藍色と呆然 解雇は敵だ
気ままに旅する藍色一行、現在は興味でついてきている妖怪を含め五人になっている。
「へぇ〜、私がのんびりしてた間にそんな有名人が出て来たのね」
「その有名人が目の前に居るのには気にしないんだ?」
「気にはしたけど、気にはとめないわ」
レティ・ホワイトロックと名乗る冬の妖怪である。出会いは単純で、歩いてたら木陰から出て来たのだ。
冬以外は隠れているらしいが、最近は退屈になってしまったそうだ。だから何となく出て来たらしい。気まぐれなんだな。
「ねえ、チルノはどうしてるの?」
「多分、いつも通り霧の湖で遊んでるわよ。なんで聞いたの?」
「なら良いけど。変に気にかかる奴だからね……」
「ふぅん」
そんな話題しか無いからか、すぐに話題は尽きてだんまりになってしまった。活動期間が限定的故かレティ本人には話す事が見当たらない様子。
かといって藍色側に話題があるかと問われれば無いという。初対面で話すことは限られて……
「……疑問に思ってたけど、何でルーミアが私より大きいのよ」
あった!
「ああそれ。言われないから失念してたわ」
「すっかり違和感無くなったから私も忘れてた……」
フランェ……
「そうだ、ルーミアさんって長いこと封印されてたんだった」
あんたもか小傘……
ってこの流れは!
「私は覚えてたけど」
フラグは折る物だった。
「何よ、これじゃあ皆の姉をかって出た私が妹みたいじゃないの」
「あら、良いじゃない。お姉さんが欲しいんでしょ?」
「そうなんだ?」
「心の奥底で言ってるじゃない」
フランも言われてレティを見つめる。
「……ほんとだ。凄くひっそりと考えてる」
読心術素敵ですね。
「妖怪覚が二人居るわ……」
「残念ね、人喰い妖怪と吸血鬼なのよ」
「あと唐傘の付喪神と種族不明」
「種族不明?」
藍色が口を開いた。
「自分の種族を知らないだけ。知ろうと思えば知れるけど」
「じゃあ」
「旅に大荷物は必要ない」
カット。
藍色旅の規則その一、長旅に大荷物は持つな。が追加されました。かっこしすてむめっせーじ。
「ま、ご主人様に説得は難しいから何も言わないのが吉だよ」
「理解させてもらったわ。不本意ながらね」
それが賢明だろう。
「ああ、読心術のついでに見えたんだけど……」
フランが声を上げる。なんぞ?
「何か悩んでるでしょ」
「……隠しても無駄でしょうね。その通りよ」
何に悩んでいるかまでは分からなかったが、レティがさらっと話してくれたので問題は無し。
「冬の妖怪なんて存在だからね、それ以外の季節は退屈なのよ。それも毎年毎年」
……う〜む。
「冬が来たら出かけられるけど、唯一の友人達は冬は大人しくてね」
「あ〜、確かに冬は私達四人もあまり集まらなかったわね」
「でしょ? ついでに、春が来るのが遅いと人間に退治されそうになるのよ? 私のせいじゃないのに」
……あと、冬の始めに秋の神様に弾幕をバラまかれるとも言った。ひ、悲惨だ……
「冬なんて来るな〜とか言いつつ泣きべそかきながらスペルカード宣言しようとする秋の神が見えた」
「秋の神……?」
藍色には面識が無かった。
「あ、まだ会ってなかっ」
「うん」
……そうか〜
「じゃあ行き先が決まったね!」
「善は急げ〜!」
「急がば回れよ。藍色に合わせて…………もうあんな所に」
行き先分かるの? それとも能力? 何にせよ馬鹿に速い行動だな……
「悪いけど、私はここで別れることにするわ。あの神様は嫌いなの」
「……二人は先に行っててね。ちょっとだけ話して追うから」
「「は〜い」」
二人が歩き出したのを確認し、ルーミアがレティを見る。
「冬まで会えないのは惜しいわね、どうにかならないかしら?」
「……そうね、気持ちを落ち着かせられるような静かな場所を提供してくれたらそこに移り住むかもね」
「あらそう? それだけで良いの?」
レティが頷く。
「……じゃ、太陽の畑に行きなさい。そこで緑髪の妖怪に会ったら、藍色と蓮華畑と言いなさい。そこなら良い感じだから」
「……太陽の畑って……」
「大丈夫よ、まかり間違ってひまわりを折ったりしなきゃね」
「死んでもやらないわ」
やったら死ぬより辛い事になるよ!
「じゃあね、上手くやりなさいな」
ルーミアは恐ろしいスピードで何かを呟き、空に向けて跳躍した。
「え?」
つい目で追ったが、見えたのはルーミアではなく、巨大すぎる黒鳥だった。
「……え、え? あれ?」
しばらく呆然としていたレティだが、やがて考えるのを止め歩き出した。
「おかえり」
「「おかえりなさ〜い」」
「ただいま。話は済んだわよ」
とりあえず合流出来た。何だか秋の神様の住居も近いようなので、早足で進む事にした。まあ残念ながら……
「…………ハァ」
「…………あ、こんにちは」
今、春の終わり位なんですよ。
「拍子抜けした? 季節の神様なんて、該当する季節じゃなきゃこんなのよ」
「帰る」
脱力したらしいので、皆でそこを離れた。秋に出直しましょうね。
「……ん?」
「ルーミア、どうしたの?」
「いや、さっきの姉妹より暗い気配を感じるんだけど」
藍色反応。
「はいはい、ついてらっしゃい」
言ってみよう!
そしてズコーする羽目に。いやしないけどさ。
「ってあなただったのね……」
どうも、小野塚小町です。いつもの鎌を置いてきているようだ。
「……んぁ? ああ、久し振りだね」
「そんなに日は開いてない」
「…………あ、確かそうだったね、ごめんよ……」
「止めて! そんなに暗いとこっちまで暗くなっちゃう!」
「暗くもさ……」
何故?
「だってさぁ……」
「あたい、クビにされたんだよ」
遂に!?
「いや、自業自得でしょ?」
「そりゃあね……でも、今までは説教だけで済んだから、今回も大丈夫だろうって……」
「気を抜いた時点でクビ決定だよね」
うなだれる小町に更なる追撃。こんな時の一行は容赦無しだよ。
「でも良かったんじゃないかな、斬首じゃなくてクビなんだから」
「小傘、上手く言ったつもりならスベってるわよ」
「あれ?」
やれやれである。
「じゃあ、これからどうするの?」
「どうしようもないよ。いざ自由にされたら、何をすればいいのか分からなくなるもんだね」
「ふ〜ん……普段あんなにサボってるのに?」
「フラン、そろそろ精神的に限界が来てるみたい」
無自覚な精神攻撃は止めさせておき、フランをルーミアに任せて藍色が対応した。
「なあ藍色、あんたはどうすれば良いと思う?」
「ん? む…………ん〜」
適切な物が思いつかないのか? そんな藍色に小傘が……
「普通に仕事探しさせれば良いだけじゃないの?」
「うん」
しかし……
「死神さんが仕事見付かるとは思わないけど」
「うん」
「はぐあ!?」
このサボり魔に仕事は見つからないだろう。
「小町はサボり魔の悪名が幻想郷中に広がってるから」
「……仕事探し、諦めたら?」
言っちゃ悪いが、根本から向いてない。
「え? じゃあどうしろってんだよ?」
「知らない」
藍色が冷たい事を言う。
「だって関係ないから」
「つ、冷たいじゃな」
「普通」
確かに肩入れする理由は無いが……
「じゃ、頑張ってね」
「帰るの?」
「ちょちょちょっと待ってくれよ!」
藍色の足を掴む小町。そのまま小町は引きずられ…………え、藍色の足の力って……
「頼むよ! 助けてくれ!」
「嫌」
「お願いだ! もうサボらないと誓うよ!」
「嫌」
その勢いで随分な距離を移動する藍色。小傘が困りながらもついていく。フランとルーミアも、シュールな光景にどうすれば良いのか分からずにただついていくのみだ。
「どうしたら助けてくれるんだい!?」
「どうしても嫌」
「何でだよ!?」
「嫌だから」
そろそろ可哀想に見えてきたのか、ルーミアが声をかける。
「藍色」
「何」
「止まりなさい。あなたは外道と呼ばれたいの?」
「…………む」
歩くのを止めた。
「立てる?」
「あ、ああ」
小傘が手を貸し、何とか起き上がる。土まみれ泥まみれだし、どっかでひっかけたのかちょいとばかり破れている。
「一旦座ろうよ」
「……うん」
輪になるようにその場に座り、話し合いの場を設けた。
「さて、ちゃんと気持ち良く終わらせましょうね。さっきみたいにならないように」
ルーミアが場をまとめ、一度咳払いをした。
「まず、小町は映姫に解雇されたと見て良いのね?」
「まあね。本人がわざわざ言いに来たから間違い無いよ」
わざわざ三途の川を渡ってまで来たのだから、呼び出す暇すら惜しいというレベルの怒りだろう……いやあ怖い。
「で、あなたはどうしたいの?」
「仕事を探すとか何とかしたいんだ。それで、あたいを拾ってくれる所を探すのを手伝ってほしいって事でね……」
「藍色はそれは嫌なわけね」
「うん」
続いて、並んで座るフランと小傘を見る。洋傘はあえて差さず、仲良く相合い傘だ。
「二人は?」
まず小傘が答えた。
「力になりたいとは思うけど、多分無理だから遠慮したいな〜……」
フランも続く。
「いくらサボり癖を直すと言ってもさ、汚名返上するのは随分時間かかるしね……」
「……ちなみに私の意見は『その場に任せる』だからね?」
小町に救いは無いんですか!?
「え、あ〜……そ」
「つまり、あなたの申し出は却下」
藍色がバッサリ切り捨てた。
「ぐはあっ!?」
……精神的に大ダメージだったようで、その場に倒れ込んじゃった。
「とは行かないのよ? まだ」
ルーミアがクスリと笑った。
「え?」
「だって、私達はあなたの手伝いを断ってるだけで、それ以外を断ったわけじゃないもの」
「うん」
「そうそう」
「まあね〜」
つまり何だ? と聞きたかった小町は、ルーミアの言葉で質問を止めた。
「ついてくるなら問題は無いわよ?」
「…………旅、かい?」
「うん! 楽しい旅だよ!」
小町が藍色を見る。視線を感じたのか、小町を見つめ返して口を開く。
「部外者の申し出を受けるのは嫌だけど」
「……だけど?」
「身内のお願いなら受ける」
小町が喜びをこぼす。
「さて、どうする? 部外者さん。身内になるのは大変よ?」
クスクス笑いながら言うが、嫌な感じではない。
「い、一緒に行って良いかい?」
それには藍色が答えた。
「勝手にして」
「ようはオーケーなんでしょ?」
「ちゃんと言えば良いのに、素直じゃないなぁご主人様」
藍色がピクリと反応し、反発した。
「違うよ」
「嘘を言うのはこの口かしら〜」
ルーミアが藍色の背後を奪い、頬を両手で引っ張った。
「むに〜……」
「あはははは! なんて顔だい!?」
「藍色が凄く可愛い!?」
「たまには笑いなさいよね〜」
なんか、皆面白いんだな……
「あ、そういえば鎌は?」
「あれかい? 四季様が持ってっちゃったよ?」
死神の象徴だった鎌は小町の私物では無いらしい。
「じゃあ手ぶらなのね」
「まあね」
聞くやいなや、藍色が能力を使用。小町の目の前に担げるような剣が出現。
「おぉ?」
「手ぶらだと危ないからそれ持ってろって事じゃない?」
「……にしても、なんでこんな……」
まあ良いかと呟き、剣の柄を掴んで引き抜く小町。結構重量はあるのだが、意外にも軽々担いだ。
「一応それ、後々誰かに渡す用だけどね」
「へぇ、誰にだい?」
「椛よ。まあそれは置いときましょうか」
ともかく……皆が小町に振り向く。
「私達の足は速いからね、どんな手を使ってでもしっかりついてきなさいよ」
「あいよ」
「居場所、見つかると良いね」
こうしてしばらくの間、旅に小町が参加する事になった。
「あ、そういえば」
出発直後、小町が口を開いた。
「何?」
「これ出した時だけど、どうやったの?」
これ、とはこの大きな剣だろう。
「拠点みたいな所に隠しておいて、藍色の能力で呼び出したんだよ」
「は〜ぁ、手間がかかるんだね」
小町が小傘の鞄を見る。
「四次元の空間でも作って、そこにしまっとけば楽じゃないのかい? それなら失敗も無いだろうさ。確率じゃなくて、確定した事なんだからさ」
「「「「…………あ」」」」
「え、まさか考えてなかったのかい?」
ええ全く!
「小町、ありがとう」
「助かったわ」
「え? ちょ、ええ!?」
……さて、小町はいつまでついてくるのやら。お仕事見つかると良いね。
ちなみに……
「……あれ、二人とも不在なの?」
「はい、なんか藍色さん達に感化されて近場なら歩き回るように……」
「予言します。次の異変のキーワードは『旅』だと」
「……あれ、そうなると私の目的は達成されちゃったかしら? でも藍色の影響は間違い無く幻想郷に……う〜ん」
「紫様……? あの……」
藍色を探して幻想郷一周の旅。紫達は守矢神社に、
「流石にこんな所には……閻魔様?」
「おや、八雲の九尾ではないですか。そちらは……?」
「夢子です」
「それはそうと、どうして無縁塚に?」
「頭を冷やすために、です。つい先ほど、柄にもなく怒ってしまいまして」
「何故?」
「詳細は言いませんよ。しかし……」
「……しかし?」
「私はあの行動が間違いとは思ってません」
藍達は無縁塚に来ていた……
小町解雇は何気に見たことが無いのでやってみました。でもちゃんと救済しました。天色の空椿です。
レティは引っ越ししました。蓮華畑は基本的に誰も居ないので、固定の住処が無い皆さん位はあの辺りに居ていただけないかなと考えた末の結果です。多分これからも何人かあそこに行くんじゃないでしょうか?
小町は解雇しました。大事な事なんで何度でも言います。小町はクビになりました。
解雇された為、鎌も取り上げられました。つまり武器無しですが、応急処置として椛に渡す用の剣を持っていてもらいます。鎌もなかなかの重量があるので小町なら軽々です。
残念なのは、鎌とバスタードソードでは使い方が根本的に違う事か。やっぱり解雇は痛かったね。
あと、当面の季節が決まりました。正直全く意味がないでしょうが、一応です。
これで時間軸は東方神霊廟後、一~三年以内の春の終わり頃、と曖昧ながら決まりましたね。正直役に立たないですが、一応……
東方キャラソート、せっかくなので旧作だけでもやってみました。一位は安定の魅魔様、二位は愛弟子の魔梨沙となりました。作品数が少なくても意外と時間かかりますね……
さて、この辺りで戻らせて頂きます。失礼しましたノシ