然を破壊すまいとする気持ちで殺しているんだろうね」


 立ち去ろうとばかりしていた足が止まり、小町に向き直った。


「実は知り合いに花が大好きな奴が居てね、本来は好戦的なんだけど、周りの花を傷付けまいと戦いたい気持ちを必死に殺してるんだよ。あんたはそれに大分似てるよ」


 ここで、初めて感心したように目を見開く。


「もしかして、先の乱闘で一度は消えた闘争心にまた火が点いたんじゃないかと踏んでいるんだが、どうだい?」


「ふむ……」


 一度目を閉じ、何かを考え込むように静かになる禍。しかし、それも長くは無く。


「そうだな。ああ、その通りだ」


 カッと開いた目は曇り無き真紅。その瞳の中には血を渇望する本性が明らかに見えていた。

 同時に隠す気も失せた殺気が周辺を覆う。ただそれだけで、竹の葉達が千切れて枯れて行く。


「それで、お前はそれを言ってどうするつもりだ?」


「私達だって曲がりなりにも強者、あんたの欲を満たす事は可能なんだと言ってやりたいのさ。それとだね」


 いつ取り出したのか、鎌をいつの間にか構える小町。


「あたいも親馬鹿なのかね、世話のかかる娘には派手に動いて欲しくはないのさ」


 今のあんたが会ったら、遅かれ速かれ争いにやりそうだ。と言ってやる。


「…………お前一人で私が満たせるか? いや、無理だ」


「何も一人でやるつもりは無いさ」


 グン、と踏み込む。能力故の絶妙な距離感で鎌を振るが、禍はただ身体を揺らしただけで回避を成功させた。しかしながら。


「フラン!」


「どっせええい!」


「ぐ」


 突然の、別の竹藪からの強襲。幼く見える少女の足が、脇腹を貫いた。幾つもの竹を折りながら吹き飛び、遠く離れてようやく止まった。


「小傘! そっちに咲夜が居るから、巻き込まれないように守ってやりな!」


「わわ、分かった!」


 フランが飛び出てきた藪からガサガサと出、咲夜の居る所に場所を変更した。


「小町、なんで居るって分かったの?」


「禍霊夢の殺気にフランが反応したからねぇ。殺気に殺気で返しちゃいかんよ」


「むむむ」


「何がむむむだい。さて……」


 ゆらりと立ち上がる禍。最早、闘争本能を抑制するどころか、更に高めるように二人を睨んでくる。


「ここからは緊張感溢れる激闘だ。あたいのワガママに付いて来てくれるかい?」


「良いよ。私も最近消化不良だったもんね」


 スペルカードを準備し、いつでも攻撃出来るようにする。


「……成る程、一人が駄目なら二人か。確かに数は戦闘において重要だな……」


 ゆらりと体が揺れる。残存のように後に付いて現れた赤、青、緑の影は、いつの間にか独立していた。


「なら私も四人だ」


「冗談。禁忌「フォーオブアカインド」、大罪「ラストジョーカー」!」


 竹の影から現れた、新たな四人のフラン。


「こちらは六人みたいだよ」


「……面白い! ならば、私の渇きを癒やす為に足掻いてみせろ!」


「ハハハッ、やってみせようか!」


「皆行くよ!」







「流石迷いの竹林、易々と目的を達成させては……おや?」


 此方、ナズーリン。何かを発見した様子。


「にゅう……」


「藍色じゃないか。禍霊夢は来なかったか?」


「……む?」


「来てないんだな」


 竹にもたれて大人しくしている藍色を発見。と言うか、包帯に血が滲んでる点を確認し、迂闊に動けないんだと理解した。


「仕方無い、代わりに私がおぶろうか」


「良いの?」


「こんな所で放置したら薬師がうるさいだろう。私の小さい体じゃぁ背負われ心地は悪いだろうが、それくらい我慢してくれ」


「……ん」


 よっこいせ。ナズーリンは案外力持ちだった。まぁ妖怪だから人間と比べるとこの程度は……


「さて、目的の人物を探すとしようか」


「…………ぁふ」


「呑気に欠伸が出来るのが羨ましいよ」


 やれやれと呟こうとした瞬間。


「捜符「オリハルコンディテクター」」


 右手のロッドで地面を叩くと、それに反応するように、地面から砂鉄のような物が突き出して壁を成し、高速で飛んできた風の塊を防いだ。


「護符「ペンデュラムクルセーダー」」


 更に、背後から竹をなぎ倒しながら飛んできた赤黒い何かを、青い晶石のようなペンデュラムで防御。飛んできた方向は、発生源が遠すぎて見えない。


「これは……急ぐかな」


「ん」


 どうにも、誰かと誰かの衝突は一つでは無かったようだ。と納得し、藍色を落とさぬよう走り出す。早くこの場を落ち着かせたい物だとナズーリンは思うのだった。







 ナズーリンが探しているルーミアだが、実は既に永遠亭……跡地に戻ってきていたりする。夢子は途中で出会った勇儀、星に預けてしまったようだが。


「あらあら、大変な事になって……」


 天魔と椛、更に近くに居た文を確認して、大体の出来事を察する。

 じっと天魔を見つめる中、強者と戦いたいという意欲はやはり暴れてくれる。が、多重思考で無理矢理押し殺した。


「天魔の本気に付き合うと、幻想郷がヤバいだろうし……」


 強さ故の消化不良。まぁ、慣れっこなのだが。とにかく、永琳が呼んでいるのでさっさと移動してやる。


「何かご用?」


「簡潔に言おう。あの戦闘を止めてくれ」


「あらら、何故?」


「今は守ってるけど、流れ弾でこの倉庫が破壊されたら本当に危ないからよ。十中八九、迷いの竹林という土地が死ぬ位に」


 流石にそれを紫が放置する気は無いだろうが、それでも怪我人の為の薬が無くなるのは大ダメージだ。どんな薬が作れても、材料と時間は必要となるから。


「貴女の力量なら出来ると思うのだけど、無理かしら?」


「不可能とは言わないわ」


 腕を組み、二人に言う。


「でも無理でしょうね」


「な!?」


 ルーミアの口から初めて聞いたのかもしれない、無理という言葉。これには流石に驚いた。


「ちゃんと理由もあるわよ」


 無ければ言わないだろうに。


「天魔の力量は本当に計り知れないわ。まぁ本気なら負ける気はしないのだけれど、私が本気で戦った場合がどうなるかは分かるわよね?」


「……むう」


「本気を抑えたらすぐに勝負はつかなくなる。流れ弾に気を配る隙は恐らく無いし、それこそ倉庫が危険になる。理解して頂けたかしら」


「……分かったけど、それじゃあどうすれば良いのよ」


 月の頭脳と言われても、分からない事はあるんだよ。


「まぁ、策はあるけどね」


「え」


「と言うか、現状それが最善だと思う」


「なら何故早く言わない」


「ただ質問に答える為だもの」


 言うや否や、ルーミアは行動に移す為に移動。文の前に降り立つ。


「あらあら、傲慢な天狗さんも案外精神的には脆い物ね」


 あ、と小さな声で反応を示した。


「ルーミア」


「元気が無いわね。大丈夫?」


「……に、見える?」


「全く。骨がガタガタに見えるけど」


「コテンパンにされたもの」


 ハハハと笑ってみせる文の右隣に座り、未だ天魔に向け牙を見せる椛を一緒に見る。

 よく見てみれば右足があらぬ方向に曲がっており、片膝の状態で天魔に向け剣を振っているのが分かる。


「遊ばれてるわね」


「事実遊んでいたもの。私なんて玩具にすらならなかったみたい」


「プライドが潰された?」


「完膚無きまでに」


 しかし、取り返せる気も無いみたいだ。本気で心身共にボロボロなのが分かる。


「全力相手に遊びで返され、更にパーフェクト負けなんて。戦意喪失には充分過ぎてお釣りが来ると思わない?」


「さぁ、私は全力相手に遊びで返して、尚且つパーフェクト勝ちを決める側だから分からないわね」


「ああ、そう」


 苦笑い以外に何が出ようか。


「悪いけどルーミア、あれ止めてきて頂戴。アイツの安いプライドまで折らせるわけには行かないでしょ」


「自分で行かないの?」


「私には無理よ。全然動けないし」


「ふぅ〜ん……」


 ルーミア、ここで満面の笑み。


「嫌」


「ちょ」


「自分で行きなさい」


「鬼かあんたは」


「鬼なんて生温い、私は修羅よ」


 修羅が裸足で逃げ出すと思うのは文だけではない。


「って言われても、どう行くのよ。足も翼も動く物じゃないわよ?」


「じゃあ足も翼も使わなければ良いのよ」


「無茶苦茶な。風だけで体を動かせって?」


「そう言ってるのよ」


 自前の能力による風だけで動くとなると、滞空状態の維持や推進力を作る為の風起こし。その他細かい計算がどっさりである。


「大丈夫よ。それを出来るようにしてあげるから」


「……何をするつもりよ」


 怪しい笑顔のルーミアから心底逃げたいだろうが、生憎と動く体ではなかった。


「簡単簡単」


 スチャッと取り出したのは、赤い液体の入った試験管と……


「コレに、とある花の蜜を混ぜます」


 同じく試験管に入った花の蜜。コルクをすっ飛ばして、少量混ぜた。


「……で?」


「美味しくないけど飲んで頂戴な」


「イーヤー!」


 それはそれは良い笑顔だった。







「……飽きましたねぇ」


「飽きッ……貴様!」


「まぁまぁ、そう怒らないで下さいよ。無理な相談でしょうが」


 天魔が椛の目の前に降り立つ。その姿には傷と言える物は無い。


「流石にこのままでは冗長ですし、ここは」


「破ッ!」


 聞く耳持たず両断。無論避けられた。


「ちょっとちょっと、話くらいさせて下さいよ」


「貴様の提案なんぞ呑めるか。どうせロクな事では無いだろう」


「失礼な。ちゃんと貴方に勝率が発生する素敵な提案ですよ」


「……はぁ?」


 天魔は変わらずニコニコである。


「どうします? 呑んで下さるなら、ゼロパーセントから抜け出せますけど」


「…………は」


「ん?」


「ははは、ハハハハハッ!」


 何故か笑いが込み上げた。まぁ、そな理由はすぐに出て来た。


「ゼロだと!? よりにもよって私達に言うか!」


「あれ、私おかしい事言いました?」


「ああ可笑しい! 今ならヘソで茶をわかす事も出来そうなくらい可笑しいさ!」


 剣の切っ先を天魔に向けてやる。


「教えてやろう。貴様の世界では知らないがな、私達の幻想郷にゼロは無い! それを真っ向から否定するただ一人の妖怪が居るからな!」


「そうなのよ~」


「きゃん!?」


 椛の真後ろから、女性が抱き付く。


「しっかりなさいよ、千里眼持ってる癖に私を見つけられないなんて~」


「あ、文!? と言うか瞬間的に現れたのをどう発見しろってうきゃん!?」


「あらあら、可愛い声出すじゃないの~うりうり~」


「どこ触ってるんですかもう!」


「脇の下」


「このぉぉ! って何で急成長してるんですか!?」


「……よく分かりませんが、せっかくなので激写!」


 おい天魔!?


「はぁ、満たされた。これであと三時間は飛べるわね」


「グッ……!」


 憤慨する椛を尻目に、天魔の前にふわふわと移動する射命丸文。服装は振袖のように大きい物だが、まるで無重力のようにふわりふわりと浮かんでいる。

 葉扇はいつ拾ったのか、左手にちゃんと持っている。


「あらあら、リザレクションですか?」


「生憎蓬莱人とは違うのよ。でも懲りずにまた来てあげたわよ」


 相変わらず右腕はブラブラしているし、両翼は半ばで折れてしまっている。そんな痛々しい状態の中、再び天魔の前に来てしまった。身体能力の向上はされているが、大丈夫だろうか。


「まだ戦えるんですか? 先程完膚無きまでにアイデンティティをへし折ったと思ったのですが」


「いやはや、確かにさっきはボロ雑巾みたいにやられたわ。でもねぇ」


 葉扇を手放し、服の中に手を入れてスペルカードを取り出した。でも白紙。

 そして、手放した葉扇は何故か重力に逆らう。今、文の周辺は不思議な状態になっているようだ。原理なんぞ知らん。


「一々引き摺ると面倒だし、うだうだ考えるのは後にしようと思うの」


 白紙のスペルカードに絵……いや、字が刻まれる。ただ一文字、『迅』と。


「さて、続きと行きましょうか。さっきは本気で、全力を出す前にやられたからちょっと不満足なのよね」


「ふむ、あそこから更に速く出来たのですか。なら早速」


「いや、多分全力でも負けるし……『限界突破』で行くわよ」


「はりゃ?」


 ただの前口上。意味なんて無い、ただ格好良いだけだ。


「服が、身体が、風が私の飛行を邪魔する。ただ速くありたいだけなのに、重量という概念が邪魔をする。なれば邪魔を取り払おう。衣服を脱ぎ捨て、身体を溶かし、風に乗って」


 大気が竜巻のように文を包む。それは爆弾のように、爆発の瞬間を今か今かと待つ。


「否、私が風になろう。何も考えず、何にも邪魔をされぬ風になろう。要らぬ物を全て置き去りにし、刹那を超えて見せましょう!」 集まった風が荒れる。準備はもう要らない、さあ、飛ぼう! 早く、速く、疾く!


「今一度の、疾! 風! 怒濤ッ!「「無念無想 幻影嵐神」!」


 ただ直進した、それにより生まれた暴風は弾雨の如く。遊びとしか捉えずに警戒もしなかった天魔の翼の羽毛は、爆風により数十が容赦無く引きちぎられた。


「おおぉ!? お見事!」


 面食らった天魔が放ったのは、怒号では無く賞賛。ほんの少々飛びにくくなった翼で羽ばたき、空に消えた文を追う。


「だが、まだだな」


 天魔の眼が本気に変わる。轟と空を縦横無尽に駆け、尚も速くなっていく文に併走する。


「戦う相手としては認めよう。それでも、お前の速さでは私から勝ちを奪うにはまだ足りない。ハッキリ言おう」


 語りに余裕が消え、瞳が敵を見ている。それでも挑発をかけるのは、恐らく性分だろう。

 文を蹴り飛ばし、地面に落とした上で葉扇を振り、風の刃を土煙に叩き込んだ。


「愚鈍だな。貴様の刹那とはその程度なのか? 私はまだ欠伸をする余裕すらあるぞ」


 視界全体で土煙を見つめ、文を視界の中から逃がすまいとする。いつでもトドメは刺せるように。


「私に追い付くには刹那では足りない、清浄の時を超えてみせろ! さぁ、ハリー、ハリーハリー!」


 尚も急かす。そんな土煙の中から飛び出す影が一つ。


「一太刀だ」


「な!?」


 峰打ちなんぞしてやるものか。文が出て来るとばかり思っていた天魔を、容赦無く剣で斬りつけた。更にスペルカードの影響で発生した風に巻かれ、天魔は初めて地に叩き落とされた。


「チッ!」


 が、痣は出来れど斬れない。不思議な物だ。

 ガバッと立ち上がり、上空の椛を恨めしげに見つめ


「グ……ハッ!?」


 る間もなく。遥か遠くの空から一直線に突撃してきた文が、高下駄の蹴りを突っ込んだ。

 更に一撃離脱。息つく隙すら与えず、落ちてきた椛が大剣を振り下ろした。


「一対一で勝てないんだ。弱者が他者を頼るのは当然だろう?」


「き……さまッ……」


「あれだな。やはり……」


 横に移動し、青々とした空を見せてやる。


「慢心する強者も、案外脆い物だな」


 無駄に目の優れる天魔が最後に見たのは、光の宿らぬ目でこちらを蹴らんと飛んできた射命丸文だった。





「何が起こったんだか……」


「あら鬼さん」


「夢子と星も居るわね。無事?」


「無事も何も、戦闘にすら参加していない」


 八雲メンバーの皆が永遠亭……跡地に現れた。もう倉庫しか残ってない。

 その倉庫の前に、沢山の黒鳥と磔の十文字を出しているルーミアも居た。どうやら、文にちょっかいを出した後はこちらの防衛に回ったようだ。

 ちなみに、黒鳥は大分粉々になっている。後半の光速戦闘による衝撃波が原因だとか。


「何が起こったと言えば、天魔と天狗が殴り合いを始めたとしか言えないのよね」


「ほう?」


 喧嘩とか、そう言うのに反応するのは仕方無いのだろうか。


「……どちらが勝ったのですか?」


「私達だよ」


 声が聞こえたので振り向くと、ふわりふわりと浮遊しながら現れた文が最初に見えた。

 しかし、眼を見て分かるが完全に意識が飛んでいる。それなのに、まともに動けない椛を運べているのは何故だろう。移動の仕方は姿が変わった時と変わらず。

 皆の目の前に降り立った途端、文はバランスを崩してそのまま倒れ伏した。永琳が介抱。


「……大丈夫ですか?」


「これが大丈夫に見えるなら、お前の目は意味が無いな」


「危機的状況くらい分かりますよ」


「なら良い。悪いが、向こうで伸びてる天魔を拾ってきてくれ。私は足が折れた」


 最後に土煙から飛び出した時に、本格的にヤッてしまったらしい。椛の足は最早ピクリとも動かない。ピクリとも動かないのは文もだが……


「天魔の所には私が行きます」


 星が歩いて迎えに行った。


「……で、藍。藍色知らない?」


「何故私に聞く」


「知ってるんじゃないかと思って」


「知らん」


「あ、やっぱり?」


「なら聞くな阿呆!」


「ごめんなさい、からかっただけなの」


 物凄くタチが悪いからかいだ事……


「藍色なら禍に探させてるわよ」


「あ、そうなの」


「残念ながら、誰かさんと戦闘を始めちゃったみたいだけど」


 言った瞬間、爆音と共に向こう側で土煙を上げ、そこから飛び出した何かが永遠亭跡地を線引きするように地面を抉っていった。


「げ」


 声を上げたのは誰だったのか。


「ッハァ! 痛いじゃないかい!?」


「痛くしているのだが、な」


 土煙とは逆の方角からの跳び蹴り。放ったのは禍で、鎌で受けたのは小町だ。お互い盛大に弾かれ、距離が大きく離れる。

 だが距離などあって無い物。小町が能力を使って禍に接近、鎌を振って攻撃。そのまま、残っていた弾き飛ばされた時の勢いでまた離れた。禍のお祓い棒は空を切る。


「流石距離の能力者と言うべきか。中々どうして当てさせてはくれないな」


「当たったら一撃必殺じゃないのさ。あたいは死にたくは無いよ?」


「この程度で殺す事なんぞ出来るか。張られている結界を壊さぬ程度に加減し、かつ全力で戦っている私にはな」


「随分謙虚じゃないか」


 出て来て早々に大暴れ。確か天魔と星があの辺りに……え?


「おい、星!?」


 勇儀達が慌てて安否の確認に向かおうとする、その前に。


「それについてはご心配無く……ゴボッ」


 キュン、と音が鳴り、藍の隣に星を抱えた天魔が現れた。しかし、姿が見えた瞬間に盛大に血を吐いて、藍を盛大に引かせた。


「おっと失礼。こちらの方は被害に遭う前にお守り致しました故、ご安心を」


「ど、どうも……」


 ……星の顔が赤い。天魔の血と別の何かで。

 とりあえず、ルーミアは小町とちょっとした会話を始めた。


「ちょっと小町、な〜にやってるのよ」


「何って……」


 間。


「ストレス発散?」


「一体誰のなんだか」


「さぁねぇ? でも楽しめているから良いじゃないか」


 結局そうなるのか?


「さて、続きと行こうか」


「そうだな。では、参ろう」


「参るな、馬鹿者」


 未知の鉱物による砂鉄の壁が二人を隔てる。確か、ナズーリンの仕業ではなかったかな。


「そこまでにしろ。話し合いが進まないじゃないか」


「ナズーリン……咲夜もかい」


「……鼠にメイド、邪魔はしないでくれ」


「そうも行かないな」


 永琳を手招きし、何事かと近付いてきた永琳に藍色を渡した。ここからは、咲夜が語り始めた。


「そもそも当初の目的は何でしょう? 話し合いをして、禍霊夢が帰るか否かを決める為に揉めたのが切っ掛けでしょう」


 話を忘れていた人少し。


「それで天魔と禍霊夢が、意見の違いで争うなら分かります。ただ、今の状況は全く関係が無い事で発生している。そうではありませんか?」


「……確かにそうだが」


「では、今は争う時ではありませんね」


 禍にウィンク。


「続きは、また今度にどうぞ」


「……おい、メイド」


 その意味を聞こうとした瞬間、大爆発と共に禍の人形四体が無差別に飛んできた。その全てが物凄い壊れ方をしており、様子から『圧倒的な攻撃力によって無理矢理破壊された』と気付く禍。


「まさか、全部破壊したのか?」


「うちのフランは破壊に関しては突飛してるよ」


「む!?」


「えへへ、驚き頂き〜」


 ちなみに小傘は空から降りてきた。手には寝ているフランが。


「なんで寝ているの?」


「短期間に全力で暴れたから疲れちゃったみたい」


「ふむ」


 遊び疲れて爆睡する子供となんら変わらないという。


「……死神」


「何だい?」


 禍は小町に背を向け、皆が大体集まってる方向に向かう。去り際に一言。


「興が削がれた。またいつかやろう」


「また? ……まぁ、良いか」


 何か察した小町は止めず、そのまま小傘達の方に言ってしまう。

 その後、安全になったと判断した紫が結界を解いて登場。こんな所で話すのも如何な物だと言うので、皆で八雲邸に移動した。

 永遠亭を建て直すと言ってくれた勇儀は、後でここに残って作業してくれる事に。流石に一人もアレなので、紫が萃香やにとりを呼び寄せる事にした。







 さて。最後に一悶着あったが、ちゃんとケリをつけよう。

 今は最初に集まった面子が、大体大部屋の中に居る。小町と咲夜が加わり、重傷の文と傷が開いた藍色、それを治療する為に永琳が居なくなっているのだが。ちなみに、フランは小傘の膝枕で寝ている。

 と言う所で禍霊夢と天魔に、各々が決めた結果を聞く。


「禍霊夢、どうしますか?」


 ここは夢子が切り出した。


「……悩んだが、親切な誰かにけしかけられたので残らせてもらうよ」


「さて、誰かしら?」


「今シラを切ったメイドだよ」


 咲夜は不敵に笑うのみ。とりあえず、紫が禍に質問を飛ばす。


「住む場所とかの宛はあるのかしら? 無いのなら……」


「宛ては無いが、要らないな。私は宿無しの根無し草がお似合いだ」


「そう言うなら私は何も言えないわね」


「好意は他の誰かに譲ってやれ」


「一々謙虚じゃないか」


「そんな事は無いさ」


 それだけ言って下がる。


「で、天魔。お前は帰るんだろ?」


「その予定なんでしたが止めました」


「はぁ?」


 言いたくもなるだろう。


「済む場所はお気になさらず、射命丸文の住処に居候と行きますよ」


「待て待て、そんな無茶が通ると思うか?」


「いざという時は力で押し通しますよ」


「強者の特権を乱用する妖怪の図」

「シッ! あんたは黙ってなさい」


 てゐは怖いもの知らずである。


「ああ、理由としては簡単ですよ」


 そうなのか?


「ただ、負けて悔しいと感じた。ならば次は勝ちたいのですよ。ならば、会えなくなる世界にわざわざ行く事はありません」


「……未練は無いのか? 私と比べて友人も多いだろうに」


「親友はあなただけ。そういう事です」


 ……とにかく、残るらしい。こんな要注意人物を二人も抱える事になって、紫は頭が痛そうである。実はもう一人居るなんて言わない。


「……まあ良いわ。それじゃあ、後始末と行きましょうか」


「結界の修正をしてしまうのか?」


「まぁ、出入りする人物が居なくなったからね。心置きなく出来るわよ。いざとなったら霊夢と協力して帰すから安心なさいな」


 ナズーリンの質問を冷静に返した。


「ああ、紫。その前に言いたい事があるの」


「何かしら、ルーミア」


 嫌な予感しかしないらしい。


「異変解決前に取り決めた休戦協定、破棄するわ」


「ああ、やっぱり」


 そういやあったなそんなの。


「それともう一つ」


「え?」


 予想して無かったもう一つに、少し焦る。


「あなた達が藍色を追う理由が、藍色に異変を起こさせて博麗霊夢に危機感を持たせる事よね。あれ、達成したから理由無くなっちゃったんじゃないかしら」


「……あ、そう言えばそうだったね」


「曲がりなりにも藍色が原因で異変は起きたし、死合いを通して霊夢に危機感が生まれた。もう狙われる理由は無い……そう言う事だな」


「九尾の理解力は流石ね」


「ありがとう。で、如何なさいますか? 紫様」


「……どうしましょう」


 本来は藍色を捕まえ、ちゃんと異変を起こさせてハイ終わりの予定だったので……


「と、言うわけで」


「……ん?」


 提案があるらしい。


「これからは、個人的な暇潰しとして紫達と死合う事にするわ」


「暇潰し……ねぇ」


「刺激があった方が楽しいでしょう?」


 ……思案中。


「そうね。これからもよろしくお願い」


「ええ」


 藍色ならこうした。家族のような存在だからよく分かる。


「……話は纏まったか。では、私はもう帰るとしよう。用事は最初から済んでいたからね」


 ナズーリンは立ち上がり、帰り支度をする。


「待って下さい、ナズーリン。私も帰ります」


「ん?」


 星が立ち上がる。


「そろそろ聖に顔を見せないといけませんし……構いませんよね?」


「私達から言う事は無いね」


「……だそうだよ。じゃあ、帰ろうか」


「はい」


 ナズーリン、星が退出。


「……ああ、因幡の兎」


「何かね」


「薬師に文を頼むと伝えてくれ。私もそろそろ帰るよ」


「心得たよ」


 椛が退出。


「なら私も帰ろうかしら。服は後々届けるわ」


「頼んだよ。それが無くちゃ移動出来ないからね」


 そう言えばそうですね。流石に永遠亭から何度も着物を奪うわけにも行かないし。


「なるべく急ぐわ」


 咲夜も退出。


「……じゃあ、私達も支度をしましょう」


「紫さん、私も一度……」


「良いわよ。魔界の神様によろしく」


「ありがとう御座います」


「……おやおや、解散か。こりゃあ宴会も出来ないね」


「家の子供達はお酒に弱いのよ」


 愚痴を呟きながらも、紫のスキマで永遠亭に移動する勇儀。後は彼女に任せれば何とかなるだろう。

 紫も藍と共にスキマに消えた。


「……さて、私達も」


「そうだな。死神、藍染のによろしく言っといてくれ」


「引き受けたよ。またね」


「ああ」


 瞬きすると、天魔と禍は消えた。


「……さて、また休憩さね」


「いつもが動きすぎなのよ。たまには休みも良いじゃない」


「まぁそうだね〜。兎さんはどうするの?」


「私は師匠に何か言われない限りはねぇ」


「同じく。まぁ、それまで待機だよん」


「……そう」





 ズルズルと引きずられた異変もこれにて収束。やっといつもの日常が戻ってきた。ちょっとばかり住人が増えたりしたが、楽しみが増えたと考えれば全く問題無いだろう。

 しかし、小さな異変は止まらない。未だ誰も気付かず、自覚すら無いそれは止まる事は無い。中心に居る本人も自覚は無く、それを聞いていた者も疑問は持たない。


 明日か、一月か、半年か。いつに始まるかは分からないが、その時は確実に迫っていた。誰も関心が無いからこそ、気付く頃には近くに来ているだろうに。

 だから、始まりは誰かの『興味』から始まる。その先に続く軌跡は、どう続いて行くのだろうか……


 分かるハズが無い。可能性は無限大だ。







 今日の幻想郷、場所は太陽の畑。


「ねぇ幽香」


「何かしら」


「最近よく聞くけど、死合いってなんなの?」


「死ぬ気で遊べる素敵なお遊戯よ」


「ふ〜ん。私も遊べる?」


「もう少し大きくなったらね」


「うん!」





「ねぇメディ」


「何かな?」


「植物ってなんなのかしら」


「無口で優しい生き物よ」


「……生き物?」


「違うの?」


「……いいえ」





「じゃあメディ、暗くなるからそろそろ帰りなさいな」


「ん〜、幽香」


「ん?」


「今日は一緒に寝たいな」


「何でかしら?」


「幽香と一緒だと『生きてる』って感じるから」


「……よく分からないけど、まあ良いわ」


「やった!」





「生きてるって、何かしら……」


 今日も幻想郷は平和です。


 はい、天色の空椿です。長い! 今回は物凄く長いです。さて、まずはお詫びから。


 今回、一月程更新が遅れてしまって申し訳ありません。言い訳は幾つかあります。


 一つ、本文の一部紛失。

 携帯メールに本文を執筆、小説家になろうに送信して、小説家になろうで本文結合などをやるのが普段の私です。何分、メール一通分に一話が収まらないので、基本は何通にも分かれますのです。

 今回はなんとパート⑤まで続くという謎の長文。そして、問題はパート⑤完成後。パート⑤をなろうに送信、メール結合をしようとした時にそれは発覚しました。

 何故かパート④が無い。原因は今も分かりませんが、具体的には天魔にトドメを与えたタイミング以降から大部分が消し飛びました。

 困った事に、復旧作業中に内容が一部頭から吹っ飛びましたので、当初とは内容が変わってしまいました。確か最初の予定では、天魔は帰還し、スペルカードがもう二枚程そこに出ていました。が、全部変更。内容が飛んだなら仕方ないね。


 もう一つ、短編の執筆です。

 こちらは某所で決定した事で、私の視点から見た『あるお方』を元にキャラクターを作成、のんびりとした物語を書くという物です。内容としては東方現代入りになっています。

 こちらを平行して書いていたので、更に時間が伸びました。ちなみにこちらも投稿予定です。


 そんな訳で、ペースを上げると言っておきながらコノザマです。私はどうしていつもこうなのでしょう……

 とにかく、今後こんな間抜けな事にならないよう気を付けます。流石に、次に紛失事件が発生したら私は心が折れるやも知れませんし。

 遅れ馳せながら、暁 晃さん、如月之四月朔日さん(鳳凰院さん)、風心剣さん、九尾の白狐さん。また、私の雑話に反応して下さる皆様に多大な感謝を。私は幸せ者です。


 さて、数話程放置していたので説明していなかったスペルカードが貯まっています。この文章が書き終わったら、それらを一気に更新します。

 ちなみに、貯まっているスペルカードは合計六枚です。何という……


 それにしても、大分スペルカードが貯まって来ました。ここまで増えると、いつかファンタジー御用の闘技大会のような物で一気にパーッと出したいですね。でも皆強すぎて無理です。


 では、これにて私は失礼します。ではまたノシ。

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