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東方藍蓮花  作者: 空椿
77/114

藍色と女神 衝撃は敵だ

「……あー、小町? 大丈夫?」


「いやぁ、あたいの人生設計が大幅に狂った位で特に支障はないさ。あはははは」


「凄い乾いた声……」


「ごめん」


「いや、ご主人様は悪くないよ。あえて言うならフランかもしれないけど」


「でも私は謝らない!」


「こ〜ぉら。後でちゃんと謝りなさいよ〜」


 適当な列になって森を歩く二人。前列は藍色、次に小傘とフラン、その後ろに小町一人で、殿にルーミアとみとりが並んでいる。ちなみに、小町の目は死んでいる。


「この集団はまるで家族だな」


「そ〜ね。すっごく分かりやすく言っちゃうと……」


 ……変な事言わないよな?


「立場的に私が長女、藍色が次女、小傘が三女でフランが四女みたいね。ただ私の考えだと、私が母親、藍色は長女でフランが次女、小傘はペットの犬なのよね」


「犬!?」


「だって藍色には特別従順じゃない。藍色に三回回ってワンと言え、なんて言われて反抗する?」


「……………………しないかも」


「そこは否定しなよ。本当に犬と言われても良いのか?」


 同行者みとりにツッコミを入れられた。


「それは置いといて……藍色、まだ着かない?」


「もう近い」


 フランの質問に藍色は答えた。近いと言うので、それに従いもう少し歩いていくと、ほんの数分で水の音が聞こえてきた。


「到着だね」


「……川を見るのは久し振りだ。ここに義妹が居るのかい?」


「河童は基本的に川に居る」


「ま、早く呼び出しちゃいましょ」


 藍色が川に向けて声をかける。それは良いのだが、ついに小町が会話に参加しなくなってしまった。


「にとり〜」


 水から何かが出てくる音がする。次に風景に新たな色が塗られて行き、にとりが現れた。


「はいはい、お呼びかな?」


「確かにお呼びだよ、にとり」


「……ひゅい!?」


 みとりが一歩前に出て顔を合わせた。まさか居るとは思わなかったのか、にとりの方はやけに驚いていた。


「ね、義姉さん? なんでここに……」


「後ろの藍染トラブルメイカーを見れば概ね分かるだろう。最たる原因もそいつだ」


 にとり、すぐさま納得。でもみとりが一行と話すようになったのは小傘の…………

 やっぱり瓦礫かもしれない。


「地底の住処が居住不能にされた。悪いが、お前の家に住まわせてくれ」


「やっと会いに来れたんだ、これからは二人で暮らそう」


「おい唐傘、嘘の通訳をするな!」


「驚くべき事に、心の声が聞こえてしまったので仕方無いのであります隊長!」


 敬礼までしっかり決めた。でも誰が隊長なんだろう。


「あ、でも私も聞こえたわよ」


「私も」


「……これ以上の詮索はするな! 禁止だ、くそ!」


「能力効かないようにしてるけど」


「うるさいッ!」


 状況の変化に一切着いて行けてないにとり。というかむしろ、義姉の変化に驚いているらしい。


「義姉さん、なんか昔と比べてよく喋るね……」


「会った時と性格違うね」


「お前達が原因だからな」


 むむむ……


「むしろこっちが素だよ。しかし、幻想郷で猫被りはあまり珍しくないんじゃないか?」

「え?」


「お前ら問題児を正す為に戦士を演じる星とかいう虎、幻想郷の全てを存在を我が子と見る母性の塊を、胡散臭い仮面で隠す八雲紫。人付き合いの無い私が見た奴らだけでこれだろ?」


「義姉さん、それはこの集団が特殊なだけだから」


 誰も否定しなかった。そして、みとりなまさかの観察眼にも誰も口を出さなかった。


「と、に、か、く。送ってくれてどうも、だ。お前達に借りを作っていると、後々とんでもない事に使われそうで面倒だ。今度返されに来い」


「そうする」


「……黙って聞いてたけどさ、そんな言い方は」


「小町、せっかく復活してくれてすぐなのに悪いけどもう少し黙ってなさい」


 小町復活。しかしまた黙らされた。


「じゃあね」


「また来なよ〜」


 お互い手を振って別れた。大体離れたかな? という所で……


「あれね、照れ隠しみたいな物よ」


「照れ隠しぃ?」


「正面から言うと恥ずかしいからわざとひねくれた表現にしたみたい」


 何だかんだ言いながらも再会の約束はしてくれたし、借りもちゃんと返すと言っているような物だ。ツンデレなのか?


「そんな事より、小町はこれからどうするの?」


「ん、仕事探しは続けるけど……なんだかブン屋が妙な噂流してそうだし、余計に難しくなったかもね」


「幻想郷の大体の場所でアウトだったし、人里でも気味悪がられてるし」


「霊夢は雇うだけで給料は出さないし」


 人並みの生活してても、他人に分け与える程に余るわけが無いしね。

 他の職場候補も、紅魔館は咲夜だけで事足り、白玉楼も幽々子本人が趣味と称して家事諸々の手伝いを始めたから必要無し。人里は全て撃沈し、永遠亭は逆に仕事と呼べる物が無いのでお呼びでない。他の場所もそんな感じで、小町を雇ってくれそうな場所は無い。


「いっそ妖怪の山に住むかねー」


「それは天狗が許しませんよ、死神さん」


「お?」


 真上から声。見上げてみれば少し見慣れた顔があった。


「皆様、お久し振りです。椛ですよ」


 仕事モードだ。隣にこいしは居ない。


「久し振り。こいしは?」


「天魔様との交渉の結果、元々嫌われてる方の覚妖怪を表に出すのは秩序が乱れるとの事です。私としても騒ぎを起こしたくはないので、しばらくは私の部屋で大人しくするか、表向きは監視として私が常につきっきりかのどちらかです」


 これでも随分妥協した方だ。と文の風の噂で後に聞いた。


「今日は部屋に居るんだ」


「はい。時々無意識に出かけてしまいますが、一応お互いの位置は把握出来ますし問題は無いです」


「凄いね。見る事に関しては二人とも幻想郷トップじゃないかな?」


「透視技術、視野拡大などの訓練も既にしてますし、いざという時にお互いのアイコンタクトの練習もしてあります」


 用意が良い。万一を想定しての事だろうが、それにしてもやりすぎではないか?


「ちょっと過剰じゃないかい?」


「こいしが自分で望んだんですよ」


「……ま、いくら訓練しても能力持ちに追いつくのは難しくでしょうがねぇ」


 椛と比べてしまえば、こいしの目は劣化版と言えるだろう。その分、相手に気付かれず行動出来たり勘が優れていたり椛より有利な部分は多いが。


「本当、藍色の考えは凄いと思うよ」


「私からすれば、皆何故この考えに行き着かないのか謎だった」


「考え方の違いじゃないかなぁ」


 そもそも、藍色と同じような考えに行き着いた奴が居るとは思えない。


「考え方と言えば、ご主人様って記憶とかの考えも特殊だよね。荷物って言うし」


「荷物?」


「重い記憶は旅を楽しめなくする」


 しかし……


「藍色、もう頃合いだと私は思うのだけど?」


「確かに、重い荷物も軽く持てる皆が居るでしょ?」


「まだ。まだ早い」


「……仕方無いわね〜」


 藍色は強情、しかも無駄に。


「……待てと言うなら待てば良いではないですか?」


「だから犬なんて呼ばれるのよ哨戒天狗」


「…………私は狼ですよ……」


「あれ……何でか同情出来てしまうよ」


「しないで下さい……」


 小町と椛が二人で遠くを見ている……うーん、小町は何か通じる所があるのか?


「ご主人様の事だからいつまでも拒否しそうだし、今言っておいた方が何かと良いんだよ、多分」


「でも却下」


「藍色〜……」


 藍色の問題のこの事を知らない椛だが、ほぼ聞いていないから完全にスルーだ。

 そんな皆に導かれたように、久々の再会。


「あら? 藍色じゃない」


「皆様、お元気のようで何よりです」


 天子一行だ。皆が騒いでるのを拡散していた萃香が感じたらしい。天子が前を進み、衣玖が天気を調べ、萃香が索敵というコンビネーションが出来上がってい……おや、後ろに誰か居るようだ。


「ん? 後ろのは誰?」


「私達の目の前でいきなり幻想入りした子よ。ひっじょぉぉぉ〜〜〜に問いただしたい事が沢山あるのだけど、物凄い衝撃か何かで記憶がすっ飛んでるのよね」


 天子が不愉快な様子で答える。何事かと小傘とフランが覗き込むが、逆にこちらが驚くはめになった。


「…………は、初めまして……」


 何というか、天子をそのまま白くしたらこうなるのかなという姿だ。記憶が無いせいか奇妙な程に挙動不審というか、周りをしきりにキョロキョロしている。


「天子にそっくりだろう? 記憶が無いし、真実の確かめようが無かったんだ」


「……その言い分だと、こっちを頼るように聞こえる」


「察しが良いわね。出来るなら、今回は失敗しないで欲しいわ」


「小傘、準備」


「うぇ!? わ、わかったよ」


 時間のかかる小傘を最初に準備させ、藍色がフランの能力を使いつつ無理矢理成功させにかかる。

 天子にそっくりな女性は、抵抗や拒絶を見せる事も無く素直に受け入れる。何者なのか意外にもすぐに分かりそうだが、ヤバい奴だったらどうしよう……

 凄く面倒な事に片足を突っ込みそうなのだが、そんな滅茶苦茶な方法を取っている皆を横目に、ルーミアは天子と衣玖を誘って世間話をしていた。


「彼女と出会ったのは最近なのね」


「はい。日にちや時間を比べてみても、恐らくそちらの御一行が仙界に突入した直後位かと」


「仙界進入時に結界に変な影響与えたかしら…………八雲からの接触はあったの?」


「現時点では無いわ。連絡が無いのはいつもの事だけど、それにしたって動きが無いわ。あの子の事が気になるし、出来ればこちらから会いに行きたいけど……」


「……そう言えば、名前は判明してるの?」


「していません。ですが、どこか神々しい雰囲気をしていますし、何より天子様と名前が同じというのも困りますので、仮の名前として『姫様』と呼ばせて頂いてます」


「ちょっと待った」


 ルーミアストップ。


「今『天子様』って言ったわね」


「あ、その事?」


「本人に言われましてね。今は同じ旅の仲間なのに、いつまでも地位とかを気にしてたら私が楽しめない。名前で呼びなさい。とね……」


「でも、上の立場の相手に失礼な事を言うわけにも行かず。結局下の名前に『様』をつけて妥協した……って感じかしら」


「バレバレね〜」


 そんな話をした後、姫様を見てみた。まだ進展は無いらしい……

 藍色、現在三十五連敗中。ありえん(笑)


「姫、あんた自身は何か思い出したの?」


「い、いえ何も……すみません」


「謝るなっての。何回言ったかしら……」


「あ、そうでした! すみませ……あ」


「……キリが無いわ」


「現時点ではすぐに謝っちゃう性格という困った性格でして。記憶さえ戻れば……」


「難しくわね。藍色、今日は絶不調だし」


 五十回達成してるし。ついに投げ出した。


「小傘、任せた」


「えぇ!?」


「藍色ぉ〜……」


 仕方無いじゃない、仕方無いじゃない。最近調子良かったんだから。

 と言いたげな藍色をルーミアが宥めつつ、天子と衣玖と姫様で世間話をし始めた。小傘に動きがあるまで待ってほしい。

 ……ん、小町と椛と萃香? なんか風下で酒盛りが始まってる。







「よっし、準備出来た!」


「お?」


 小傘がバッと立ち上がり、姫の前に立つ。


「な、何か分かり」

「失礼しま〜す!」

「え!?」


 唐傘を大きく振り上げ……姫の頭に向けて!


「チェストー!」


「あだーっ!?」


 痛そうだ。


「こんの!? 一妖怪風情が私に何て事して……あら?」


「あ、変わった」


「まさかのショック療法!?」


「天人の驚き頂きました〜。はぁ〜、満たされるわ〜……」


 まあさておき、姫を呼ぶ衣玖。頭が痛いらしいが、割と素直に来てくれた。


「お話、出来ますよね?」


「まあね。特にあなたには良くしてくれた事を覚えてるし、従ってあげるわよ」


「ありがとう御座います」


 なんか、天子に似てる。天子本人は納得いかないようだ。


「名前を聞かせてくれますか?」


「比那名居天子。でもこっちの名前より、『女神天子』なんて呼び名の方がよく使われるわ」


「……女神。では、次から女神様と呼んだ方が良いですか?」


「滅茶苦茶不自然だから姫でいいわよ、衣玖」


 ルーミアはしっかり考えを巡らせる。現時点で有力な説は、並行世界から何らかの影響で紛れ込んだか……という説だ。そうでなくては、天子にそっくり過ぎて不自然だ。


「では、あなたはどうやって此処に来たのか……説明出来ますか?」


「それについてはちょっと専門的な言葉が出て来るけど、良いかしら」


「問題は無いわ、早く説明してよ」


「ごめんなさいね。じゃあ説明しましょうか……」


 どうやら、ルーミアも興味津々らしい。


「私の居た世界は……難しい表現になるけど、並行世界の集合体みたいな場所。通称『MUGEN』と呼ばれる場所なの」


「MUGEN?」


「そう。そこには様々な人物が存在するわ。物語の中しか存在しない奴、とある人物をそのまま改変したような奴、どこまでもふざけた奴……私はその中の一人よ」


「……幻想郷の住人は居るのでしょうか?」


「間違い無く居るでしょうね。私が証明になると思うわ」


 天子を横目に見ながら言う。姫もどこか微妙な空気だ。


「特に博麗霊夢はやたら多いわね。私が記憶してるのでも、『禍霊夢』『白麗霊夢』『鬼巫女』『本気巫女』とまあ……こんな感じよ」


「霊夢が沢山居るなら、異変も一瞬で解決でしょうね」


「あ、ごめんなさい。大体は間違い無く異変を起こす側よ。しかもそれぞれ滅茶苦茶強いわ」


「なにそれこわい」


 ほんとに怖い。ルーミアが藍色達に目線を送ると、風上からしっかり聞いてた。風下は酒盛り真っ最中だからやむを得ずね……


「……質問します。天子様と似た人物は居ますか?」


「えっと、私と…………う〜ん、居たかしら? 覚えが無」


 なんか固まった。


「居たわ。この上なく変な奴だけど」


「やっぱり居るのね。で、誰よ?」


「曰わく、『謙虚な天人』。言葉遣いに難がありすぎて困る奴よ……」


「例えば……って聞いて良いかしら」


「言わせないで、お願い」


 はい。


「まあ、個性的な奴が沢山居ると考えれば言いわよ。あと、MUGENではほぼ全ての奴が戦えるわ」


 ガタッ。


「ルーミア、座って」


 ガタン。


「概ね理解出来たけど、なんであんたはここに?」


「……多分アレの仕業かしらね〜」


 アレって何ですか姫さん。


「いやね、ある程度個人を特定出来る言葉出しちゃうけど……」


「……何かろくでもない理由な気がする」


「そうなのよ。調子こいて適当に喧嘩売って回ってたらありえん(笑)とか命は投げ捨てる物とかぶるあぁぁぁとかの皆を一斉に怒らせちゃってねぇ」


 ……はい?


「全員が最大火力の技発動して世界がブラックアウトしたのよ。いやぁ、低スペックな空間は怖いわね〜」


「最後の辺りはちょっと専門用語混ざってて分からないよ」


「まあ良いわ。重要な質問が出来たから」


 ルーミアがニコッと笑った。失礼だが滅茶苦茶怖い……


「今の話を私なりに総合したんだけど、あなた強いでしょ? 手合わせしてくれないかしら」


「やめて! 幻想郷が消え去る!」


 何かもう滅茶苦茶なので、非常に好戦的になっているルーミアを何とか抑えて最初から情報をまとめる事にした。酒盛り真っ最中だった三人は小傘が酔いを覚ませて強制参加させた。この時点で落ち着いてない気がする……







「さって、私とルーミアが最初からまとめるわよ。心して聞きなさい」


「わ〜!」

「ぱちぱちぱち〜」

「良いから早くしてよ……」

「む」


 萃香も椛もしっかり強制参加させられている。一応確認すると、一番目立つ場所に姫さんとルーミアが並んで立ち、藍色、フラン、小傘が前列に座り、後ろに小町、萃香、椛、こいしが同じように並んで座っている。


「先に言うけど、出来る限り他言無用でお願いするわ」


 了承。


「さて、まずは視点はMUGENから始まるわね。女神天子、愛称姫はここで問題を起こして激闘が発生。不特定多数な人物に集られて攻撃された辺りで突如世界がブラックアウト。そこで一旦意識が途切れる」


「攻撃された理由とか聞くのは野暮だよねぇ」


「追求は無しでお願い。で、その時の衝撃でどっかぶつけて記憶がすっ飛ぶ。なんとまあ挙動不審で可憐な少女に早変わり、と」


 自分で言うかお主は。


「で、その場で天子一行に保護された。この時、時間軸としては私達藍色一行が仙界に突入した直後になるわ。現時点では関係性は薄いけど、藍色の能力で無理矢理入ったからどこかで何か起こったかもしれないわ」


「記憶の無い私だけど、特に衣玖に助けられたわ〜。礼儀正しくて優しくて、私もあなたみたいな人が友達だったら良かったわ……」


「それはどうも」


 ちょっと嬉しいようだが、天子はふくれっ面だった。妬いてるのか?


「で、数日行動を共にする。一応表沙汰にならないように隠れながら移動していたみたいね。大体の奴は気付いてないみたいだし……あ、椛。文は気付いてた?」


「文様と私は既に気付いてましたよ? ただ、わざわざ隠れている人を表沙汰に晒すのは嫌なので、触れはしませんでしたが」


「あぁ、あんたはこいしが居るもんねぇ」


「成る程ね〜」


 どうも、同情の念が出たらしい。


「で、何かともめていた私達を発見し、記憶を何とかしようと合流。今に至る……以上よ。質問は?」


「ん」


「はい藍色」


 藍色がまず質問。


「あなたは強いの?」


「ブッ!?」


 そして小町が噴き出した。のっけから何という質問を……


「いきなり凄い質問したね、藍色。でも私も気になっちゃうな〜」


 やっぱりフランも気になったらしい。他の皆も一応気にはとめていた質問だったのか、何気に皆聞こうとしていたりする。


「……ん〜、適当に攻撃してたら勝手に皆倒れてるのよね。だから強いかなんて分からないわよ」


「それは酷い暴力だ……」


「あ、これは強すぎて相手にならないな……」


 一瞬でルーミアの笑顔が狂った。小傘とフランが慌てて抱き付いて止めた。


「やめて〜! ルーミアさんやめて〜っ!」


「幻想郷が無くなっちゃうよ!」


「おいフラン、日傘日傘!」


 結果的に小町がフランの日傘を持って近付く羽目になった。まあ大事に至ることも無く……


「……次の質問あるかしら?」


「じゃあ私が」


 まだ興奮状態のルーミアを落ち着かせる為に、姫に続けさせた。質問は天子がするようだ。


「あんた以外に誰か来てるかもって奴は居る?」


「知らないけど、大乱闘中にその場に居た奴は来てるかもしれないわ。ただ、禍霊夢と天魔はどこかに居るかも……」


「危険な奴かい?」


「鬼よりは危険だけど、禍霊夢は変に刺激しなければ大人しいし、天魔も結構優しい奴だから」


 どうも、天魔は幻想郷の天魔とは違うらしい。情報によれば文にそっくりという事が分かったが、幻想郷に居るかどうかはハッキリしない。


「次で最後にしましょうか。誰か居る?」


「はい!」


「はいこいし。まずこっちから言わせて頂戴」


「なぁに?」


「ごくごく自然に紛れられると対応に困るのよ……」


 この辺りで、皆がやっと異変に気付いた。


「こ、こいし!?」


「いつの間にか紛れ込んでいたようですね……」


「椛、気付いてなかったの?」


「い、いえ……気付いてましたけど、能力のせいか不自然に思いませんでした……」


「ごめんなさ〜い。で、質問していい?」


 ……まあ、追い返すのはアレなので進行した。そういえば、ルーミアと姫による説明の辺りから既に居た気がする……


「姫様はすぐに帰るの? こっちに住むの?」


「私一人なら帰るけど、他の奴らが紛れ込んでたら私が止めないとね〜……でも、私は表舞台に立つと面倒だし、どこか良い住居とか紹介してくれたら有り難いわ〜、なんて……」


「まさか、流石にそんな場所は」

「ある」

「「「えっ?」」」

「適当な場所ならある」


 藍色が立ち上がり、ルーミアに指示を出す。レイヴンでどこかに飛ぶらしい。


「ほら、姫も天子も……あ、椛とこいしも乗っちゃえ!」


「え、え? あ〜れ〜……」







 行き先は太陽の畑。勿論、幽香を訪ねる為だ。


「他言無用とは何だったのか……」


「充分信用できると判断した」


 成り行きでついてきちゃった椛とこいしは、二人で仲良くアイコンタクトの練習をしていた。幽香との距離は開いている。


「良いわよ」


「ありがとう。次行くよ」


「お? また移動? 忙しいわね」


「住処が決定した」


「幽香と、住処と言われると……あ、もしかしてあそこ?」


「早く行くよ」


 答えは行かねば分からない。半ば強制的に椛達も乗せられ、抵抗も無視して飛ぶ。幽香も乗ったので、流石に狭くなってきた。

 と言うわけで数人が飛行する事になったのだが、最悪黒鳥についていけない可能性があるので、高速飛行が出来る人物には並行移動してもらう事に。


「姫は飛べる?」


「行けるわよ!」


「私も飛ぶわ」


 姫とルーミアがバッと降りる。何気に衣玖もフワリと飛び、黒鳥の周りを飛ぶ。結構速度が出ているのだが、遅れる事無くついてきている。姫は女神の翼を生やし、衣玖は羽衣の力で優雅に飛んでいる……

 ルーミアは何も変わってないがとりあえず飛んでいるが、「私も翼生やそうかしら〜」なんて事を冗談のように言っている。ルーミアなら何でもやっちゃいそうだから困るな……


「で、どこに向かってるんだい?」


「私の別荘よ」


「幽香さんに別荘なんてあったんですね。知りませんでした」


「まあ公にはしてなかったもの。だからって今更騒いだりしないでね、藍色と約束したから」


 まあ、了承した。


「で、姫。初めての幻想郷はどうだい?」


「自然豊かで良いじゃない。私の居た所に比べたら……まあなんというか、『普通』よ」


「相当変わった世界なんだね」


「逆に普通が見つからない世界だもの。あえて言うなら、それが普通な世界よ」


「私達には縁が無さそうな世界ねぇ。藍色は分かんないけど……あ」


 天子が何かを思いついた。


「そのMUGENとやらに、藍色みたいなのは居た?」


「ん〜……」


 その思考は、視界に夢幻館が見えてくるまで続いた。


「関連のありそうな奴すら記憶に無いわ。ごめんなさい」


「あちゃ〜。ま、どこかには居るか」


「降りるよ、準備して〜」


 おっとと。皆は黒鳥から飛び降り、ルーミアが黒鳥を回収した。


「そうだ、あたいみたいな奴っているのかい?」


「『バルバトス小町』かしらね」


「強いの?」


「……鬼。比喩とも言えない


 なかなかに面白い話題だが、当分関係無い世界の話だ。精々今はネタとして扱わせてもらおう。







 とりあえず、姫には夢幻館で生活してもらう事になった。MUGENと夢幻、偶然とは不思議な物だ……

 天子一行はしばらくこいしと同行し、椛と連絡を取りながら姫以外に紛れ込んだ奴を探す事にしたようだ。もし誰か見付かっても、交渉人衣玖が居るから面倒事にはならなそうだが……万が一何か起こった場合はすぐさまこいし、椛、文、藍色のルートで情報を伝達させ、藍色一行の能力で強制解決する。という事が決まった。

 それに合わせて、夢幻館の二人と幽香、文には協力者となってもらった。文は呼べばすぐに来たので問題無し。夢幻館メンバーも幽香が協力するなら、と二つ返事でオーケーしてくれた。この時、文は初めてこいしの存在を知った。

 で、八雲メンバーには現時点では伝えない事も決定した。他のMUGEN面子と協力でもされたら厄介だし、何も言わずに強制送還されてもそれはそれで困る。もし何かたらし込んでたらちょっと本気出して眠ってもらうつもりだ。

 これらが今後の方針だ。姫は夢幻館を気に入り、エリーとも仲良くなっていた。姫の愛称は随分気に入ったのか、今更女神と呼び直したら悲しそうな顔をしていた。まあ、MUGEN仲間には今まで通り『女神天子』で通すそうだが。とにかく姫はエリーと共に夢幻館の中に行き、藍色達と別れた。


「じゃあ、今回はもう出発しましょうか」


「そうねぇ。じゃ、私と椛は妖怪の山に戻るわね。こいしちゃん、元気でね〜」


「またね〜」


 こいしと椛はこの場で別れた。天狗らしくかなりの速度で二人は行ってしまい、皆が手を振った頃には既に見えなくなっていた。椛とこいしには見えているだろう。


「ではこいしさん、行きましょうか」


「うん。藍色達もまたね〜」

「まったねぇ〜」

「次に会うの、楽しみにしてるわ」


 天子一行も旅に戻った。さて、藍色一行だが……


「そこの死神」


「ん?」


 幽香が呼び止めたので、ちょいとストップした。なんぞや?


「藍色に何かされたんじゃないかしら?」


「……せっかく忘れられたのに」


「あら、何事も多く覚えていた方が得よ? で、何があったか三十文字以内で説明なさい」


「八雲に襲撃されたから小町の力を強くした」


「把握したわ」


 小町はやや場に流された感じだったので、本人はかなり迷惑だったろう。しかし、藍色的には嬉しい出来事であったりする。


「良いじゃない、これを機に一行に混ざっちゃいなさいよ。どうせあなたなんて藍色達位しか雇ってくれないわよ」


「ゴフッ……」


 小町が血を吐いた気がする。勿論嘘だが、漫画とかその辺りなら容赦なくそんな描写がされるだろう。


「……でも事実だよね」


 小傘の追撃、小町に九パーセントの割合ダメージ。事実でも堂々言うとかは止めようね、相手にダメージが入るから。


「あ、じゃあ雇っちゃいましょうか」


「え?」


 ルーミアが両手をポンと合わせてから言った。


「仕事の内容は表向きには用心棒としてね。給料は言い値でも用意出来るし、衣、食は保証出来るわ。住居は四六時中旅をしている藍色についていくのだから必要無し、野宿と泊まりが交互になるでしょう」


「……な〜るほど、仕事を探してるならこっちが仕事にしちゃえば良いって事だね?」


「へぇ、悪くない条件じゃないの。私があなたなら迷わず呑むわねぇ」


「む……ぐ……」


 仕事が見つからない、好条件の仕事が目の前にある、それに見合う実力がある。断る理由を潰しに来たな……?


「た、確かに好条件だ。でも迷惑じゃないのかい?」


「一人増えても問題無い」


 正直、あと一人増えてもまだ余裕ある。


「……何か不満があるの?」


「不満というか、なんと言うか……」


 散々間を置いて言った言葉は……


「なんか、面倒に巻き込まれそ」


「小町の怠慢が異変レベルの面倒になったのに、今更面倒が嫌とか言うの?」


「うっ……」


 花映塚ですね分かります。


「良いじゃないの。せっかく好条件出されてるんだし、ここらで雇われて償いでもしなさいよ。仕事熱心なのは閻魔も良い評価するんじゃない?」


「…………はい、お願いします」


「きっまり〜ぃ」


 フランがはしゃぐ。今は自分の日傘を持っているので、小傘が慌てる事は無い。


「あたいは場に流される定めなのかねぇ……」


「小舟の上で寝っ転がって、三途の川で気ままに流されてたからじゃないかな?」


「それは川に流されてるんだよ……河童じゃあるまいし」


「にとりの川流れ」


「流さないであげれば?」


 ……小町、居場所見つけたり。しかし、結局藍色達の場所に収まった事になる…………ま、良いか。


「改めて、よろしく頼むよ。出来る限り精進するからね」


「よろしく」


「じゃ、いつか形骸化しそうではあるけど給料とか決めましょうか〜」


「ちょ、今形骸化って言った? 間違い無く言ったね?」


「聞こえないわ〜」


 …………それを遠目に見ながら、幽香がのんびり考えているのは……


「またエリーの知恵でも借りましょうかね」

 なんだろうね。皆も考えてみよう!







「……博麗大結界が歪んでいた?」


「はい、結界に関わらない人物では分からない程度に。すぐさま修正しましたので、影響は無いかと」


 紫に結界の報告をする藍。本来なら紫も気付きそうではあるが、紫はちょっと黒歴史の忘却に忙しかったので、出来たら察してやってほしい。


「結界が歪む事ってあるんですね」


「そりゃ、ずっと平穏無事ってわけにも行かないだろうよ」


「……ですね」


 事実、長い歴史の中で結界は何度も傷ついているし、割れている。大規模な破損は無いが、その数は本当に計り知れない。

 その傷が原因で何度か外来人が紛れ込んでるが、それは別の話だ。今は関係無い。今回の場合は傷ではないし、ただ歪んだだけだから……

 ま、それが発生した時間が問題なのだが。


「ですが、藍色達が幻想郷から居なくなった瞬間と歪みの発生がほぼ同時刻なんですよ」


「……何か関係あると?」


「私はあると思います」


 夢子が答えた。藍色達の事をよく考えてるな……


「まぁ、何かあれば藍色一行の仕業と考えても良い位のトラブルメイカーですしね」


「それ、言われても本人達は否定しないと思います」

 藍色はなぁ……


「仕方無いだろう。あいつらだからな」


「……話が逸れたわね」


 ここらで閑話休題とする。


「とにかく、影響は無いのね?」


「はい、流石にあの規模では何かが紛れ込んだとは考え難いですし」


「……そう。こんな時、スキマが自由に使えれば良かったのにね」


 状況が状況だし、と諦めている紫。


「念の為、何か影響があったと考えて動いて頂戴。百式は使わないように」


「了解しました」


「じゃあ、勇儀と夢子、藍と星と組んで藍色の捜索に戻ってね。私はしばらく家に居るから、何かあったら戻ってきて直接伝えなさい」


 四人とも頷いた。八雲邸の行き方は既に頭に入ってるようだ。


「……と、何故家に?」


「情報を整理しつつ、対策を立てるのよ。藍色に協力的な奴らは沢山居るから、考えて損は無いもの」


「分かりました。では、行って参ります」


「ええ、期待してるわ」


 生き物の気配が周りから無くなった時、紫は一人でため息をこぼした。


「……一行の強さは藍色の能力による補正が強いわね。こちらも何か考えた方が良いか……」


 そう頭を回しつつ、家にあったお菓子を探すのだった。最近橙が手作りのお菓子を持ってくるので、食べないとたまる一方だ。

 一応、八雲邸に寄る度にいくつか持って行くのだが……減らない。


「材料、どこから持ってきてるのかしら……」


 今度見かけたら聞いてみよう。







「エリー、エリー」


「何かご用ですか?」


「藍色の本読んだんだけど、あなたは能力って無いの?」


「勝手に私の部屋に入って…………はい、私に能力はありません」


「ふ~ん、つまんないわね……」


「そう言う天子さんはあるのですか?」


「出来れば姫って愛称で呼んで。私も能力無しだけど……」


「だけど?」


「『浄化と転生を司る能力』ってまとめたら、自分で自分を納得させられるのよ」


「……そうですか」


「にしてもこの本面白いわね~、あいつらにも読ませてみたいわ」


「……乱暴には扱わないで下さいね。二冊しかないので」


「……残り一冊は?」


「その思想の持ち主が持っています」




 空椿です。サラッと登場させた女神さんですが、天子と被るから姫さんと呼ぶ事に。女神さんなんて一々言ってらんねぇ……


 藍蓮花のこいしは神出鬼没です。たまにいきなり混ざって来ますが、皆しばらく疑問を抱きません。ルーミアには通じてないけど。

 今後も何度か同じパターンが来るので、皆さんお気をつけて……


 MUGEN勢が顔を出しました。女神天子さんです。でも上記の理由で愛称姫です。女神からランクダウンしたけど大丈夫だ、多分問題無い。

 まだ何も書いてませんが、既に何人か居ます。今後旅先でエンカウントしますが、イザコザに発展しないかどうか今から不安です。MUGEN勢の登場頻度はそこまで高くするつもりはありませんが、○○を出して下さい的な発言は受け付けてます。神社の三番ですかね。

 ちなみに、姫さんの言った能力ですが。あくまで『そう言えばしっくりくる』だけで『そういう能力がある』というわけでは無いです。誤解される前に言いますが……ん? しない? サーセン……


 今すぐではありませんが、そろそろ藍色の過去を突っつくつもりです。放置しすぎもそろそろいけませんし……

 藍色の設定も大分固められたので、問題も無いです。あとは矛盾が無いか気を付けるだけです……


 実は、何気に空椿の誕生日が近付いてます。だからといってどうというわけではありませんし、更新に影響が出たりもしませんが。

 当日に活動報告でもします。でも大した事は書きませんがね。


 最近執筆中に新たな東方二次創作小説が思いつきます。このネタ、どうにも藍蓮花に使うには無理があり……使うとなれば別小説です。どうすっかな~……

 ま、今日はこの辺りにします。ではノシ

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