藍色と千里 渦中は敵だ
「相変わらず酒臭いし、妙に睨まれるしで良い事無いわね、ここ」
紫が大通りを歩きながら呟く。それもそうかもしれない。地底に追いやられた妖怪は大体紫に良い目を向けない。
地上の妖怪は基本的に嫌われる場所なのに、何が悲しくてその親玉を歓迎せねばならないのだ。という事だ。
「ならば早く通り過ぎるべきでは無いかと。この辺りに一行は居ないようですし、もう用はありません」
「あなたは相変わらずの執着ね」
「私があなたの手伝いをする理由があの一行ですからね。用が済めば命蓮寺に戻って以前の生活に戻ります」
「あらそう。残念ね」
つまらない未来設計を言う星に対し、紫の反応はやはりつまらなさそうだ。
「はぁ、このお堅い虎は……」
呆れた感じで空を見上げる。残念だが、見えるのは空ではなく真っ暗闇だったが。
「さて、そろそろ地上に戻……」
闇の中に、黒い生き物を見た気がした。
「……まさか」
スキマを開くが、思い通りにならない。となると……
「星! 藍色達が地霊殿に向かったわよ!」
「はい!」
紫は星の手を握り、スペルカードを一枚出す。
「境符「速と遅の境界」!」
周りの妖怪は流れるように後方に消え、圧倒的な速度は周りの音を置き去りにした。
「藍さん、藍色一行が地霊殿に居ます」
しっかり連絡をとり、地霊殿に二人は向かっていった。
「あちゃ、八雲が居たのか」
小傘が旧都を見下ろしながら言う。ふざけきった速度で大通りを突っ切る紫が見える。以前はスキマで悠々と飛んでいたのに、パワフルになったものだ。
「構わないわ。流石のあいつらも、地霊殿に無断で入れるわけじゃないでしょ」
「スキマ封印してるからね」
「へぇ、八雲紫は今スキマを使わないのか」
藍色の周辺にスキマが開かない事を伝えると、なにやら納得したようだった。
「それさ、逆に逆手に取られないかい?」
「どうやって?」
「幻想郷中にスキマを開けば大体の居場所がバレると思うけどねぇ」
……あ。
「あんたの柔軟な思考回路が少し羨ましいわ」
「楽な方に考える癖があるだけだよ」
それはそれは……らしいな。
「難しい事や面倒な事が嫌いだから、なるべくそれらを回避したいと思うとね、自然とそういう事が出てくるようになるんだ」
「うん、認める」
藍色は小傘が持っている大きめの鞄を見る。先頃藍色の能力で四次元状態になり、一行の荷物が全て収まるようになった。
いくら詰めても重量が変わらないのが強みだが、残念ながら時間の経過はやるつもりが無かったので普通に進む。だから食品は入っていない。
「ところで、あれは八雲より速く地霊殿に入る必要があるんじゃないかな?」
「それならルーミア、全速力!」
「あら、良いの?」
フランがワクワクした感じで言うので、つい聞き返すルーミア。藍色を見ると……軽く頷いていた
「……しっかり捕まらないと落ちるわよ」
黒鳥が一際大きく羽ばたき、地面に急降下した。
「おおぉぉ!?」
大通りに直撃する直前に進行方向を正面に変え、落下の際の加速を利用して一気に突っ切る。衝撃波なのか風圧なのか、そんな感じの物が色々な物を吹き飛ばしたが知らない。
後ろに八雲の手が伸びてきたが、小町がさらっと能力を使って引き離した。地霊殿の入り口との距離を縮めたりしないのは、せっかくフランが全速力を希望したのだから意見を尊重しただけだ。
とりあえず、開放されている地霊殿の入り口にダイナミックお邪魔します。扉はついでに閉じておいた。
「はい到着」
「は、あはは……」
この間、一秒と少し。ちょっと速すぎて小傘はグロッキーだが、逆にフランはハイテンション。小町は平気そうで、藍色は……
「こんにちは」
「こ、こんにちは……」
さとりに挨拶していた。居たんだ……
「悪いね、突然押しかけちゃって」
「……あら、皆さんのお仲間ですか」
「そうね、同行者よ。理由は言わなくて良い?」
「はい」
小傘を背負い、フランを落ち着かせながら小町が歩いてくる。ルーミアは藍色の隣に立った。
「ま、今日もブラブラさせてもらうわ」
「ああ、その前にこいしに会ってもらえないかしら」
「居るんだ」
「居るのよ。何故か友達までいるみたい」
ちょっと分かった気がした。多分椛だ、いや絶対椛だ。
「会う」
「ああ、なら向こうの広間でのんびりしてるわ」
半分聞いた所でとっとと行ってしまう藍色。少しは待てよ……
「……行くわよ?」
「え? ああ」
ルーミアは待ってくれたが、急かしてきた。小町も小傘やフランを連れて歩き出した。
「こんにちは!」
「藍色か。久し振りだな」
「うん」
椛とこいしが肩車をしながら出迎えてくれた。姿形に差はあれど、雰囲気は親友とも兄妹ともとれる。
姉妹ではなく、兄妹だ。理由としては、椛にはどこかボーイッシュな面があるからだろう。
「まず言わせてほしい事が」
「うん」
小さく溜め息を吐き、藍色に抗議した。
「次はもう少し無茶ぶりの無い手紙をくれないか? 手紙の通りになるから良いものの、心労が絶えない……」
「……ごめん」
「あの手紙、藍色からじゃなきゃ通らないよね……」
そうかもしれない。
「まあ、私も今は気にしていない。こいしの相手は退屈しないんだ」
「ふぅん」
この辺りで、遅れていたルーミア達が到着した。
「あら、やっぱり椛じゃない」
「予測してたんだ? 凄〜い」
「話の流れと、うっすら見えたのが決め手よ」
「私は最初から見えていたがな……」
千里眼は便利だなあ。
「話し方からして、それが素なの?」
「まあね。貴重な休みに仕事の口調を持ち出すわけにも行かないだろう?」
「あたいみたいに仕事でも普通の話し方してる奴もいるんじゃないかな」
アンタは『してた』だけどな。といった目線を藍色が向けた。
「フランと小傘は?」
「あら、確かに居ないわね」
小町が連れてきてたはずだけど……?
「小傘連れてどっか行っちまったよ。藍色みたいに忙しないんだねぇ」
「お前もじきにそうなるだろうな。藍色の一行は例外なくそうなっている」
「見てれば分かる。ルーミアも落ち着いたように見えて根は……ねぇ?」
「私に振らないで頂戴。で、用か何かあったりする?」
ルーミアはこいしを構う藍色を見ながら椛をつつく。
「藍色にだけならあるな。こいしが既に済ませているようだが」
調子はどうか、とかそんな日常の会話に聞こえる事ばかりだが、特に気にしない。
「そういえば、地霊殿の外に人影があるが……」
「あ、八雲ね。でもこんな所から見えるの?」
「私の能力は『千里先まで見通す程度の能力』だ。見通すの意味は、初めから終わりまで通して見る、全部見る、遮られずに遠方まで一目に見る、心の中や実情を見抜く、事の成り行きを予測する、などだ。遮られず、と言うことは障害物が意味がないという事になる」
一里は約四キロメートル、千里だから千倍です。
「まあ、それだけだと理由としては弱いだろうが……見通すは『見透す』とも書くんだ。見透かすと字は同じだろう?」
「……よく考えついたじゃない」
「少し前に、文様に考えてみろと言われてな。結果的により便利になったが」
「千里先まで透視出来るのと変わらないんじゃないかい?」
「こうなれた要因は藍色だ。感謝はしてるよ」
藍色の方を見ると、話が終わったようなのかこちらに歩いてきた。
「充分話した」
「そうかい、一体」
「内容は言わなくて問題無い」
「むぐ……」
小町、残念。
「椛」
「何だ?」
藍色が椛を見つめる。ルーミアも釣られて見る。
「見透かすとは、表面にあらわれないことを見抜く、見破る。という意味。真意の確認もおそらく可能」
「おぉ、じゃあ嘘発見器みたいだね!」
天然の嘘発見器とは怖いな。
「……ああ藍色? 見抜くは隠されている物事の本質・真相などを直観的に知る、奥底まで見とおすの意味を」
「君達は私を覚妖怪にしたいのか!?」
「え、じゃあ私と一緒?」
「待て待て、教えるのは構わないが整理させてやりな」
小町が手綱を取り、何とか話をまとめる事が出来た。短くまとめると、こいしとの会話の際に椛の話題が浮上。その際に閃いた事を椛に告げたらしい。
それを聞いたルーミアが情報を追加、椛が混乱して今の状況となる。
「成る程、少し考えてみる」
「お姉ちゃんにも言ってみようかな〜」
ここで藍色が小町を見る。
「……何だい?」
「さとりの所に行く」
「うん、で?」
こいしが提案。
「多分、お姉ちゃんの距離と私達の距離を縮めろって事じゃない? 距離を操れるんでしょ?」
「あ〜、ああ、うん。分かったよ」
小町は何とも疲れた顔をした。
「じゃあ凄く楽しかったんだね。良いな〜、私もさとり様達と一緒にどこか行きたいよ」
「ちょっと無理じゃない? 地霊殿の主がここを離れるのは不味いんじゃ……」
「お空も灼熱地獄跡の仕事があるしな〜」
「今は無いよ?」
「今は仕事してないだけ、やる時はやってるじゃん」
「あ、そうだった!」
安定の鳥頭だなぁ。空と燐と小傘とフランは一カ所に集まって話し合っていた。
「皆立場があるからね。私は無いけど」
根無し草のような藍色の所有物という立場ばはあるが、藍色本人が旅をしているから問題無い。まあ、その立場ですら一応などのオプションが付くであろう……
「私は出かけても大して何も変わらないから旅が出来てるだけだしね」
紅魔館の主の妹という立場ではあるが、特に何かを受け持っていたわけではなかったフラン。残念ながら、大好きな姉のレミリアは不用意に出かけられない。
「羨ましいね〜。私達も一度でいいから出かけたいよ」
「あれ? 出かけちゃ駄目なの?」
「えっ」
「えっ」
「……二人とも、仕事あるもんね」
空は灼熱地獄跡の温度調節、燐は燃料運びという重要な仕事がある。特に空の仕事は熱に強い空にしか出来ない。
「あ〜、誰か何とかしてくれないかなぁ……」
「さとり様にお願いしたら……」
「いくらさとり様でも無理だよ」
……悩む二人に小傘が提案した。
「ご主人様ならなんとか出来るかも……」
その一言で場の行動は決定した。藍色を探せ〜。
さて、場面は藍色達とさとり達である。
「私の意見では、こいしと仲良くしてくれるならあなたがどういう道を歩こうが構わないのだけどね」
「……まあ、私はなるようになれと思うが」
「もう充分なってるわよ。余分なくらいに」
椛はもう行くところには行ってしまっている気がする。
「でも、覚妖怪は元々嫌われるわよ? 仮にもあなたは下っ端の哨戒天狗。覚妖怪の真似事なんてしてたら白い目で見られるんじゃないかしら?」
「そうかもしれないな。しかし……」
一度ぐるりと周りを見渡して言う。
「少なくとも、私の周りにそんな人は居ない」
「……信頼してくれてるんだ」
「そうみたいね。嫌な感じが全くしないから」
負の感情には敏感らしいルーミアが言った。心の闇とかそんな感じだろうか?
「まあ、結局どうなるかはその場次第だ。覚妖怪のようになるのか、また別物になるかは未来に任せる」
「それが良いだろうね」
「私もそれが良いと思ってるよ」
椛は目を閉じた。
「さあ、この話は終わりにしよう。ケリはついた」
「終わり? じゃあ次は何の話?」
「手紙の話だ。藍色」
「ん」
藍色が書いた手紙を取り出しながら椛は話をし始めた。ルーミアとこいしは椛の話に耳を傾けるが、さとりは小町と別の話をしている。大方仕事の話だろうが。
「お礼をする、と書いてあるが……大体どこまでの物を用意出来るのか。先に聞いておきたい」
「うん」
いざ頼んで無理とか言われたらちょっと悲しいからね。
「想像の許す限りは何でも可能。ただし、こちらのスタミナや運によっては用意に時間がかかる」
藍色の能力も、せめて運が常人並なら強いのに……
「望むなら幻想郷一の力を与えられる」
「あれ、そんな事出来るんだ」
「藍色の能力は基本不可能が無いから。そもそも私の力ががそんな感じなのよ? でも無闇にやる気は無いみたいだし、私もやらせないわよ」
「ふ〜ん」
まあ、概念や法則を一切無視出来る、利便性なら八雲を超える素晴らしい能力だ。異世界の物を取り寄せたり、無条件で他人に力を与える事も可能ときた。世界征服なんぞ企む馬鹿が聞けばこぞって狙いたがるような能力だ。
惜しむらくは、使い手の運が非常に悪いと言う所か。
「成る程、分かった。なら今から用意だけしてもらいたい」
「もう決めてたの?」
「言ってみて」
既に考えだけはまとまっていたようだ。
「時間はかかっても良いから…………ん?」
どうかしたのか、周りを見渡す椛。
「八雲が入ってきたぞ。扉を破壊して正面から……あ、直した」
「え〜……これは撃退するしかないかな?」
「地霊殿で暴れないでほしいのだけど……」
「約束出来ないわ。修理はするけど」
さとりがうなだれたので、小町が宥めた。
「……手伝う?」
「あなたが手伝いたいならね」
「なら手伝おうか。私の能力は索敵に使えるだろう」
「なら、小傘とフランを探して」
使えるならさっさと使うのね……
「……八雲と鉢合わせてるぞ」
「小町、来なさい!」
「うぇ? あ、ちょ!?」
さとりやこいしを置いて走り出した藍色一行。これでは椛は何も言えない。
「……場所は分かるのか?」
こう言いたかったのだが……
仕方が無いので、覚姉妹と待機…………あれ? こいしは?
「……さとり、こいしが居ないぞ」
「多分出かけちゃったのね……どこかに」
やはり元気は無い。
「……仕方ないけど、待つしか無いのよ。待つしか……」
「良いから元気を出せ。こっちまで暗くなる」
…………やれやれだ。
「にゃああああ!?」
「危ない危ない! 関係ない二人ごと狙うのは止めて〜!」
「狙ってないわよ! その部外者にあなた達がくっついてるだけじゃないの!」
空と燐は死合いはしないタイプだ。ただ空の火力なら即戦力になりそうだ。しかしまあ、初心者にそれをやらせるわけにはいかない。しかも相手が悪すぎる。八雲紫と藍だぞ?
「も〜! 禁忌「フォーオブアカインド」!」
「式神「妖獣百式」!」
フランが三人、小傘達と八雲二人を隔てるように現れたのだが、急に出現した百の狐を相手に凌ぎきる事は無理だった。十数匹が隙間を抜けて迫る。
「抜けてきた!」
「その数なら私で行けるよ」
「は〜、二人とも手慣れてるね〜」
小傘が狐を弾幕や唐傘で撃退した所で、紫が合間をスルリと抜けてきた。
「げ!?」
「密着しすぎなのよ!」
フランの手を掴み、小傘を巻き込みながら投げる。
「ひゃああぁぁ!?」
「うにゃあ〜!」
呆気にとられる空達二人の横を、百一の狐が通り過ぎる。戦闘に参加していたわけではないので特に皆気にしない。
「っとと!? 近付かないでよ!」
空中で唐傘を狐達に突きつける。格好は幽香のマスタースパークに似ていなくもない。
「むっ!?」
藍はそれを見て警戒を強め、回避を優先する。
「雨符「鉄砲水の傘殺し」!」
唐傘の先から滝の如き弾幕が発射される。水色の光線に見えるが、細かい弾幕の集合体だ。圧倒的高密度の滝は狐達を容赦なく叩き潰し、数を減らす。
「確かに、こんなの傘で受けたら傘が壊れるわね!」
「紫様! 二割消し飛びましたよ!?」
「二割位で狼狽えない!」
「じゃあ十割にしてあげる!」
フランを自由にしてたのが運の尽きだ。グッと握られた右手が、狐達の破滅を物語っていた。
何かが炸裂する音と共に、その場に紙屑が舞い散る。
「ど〜だ!」
「相変わらずね! でも不注意よ!?」
紫が左手で小さくサインを出す。その内容を二人は理解出来なかったが……
「財宝「ジークフリートのバルムンク」!」
「っ!? 禁忌「レーヴァテイン」!」
炎剣と、幅広の剣が正面衝突した。
「藍!」
「小傘さん、ご容赦下さい!」
「嫌だ!」
藍の爪を唐傘で防御するが、あまりに鋭いので恐怖で涙目になる小傘。
「悪いけど、合流される前に潰すわよ?」
そんな小傘のバックをとり、洋傘を振りかぶる。既に速と遅の境界を使用しているらしい。
「フラン!」
「無理! 助けられない!」
おいおい、冗談じゃないぞ!? と言いたいが……
大量の烏が紫や星を掴み、二人から引き剥がす。烏と言うより……
「よく持ちこたえた。後は任せて」
ルーミアのダークネスレイヴンだったようだ。藍色とルーミアが床を滑りながら到着したが、小町とこいしは遠くで待機していた。結局こいし居るじゃん……
「結局合流されたわね。最初にあの四人に固まられたのが痛かったかしら?」
「来たな、藍色。今日こそ」
「御託は良いから始める」
藍色が勢い良く駆け出したのを確認し、ルーミアは座り込む小傘とフランを立たせた。
「お疲れ様ね。後は私が引き受けるから、あっちの二人の所に行きなさい」
「「は〜い……」」
フラフラ歩き出したのを見送り、ルーミアはいつの間にやら持っていたこうもり傘を突きつける。
「満月符「フルムーンライトレイ」」
まさか傘から発射されるとはなぁ。とにかくそれを藍に当ててから突撃していった。
「や、二人とも大丈夫かい?」
「ヘロヘロ……」
「疲れた……」
「お疲れ様〜」
小町が二人を迎え、その辺りに座らせる。向こうでは黒鳥を加えて三対三を繰り広げている藍色達が見えるのだが……
「……ふざけた戦闘力を発揮してる奴が一人居るよ」
うむ、否定しない。片手で星の巨大な槌を止めてたり藍に小さく話しかけて狂乱状態にさせたり紫の策を策で返したりしてるから全く否定しない。
「ルーミア強いね。巫女より強いんじゃないかなぁ?」
「まず間違い無く強いよ」
その巫女も認めるだろうな。
「あ、藍が……」
何やら焦点の合ってない目で近くで動く物をひたすら攻撃している。紫が巻き込まれて同士討ちという状況になった。
「……うん、ルーミアさんだ」
「まず間違い無くルーミアの仕業だよね」
「そうなんだ」
安心と信頼のルーミア万能説が浮上した。しかしまぁ藍色が予想以上の良い働きをしているようで、ルーミアもご満悦だ。
「以下、一行によってボコボコにされる八雲達の光景が続くばかりなので省略しま〜す」
「フラン、何言ってるのさ」
「何となくそんな感じかなと」
しかし、フランの言うとおりなのも事実。全員を戦闘不能にした後、夢子がルーミアに個人で挑んで撃沈した位の出来事しかなかった。
「いやぁ、実戦でも使えて良かったわ〜」
「……働け」
「なんで私が修理なんて……」
「黙って働け」
黙りました。ルーミアは藍にしていた何かが上手くいったらしく、いつもより機嫌が良い。
「ルーミア、あんたは何をしたんだ?」
「ん? そうねぇ、ミョルニルとやらを止めて、八雲の策を即興の策で返して、藍の心の奥底の闇を刺激しただけよ?」
「ご主人様、どう思う?」
「何かおかしい」
ルーミア以外頷いた。
「私、何かおかしいかしら?」
「普通は出来ない事をやってのけてるよアンタ……」
「戦神として信仰が集まったりしてね」
こいしがケラケラ笑いながら言うが……
「……信仰しようかなぁ」
「私も……」
フランと小傘は割と本気で考えていた。
「ちょっとちょっと、止めなさいよ」
……とりあえず、紫に事後処理をさせてこの場は収まった。
「お前らは何をしているんだ……」
「派手な喧嘩」
「あれ喧嘩なのかなぁ……」
「渦中にいる唐傘の意見なら、間違い無く喧嘩より酷いよ」
「他人事のように言う意味ってあるのかな?」
無いな。とりあえず、椛やさとりと合流。空達も集まってきたので、八雲メンバーを除いて全員が揃っている。
あまり酷い目にあわなかった夢子だけは部屋の隅で大人しくしているが、皆気にはとめるが警戒はしていない。
「で、紫はどうした?」
「まだ地霊殿の修理に追われていると思うけど」
「今終わらせたわよ……」
「おかえり」
紫への返事は藍色がした。何かズレた返事だが気にしない。
そんな紫の額にはやはり式があるので、さとりは笑いをこらえるのに必死だった。
「毎度毎度面倒な事頼んで悪いわね〜……ククククク……」
「やらせてるのはあなた達でしょうが!?」
「ルーミアさんがいつにも増して黒い」
「お姉ちゃん、ルーミアが考えてる事が分かるんだけど、私いつの間にか目を開いたんだっけ」
「誰にでも分かるわよ……」
夢子も眉をひそめる。
「さて、冗談は置いておきましょう」
「何割冗談だったの?」
「一割ね」
残りは本気かよ……
「八雲に見つかったから、もう移動する」
「相変わらずね。小町は?」
「ん? あ〜、まだ一緒に行かせてもらうよ。ここはあたいには合わないみたいだ」
「分かった。小傘、フラン。行くよ」
「アイアイサー!」
「サーじゃなくてマムだけどね」
さとりや椛のさよならは聞かず、紫もガン無視して行ってしまう。残ったのは古明地姉妹と椛、紫と夢子だけだ。
「……やっぱり変な子」
そう紫が言った後、夢子が重要な事を思い出した。
「式、剥がしてもらってないのでは?」
「あ」
それを聞いたさとりが椛を見る。
「……式、誰が貼ったんですか?」
「ルーミアだ。見ていたから間違いは無い」
それを聞いたさとりが、何故か納得した顔になる。何か知っているらしい。
「つまり、形はルーミアさんが主人なんですね。そのルーミアさんが、私の能力を利用してこちらに伝えてきた事がありますが、多分それを考えての事だと思います」
「嫌な予感しかしないけど、内容を聞こうかしら?」
全員の視線を受けながら、さとりは困ったように言った。
「要約すると、主従の権利は全て私に一任しますが、式を剥がす事に関しては三日は不可能とするそうです」
「え……」
紫、最低三日間従者生活決定。
「……どうしよう、いざこんな状況になってみるとなんて言えば良いか分からないわ」
どうも、権利を一任されてもルーミアの命令は絶対なようだ。試しにさとりが新たに命令を被せて剥がそうとしてみても無理だった。
「じゃあ、ペットの世話とかさせる?」
「……まあ、やってくれるならそうして」
「はい……」
紫に拒否権は一切無かった。そんな主を、藍は形容しがたい表情で見ていた……
「……ご主人様」
「何」
「たまにはゆっくりしてみたら? 何だかいつも忙しなくて焦ってるみたいに見えるよ?」
地底の空を黒鳥が飛ぶ。その下では旧都の灯りがゆっくり流れている。
「ふぅん」
「フランも疲れてきたみたいだし……」
「私は元気だよ?」
「いや、ストレスはたまってるんじゃないかな」
体の異常は意外と本人が気付けない場合が多い。
「ルーミアさんもなんだか元気無いよ。いつもならやらない事もしてるし……」
「あ、八雲をからかったアレの事?」
「確かに、こんなハイペースで旅してたら心労はたまる一方だねぇ」
「……そう」
藍色が返事をしたが、かなり素っ気ない。それを聞いた小町が藍色の隣に移動する。
「藍色、アンタにとってはこのペースは並だろう。けどね、アンタの身内はそれで確実に疲れて来て」
「説教は嫌い」
「いや、これは提案だ。アンタが身内を大切に思うなら、身内のペースに合わせてやれって事だよ」
「……そう」
その内黒鳥は地底を突破し、地上の空を進む。フランが洋傘を差した。
「で、あなたはどこに行きたいの?」
ルーミアが藍色に聞いた。それに対する藍色の返事は……
「……分かった、少し旅を止める」
藍色の口からこの言葉が出るとは思わなかったのか、皆目を丸くした。小町だけはグッと親指を立てた。
「休憩を挟むのも良しだよ。疲れには休息が一番だ」
「……すっかり説教役ね」
「ルーミア達は藍色に甘いし逆らわないからね。しばらくはあたいがこのじゃじゃ馬を叱ってやるよ」
「何だかごめんね」
小傘が謝った。話にケリがついたからか、藍色が行動した。
「文〜」
僅か一秒。文が強風と共に現れ黒鳥に並行する。
「呼ばれた気がしました。どうも、お馴染み射命丸文です」
「呼んだ。皆に伝えてほしい」
「はいはい、お得意様の頼みなら受けましょう。どのように伝えましょう? 号外をバラまいて差し上げますよ」
少し間を置き……
「しばらく旅を止め、蓮華畑に腰を下ろす」
「……………………はいはい、了解しました」
文もびっくりしたらしいが、すぐに復帰してペンを走らせた。
「本当に止めるんですか?」
「しばらくしたらまた始めるし、近場には出かける」
「あの蓮華畑の近場って太陽の畑だけですよね」
言わないで。
「まあ良いでしょう。では、明日にでもバラまきますね」
「お願い」
それを聞いた後に文が去り、下を覗くと一面の黄色と、やや遠くに一面の藍色が見える。
「……藍色?」
「小町は間違ってない」
フランの質問には答えなかった。
「……少し、休もう」
蓮華畑に降り立ち、藍の唐傘を出して広げた。
「あら、また会ったわね」
先客としてレティが居たが、特に気にはしない。
「うん」
「結局来たのね」
「案外涼しくて良い場所よ?」
「そっか」
小町以外持っている傘を開き、その場に座る。
「あら、どうしたの?」
「しばらく羽を伸ばすの」
話はそれで終わった。
慌ただしい旅の日々も、しばらくお休みのようだ。
次の日の文々。新聞の号外の見出しは……
『藍色一行、羽を休める!』
この時、やっと蓮華畑の存在が幻想郷に広まったのは余談となる。
お待たせしました。既にお約束の決まり文句となった、天の空か色の空か分からない空の字を持つ空椿、略して天色の空椿です。
椛とこいしは多分面白いペアになりますね。丁度良いので、椛は義兄の立場になって頂きますかね?
藍色と関わった皆は誰かと何かしら関係を持つようです。文と幽香や紫と星などなど。
お賽銭を頂けたら、あのキャラとあのキャラを○○して! とかも出来うる限りは反映します。でもえっちぃのはいけないと思います。
しばらく旅はお休みとなるので、次回は藍色が逆に訪問されるようになります。レティが蓮華畑に住み着いてるので、仕事探しに精を出す小町を外して計五人が大体出て来る事になります。
こちらもお賽銭の対象です。来てほしい人が居たら書いても良いのよ。
さて、そろそろ本格的に集めます。何を? 蓮華畑の名前をです。我こそは! という方は賽銭箱に書いて頂ければ嬉しいです。
出して頂いた意見は全て作中に登場します。ネタだろうが何だろうが全て出します。誤字にはお気を付けを。
観覧者参加型小説として東方藍蓮花も随分発展してきたと思います。見返してみれば、既にお気に入りと考えて頂いてる人達も当初とは比べ物にならない程になってますね。
非常に残念ながら、最初こそ狂喜していた空椿も今は大分冷めていますがね。それでも日々増えるPVを見るのが最近の楽しみです。改めて皆様に、ありがとうと伝えます。
長くなりましたが、今回はここで〆とさせて頂きます。賽銭箱の内容を書き換えておきますので、参拝者の方は内容を一度確認して下さい。ではノシ