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東方藍蓮花  作者: 空椿
83/114

藍色と奔走 面倒は敵だ

 集団による集中放火を受けている場所のように戦争になる事もあれば、温厚な者が現れ和解する事もある。やはり多数の空間から一度に現れているので、この様なバラバラな結果になるのは予測可能だろう。

 故に、強いナニカが一人だけ現れる事も大して珍しいとは感じれないだろう。そんな前置きをしてから視点は永遠亭に移るとしよう。

 とは言ったが、永遠亭跡地と言った方が正しいのかもしれない。既に半壊しており、多分これからも壊れていくだろう。ちなみに、薬物の保存場所は永琳が文字通り身を挺して死守している。危険物も沢山あるらしいしな……


「……本当に何なのよ、コイツ」


 "それ"に相対している輝夜が呟く。

 あえて姿を文字にするなら、顔に必要なパーツは口以外が無く、腕は四本。足は馬のよう……かと思いきや六本あり、全体的に刺々しく硬い。あと、真っ黒だ。

 正直、これはどんな生き物かと問われて答えが出る自信は無い。それ程までに奇妙、怪奇、不可解な相手。感情なんぞ元から無いその顔のような何かは、輝夜の方だけを見ている。


「姫、まだ戦えます?」


「妹紅とやってる方が面倒だもの。よゆー」

「…………そうですか」


 とにもかくにも戦闘再開。ゴムのように伸びてくる腕と、主砲のようなエネルギー弾に警戒しながら殺す気満々の弾幕を撃ち込む。ただし主砲は口から出る。

 ちなみに先程の台詞は、既に強がりだと永琳に見抜かれてる。あまりに頑丈な相手に精神的な疲労は積もるばかりだ。唯一欠けた棘がそのままなのを見ると、流石に再生能力は無いようだが……


「んもう! 全然怯まないのがうざったいわね!」


 ……あと不気味なのが、相手が一切言葉を発しない事。言葉が通じないからか?


「ほら、金閣寺の天井でもあげるからさっさと消えなさい!」


 お断りしますとばかりに、空に現れた金閣寺の一枚天井を、口から放ったエネルギー弾で粉砕。欠片が雨霰と降り注ぐ。


「だ〜ぁ〜ッ! ウザイ!」


 その後も長くぶつかり合うが、お互いの防御力が高すぎて決着がつかない。しかし、少なくとも輝夜は精神的疲労をひしひしと感じている。こんな調子では、長期戦は得策では無いのかもしれない。

 というか、限界だ。いくら肉体的に死ななくとも、精神的に死なないわけがないのだから。


 そんな、輝夜だけが消耗する戦闘の均衡をあっさりと破壊し、活路を開ける人物がいるとしたら?


「円舞「紅キ血飛沫、桜ニ非ズ」」


 声と共に薙ぎ払われたのは鎌。並の金属なら衝撃すら感じずに切り落とせる切れ味を持ったそれは、深い傷を与える事は叶わずとも、黒い何かに確実に切り傷を入れた。

 それも一つや三つではない、三秒の内に十の傷だ。刺々しい身体がたちまちボロボロになる。


「ギッ!?」


 ここで、初めて上がった悲鳴。やっと負わせた明確な傷を、輝夜は逃す事は無かった。


「神宝「ブリリアントドラゴンバレッタ」!」


 バチリと音が鳴った気がする。

 ランダムにばらまいた弾幕だが、しかし確実にそれの傷口を抉った。頑丈らしいそれも、流石に傷口を攻撃されるのは辛いのだろう。ギャアギャアと奇声を上げながらのたうち回り、やがて痙攣するのみとなり……動かなくなった。


「やれやれ、お姫様でも一人じゃぁ活路が見いだせない相手って何なんだろうねぇ」


「……死神!?」


 輝夜の後ろから小町が現れた。さっきの攻撃は小町の物なのだろう。しかし、藍色達は居ないようだが……?


「……って一人じゃない。藍色達は?」


「ずっと五人で行動してると件の生物達を捕まえるのが面倒だからね、今はある程度分かれて行動してるよ。こんな状況だし仕方無いさね」


 割とヘラヘラしているが、手が真っ赤なのに輝夜が気付いた。


「ちょっと、その手……」


「いやぁ、アレ結構硬いんだね。藍色の能力の恩恵が無かったら弾かれてるんじゃないかな?」


 能力の影響下にあろうと、強い相手には負けたりする。紫達とぶつかり合っているとその辺りが曖昧になるのだが、こんな時はよく分かる。一応、長引くと面倒だからと本気で切りつけたらしいのだが、それでは決定打に至らなかった程度には相手が強かったようだ。

 さて、件の変な生き物だが……


「ふむ、奇妙な材質の皮膚ね」


 危険性はもう無いと判断したのか、永琳が既に調べていた。


「まさか、死んじまったかい?」


「生命活動が停止している感覚は無いわね。前例が無いから何とも言えないけど、多分気絶してるだけよ」


「そう……」


 攻撃はされたのだが、殺してしまうのは抵抗があったらしい。とはいえ、多少は『ざまぁみろ』なんて考えてたり。


「気が済んだなら藍色の所に送っちまうからね」


「あら、じゃあ永遠に気は済まないわよ?」


「姫様、流石にそこまでは……」


 ……でも有り得なくないよな? まぁ、適当に皮膚の採集をして永琳は切り上げた。小町が切り落とした奴とか……


「さて、と」


 能力を使ったのか、その生物はパッと消えた。その瞬間に輝夜はへたり込み、大きなため息を吐いた。


「はあぁ……一体何が何なのやら」


「少なくとも、幻想郷の生物じゃないね。まあ解決したなら気にしないように」


「それをなんとかしてしまうあなたも不思議よね」


「あたい程度の不思議なんて何でもないさ。じゃ、あたいはまたブラブラするかね」


 やぁ、仕事も大変だ。なんて呟きながら消えた小町。本当、移動に便利な能力だこと……


「……嵐のような奴だったわ」


「先程の生物と小野塚小町、どちらがかしら?」


「両方よ」


 まぁ、小町程度な嵐なんぞ藍色と比べれば……な。







 さて、視点をどんどん移し替えてしまおう。今度は妹紅の方…………に……


「…………いや、まぁ鳳凰やら不死鳥やら言われてきたけど……」


「きたけど?」


 問いかけたのはフランで、隣には目を丸くしている小傘も居る。そんな三人が見上げる先には……


「まさか本物が現れるとは思わなかった」


「流石に実物の不死鳥か鳳凰ってわけではないよね、うん」


「いや、でも間違い無く火の鳥だよね……?」


 小傘の言葉に、二人は同時に頷いた。

 ちなみに、目の前の火の鳥は無言で三人を見つめたまま動かない。


「……それで、意思の疎通は出来るの?」


「なんで私に聞くんだ。フランに聞いてくれ」


 鳳凰っぽいから。


「……色々試してみるね」


 お願いします。ちなみに、日本語に反応は無い。

 というわけで、フランは英中韓その他自分が知る言語をピンからキリまで試したが……結果は芳しくない。残念。


「ごめんなさい……」


「いやいや、気にしない気にしない」


「私でなんとかなるかな〜?」


 小傘、能力発動。さぁて……


《あの、すみません。私の言葉が分かりますか?》

※そのままでは全くわけが分からないので、日本語に直しております。


《驚いた。お主、妾の言葉を話せるのか》


 非常に美しい声が響く。普通なら聞きほれるような美声なのだが、この面子はそれに聞きほれるより、コミュニケーションが取れた方が重要らしい。


《何とか……》


《これは助かった。気ままに飛んでいたらいきなり景色が変わっての、ほとほと困り果てていた所でのう……》


《ご、ご愁傷様です……》


 高位の存在だって悩む事くらいあるさ。実際、元の世界ではなかなか偉いらしいが。

 と、ここで何かを思案するフランに妹紅が気付く。


「フラン、どうした?」


「目の前に神聖な生物が居るのって、吸血鬼的にどうなのかなって……」


「…………さぁ?」


 あまり深く考えすぎるないようにしてほしい。ただでさえ不思議な異変が発生しているのだから、一々考えていたらキリがない。


《まあよい。お主、妾を元の場所に返す事は出来ぬか?》


《え?》


《妾にだって家族は居るのじゃ。何とかならぬかのう?》


 ……少々気になるが、小傘とはそんな事を考えなかった。フランには通じてないので割合する。


「なんて言ってるんだ?」


「帰りたいって」


「じゃあ藍色の所に行こうか」


 応! と行き先が決定した所で、フランが気付いた。


「で、藍色どこ?」


「え?」


「え?」


 ……………………先が思いやられる。







「……この異変、あなたも含まれてたりしてね」


「そうかしら?」


「まあ可能性はあるかもね」


 さて、こちらはルーミアだ。藍色は居ない……という事は単独行動中だろう。場所は夢幻館のようで、エリーと姫でお茶会をしている。

 『姫』が誰かは以前話題に出たはずだが、軽く紹介しなおす。とある世界からとある事情により世界を飛び越えてきた、別世界の比那名居天子。向こうでは基本的に『女神天子』と呼ばれている人物である。ただ、天子と呼ぶとこちらのの天子と被るので、愛称として使っている『姫』と呼んでいる。


「あなただって世界を渡って来てるじゃない?」


「あ〜……確かにそうだけど」


「そうですね。思えば、あの時点で既に異変の前兆はあったのでしょうか」


「だと思うわよ。まあその考えで行くと、あなたも送り返す必要があるわけで」


 まぁそうですよね。


「嫌よ。こっちの方が充実してるし」


「言うと思ったわよ」


「同じく。ちなみに、詳しい理由を聞いて良いでしょうか?」


「ん〜……」


 少々言葉をまとめてから話し始めた。といっても、長くはない。


「私って結構な実力者だったわけで、向こうだと皆に敬遠されてたのよね。『どうせ負ける』って」


「戦いだらけの世界なんだっけ? 行きたいわぁ〜……」


 ルーミアはブレないな。


「そ。そんな世界でそんな扱いされて、楽しいはずがないわけよ」


「あ〜……」


「だから実力とか関係無しで、常日頃の戦いが無いのんびりしたここは居心地が良いのよ。仕事もあるし」


「働かざる者食うべからず、ですよ」


 なんと、毎日夢幻館の掃除をしているらしい。たまに居るくるみ曰わく、凄く良い笑顔で長すぎる廊下を凄い速度で雑巾がけしているとか。たまに雑巾が摩擦熱で燃えるとか言っているが、真実は定かでは


「でも、やりすぎて雑巾を燃やすのだけは勘弁願いたいですね」


 真実でしたか。


「それは張り切り過ぎよ。どんなスピード出してんのよ」


「全力で走ったらそんな速度になるんじゃない?」


「止めて下さい、いつか床が壊れます」


 ……閑話休題。三人とも、一度紅茶を口に含んで落ち着いた。


「で、何の話だったっけ?」


「今起こってる異変の話よ」


「……ああ、そうだった」


 本当に、話がすぐに逸れてしまうのは何故なのだろう。閑話休題を何度も言う必要があるのは正直面倒だと思う。


「とりあえず、私はあまり捜索とかに参加はしないわよ? あんまり知られたくは無いから」


「それについては私から言う事はまず無いわよ。エリーは?」


「一応くるみには伝えておきます。あと、幻月、夢月の姉妹にも自重はするように伝えます」


 幽香の名前を挙げないのは、一行なら既に伝えているだろうと考えての事だ。いやまぁ、文が伝えに行ったりしましたがね?

 と、ここで姫が一言。


「あ、でも知り合いが居たら行っちゃうかもね。以前話した……」


「そりゃあ構わないわよ。暴れられたくはないし」


 話を聞く限りは、多少荒っぽい奴らが多いらしい。何分何かあったら戦闘になる世界だったらしいし、仕方が無いのか。


「とにかくそんな方針で。オーケー?」


「はいはい、心得たわよ」


「把握しました。以後、此方でも対処しましょう」


 話がまとまり、満足したらしいルーミアはスペルカードを一枚……え?


「月光符「ムーンライトモーメント」」


 突如として淡い光が発生、ルーミアを包む……と描写する間に、光が晴れてルーミアは消えてしまった。しかし、テーブルにあった紅茶にすら一切波を立てず、音も無かった。


「……消えたわねぇ」


「音も振動も無く。まさに光のなせる技ですかね」


「ったく、闇の妖怪はいつから光を見いだしたのよ」


「それは勿論、光の無い闇から外界を見た時じゃないですか? それはもう、とても深い青の光を」


 一体何が起こったのか理解不能だろうと、時間は平等に進む物です。と言うわけで、今はルーミアを追おうと思う。







「っと、やっぱり気分悪いわね」


 虚空から現れた淡い光からルーミアが登場。ただ、顔色は微妙だ。


「やっぱり闇の使い手に光は辛いのかしら?」


 そもそもの光と闇は正反対だ。それを知った上で、闇一辺倒の能力で光を使えばただでは済まないだろう。例えそれに行き着く発想と実力があり、法則と原理を完全に理解していても。


「あら、何事かと思ったらルーミアじゃない」


「幽香。居たのね……ってなによそのイエティは」


「見たままよ」


 どうやら蓮華畑に来たらしい。勿論レティら居るし、異変の被害者のイエティも居る。


「この人も異変の被害者らしいのよ。どうにか出来ないかしら」


「藍色に言ったら何とかなるわよ。で、幽香の後ろの屍の山は一体何?」


「あら、私の花畑を踏み荒らす害虫を退治したに過ぎないわよ?」


 それはもう徹底的にぶちのめしたのだろう、死んではいないが全て虫の息だ……

 というか前もなかなかの量を捕獲していた気がするが、また増えたのか?


「程々にしなさいよ」


「後ろ向きに検討するわ」


「それ、検討する気無いでしょ」


 レティのツッコミに、その場の全員が苦笑いした。


「ま、これの処理は藍色に任せるわ。私には出来ないもの」


「その藍色は一緒じゃないの?」


「今は別行動よ。多分守矢神社辺り……だと推測するわ」


 推測の域なのか。


「分かってないの?」


「私の想像なんてあの子の前では無駄でしょう」


「納得……」


 藍色の行き先はよく分からない。強いて言うなら、そこに何らかのイベントがあればある程度優先してそこに向かう傾向にあるが。


「それで、さっきの光は何?」


 そんな話はさて置き、レティがルーミアに問う。会話に混ざらないイエティは足元の藍蓮花を見つめていたり……


「以前から話題になってる能力の応用だけど、闇の正反対である光を使えないかという話が出てたの。それを試す為に無いにも等しい法則性を突き詰めて、試験的に作ったスペルカードを使った結果がさっきのよ」


「……という事は、もう使えると」


「気分は優れないけどね。やっぱり光は慣れないわ」


「ふ〜ん……」


 応用もそこまで行くと万能だな。とは言うものの、やはりルーミア的にはキツいらしい。宵闇の妖怪だもんね。


「ま、成功してしまえば後は慣れよ。近々光に関わるスペルカードの大量生産でもしてやろうかしら」


「あんた宵闇の妖怪じゃないの、闇はどうしたのよ」


「ちゃんと考えてるから問題は無いわね」


「流石と言うべきなのか、何なのか……」


 ルーミアなら仕方無い。ま、キリが良いかは分からないが話題を変える。


「で、この異変は今どんな感じになってるのかしら?」


 幽香の問い。やはり気にはなるのだろう。


「結界の傷云々は八雲が大体何とかしちゃったみたいよ。流石に仕事が速いと言う所かしら」


「あら、じゃあもう終わってしまうの?」


「いや、まだまだ」


 え?


「幻想郷に紛れ込んでる生物の量が半端じゃないの。それをまず何とかしないとねぇ」


「……数は分かる? なんなら手伝うけど」


「椛と文のペアがだいぶ働いてくれてるし、今は大丈夫よ」


 椛が見付けて文が捕まえる。流石に長年の付き合いもあってか、手際の良さはなかなかの物だ。ただし……


「……ま、それでもどうにもならない奴らが出て来たから、それらは何とかしてほしいかしらね」


「ん?」


 文でもこれは勘弁願いたいだろう。まさしく巨人と呼べるナニカが、ルーミアの後ろに降ってきた。大きさは、目測二十メートルといった所か。

 そんな巨大な物が降ってきて、大地がただで済むはずもない。地は割れ、草木は潰れ、花々が衝撃波で吹き飛ぶ。


「……例えば、こんなのよ」


 ルーミアが後ろの巨人を見ながら言う。タイミングがバッチリだったのに、少々驚いているが、しっかり十字剣を出している辺り流石である。

 そして、滅茶苦茶にされた植物達を呆然と見詰める幽香を見て、レティは黙って逃げ出した。


「ふ……ふふ……」


 あちゃー、とルーミアが呟く。そして、悲惨な目に遭うであろう巨人を見てから、改めて幽香に一言。


「殺すのは駄目よ」


「じゃあ頃合いを見て止めなさい」


 そんな無茶苦茶な。さて、そろそろ視点を藍色に移して……

 ん? 巨人の末路? 暴走した幽香が完膚無きまでに叩き潰したとだけ伝えておこうか。一応、完全に戦闘不能になるのに二分程度かかったとだけ記憶してほしい。哀れなり。







 さて、いよいよ藍色だ。場所は守矢神社付近で


「肯定証明「偶然確率」」


 あ、神社はセーフです。なんとか範囲外です。

 いきなり何事かと思うだろうが、守矢神社だって敵に襲われるに決まっているのだよ。


「困った」


 しかも困った事に、守矢神社が最も厳しい場所だ。具体的に言えば……


「いやぁ、竜って本当に居たんだねぇ」


「もう驚きませんよ。今の幻想郷は常識をかなぐり捨てて居ると分かります」


「もう常識云々とか良いから攻撃しなさいよ! 竜以外も居るんだからさぁ!?」


「そういう諏訪子も手が止まってるじゃないか!?」


「いいからオンバシラでも振り回してろ!」


 ええい騒がしいなこの野郎!

 とにかく、今神奈子が『竜』と言った時点で大体分かるだろう。詳しい種類まで言うと、特に気性の荒いと言われる『ワイバーン』の類だ。更なる詳細は自分で調べてほしい。

 勿論、一匹だけなら早苗一人で解決は可能だ。つまりは大群なのであったり。


「シャアアアッ!」


「あ〜! もう! 倒しても倒してもキリがないですね!」


「無理はしないで。不慣れな実戦で倒れられると困る」


「いえいえ、異変解決は私の仕事ですのでこれくら」

「そう」

「言い切らせて下さいよ!」


 ま、何だかんだで余裕はあるようだ。ただし、死合いその物の経験がほぼ皆無な早苗は休憩が必要だろう。神様ペアは流石の諏訪大戦の中心人物と言うべきか、大した怪我は無い。


「む」


「グギッ!?」


「む」


「ギャオ!」


「むぅ」


「キェアアッ!」


 藍色は不運にも集られているので、どちらかと言えば精神的疲労がたまっている。たまに強い個体が居るので、押し切られて怪我をしたりもするが、相変わらずケロッとしているのがらしいと言えばらしい。

 これでも噛みつかれたり頭突かれたり尻尾で叩かれたりと散々な事になっているはずだが……


「随分集ってるな、手伝うかい!?」


「問題無い。集ってるなら逆にやりやすい」


 ここでスペルカードを一枚。


「変符「命中率と回避率」」


 集られているのを良い事に、弾壁をばらまいて一掃。何匹かは離れてる故か避けているが、第二波と同時にUターンしてきた誘導弾に撃ち落とされていた。ちなみにこれ、三度目の宣言。


「お〜、綺麗な花火だ」


「神奈子、呑気に見てないで逃げたの捕まえるよ」


 流石にかなり遠くに居た奴は当たらなかったので、それは神奈子と諏訪子で捕まえに向かう。やっと静かになったので、早苗は神様ペアを見送ってから休憩を始める。


「お疲れ様です」


「うん」


 もう安全だと思ったか、藍色も空中から降りてきた。実は最初にワイバーンに噛みつかれた上に上空に放り出され、降りるのが面倒になったのかそのままワイバーンを足場にしながら戦い始めていたとか。飛べないのに無茶をするなぁ。


「だいぶ倒しましたけど、幻想郷にはまだまだ沢山居るんですよね」


「間違い無い」


「はぁ……」


 流石に、この気絶した爬虫類共の山を見て『ほんの一握り』なんて事は無いだろう。そうだと信じたい。


「でも、藍色さんや紫さんが居るから大丈夫で」

「有り得ない」

「え?」


「今はただ運が良いだけ」


 相変わらず言葉を被せる時は被せる藍色。理由があるかは分からない。


「パラレルワールドという概念がある。その全ての世界からあらゆる人物が紛れ込む可能性がある以上、ルーミアより強い人物だって現れる」


 いや、流石にルーミア以上は珍しいんじゃなかろうか。


「……つまり、厄介なのも居ると考えるべきだと」


「うん」


 理解がとても早くて助かる。早苗は常識が欠如しているような行動ばかりするようなイメージだが、ただ思考が柔軟過ぎるだけではなかろうか?


「となると、今この隣にその生物が居ても何らおかしく無いんですよね。怖いですね〜」


「いきなり空から降ってきたり」


「では地中からも?」


「有り得る」


 割と思考がぶっ飛んでいる同士何か協調するのか、空想の生物などの話題が結構膨らむ。早苗は時々ロボットに話題がズレるのだが、そんなに好きなのか?


「……邪魔するのは野暮かね」


「じゃ、こいつら集めとこうか」


 今回は外野に徹する様子。何気に達観しているというかなんというか……

 そういえば、幻想郷にもロボットは居なかったか? 博麗神社辺りに。







 まあ上記の様に、割と強い相手が現れたりまた何かの群れが現れたりと、そんな事はあろうが一行は平常運転だった。

 が、それは一定以上の強さがあるからだ。藍色一行と同じ様に旅をしているもう一つの一行は、それはそれは苦労をしていた。


「こりゃ酔いも醒めちまうねぇ……っと!」


 地面から、土気色の胴長の巨大な生物……いわゆるワームの類が現れ、こちらを食い破らんと突撃してきた。しかし当たらず……と。ワームの類が分からないなら、でかいミミズと考えるか調べるかをしてほしい。

 特に目立つのが口か。口の中にもう一つ口があるような珍妙な形をしており、何かに触れるとジュウと音がする唾液を撒き散らしながらこちらを狙う。全く衛生的ではない。


「ああ気色悪い! 見るな触るな近付くなぁぁぁ!」


 そんな、出来るなら見たくはないような相手を三人で相手取るのは、同じく幻想郷を巡るように旅する天子一行。友達百人の旅はまだ終わらないらしい。


「さて、どうしましょうか」


「あんまり深く考えないの。全部地面から引っ張り出して蝶々結びにしてやれば良いだけよ!」


 何故蝶々結びをチョイスしたのか。あと、全部ってどういう事だ。数匹集まってるのか。


「だったら早く捕まえてっとぉぉ!?」


 グロテスクな口が地面から突き出し、天子に声を飛ばしていた萃香を食いちぎらんとする。素早く霧化して事なきを得たが、今度は元に戻るタイミングを失った。

 地面から突撃しては戻っていくそれらを、あまり動きが機敏な方ではない衣玖は空中に退避している。攻撃のタイミングは掴めない。


「もう! 私はあと何回斬りつければ良いのよ!」


 そんな中、天子は地上で戦っている。地面全体が危険区域ではあるが、自身の能力を索敵に使える状況故、今は危なげなく戦えている。物凄く疲れているのは隠す気が無いようだが……


「……さて、どうしますか」


 萃香に天子の援護を指示し、更にワーム達の確実な隙を探しつつも打開策を練る衣玖。ルーミアのような回転速度も、フランのような知識も彼女には無いが、必死に何とか出来ないかとあらゆる可能性を浮かべる。


「不味いな、天子の疲労が……」


 安全と感じた場所に集まり、やっとこさ支援に……


「ッ萃香! 右!」


「げっ!?」


 ……が、駄目。萃香の右側の地面から勢い良く突っ込んできた歯並びの悪い口。またも霧散する以外に対処は出来なかった。


「ハッ!」


 出来る限り素早く雷を発生させ、狙った場所に落とす。しかし、また地面にしか当たらずに取り逃がした。

 そう、またである。


「駄目、ですか」


「も、もう無理……」


 天子も限界。萃香は未だに活路を見いだせず、最早この面子で状況を打開する方法は見付からない。

 せめて天子を掴んで空に逃げたが、地中のワームは未だに一行に狙いを定めている。地中まで雷は届かないのが非常に悔やまれる。


「……どうする、逃げちゃうか?」


 鬼として、逃亡はかなり嫌な行動だが、流石に状況が状況だ。萃香も文句は言わない。

「いえ、地中を移動する相手ですし、逃げても追い付かれるでしょう」


「か、仮に撒いたとしても、人里とかで、被害が出、出るわよね……ハァ……」


 酷い息切れだ。先程まで全く感じさせなかったが、どうやら相当キツいようだ。他と違い、旅をさせられた以外の藍色の影響が無いので、以前と総合的な強さは変わらないのかもしれない。

 さて、この状況をどうするか?


「……方法はあります。ただし、可能性のやや低い方法が」


「聞こうか?」


 次々と潰した可能性から、残った少数の策。衣玖は口を開く。


「強烈な音、または衝撃を響かせ、死合いをするような妖怪の注意を引いて呼び寄せ、援護をして頂くのです。ただし、近くに該当する人物が居ない時点でアウトです」


「……それ以外の、方法は?」


「私の知識では、これ以外は確実に怪我を負う程度の策しか練れなかった。と伝えておきます」


「充分だ。可能性があるならそれをやるだけさ」


 萃香と天子はやれと言う。流石に、この状況で頼まれたのに断るつもりは皆無の様子。


「……分かりました。では私が何とかしますので、しっかり目と耳を塞いで下さいね」


 スペルカードを一枚。どうやら、死合い用のようだが……


「電符「雷光雷鳴エレキテル」!」


 空中ながら、腰に手を当てお馴染みのポーズ。空に浮かんでいた雲から一筋の稲妻が地面に落ちる。無論それは地面を少々削ったが、ワームに傷は入らない。

 まあ、メインはそちらではないようだ。目の前が白に染まり、耳をつんざく爆音と爆風が付近を包み込んだ。


「きゃうっ!?」

「ふぎゃん!?」


 ……可愛い悲鳴だな。それは置いといて、これは確実に付近の妖怪は異常を感じただろう。居ればの話だし、来るかどうかも不明だが。

 しかし今の音で興奮したのか、ワームの動きが更に機敏になる。中空に居る三人にも届きそうな勢いで突撃してきた。多分、音の原因を排除しようとしているのだろうか。


「ちょちょちょ!? これどうすんのよ!」


 被害の出ない策がこれしか出なかったんだから我慢せい。こんな時、ある程度の実力があれば良かったのだろうが……


「でぇい! 仕方ないから耐えれるだけ耐えるぞ!」


「すみません、私が至らぬば」


「謝るな! 策を全て衣玖に任せた私達に非があるからな!」


「そう、よっ!」


 要石を飛ばしてワームの口に突っ込む。これは痛いのだろうか、大きく反って倒れた。チャンス。


「天符「天道是非の剣」!」


 突撃されまくったので、その隙だらけの腹に仕返しをしてやる。高速で飛び出した天子は緋想の剣を突き刺し、容赦なく切り上げた。


「ざ、ざまあ見なさい」


「天子、後ろだ!」


「ふぇ?」


 疲労が集中力を切らしたか、別のワームが真後ろから来ているのに気付けなかった。萃香のフォローは間に合わなく……

 容赦なく、その柔肌を削り取る。







 かに思われたが。

 突如として響いた機械の駆動音と共に、何かがワームの頭辺りに激突。そのまま大きく吹き飛ばした。更に……


「ミサイルもプレゼントしてあげるよ! 全弾もってけ!」


 それを見る程の時間は無かったが、とにかく大爆発が発生。声の主は天子達に話しかけた。


「大丈夫だった? それとも余計なお世話?」


「……いや、助かったわ」


「やっぱりさっきのは救援要請か。にとりの読みは当たったな」


 そう、河童のにとりだ。いつかのバイク(改造済み)に乗ってきたようで、後ろにはみとりも座っていた。


「気付いて頂けましたか」


「水の中は音がよく響くんでな。まぁ、死なれても胸糞悪いから、ここは助けてやるよ」


 標識を薙刀のように振り回してから、地面に刺した。にとりはバイクに何かをしていてそれを見ないが、やる事は分かるらしい。


「地面の中だろうが、私の能力は通るのでね。薄汚いミミズ共……」


「ちょ、もたもたすると」


 あちこちからワームが出現、みとりを狙う。が……


「生きる事を禁止する。今まで喰らってきた土に、今度はお前達がなるが良いさ」


 みとりを攻撃する事無く、そのまま重量に任せて倒れた。


「……は?」


「……思わず殺してしまったが、大丈夫か?」


「う〜ん、何か言われるかもしれないけど……仕方無いよね?」


 ともあれ、萃香と衣玖も降りてきた。長い間疎と密の状態を繰り返したせいもあるのか、萃香はぐったりしている。


「助かりました。お二方」


「良いよ良いよ。やっぱり知り合いは大事だもんね」


「ま、次からこんな事にはならないようにしてくれよ。帰るぞ」


「え、もう? 義姉さんはも〜……」


 バイクに乗り込もうとする二人に、天子が声をかける。


「ね、ねぇ。お願いがあるんだけど……」


「ふむ? 言ってみてよ」





「服、貸して……」


 ワームの唾液、酸性だったからなぁ。だいぶとは言わないが、多少は溶けたらしい。見れば萃香もちょこっと素肌が見えているし……


「……良いよ」


 みとりも文句は言ったが、拒否はしなかった。


 多少危なっかしくも、助け合いで救われる状況。しかし、やはり最後はハッピーになるのであれば、この幻想郷の面々は全てを許してしまうのであろうか? それ程までに過程が辛くても、次は笑顔を浮かべるのである。

 少しは盛り上がったのか、それともヒヤヒヤとしたのか。まぁ、大多数の面子が規格外故、仕方無いだろう。


 暗躍する八雲達のおかげで閉幕も遠くはないだろうが、終わりまで平和に過ごせるのだろうか。

 ……さて、どうなる?







 今日の幻想郷、場所はマヨヒガ。


「ふんふんふ〜……ん?」


「ああ、少しお邪魔してるよ。歩きすぎて疲れてしまってな」


「はぁ、どうぞ……?」





「霊夢さん、ですよね?」


「確かに私は霊夢だが、何故分かった?」


「だって、神社にいつも……」


「……ん、何となく理解したよ」


「え?」





「多分、私は君の知る霊夢ではないな」


「そう……かな?」


「そう。しかし、私もれっきとした『博麗霊夢』だがな」


「…………ん?」


「分からないなら、私が去ったら私を忘れるといいよ」





「じゃあ、失礼するよ」


「あ、はい。また会いましょう……?」


「運命が悪戯したらね」


 今日も幻想郷は平和です。


 結構御無沙汰してましたが、私は元気です。どうも、天色の空椿です。最近3DSのLキーがお亡くなりになったので、今度修理に出します。


 藍色一行が別行動、そして新スペルが増えました。無論追加説明あります故、詳細が知りたい方はお待ち下さい。

 小町のスペルカード名はあんな感じで固定させます。あと三つほどストックがありますが、案があれば是非とも神社に!


 さて、段々自己主張が激しくなる今日の幻想郷。平和ですとか言いつつ、本編はヒヤリとしている辺りナンダコレ状態なのは私だけでしょうきっと。

 例の人は橙と話しました。ヒントは少ないですが、実は前話を掘り起こせば答えに辿り着く事は可能だったりします。興味があれば探してやって下さい。


 次話ですが、約束通りクロス回です。ただでさて更新遅いですが、相手方の作品読み込む必要があるので更に遅くなります。最悪あけましておめでとうですが、気長にお待ち下さいな。

 そして、ここ最近は藍蓮花に集中していた為か、一次が何一つ執筆が出来ていないという。ま、次は一次書きます。


 一行達が遭遇した奴らですが、大体一発ネタです。多分次回には全部送り返されてるでしょう。大方描写もされずに。

 で、あれ何? な奴も居ましたが、元ネタなんてありません。ありません。大事な事なので何度も言いますが、ありません。異世界の生物なだけですはい。


 で、書いてる内に思った。何故私の書く幻想郷では服がよく破損するのだろうか。藍色の衣装チェンジの理由も大半それですし、一体何なんでしょう。



 と、今回はここまで。ではノシ

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