藍色と対面 天魔は敵だ
結局よく分からないまま帰らせてしまった犬さんが、その後どうなったか知る気は一行にはあまり無いようだ。今は別の問題が浮上しているから、なのだが。
まず言えるのは、物の見事に大怪我をしている事か。腹の大穴に始まり、身体中の細かい傷と出の悪くなった出血が危険な状態だと言っている。のだが……
「永琳」
「何かしら」
「お腹空いた」
「死にそうなのにその余裕は何よもう!」
この通り、意識が身体の外に遊びに行ったりはせずピンピンしている。
「本当、あなたの身体の構造は分からないわ」
「胃や腸などの配置は同じ」
「何で分かるのよ」
「腹が抉れた時に確認した」
「貴女もう黙りなさい」
頭が痛くなったらしい。ちなみに、藍色以外の一行は別室である。
「麻酔をしても、動けなくなるだけで眠らない。致命傷を負っても、意識は消えずにピンピンしている。年単位の徹夜をしようが、生活に支障無し。貴女は本当に生物なのか疑わしいわよ」
「妖怪」
「分かってるわよ! ああもう、解剖して実験材料にしてやりたい位よ!」
それは勘弁してほしい。と藍色が呟いたのは聞こえただろうか。
「さて、と。この怪我なら少なくとも数日は拘束出来るかしら。能力の判定には失敗してるし、小傘とフランを面会遮絶にしたら無理矢理治される事も無しと」
「……拘束?」
「だって貴女、すぐに逃げちゃうじゃない。輝夜が退屈しちゃうのよねぇ」
「少し前に会った」
「それだけじゃあねぇ」
難しい所なのだろうか。
「ほら、あなたって珍獣扱いされてるし」
「…………むぅ」
珍獣とは……
「何にせよ、しばらく安静にしてもらうわよ。気付いてないては思うけど、疲労が少したまってるから」
マシになったが、いつ何時も事を急いている感じの藍色。気が付かない内に疲労が蓄積していたようである。
永遠亭にしばらく拘束される覚悟を決め、部屋を出た永琳を見送る藍色であった。
「で、どうなの? 予想はついてるけど」
「良くて重傷かしら。まぁピンピンしてるし、死んじゃいました〜なんて事にはまずならないわよ」
「よ、良かった〜……」
小傘がへたり込む。どうも、いつもの事とは割り切っていたが心配はしていたらしい。
「それでも数日は安静にさせる必要はあるわよ。あと、フランと小傘の二人は面会遮絶」
「え〜!?」
「なんで!?」
永琳が二人を落ち着かせ、話を始める。
「あの子は全く気付いてないけど、いつも充分な休憩を取らずにドンドン進んじゃうから、少なくない疲労が蓄積してるの。ここは無理にでも安静にさせて、疲れを取らせるのが良いのよ」
「藍色含め、私達にはそう言うのを治せる能力持ちだから面会遮絶と。私は?」
「貴女はそういうの出来ないでしょ?」
「よく分かっておいでで」
ルーミアも納得したが、フランはあんまり納得出来ていないようだ。
「じゃ、その子を納得させておいて頂戴ね。私は少し忙しくなるから、失礼するわよ」
永琳は鈴仙を呼びつけつつ、奥の方に消えてしまった。
「……フラン」
「う〜……」
「まぁ、医者に言われたなら休ませるしか無いでしょ。私は鼠さんに説明してくるから、小町が来たらよろしくね」
「は〜い」
「……う〜……」
「元気出してよ〜」
……フランはその内に落ち着いたらしい。
「おや、ルーミアか」
「藍色の事とかの説明しに来たわよ」
ナズーリンは中庭に居た。
「そういえば貴女、最初は霊夢に用があったんじゃないの?」
「どうしてだい?」
「ほら、幻月に「巫女は居るか」って聞いてたじゃない」
「ああ」
そう言えば。
「あれは戦闘を終了させる為だよ。幻月は来客に悪い事はしないからね、私が霊夢に用事があると言いつつ介入すれば、矛を収めざるを得ないわけさ」
「……じゃぁ霊夢は呼ばれ損なわけね」
「なんの、巫女に用事が全く無かったわけではないよ。君達に言おうとした事を言うだけだけども」
「なんだ。つまらないの」
さいですか……
「まぁ、君に言えば藍色に伝わるだろうし、君に全部言ってしまうよ」
「あらあら。じゃあお願い」
ナズーリンはルーミアに話し始めた。
「八雲紫の伝言だが、今回の異変は既に終局に向かってるそうだよ。おそらく、その内本人から連絡が来るだろうね。君達の働きについては純粋に感謝していたな」
「そう。で、続きは?」
「『意図的に別世界の生命体を滞在させているなら、早く帰還させて』だとさ。どうも結界を修復すると同時に変化させるようでね、最悪二度と帰れなくなるんだとか」
「それは怖いわね」
これは姫に言っとくべきよね〜。と考える。
「伝言はこれで終いだよ。ちゃんと藍色に伝えておいてくれ」
「はいは〜い」
「で、これは個人的な疑問なのだが……」
「あら?」
ナズーリンが目を細める。
「君達は、別世界の人物を意図的に匿っているのではないかな?」
「何故そう考えたのかしら」
「君達の事をよく知る射命丸文や風見幽香が、似た話題を出した時に一瞬詰まった。それが理由さ」
なんとまぁ小さな切欠だろうか。しかし、この賢将はそれだけで推理するには充分だったようだ。パネェ。
「……普通答えると楽しくないわね〜」
「猛烈に嫌な予感がするんだがね」
ニコリと笑うルーミア。嫌な予感は的中するようだ。
「三分耐えたら教えてあげる!」
「勘弁してくれ!」
すぐさま跳躍して退避。せめて永遠亭に被害は出すまいと竹林に消え、攻撃を外したルーミアは時間をカウントしながら追う。
そんな二人を見ながら……
「……竹林は消失させないでほしいけどな〜」
隠れながら呟くのは、てゐであった。
「ま、ここに隠れてたら安全だ……っておや?」
向こうから歩いてくる人影を発見。
「あれは、妹紅か。また誰かの道案内かね?」
茂みから出て来て妹紅の前に出る。妹紅はちゃんとてゐに気付いたようだ。
「んぁ、てゐか。丁度良いね、客人だから永琳の所に案内してくれ」
「お師匠様は今藍色の世話で忙しいみたいだけど?」
「まぁ構わないけどね。私は送るだけだし……」
てゐはやれやれ、といった感じだ。と、ここで……
「藍色……」
「お?」
「んぇ?」
後ろにいた、もう一人が口を開いた。
「え? え? 霊夢?」
「今すぐ会えないか? その『藍色』に」
「……うん、まぁ何とかしてみるよ。付いて来な」
「んじゃあ私は帰り」
てゐが妹紅を引っ張る。そして、ヒソヒソ声で話す二人。
「何だよもう!」
「帰るなって! あんたもコッチだよ」
「はぁ? 私は案内しただけだよ」
「あんなおっかない奴私だけに押し付けないでよ」
「おっかないって分かってるなら尚更帰らせてよ!」
「嫌だね! 諦めてお師匠様の所まで」
「……どうかしたのか?」
「「いいえ何でも!」」
おお息ピッタリ。
「ほら行くよ」
「結局私もか……」
妹紅も巻き添えを食らうのであった。無念。
さて、この辺りで視点は小町に移る。隣には黙々と作業する咲夜の姿がある。
わざわざ一から手作りしてくれるのは嬉しいのだが、これもいつか破れる運命にあると考えると小町は胸が痛いのだった。自分の服じゃないけど。
「今回はどんな感じにするんだい?」
「そうねぇ」
最初がワンピースで、着物風味になったり、椛のに似た天狗装束になったり……散々変わってきた藍色の服だが、次はどうする?
「動きやすさ優先……って言いたいけど、藍色って割とどんな服でも動きは変わらないのよね」
「じゃあどうする?」
「見た目優先で良いんじゃないかしら」
……例えば?
「メイド服とか」
「外来人しか反応しないじゃないか」
外来人にメイド服の需要はありませんものね。
「じゃあ巫女服?」
「脇出しは勘弁してやってよ」
巫女=脇出しの方式を成り立たせるな。
「いっそ面白さ優先かしら」
「真面目に考えてくれないかな!?」
……咲夜はネタに走ったようです。
「割と本気なのだけど……まあ良いわ」
「ん……まぁ案が無いからこうなってるんだよね。どうしたもんか……」
と、悩む二人の隣に……
「悩み事かしら?」
「おや、輝夜じゃないか」
「まぁ、藍色の服のデザインに少し」
「ふ〜ん……」
輝夜登場。断りもせずに隣に座った。
「今までの服とかは駄目なの?」
「ちょっとした意地かしらね。同じ物は嫌、って感じで」
「あまり意固地になると間に合わないわよ?」
「そうは言ってもねぇ」
う〜ん、と二人は考える。輝夜は何か案があるようで、言うべきかどうかを考えている。
まぁ、時間がかかりそうなので移動してしまおう。
「王手」
「……詰みだ」
「今日は私の勝ちだね」
「お〜」
椛とにとりの大将棋。にとりに軍配は上がったが、中々の接戦であったらしい。観客だった数名は小さな拍手をした。
「いやぁ、良い対局だったわね。見ててハラハラしたわ」
「あそこで馬が落ちたのが痛かったか……」
椛は早速一人反省会を始めた。
「義姉さんは将棋を指したりはしないの?」
「私か? そもそも地底に入ってからは遊具に触れた事が無くてな」
「あやや、それは勿体無いわね。囲碁や将棋は意外と奥が深いし、少しやってみたら?」
「考えておくよ」
「にとりにとり! 次は私とやらない?」
「お、次はこいしか。良いよ〜」
こんなに時間のかかる遊戯に積極的に取りかかれる根性は見習いたい物だが。
さて、にとりとこいしの対局が始まる中、傍観している天狗二人と赤河童は違う話題を繰り出した。
「ねぇ椛、ちょっと風の噂で聞いたんだけど」
「それは黒い博麗霊夢の事か? それとも藍色が入院した事か?」
「何それ詳しく」
「話を始めたのはお前だろうが。お前が先だよ」
「残念……まあ良いわよ」
文がしゅんとしつつ、話を再開。
「あの異変何だけど、紫曰わく大事に至らず終了したみたいよ」
ただし、紫が文に直接言ったわけでは無い。あくまで風の噂である。
「人里の被害は無し、残った異世界の生物は野良妖怪か天子の一行が掃除。死者は人間妖怪共々無しだから最善の結果に終わったみたい」
「結局面白味は無かったな」
「あれを面白がれるのか?」
どうだか。
「返す事が出来なかった生物については野良妖怪に任せるみたい。力の強い奴はあらかた消えたようだもの」
「力の強い奴が隠れている場合は?」
「『事』を起こさなければ現状維持。非常時は巫女を出すとか」
「……帰さないのか?」
みとりが質問。
「詳しくは紫に聞かないと。とりあえず私が分かるのは、結界の修繕と同時に修正をするから、帰れなくなる可能性がある事だけよ」
「そうしないとまた起こる可能性があるしな、妥当だろう」
しかし、椛は難しい顔をする。
「藍色や紫の能力なら、帰すのは容易な気がするが……」
「さぁ? 紫でも呼べば全部分かるのだけどな」
「今奴が向かってるのは永遠亭だよ。会うならこちらが赴くしか無いな」
椛の目は遠くを見ていた。
「風の噂じゃこの程度よ。ほら、椛の番よ」
「ああ、藍色の入院と黒い博麗霊夢の事だな。まぁ、前者は幻月と殺りあって怪我しただけだがな」
エクストリーム喧嘩……だよな、あれは。
「で、黒い博麗霊夢はよく分からん。大した会話はしてないからな」
無念、文のペンは動かなかった。
「まぁ、本人は『禍』と名乗ったよ。正体不明に変わりは無いが、名前には困らんな」
「ああ、そう――」
風。暴風とまでは行かないが、中々の強風に軽い大将棋の駒達は全て飛び、木の葉は大きくその身を鳴らした。
「ひゅい!?」
「ほにゃあ!」
将棋をしていた二人は驚いたが、バックの三人はもっと驚く事になったようだ。
「今、『禍』と仰いましたね」
カラスの翼、葉扇、そして高下駄。見える特徴は鴉天狗によく似ている。そして、その姿は……
「突然失礼しますが、どうかお聞かせ下さい。黒い博麗霊夢……いや、『禍霊夢』は今どちらに?」
「……私?」
射命丸文と瓜二つ。しかしながら、その目は本人のそれよりも更に鋭かった。
例えるなら、獲物を狩り続けた鷹の目。歴戦の猛者を思わせるそれではあるが、皆は臆する事は無い。
「その前に、先に質問するわよ。良い?」
「何なりと」
椛が先に聞こうと思ったのだが、文が早くも冷静さを取り戻したので一歩退く。みとりはにとりとこいしの様子を見に行った。
「名前、黒い霊夢……禍霊夢の情報を求める理由、どのような世界から来たのか。それぞれどうぞ」
「分かりました」
彼女は口を開く。
「私は闘争溢れる夢幻の世界から、とある事件に巻き込まれここに来ました。長くなるので詳細は省きますね」
……夢幻、以前から何度か出た単語だ。姫や禍霊夢の発言などにチラチラと見れたな。まぁ、多分姫の言った『MUGEN』の事だろうが。しかしMUGENって名前をした世界って……?
「情報を求める理由は、その人物が同郷の者である可能性が極めて高いからです。第一の質問に準ずるのでこちらも詳細は省きます」
必要な部分だけをスラスラ言う。で、名前だが。
「名前は射命丸文と申します」
やはりと言うかなんと言うか。続けて口を開いた。
「ただ、同郷の者には『天魔』と呼ばれておりました。経緯については省きます」
「……天魔!?」
天狗達のトップも天魔と呼ばれるのだがね。ちなみに、実際の意味の天魔とは悪魔の類で天狗ではない。
「宜しいでしょうか? では禍霊夢の情報をお聞かせ願います」
「それは構わないが、何故?」
椛が個人的に聞いた。
「『こちらの』八雲紫に、ここはもうすぐ閉鎖されると聞きました。私は出来る限り早く禍霊夢を確保して、八雲紫の手により帰還しなければ帰る機会を失う可能性があります」
「……今すぐの理由は何故なのかしらね」
さぁ。
「まぁ、急いては事を仕損じるわよ。落ち着きなさいな」
「流石に冷静さを欠く程に急いではいないませんよ」
「そう。とりあえず椛、その禍霊夢の行き先は分かるの?」
「永遠亭に向かわせたよ」
向かわせた? と文が疑問を感じた中、天魔は冷静に質問を被せた。そういえば、紫も永遠亭に向かってたっけな。
「永遠亭とやらの方角はどちらでしょうか」
「迷いの竹林の中だから、方角なんて無駄だ。あそこは方向感覚が狂うからな」
「……そう、ですか」
「まぁ、竹林までの案内は出来るぞ?」
竹林の中は専門家に任せなければならないが。でも、多分椛の目なら行ける。
「みとり、こいしを頼めるか?」
「構わないが、一刻だけだぞ」
「分かったよ」
暗に「一刻までに戻ってこい」と言っている事には皆気付いていた。
「あら、二人とも見てたの?」
「割と最初からね」
「……大丈夫?」
「ゼェーッ……ハァーッ…………」
ナズーリンが力尽きている。死んでるわけではないが。
「よく生きてるわね〜」
「きっ……君は、私を殺す気だったのかい?」
「いや、流石に殺しは」
死合いのルールだからね、『殺すな』は。
「片腕は飛ばせるかなと」
「ヤバイヤバイヤバイ!」
フランと小傘からツッコミを入れられたが、ルーミアが気に留める事は無かった。
「とにかくお疲れ様。約束だから教えてあげるわよ」
「情報と引き換えに、その闘争癖を直してくれないかな……」
「結論から言うと……」
「却下って事だね、よく分かったよ」
もう諦めなよ。
「匿ってるわよ、異世界の人」
「……八雲紫には報告したのかい?」
「すると思う?」
「してないんだな」
してないんだよ。
「ただ覚えてほしいのは、あの子は自分の意志で残ると決めてる事。ならば私達がとやかく言う理由は無いわ」
「……言ってたっけ?」
「ルーミアが個人的に話に言ったみたいだよ」
「成る程」
ナズーリンはロッドを背中に回しつつ、ルーミアに問う。
「もし私が会いたいと言ったらどうする?」
「好きにしろ、と言わせてもらうわ」
「暗に『我々は何も手伝わない』と言っているのがよく分かったよ」
「そだね〜」
やれやれ。とナズーリンは呟き、永遠亭の方向に向けて進み始めた。幸い、迷う原因の竹と霧はルーミアが暴れたおかげで片付いている。
「……あれだけやって歩けるのね。予想外」
「ん、加減してたよね?」
「しなかったら幻想郷ごと消し飛ぶわよ。でも……ね」
先程の戦闘で、ナズーリンが使った二枚のスペルカードを思い出す。
「ペンデュラムによる複数の盾と、地下の金属を使った壁と、ロッドによる防御。防御能力だけならトップね」
「三重の壁か、フランなら抜けるかな?」
「五人がかりなら抜けるかも」
能力を使えばペンデュラムやロッドを破壊出来るが、能力無しではあの防御力は突破が難しい。最早そんなレベルのガードだ。
「皆強くなってるんだね」
少なくとも、積極的に鍛える人物は居るようだ。ナズーリンのように。
「そろそろ戻ろうか」
「そ〜ね。藍色も退屈してるだろうし」
踵を返して立ち去る。と行きたい所だが。
「おや、やはりお前達だったか」
「八雲」
藍の方だ。
「どうしたの?」
「お前達に報告したい事があってな、丁度今永遠亭に集まっている所だよ」
「もしかして異変の話だったりして」
「そうだ。詳しくは一行が全員集まった時に、紫様が直接話すそうだ」
「じゃあ戻ろっか。お腹も空いてきたし」
「私の血はやれないぞ」
「それくらいは自分達で用意するわよ。流石にね」
……さて、数十分後に永遠亭がどうなるかは分かるだろうか。多分分かるが。
永遠亭の広間には、沢山の妖怪が集まっていた。グループで分けると……
藍色一行(小町除く)、八雲メンバー、永遠亭メンバー(輝夜除く)。更に椛とナズーリンがそれぞれ。そして、異彩を放つ黒い博麗霊夢と二人の射命丸文。あ、椛と文が分かれているのは仕様が無い事だと思ってほしい。
皆はそれぞれ、思い思いの場所で座っていた。ただ、永琳だけはまだ包帯だらけの藍色の隣で藍色の容態を見守っている。
ちなみに、妹紅は慧音に呼ばれて喜びながら逃げていった。てゐが最後に落とし穴に引っ掛けたものの、いざという時の生け贄が居なくなったてゐは不安げであった。脱兎のように逃げ出せば良いでないか。何故か輝夜も連れて行かれたのが謎である。
あと、小町と咲夜は部屋の外でまだ服のデザインを考えている。もうすぐ出来そうらしいが……さて?
「何から説明しようかしら……」
流石の紫も、この人数は困ってしまうようだ。大半の皆は、話題に出ない限りは黙るつもりのようだが。
「まず異変の事かな。結局どうなったのか教えて?」
「そうね、ありがとうフラン」
「どう致しまして」
少しだけ間を空け、紫は話を開始した。
「異変についてだけど、多数の協力者のお陰で被害もあまり無く終わりそうよ」
「これについては文の功績だ。彼女が広めてくれたから対策が出来たしな」
藍は淡々と述べるが、言葉の節々には賞賛の気持ちを醸し出している。素直でない。
「ほ〜、頭でっかちの天狗もやるじゃないか」
「はぁ、ありがとう御座います」
鬼の勇儀にも賞賛され、文の顔は少し綻ぶ。単純に嬉しいようだ。
「結界も大分修復出来たし、異変はほぼ解決と言っても良い状態。霊夢が本格的に動く事も無かったわ」
「霊夢の出番を奪ったとも言いますがね」
「星、わざわざ刺々しい言い方をしなくても」
「良いよ別に」
事実なので藍色は何も反論しなかった。
「で、異変終了が目前になって、私は一つ決定付けた事があるの」
ここで、一度天魔と禍霊夢をチラ見。二人とも胡座をかいていた
「結界その物に修正を加えるわ。二度と壊れないよう強固にね」
「へ〜」
「ただ、強固になった分結界を超える事も難しくなる。場合によっては二度と幻想郷から出られない。程度の能力であろうと難しくなる程に」
……それで良いのか神隠しの主犯。
「ただ幻想郷の外、外来人達が来る場所に帰る事は出来るわよ。今まで通り、博麗大結界を開くだけだもの」
今まで以上に労力を消費する事については良いらしい。霊夢は良しとしたのだろうか?
「で、それだけで済めば良かったのだけれども」
体の向いている方向を変えた。真正面は天魔と禍霊夢だ。
「直前にこの二人が出て来て決行が遅れているのよね」
「御手数おかけします」
「申し訳無い」
いや、別に謝れとは誰も言ってないのだが……
「そう言えば、皆様の目の前での自己紹介がまだですね。今更とはなりますが、この場をお借りしましょう」
「……そうだな。一応」
真隣に居た文は後ろに下がった。そして横に椛が移動する。
「改めて、私は射命丸文と申します。元々居た世界では『天魔』と呼ばれて居ましたが、呼びやすいように呼んで下さい」
「これはご丁寧に」
「丁寧かなぁ?」
「私達よりは」
おい藍色。
「分かってるなら改善してほしい物ですが」
「私達は『遠慮をしない』から」
星と和解する気配は無いのであった。お前ら……
「『禍』だ。見ての通り博麗霊夢という名をしている」
「見ての通り」
「この世界にも博麗霊夢は居るのだろう?」
YES。
「それで、お二人さんはどうやって幻想郷に来たのかね?」
酒を飲みながら勇儀が質問をする。ただ藍色一行は、姫の一件で大体察しはついている様子。
ちなみに、藍色はそれとなく距離をとっていた。
「事故でしょうか。こう見えて実力者とは自負していまして、同じく実力者の者達との大技のぶつかり合いで空間が歪んだと推測します」
「今までもぶつかり合いはあったが、空間が歪んだ事は無かったと補足するぞ」
「立たないで下さい」
「別に立たないわよ、夢子」
立つと思ったんだけどな。ルーミアは自他共に認める戦闘狂だし。
「まぁ、特に望んで来たわけではないですし、面倒になる前に帰れれば良いのですが」
禍は特に何も言わない。
「あらあら、話は纏まっていたのね?」
「いえ。しかし、この世界に長居するのは」
「待て、天魔」
「あやややや」
しかし、ここは止めた。
「私は帰るとは一言も言ってないぞ」
「でも霊夢、この機会を逃すと帰れない可能性があるんですよ?」
「知らないな」
「ちょっと……」
……何だか雲行きが怪しい気がするぞ? 大丈夫だろうか。
「私はここの環境が素晴らしいと思っている。別に帰りたくないというわけでは無いのだが、ここに住むのはとても気持ちが良いと考えている」
「……では、元の世界はどうするのでしょうか?」
「勿論、帰るとすれば大事だよ。ただ、今は帰るか帰らないかの境界線の上で踊っているだけだよ」
「ダンスは良いから私と一緒に帰ってほしいのですが」
「だったら私をリードすれば良いじゃないか。違うか?」
いやいや。黙って見ていた皆も、「あ、これは一悶着あるな」と考え始めた事だろう。
「ただな天魔。私は確かに迷っているが、確かな目的を持ってこの場に居るんだ」
「ほう、目的ですか」
「他者に示された物だがな」
椛をチラ見。
「帰るか否かはそれを終わらせてからで構わないだろう。良いか?」
「出来るだけ早急に。八雲紫に迷惑はかけられません」
「相変わらず、他者を持ち上げて株を上げるのが好きだな」
「性分です」
仲が良いのか悪いのか。禍は立ち上がり、藍色の目の前に座る。
「藍色の少女の言われて、目についてのはお前だけでな。少し話がしたい」
「む?」
「構わないか?」
「うん」
早い早い。とりあえず、状況を掴みきれない皆を放置、禍と藍色。付き添いで永琳が退出した。興味からか、黙って見ていたナズーリンと椛も立ってついて行った。
「あやややや、行ってしまわれた」
「じゃあ、あっちの話が終わるまで自由行動で良い?」
「落ち着きの無い……」
「仕方ないじゃない。そんな奴なんだから。夢子、手合わせしましょ〜」
「え!?」
ルーミア、夢子を拉致。
「……一度解散しちゃいましょ」
こんな状況で話を続ける気は紫には無いようだ。
「話の続きはどうするの?」
「また皆が集まってからで良いんじゃないかしら。星は勇儀と組み手でもしてなさいな」
「え、勇儀さんと?」
「お、やるかい?」
「……まぁ、構いませんよ。行きましょう」
勇儀、星も退出。
「フラン、小町の所に行こうよ」
「そだね〜」
おや、二人はそっちか。これで、部屋に居るのは八雲二人、兎二人、射命丸二人になる。分かり難い? すまん。
ちなみに、八雲二人は何やら式の調整などで忙しいようだ。触れてはいけない。
「天魔さん天魔さん。少し個人的な興味があるのだけど、聞いて良いかしら」
「何なりと」
鈴仙とてゐが進み出た。
「なんでそこの悪徳ブン屋に似てるの?」
「悪徳とは失礼な。最近は改善してるわよ?」
自覚があるだけマシか。
「悪徳と言えば貴女もでしょう?」
「おや、何の事かな?」
鈴仙が思わず話題に釣られた。天魔は聞く体制に。
「巷では詐欺師として有名じゃないの」
「有名なの?」
「そうよ」
「人間に幸運を分けてるじゃないの」
「それ以上の不運に遭わせてるからノーカンよ、ノーカン」
「え〜?」
「え〜、じゃないの」
「これじゃあイメージが悪くなるね」
「元から悪いわよ」
「マジで?」
「知らなかったの!?」
「話逸れてるわよ」
「「アレー」」
棒読みじゃん……
「……ゴホン、どこまで話したかしら?」
「何故彼女に似ているか。質問の答えですが」
です。
「知りません」
ですよねー
「私や禍の居た世界は他人の空似程度ならありふれていますから。同一人物どころか、私自身と相対する事すらあります」
「何それ……」
「ああ、貴女似の人も沢山居ます」
鈴仙は少し驚いていた。ここで、てゐが鈴仙を押しのけて天魔の目の前に。
「私は? 私のそっくりさんは?」
「……心当たりは、あまり」
「ガーン」
残念でしたね。
「私は見てないだけですが」
「という事は?」
「居るかもしれない。面白い世界ね」
「まあ、何かあれば戦って解決するような世界ですけども」
ちょっと嫌かもしれない。
「それって、力が正義なんじゃ……」
「案外店員がバケモノだったりするからそうでも」
本当、それってどうなの?
「話は終わりでしょうか? では……」
「ああ、ちょっとだけ良いかしら」
文が名乗り出る。
「ん、どったの天狗」
「天魔はどんな強さを持っているのか気になってね。力強さとか、速さとかね」
「ん? そうですね、試してみます?」
「あら、私はちょっとやそっとじゃ追い付けないわよ?」
「ふふ、では上空に参りますか」
「あ、ちょっと……」
風と共に消えた天狗二人。
「鈴仙、なんか逃げ出したい気分になるんだけど」
「あら、第六感は死んでなかったのね。なら……」
まぁ、この二人がやることは割と決まってたらしい。
逃げるんだよォォォーーーーーッ!
「……藍、防護結界の準備を」
「心得てます」
異変の完全完結も目前の中、自ら騒動を巻き起こす住人達は何なのだろうか。危機なぞ起きぬよう、と考えたそばからこれだ。最後の最後にして、最も面倒な瞬間は目前に迫っているが……
……さて、どうなる?
今日の幻想郷、場所は人里。
「おじさん、大根頂戴」
「お、霊夢ちゃんかぃ。大根ね」
「出来るだけ太い奴ね」
「貧乏時代が抜けきってないな」
「っさいわね」
「最近どうだい?」
「普段通りよ。魔理沙はうるさいし紫は神出鬼没だし」
「そうかそうか。まぁ仲良くしろよ?」
「仲良しこよしは程々にしないと面倒よ。私は好きにするわ」
「変わらんなぁ。ホレ、大根」
「ありがと」
「そういや、最近の話なんだけど」
「んぁ?」
「全体的に黒い巫女を見かけるって話がね」
「……緑なら分かるけど、黒?」
「しかも霊夢ちゃんに見えるとか」
「私じゃないわよ?」
「分かってるけどねぇ」
「ま、追々調べてみるわ」
「おう。そういや、鈴奈庵が前に燃えてたよ」
「え、小鈴ん家が? 遂にやらかしたかしら」
「さぁねぇ。会ってみたらどうだい?」
「そーするわ。んじゃ」
「またな」
今日も幻想郷は平和です。
「愚鈍だな。貴様の刹那とはその程度なのか? 私はまだ欠伸をする余裕すらあるぞ。私に追い付くには刹那では足りない、清浄の時を超えてみせろ! さぁ、ハリー、ハリーハリー!」
……平和?
数の単位としては、清浄は刹那よりも上です。詳しくはググるかヤフるかして下さいね。どうも、天色の空椿です。明けましておめでとう御座います、2013も宜しく御願いします。
天魔参戦、そして同じ話の中で騒動発生。私は藍蓮花をどこに向かわせたいのでしょう? まぁ藍蓮花故致し方無しって事で。
禍さんも本格参戦、見事藍色を見付けて話に持ち込めました。しかし禍さんには悪いのですが、次回は乱闘回の予定です。参戦予定なのは『現在永遠亭に居る人物から数人+α』です。
誰が参戦するかは未定ですが、スペルカードが思い付いたら参戦するかもです。スペルカード名を頂けたら捗る上、参戦の確率が上がる(かも)なので、ふと思い付いた皆様、並びに「咲夜さんの実力が見たい!」とか「ナズーリンランドでワイワイしたいお!」とか「椛ー! 俺だー! もみもみさせてくれー!」とかいう皆様は神社にお賽銭をシュウウゥゥゥッ! しちゃって下さいな。超、エキサイティン!
ちなみに、MUGENからの参戦メンバーは基本的にスペルカードを募集してません。あしからず。
鳳凰院さん、九尾の白狐さん、EastNewSoundさん、神奈川県代表さん、お賽銭ありがとう御座います。
実は、レティウスさんとのクロスを期に、感想やお賽銭でクロスの要望の数が跳ね上がりまして、どうしようか物凄く迷います。だって全部やりたいじゃないですか……(笑)
そんな調子の私ですが、今回はこれにて〆とします。ではノシ