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東方藍蓮花  作者: 空椿
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藍色と半妖 激痛は敵だ

 幻想郷の人里には人間と呼ばれる種族の大半が集まっており、特別な用が無ければそこから出るような事は無い。何故なら妖怪に食われるから。

 スペルカードルールが出来たと言っても、一般の人間には弾幕ごっこなんて出来ないから妖怪に出会えば食われる。出来ても負けたら食われる。

 だから人里から用も準備も無しに外に出るのは、迷子か自殺志願者か酔っ払いのどれかだ。勿論例外あり。


「うむ、いい天気だ」


 さんさんと輝く太陽の下を歩く女性、上白沢慧音もその例外の一人である。彼女は半妖であり、ただの人間など比べ物にならない力を持っている。


「慧音先生、おはよう御座います」


「おはよう」


 通りかかった少年の挨拶に答える。

 彼女は寺子屋を開いており、子供達にその知識を与えている……のだが、その長話は聞いているとどうしても退屈になってしまい、たまに眠ってしまう子供が何人かいる。

 そのような不届き者には容赦なく頭突きを与える。非常に痛い。

 と、延々と紹介していたら沢山の子供達が走りながら通り過ぎて行く。挨拶は欠かさない。


「おはよーございまーす」

「おはよう。目が開ききってないぞ」

「おはよう御座います〜」

「ああ、おはよう。足下に気をつけるんだぞ」

「先生、おはよう御座います」

「おはよう。持ってる本は落とさないように」

「初めまして」

「ああ、初めまして」

「こんにちは〜」

「おはよう、だ。まだ昼にはなってないぞ」


 やはり子供は可愛い物だ。と再認識しておき、歩みを進め――


「ん?」


 なかった。つい聞き流してしまって聞き慣れない声に気付くのに時間を要したが、きた道を振り返ると見慣れない藍色が子供達の中に混ざっていた。ちょっと気になったので呼び止める事にした。


「ちょっと、そこの藍色の君」


 その声に応え、くるりと慧音の方に目を向ける藍色。


「はい」


「君は妖怪か?」


「うん」


 髪も目も服も藍色に染まった少女。初めて見る顔だが、風の噂で藍色の妖怪の事を度々聞いている。本人かもしれないので聞いてみる。


「……最近噂になってる、八雲を泥塗れにして撃退したり、博麗を服従させたり、守矢の神を失神させたりした藍色の」


「それ、多分私」


 情報が少し折れ曲がっている。藍色が気にした様子は無いが……


「そ、そうか……」


 噂を訂正もせずに肯定してしまった為、慧音は警戒してしまう。


「何のために人ざ」


「お腹空いたから」


 腹が空いたから人間を食べに来たとか……


「どれくらい滞在す」


「今日中に」


 既に用済みという事か?


「…………そう、か」


 慧音の考え過ぎを訂正する人はいなかった。


「で、どうしたの?」


「……貴様」


 結局、慧音は暴走する事になるらしい。


「一体何人殺したんだァ!」


 物凄い剣幕で叫ぶ慧音。周りの人間は既に逃げ去っている。

慧音に言われて、マイペースに指を折って数える藍色。


「えっと……七人?」


 全て幻想郷の外な上に能力が安定しない幼い頃に意志とは裏腹に、と長々と説明する前に……


「虚史「幻想郷伝説」!」


 こっちが暴走した。それも、最初の噂からして余程強い妖怪とも勘違いして全力全開。


「……わけがわからないよ」


 藍色の感想はこれだった。ぼやきながらも降り注ぐ弾幕を回避する。


「どうしよ……」


 本当にどうしよう。スペカを一切作っていない藍色には対抗手段が無い。

 ブレイクするまで逃げ切ればいいのだが、藍色は慧音のスペカどころか慧音という人物すら知らない。藍色はまだ慧音の名前すら聞いていないのだ。

 更に本格的な弾幕ごっこをするのは初めてである。霊夢に教えてもらった時はこんな密度じゃないし、見ていただけである。

 つまり、初見。更に弾幕ごっこ初心者。それで全力全開のスペカを逃げ切らねばならない。無茶だ。


 説得? 否。あの様子だと絶対聞いてくれない。

 逃亡? 否。あの様子だとどこまでも追ってくるし、逃げ切っても人里にはもう入れないだろう。

 能力? …………よしこれだ。と解決策が出た藍色は早速実行に移す。案外早く終わりそうで助かった。


「あ、ダメ」


 と思ったらストップ。

 弾幕ごっこにおいて、相手に直接作用するような物は大体禁止である。場合によっては自分にも使ってはいけない。

 藍色の場合はその禁止に含まれている……


 と考えていたら弾幕が弾け、全て消えた。まずは一枚目である。


「くっ……流石に大妖怪を退けただけはある」


 正確に言えば間違いである。

 しかし、そんな事は知らない慧音は通常弾幕をバラまく。


「どうして弾幕を撃たない! 私を舐めているのか!?」


「……違う」


 その発言が癪に触ったようで、弾幕を消して二枚目のスペカを宣言した。


「野符「GHQクライシス」!」


 また、高密度の弾幕が視界を埋める。藍色は半ば無理矢理隙間に入りながら回避する。せっかくの藍のワンピースが焦げて黒くなっていく。

 この辺りでそろそろ勘弁して頂きたいのだが、全く減らない弾幕にややウンザリしてきた藍色だが、弾幕が減る様子は無い。


 ただただ弾幕を避けていると、また弾幕が弾けた。やっと二枚目である。

 このまま行けば、スペカを全て消費して勝てるかもしれない。元々両者合意の上で始まったわけではないので、スペカの枚数は決まってないので、いつ終わるかは分からないが。


「早く終わらないかな……」


 ついつい出た一言。これがいけなかった。


「きっ……さまあっ!」


 勢い良く懐から現れたスペカ。強烈な力を放ち、叫ばれた名は――


「「日出づる国の天子」!」


 瞬間、目の前は眩い光で埋め尽くされた。


「うぅ?」


 呆けた声を出した瞬間、すぐ隣に光線が着弾した。

 しかし休む暇は全く無く、更に放たれた光線を急いで回避。体制を立て直すも、目の前は弾幕だけだった。


「……むぅ」


 ここで、気合い避け中の弾幕初心者、藍色はいけない事を考えてしまった。



 隙間無くていいじゃん。



 避けれてるなら隙間あるよ。と誰か言ってやってほしい。

 そして藍色は行動に移す。懐に手を入れ、服の中でスペカを作る。

 素早く出来上がったスペカを抜き去り、高々に宣言した。


「変符「命中率と回避率」」


 宣言と共に波紋状に爆発した大量の大玉。興奮していたとはいえ、冷静な思考を持った慧音は小さすぎる隙間に潜り込んで回避した。


「んなぁ!?」


 と、その隙間を縫うように死角から現れた小粒の玉。どうやら大玉に紛れて少量まかれていたらしい。

 体を捻って無理矢理回避したが、体制は崩れた。

 しかし、聡明な慧音は瞬時に弾幕を理解し、第二波を余裕を持って回避した。


「悪足掻きは止め、殺した人々に詫びろ!」


 そして、自身も最後の一撃を放つ。その時、慧音は確かに勝利を確信した。

 しかし、慧音が見たのは藍妖怪の怯えた顔では無く、急速に迫る地面だった。


「……油断、大敵」


 小さな声を共にして、慧音は墜落した。


「……疲れた」


 それだけかい。





「っくはぁ!?」


 布団をはねのけて起きた慧音の目の前に居たのは、替えのタオルを慧音に乗せようとしていた藍色だった。


「起きるの早いね」


 いや、そこは体は大丈夫か聞く所ではないか?


「き、貴様!」


「弾幕ごっこの勝者は敗者に言うことを聞かせられる。黙って私の話を聞いて」


 ちょっと違う気がしないでもないが、ひとまず黙った慧音を見て藍色は話し始めた。

 間違いを正す度に慧音の顔が驚愕に塗り替えられていくのはいささか滑稽ではあったが。





 数分後、そこには見事な土下座をする慧音の姿が!


「すまなかった……」


「別にいいのに」


 訂正を怠った私が悪い、と藍色が納得する確率を上げてまで納得させ、話を強制的に終わらせた。


「しかし、なんでスペルカードの宣言が遅かったんだ? 通常弾幕も張らなかったし……」


「弾幕ごっこ、やった事無い。スペカも作ってなかった」


 慧音は少し悲しくなった。自分は初心者にまけたのか、と。


「最後のスペカは、結構自慢の物だったんだがな……」


「隙間が無かった」


 簡潔すぎる感想である。


「隙間が無いと言えばだな、君のスペカも中々凄い物だったな……が、私は当たった覚えは無いんだが……何故落ちたんだ?」


「背中に当たったから」


「背中?」


「小粒玉は緩い誘導。発射位置から遠く離れたらUターンして相手を狙うの」


「……あの隙間で、それを避けろ? 不可能だろう……」


 大玉で移動を極端に制限され、隙間を緩い自機狙い小粒玉がスナイプ。運良くそれを避けても、第二波がくる頃に第一波にまかれた小粒玉が全てUターンしてこちらを一斉攻撃。隙間を探せと言われても無理だ。


「あなたの「日出づる国の天子」も無茶」


「避けてたじゃな」


「無理矢理」


 結局、そこで対立した。


「いいか? スペルカードには全て避け方があるんだ。当然私の「日出づる国の天子」にも避け方があるんだ。それが君のカー」


「負ける理由を自分で作りたくない」


「作りたくないじゃなく、作らなければ勝負にならな」


「勝負しなければいい」


 引かない慧音と頑固な藍色。その討論は夜まで続いたが、結局話は纏まらなかった。

 そして、話の最後を飾ったのは……


「教育的指導ッ!」







「……お嬢ちゃん、夜に人里の外に行くのは危け」


「妖怪だからいいの」


「そうか……? その頭のコブはどうしたんだい?」


「…………怪獣イシアタマのせいなの」





藍色、頭突きを食らう。

しかし、弾幕ごっこするつもりは無かったのにどうしてこうなる?

謎だ。


まあ、どうにかなったならいいか……?

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