藍色と亡霊 内緒話は敵だ
永琳からお土産を貰った藍色はまた宛もなくフラフラしていた。
フラフラし過ぎて、実はマズい所に居るのに全く気付いていない。
「……階段?」
マジでどうやって来たの!? と言いたいが、藍色はまさかの白玉楼に迷い込んでいた。そして黙って階段を上り始めた。どうも好奇心が先行したらしい。周りの霊魂のような物が何故かついて行く。
「長いね」
そう、長い。長すぎて頂上が見えない。妖怪でもなければ半ばも行かずに力尽きると思われる。妖怪でも疲れそうだが……
で、藍色は誰に話しかけたんだ?
しばらくなんのイベントも無いのでスッ飛ばさせて頂きました。仕方無いね。
延々上り続けた藍色を待っていたのは門だった。門は閉ざされていて中に入れない。
「……開いた」
普通はね…………
やり方は簡単。門が開く確率を上げ、真正面から堂々と不法侵入。藍色さん……
抜けた先は大きな庭で、とても美しい。誰かが毎日手入れをしているのが良く分かり、背後の屋敷を更に壮大に見せている。
遠くには桜の木もあり、庭の一部として堂々と立っている。その大きさは他の桜が目立たぬ程であり、これが満開になればさぞかし美しいだろう。
残念ながら、枯れているのでその姿はお目にかかれないが。
そんな桜に藍色は興味を示した素振りは無く、屋敷の中に悠々と侵入した。
よい子は真似しないでね。
広い屋敷だと言うのに人は居らず、白い饅頭のような霊魂がふよふよ浮かんでいるだけである。美味しそうには見えない。
そんな饅じゅ……霊魂達を気にも止めずに進む藍色。後ろは大量の饅頭……霊魂で賑わっている。何故ついてくるんだ?
廊下の角を藍色が曲がると、目の前に丁度通りかかったであろう少女が――
「曲者ッ!」
二つの刃を剥いてきた。
特に驚いた様子も無い藍色は真後ろに跳躍し、饅じゅ…………饅頭達を潜り抜けた。
「えぇ!? どうしてこんなに……じゃない!」
真っ白な目の前にびっくりした少女だが、すぐに落ち着きを取り戻して藍色を追う。
「きゃ〜」
追われる藍色はわざとらしく怖がりながら走る。どうも楽しんでいるように見える。
はしゃぎながらも鞄に強い振動を加えないようにしているのは上手いと言うべきか。
「きゃ〜じゃありません!」
右足を力強く踏み込み、速度を上げる少女。よく見れば先程振り切ってしまった饅頭のような物が少女にくっつくように飛んでいるのが見える。
「じゃあキャー」
それ、大して変わらんぞ。
慣性の法則を鼻で笑うかのような急停止を見せた藍色。少女はすぐには止まれずに廊下を滑り、その間に藍色は反対方向に走り出す。
「キャーでもありませんって!」
体制を立て直した少女も後を追……
「って……あれ?」
藍色が居なかった。しばらく呆然としていたが、やがて二本の刀を鞘に戻して歩み出す。
「とにかく、幽々子様に報告しないと……」
落胆しながら。
「良い子は人に刃を向けないようにね……」
独り言を呟きながら館を進む藍色。良い子は屋敷に不法侵入はしないようにね……
特に目的があるわけでもなく、偶々そこにあった障子を開く。
「あら、あなたはだぁれ?」
「……」
だから、この女性との出会いは本当に偶然だと思われる。
「藍色」
「そう、藍色ちゃんね?」
ピンク色の髪をしたその人は、ふわふわした笑みを崩さない。
「私は西行寺幽々子、ここ白玉楼の主にして冥界の管理人よ」
「そう」
何気に凄い立場の相手に対してもいつも通りの藍色。カリスマが効かないのか?
「あなたはどうしてここに?」
「進行方向にここがあったから」
一体どこをどう進んできたのやら……
「それなら仕方無いわね」
幽々子は扇を開いて口元を隠す。それでも雰囲気は笑っているように感じる。
「ところで」
「何?」
「白玉楼にはとても優秀な庭師がいるのよ。もう庭は見たかしら?」
「うん」
綺麗だった。と全く装飾の無い感想を藍色が述べると、幽々子は目を弧にした。
「そう、主人としても鼻が高いわ」
「ふぅん」
「……で、いつまで立っているの? こっちに来て座りなさいよ」
「うん」
「しかし、あの人は一体何なんでしょう……」
一方の少女。相手に逃げられた事を悔しがりながらも、主の部屋に歩を進める。目的の部屋には割と早く到着した。
「幽々子様、失礼しま……」
大量の饅頭達により、少女の目の前が真っ白になった。
「じゃない! 幽々子様! どこですか!?」
「妖夢、こっちよ」
やっと名前の呼ばれた少女、妖夢は声を頼りに進む。やがて見慣れたピンク色の髪を見つけ、ホッとした。
「何ですか? これ……」
「なんだかそっちの子に寄って来ちゃったみたいなの」
「そっちの子?」
閉じられたら扇に指された方を見ると……
「……お茶が飲みづらい」
先程見た藍色の侵入者が饅頭に囲まれていた。妖夢は呆れながらも二振りの刀を抜いた。
「はあっ!」
そして軽やかな動きで距離を詰め、藍色に向けて振り下ろした。
「当たらない」
しかしその太刀筋は藍色を通らず、急に曲がって藍色の隣を切り裂いた。
「な、え!?」
「お座り」
藍色がそう言うと妖夢の体は自由を奪われ、藍色の目の前に正座をしてしまった。
「何で……」
「もう話した」
「私は話して貰ったわよ?」
妖夢が来る前にお互いの紹介を済ませていたようだ。
「彼女の名前は藍色。妖怪で、年齢百歳くらい。確率を操る程度の能力を持ち、ここに立ち寄った理由はたまたま通りかかったから入ってみただけ。だそうよ?」
「冥界にたまたま通りかかるってどうなんですか……」
「さあ?」
藍色にしか分からない事だ。
「だから、ただのお客様。襲うのはお止めなさいな」
「……はい」
もう大丈夫と判断したのか違うのか。とにかく藍色は妖夢を自由にした。
「それより妖夢、せっかくだから皆でおやつを食べない?」
「そうですね。探してきます」
妖夢は立ち上がり、部屋を出て行った。
「……あら、紫。来てたの?」
「今来たのよ」
宙にスキマが開き、いつか見た女性が現れた。
「紫」
「あら、藍色じゃない」
藍色は軽く手を振り、紫も微笑みを返した。
「どこに流れて行ったのかと思えば、こんな所に来てたのね……」
「あらあら? この子は旅人なの?」
幽々子が興味を示した。
「まだ幻想郷に来て一ヶ月も立ってないのに、幻想郷の大体の場所には行ったわね……」
「どこに行ったの?」
藍色が口を開いた。
「紅魔館、博麗神社、妖怪の山、守矢神社、人里、永遠亭、白玉楼」
「凄く歩いたのね~」
「別に」
せっかく誉めたのに~、とわざとらしく悲しむ幽々子。口でよよよとか言っている。
「地霊殿、命蓮寺、香霖堂がまだね。霧の湖もスルーしたみたいだし……」
紫が口を挟み、藍色が反応する。
「あら、行くつもり?」
「おやつ食べたら」
「そのおやつが到着しましたよ」
ここで妖夢が到着。手には菓子の山積みになったお盆。
「多いね」
と藍色は言うが、
「妖夢、これだけだと足りないわよ」
「せめてもう二つ無いとマズいわね……」
二人はこの反応。
「残りはいつもお菓子をくすねている紫さんに出して貰おうかと」
「うぐっ」
そんな事してたのかお前は。
「昨日私のお煎餅が少なかっ」
「さぁさぁ! 今日は八雲紫のお菓子パーティーよッ!」
スキマから大量の菓子を出してごまかした紫。藍色は既に食べ始めていた。
「紫、大好きよ〜」
単純だった幽々子も食べ始めた。かなりのハイスピードだが。
「全くもう、最初からやらなければ良かったんですよ……」
呆れた妖夢ものんびり食べ始め、紫も泣きながらお菓子に手を伸ばしていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
謝っても遅いと思う。
その後、おやつの時間を終えて藍色は白玉楼を後にし、妖夢も廊下の掃除の為に部屋から出た。賑わっていた饅頭達も散り散りになり、部屋には幽々子と紫だけになった。
幽々子以外の三人は全く食べれてないのはここだけの話である。
「……ねぇ、ちょっと話があるのだけれど」
「何かしら?」
幽々子は少し真剣な顔になり、紫を見つめる。
「あの子の妖力、百歳にしては少々多すぎなんじゃない?」
「……そうね、ちょっとおかしいわね」
紫も、ここ一ヶ月の事を振り返りながら返事する。
「確かに、量だけなら紫や例の花妖怪の方があるでしょうけど……」
一つ間を置き、幽々子は言う。
「年季が違うわ。あれは万の枠に収まらないわよ」
「あ、そんなに?」
「妖怪の賢者も老いたかしらね……」
「ちょっと、何よそれ」
頬を膨らませてみせる紫。幽々子は流した。
「それに、旅をしている間全く睡眠を取ってないらしいのよ」
「ああ、それはスキマで覗いてたから分かるわ。休みも無く歩くから頑張るわね〜としか思って無かったわ……」
「私も聞いてすぐはそうだったわ。彼女の妖力を感じてやっと違和感を覚えたのだけれど」
ふ、と先程の会話を思い出す幽々子。
「嘘をついた様子は無いのよね〜……」
年季の入った妖力は事実。そして藍色の言った百歳も嘘には思えない。
「友人に頼むのは気が引けるけど、ちょっと調べてくれないかしら?」
「私もそのつもりだし、引き受けるわよ」
背後にスキマを開き、倒れるように消えた紫。見送った幽々子は一人溜め息をつく。
「厄介な事にはならないでしょうけどね……」
「おやつ、あんまり食べてないなぁ……」
口の寂しい藍色だった。
シリアスを挟んでみた。正直なんとも言えない出来上がりだが。
頑張って上手く書けるように成長していきます……
ちなみに、藍色はしばらく場所巡りします。あと、命蓮寺の登場キャラについては寺のメンバー数人+おどろけ~の子+ぎゃ~て~の子が出る予定。他の子は未定。
まあ命蓮寺にはまだ行かないけどさ。
永琳の薬は鞄にいくつか入っており、しばらく持ち歩きます。