藍色と時空 不明は敵だ
いつもの昼下がり、いつもの森の中。木漏れ日の美しい場所を、五人の人物が歩いていた。恐らく皆知っているが、改めて紹介と行こう。
一人、最早毎度お馴染み。藍染妖怪の藍色である。確率を操る程度の能力を持ち、奇妙な過去を持っているらしい謎だらけの妖怪である。
本人も記憶に無いらしいが、これから明かされていくのだろうか。よくは分からない。
手に持つのはシンプルな藍染の唐傘。藍色の能力で破壊不可能となっている。暗闇だと、何気に藍色本人と間違えやすいのは蛇足だろう。
一人、既にお母さん扱い。人喰いの妖怪ルーミアである。闇を操る程度の能力を持ち、藍色の影響により計り知れない力を持つ妖怪である。 最近、能力の研究に勤しんでいるようだ。どう進化してくるのか、楽しみである。
手に持つのは銀の十字架を少し散りばめた、黒のこうもり傘。これも藍色の能力で破壊不可能で、一切の衝撃も無効化されている。弾雨すら防ぎきる傘とは一体……
一人、多分最も不憫な子。唐傘の付喪神の多々良小傘である。元は人を驚かす程度の能力だったが、能力の強化、進化により大進歩を遂げている。
晴天時でも紫の唐傘を差しているので、遠目だと一番目立つ。八雲メンバーに補足される七割強の原因なんて到底言えない。
手に持つのは紫のお化け傘。例によって破壊不可能、更に風圧無効化。試してみたが、射命丸の起こす暴風の中ですらケロリとしていた。なぁにこれぇ。
一人、最も純粋な爆弾。吸血鬼のフランドール・スカーレットである。ありとあらゆる物を破壊する程度の能力を持っているが、『事実』を破壊して全く違う現象を起こしたりと凡庸性は高い。
狂気を制御仕切ってはいるが、大切な人を傷付けられたら止まらなくなると思っているらしい。常日頃傷付けあってる紫達は良いようだが。殺意が薄いからだろうか?
手に持つのはレミリアの物に似た、フランをモチーフにした日傘。これも破壊不可能と風圧無効。ルーミアの黒鳥で移動する時に便利である。
一人、最近新しく一行に加わった人物。死神の小野塚小町である。距離を操る程度の能力は何気に協力で、藍色の「絶対確率」の上位互換のような事も出来るとか……
一行に加わったのはつい最近であるが、既に馴染んでいる。今は皆のお父さんのようだ。お母さんではない。
手に持つのは彼岸の絵柄の大傘。勿論破壊不可能で、一行お手製の鎌と瞬時に入れ替える事が出来る。鎌の性能は割合する。
これで大体把握し直せたかな? では本筋に戻ろう。
この日も特に変わった事は無かった。強いて上げる事柄も無く、ただただザクザクと森を進んでいるばかりであった。と締めるべき日になると思っていたが、そんな一行に突然の来客が。
「ちょっと失礼するわよ」
轟、と言う音を鳴らしながら文が現れた。いつもは新聞を渡したらすぐに帰るが、どうやら用事があるらしくすぐには移動しない。
「あら、何か用事があるのね?」
「あるのよ。最低三日以内に、博麗神社に集まってね。じゃ」
「待った。理由を聞いてないよ?」
翼を広げ、すぐに飛び立とうとした文を小町が止めた。その声に反応した文は翼をたたみ、話をする。
「私も詳しくは知らないけど、主に藍色が原因の異変が発生したと八雲メンバーが言ってたわよ」
「ご主人様が原因?」
「とはいえ、藍色を咎める事は無いみたい。分かったら早く行ってあげなさいよ。意外と重要らしいし」
伝えるだけ伝え、今度こそ飛び立った。その姿はもう見えない。
「……藍色、どうする?」
「行くよ」
「は〜い」
ならば驚く位に早く行ってやろうという事に。距離に関しては専門家が居るので……ね。
「霊夢、酒の貯蔵が無くなってンだけどよ」
「私は飲んでないわよ?」
「……じゃあ夢月か?」
「流石にこの人数で嘘を言うつもりはありませんよお姉様」
博麗神社。萃香こそ居ないものの、悪魔の姉妹が居るので特に変わりは無いと思う。何が変わらないか? 賑やかさだな。
「つまり犯人は私です」
「なら最初から言えダアホ!」
「あ〜、つまりまた買いに行く必要があるわけね」
「既に用意してあります」
「あンのかよ……」
面倒臭さは折り紙付きと言った所か。まあ、藍色をいつも見ていると大したことが無いように見えてしまうのが……
「こんにちは」
「あ゛?」
突然の挨拶に、ガンをこれでもかという位に飛ばしながら振り向く。が、何も居ない。
ここで少し疑問で首を傾げたが、ふと何かを思い付いたのか下を見て……
「だああぁぁッ!? 藍色!?」
大きく仰け反り、足がもつれて幻月は倒れた。藍色の位置だが、一歩進めば幻月とぶつかる程度の距離だったと考えてくれ。
「突然ごめんね。なんか用事だとか聞いたんだけど……」
フランが変わりに対応。霊夢はもう慣れているようだった。
「あぁ、紫達なら」
「ありがと。ほら、行くわよ〜」
読心術凄いですね。霊夢の言わんとしている事を読み取ったらしく、ルーミアが霊夢の隣を抜けていった。霊夢はげんなりしていた。
藍色も続いて進んでいくのを確認し、小傘とフランも歩いていく。小町は幻月を立たせてから続いた。
「……相変わらずの神出鬼没な御一行です」
アンタも大概だよ。
さて、一足先に件の場所に到着したらしいルーミア。八雲メンバーは皆居るが、まずは紫と挨拶をする。藍色達は後から来るだろう。
「どうも。何日ぶりだったかしら?」
「貴女に言う必要は無いでしょう。分かっているくせに」
「まぁ酷い」
冗談はもう止めて。藍色が顔を出したので、本題に入る事に。
「来たわね? まあ、座りなさいな」
「貴女も客人だけどね」
ツッコミにはあえて何も言わない。とりあえず、一人が一人と対面する形で腰を下ろして行く皆。藍の前にはルーミア、星は小傘、夢子はフラン、勇儀は小町、最後に紫が藍色だ。
「さて、今から話すのは事実だけど。あなた達は、私の妄言を信じる気にはなるかしら?」
「今更」
「でしょうね。では遠慮無く」
ただ事では無いのだろう。表情の奥の、形容しがたい感情が妙な感覚を抱かせる。
「簡単に言うと、藍色が空間を移動したり変に法則を曲げたりしたのが原因の異変。幻想郷があなたの滅茶苦茶に適応した故の結果」
「私?」
「そ。まあ、適応してしまった幻想郷が問題なのかもしれないけど……最終的な原因は藍色に行き着くのよ」
紫が詳細を話す。藍以外は知らなかったようなので、生唾を飲みながら言葉を待つ。
「空間その物が穴あきなったと考えて良いでしょう。その穴から、別の次元の生き物が入って来ているのよ」
「具体的には?」
「特に把握出来てないわ。知的生命体か、獣か」
……ああ、何となく読めたぞ?
「言いたい事は分かる?」
「責任をもって、どうにか対処しろ」
「当然ね」
無自覚とはいうものの、原因が自分なら自分で何とかしろ。という事だろう。
多分、紫は少なからず怒っている。自分の子供のような幻想郷が、このような事態になっているからか。
「まぁ、それに合わせて提案があるわ」
その怒りを藍色に向けるのは、見当違いという物だろうが。そんな感じの事を考えたであろう紫から、何やら提案があるらしい。
「一時休戦を求め」
「許可」
「……まあ、予想してたわよ」
「いや、アンタはそれで良いのかい?」
勇儀、一々気にするな。キリが無いから。
「空間や結界に関しては私達が対処するわ。藍色達は幻想郷に散らばってしまった生物の対処を」
「うん」
「……さて、質問を受け付けた方が良いかしら?」
切り替えが早い。
「なら、私がしましょうか」
ルーミアが進み出る。皆の出番は無くなった……だろうな。言いたいこと全部言われちまう。
「相手の対処は具体的に何をすれば良いのか。追い返すのか殺すのか、それ位は教えて頂戴。あと、知り得る情報を提示して貰えれば助かるわね」
「対処の仕方は随時考えてほしいわね。話が通じれば追い返して、通じないなら別の手を」
殺すのは最後の手段に、と付け加えた。
「情報だけど、普通の妖怪との見分け方くらいかしら。大抵は妖力が無いか、異質。全部が全部じゃないから、詳しい見分け方なんて聞かないで頂戴ね」
「はいはい。よく目撃する場所は?」
「あちこち。人里には出現してないわ」
騒ぎにならなければ良いが。
「次、既に知っている人物は?」
「このメンバーだけよ」
……おや、そうなのか。少し意外だった。
「今後悪化する可能性は?」
「おそらくあるわよ。具体的には、生物の移動が頻繁になったりするかも」
面倒臭いな。
「その生物は食べられる?」
おい!?
「美味しくないわよ」
……そして、大した反応が無いこの面子。やはり妖怪か…………って紫、食べたのか?
「能力持ちが居る可能性は?」
「ほぼゼロ。居たら厄介だけど、世界の法則が違うからそう判断したわ。向こうは向こうで何かあるかもしれないけども」
その辺りの情報は無いらしい。あれば便利だが……
「じゃあ最後。解決に最低何日必要?」
「上手く事が運べば三日」
「ありがとう」
ルーミアが下がったのを確認し、藍が進み出た。
「紫様。私達は具体的に何をするのか、お聞かせ願います」
「そうね。次は私達のやる事を説明しましょうか」
と言っても、内容は至ってシンプル。異常のある空間の場所に行き、紫と藍で修復。後の三人はその間の護衛だ。
「他に質問は…………無いわね。では、各自出発して下さい」
藍色一行は各々立ち上がり、移動する。個人的に話したい事とかは無いらしい。
「……何も、私達が手伝う必要は無かったのでは?」
星が口を開く。まあ、確かに一行だけでも対処可能な問題だろうが。
「必要は無いわね。でも、個人的な理由で私はこの問題を解決したいの」
「個人的な理由ですか。まぁ、何となくは分かります」
夢子が言う。まぁ、紫の原動力は間違い無く幻想郷だからな。
「さて、早めに出発するわよ」
八雲メンバーは、何も言わずに部屋から立ち去った。
「聞いてた?」
「聞かねェ手は無ェだろ」
「うん」
結局、幻月はしっかり聞き耳をしていたようだ。隣には夢月と、何故か霊夢。
「あれ、霊夢も聞いてたの?」
「聞いた方が良いんじゃないかなと。勘だけど」
「毎度の反則級の勘か……」
小傘の問いに答える霊夢。霊夢の勘は一種の未来予知だろうと思うのだが、どうだろうか?
「聞いてたならそれで良い」
「藍色がそう言うなら、私も」
「あっそ」
別れは淡白に終わり、藍色一行は黒鳥に乗り飛び去る。黒い点が見えなくなった辺りで、幻月が霊夢に聞く。
「で、俺らはどうすンだ?」
「しばらくはいつも通りよ。人里の住人がこの事を知ったり、誰かが話しに来たのなら動くわ」
「分かりました」
変に巫女が動くと、不安を煽る可能性もある。『巫女が勝手に動いた不安』よりも、『巫女が動かない不安』から『巫女が動き出した安心』に変え、それを住人に持たせるべきだろう。
だから、誰かが報告するまでは動かない。それだけだ。
「ま、それに備えるのは有りでしょ。幻月、組み手に付き合って」
「弾幕か?」
「死合い」
「ケケケッ待ってましたァ!」
「お茶淹れてますね」
「さて、どうしようか」
見ようによっては、紫のあれは押し付けに見えなくもないなぁ。なんて考えつつも小傘が聞く。
「私、色々やりたい事があるの」
「おやフラン、いきなりだね。まぁ言ってみなよ」
「文に言って、私達と同じ事をしてる人達に連絡してもらうの。で、手伝ってもらえないかな〜、なんて」
確かに自衛云々もしてもらう可能性は高いし、ちょっとした対処法を教えたり出来れば問題も少なくなるだろう。藍色はオーケーを出した。
「あとね」
で、二つ目が問題だった。
「その生物の血って、吸血鬼的には美味しいのかな」
「……合意の上なら良いかもね」
「合意でも駄目!」
小傘が止めた。未知の物を食すのは危険じゃないか? と。しかし……
「紫は食べてなかった?」
「……あ、そういえば」
「…………ま、美味しくないとか言ってたし、やめときな」
紫、大丈夫だろうか。さて、三つ目は……
「……で、その生物は本気で戦って良いの?」
「さあねぇ。私はまず無理だけど」
「弱いから無理」
「能力か」
「うん」
相変わらず便利だな。
「相手側の空間に移動すれば、実力のある者が居るので可能。ただし、こちらが攻撃を仕掛ける形になるから関係はまず険悪になる。だから紫が容認しないと思う」
「ご主人様は?」
「やりたい」
やりたいんだ。しかし、わざわざ幻想郷を危機に晒すわけにも行かないだろう。相手がそもそも攻撃的でなければ、やる意味は無い。まぁ、この話はパスだ。
「方針は決まったわね」
「じゃ、文呼んで行動しよっか!」
「うん」
藍色初めての異変。ただし、原因は自分ではあるが。
……さて、どうなる?
今日の幻想郷、場所は紅魔館。
「はぁ、霊夢が?」
「お昼頃に紅魔館の屋根に寝転がってました。あと、あくまで『それらしき影』ですので、本人とは限りません」
「咲夜が見間違えるとは思えないけども……パチェ」
「何よ」
「お昼頃に屋根に霊夢は居た?」
「お昼頃に屋根? ……紅魔館の敷地に霊夢は入ってないわよ」
「え?」
「お昼頃の屋根に、霊夢は居なかった。以上」
「ではやはり……」
「いやいや、あくまでも霊夢は居なかっただけ。確かに誰かは居たのよ。誰かは知らないけど」
「……う〜ん?」
今日も幻想郷は平和です。
久し振りの投稿です。というわけで、少々書き方を模索しながら書いた章で、そのせいかやや短いです。では改めて、天色の空椿です。
今回からは異変パートその一です。その一とは、これが解決してもまだまだ起こりますよ、という意味です。
この異変自体は長続きしません。ある程度暴れたらとっとと解決してしまいます。ラスボスらしき人は出すかどうかまだ決めてません。
ご存知の方もおいででしょうが、藍蓮花休止中に一次を書いていました。藍蓮花は復活しましたが、一次を更新停止すると、せっかく楽しみにしてくれている人が居られるので、かなり勿体無いです。
と言うわけで、更新速度には影響が出るでしょうが、この二作を同時進行します。何卒、ご了承下さい。
さて、せっかく復活したんです。あれも復活させませんと。何を? あれです。
藍蓮神社です。そう、また前のようにお賽銭を募集するのですよ。一個も来なくても、あれが無いと藍蓮花はここまで来なかったでしょうしね。もしお賽銭を入れて頂けるお方、もう少しお待ち下さい。
さて、今回はこれまでにします。どうか、またこれからも『東方藍蓮花』をよろしくお願いします! ではノシ