藍色と化狸 勝手は敵だ
本当に困った。
本ッ当に困った。
「幻月」
「あァ?」
「喋るな」
柄の悪い幻月のおかげか、いつもより友好的だった人妖が離れていく。力が強すぎるのも性質が悪い。
「テメーの指図なんか受けるかよ」
「じゃあ離れろ」
このような状況が続くので、流石に藍色も機嫌が悪くなってきた。藍の唐傘を軽〜く振り回して幻月に距離を離させる。
「ンだと?」
「何?」
「二人とも、喧嘩は駄目だよ? 落ちちゃうよ〜」
同行の結果は散々で、藍色の幻月に対する好感度はどんどん下がっていた。
しかし幻月は意地でもついてくる。それ故に両者の衝突は段々激化してきた。
「藍色は傘を振り回さない、幻月は大人しくする。分かった?」
ルーミアがスペルカードをちらつかせる。一応言うが、これは幻月を抑えつける為であり、藍色には使わない。
ちなみに内容はフルムーンライトレイ。
「……うん」
「……チッ」
本当に前途多難である。小傘なんかルーミアから離れないし。せめて黒鳥に乗ってる間は争わないでほしい。
……閑話休題、現在の状況をまとめる事にしよう。
次の行き先は命蓮寺となっている。苦手な寅さんが居ないので、堂々と入れる。
幽香から貰った傘は藍色が能力による強化を施し、強度を凄まじく上げてある。これにより盾代わりにもなり、小傘の弾幕の雨も弾くようになった。フランの傘には風圧無視も付与し、黒鳥に乗りながら傘を差す事が楽になっている。
ちなみに、藍色のオマケで幽香の傘も強度が上げられているが、気付くだろうか?
現在黒鳥に乗っているのは五人。まあ一行と幻月なのだが。
そして、黒鳥の隣で文が並行しているので六人分の声が飛び交っている。文の相手はルーミアがやっている。
「成る程、つまり幻月さんは悪魔なのですね?」
「そ。詳しくは私も知らないわ」
流石に黒鳥に乗っている時はこうもり傘を閉じる。ルーミアと藍色の傘は風をちゃんと受けるからだ。
「これ以上は本人に聞いてほしいけど、怪我をしかねないからオススメしないわよ」
「あやややや……了解しました」
あとは最近の出来事を話し合い、新聞を貰って別れた。見出しは……
『紅魔館の当主、寺子屋に通う!?』
「……本当かな?」
フランが覗いてきた。
「今度聞きましょうか……」
しばらくして黒鳥が空中で停止した。
「何のつもりだよ」
「降りるの」
藍色が唐傘を開き、慣れた感じで落ちる。フランは洋傘を閉じて小傘の唐傘に入り、一緒に降りた。仲良しって良いよね。
そこ、こがフラとか新しいなとか思ってんじゃないよ!
「ちょっ! 待ちやがれ!」
幻月も飛び降りたのを確認し、ルーミアはこうもり傘を開いて黒鳥を消し、自由落下していった。
「こんにちは!」
「こんにちは」
「「こんにちはっ!」」
「はい、こんにちは」
いつもの挨拶を交わす。しかし今回は一悶着。
「こんにちは!」
「…………あ?」
「こんにちは!」
「うるせぇ」
「こーんにーちはー!」
「だぁぁッ! うるせぇなこの野郎!」
幻月さん……
「挨拶返せば静かになるわよ」
「誰がする」
「こ、ん、に、ち、わぁぁぁ!」
「ぐおっ!? み、耳が……いい加減に」
大きく息を吸って〜!
「こんにちわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
幻想郷に挨拶が響いた。とんでもない声量に、幻月がフラフラになる。
「……こ、こんちわ」
「こんにちは!」
山彦が二人居なくて良かったと思う。
そんな事はあったものの、無事に命蓮寺に入れた一行。相変わらず幻月にストーキングされているが、段々藍色の表情は和らいできた。慣れたらしい。
それに伴い、幻月への対応も若干いつもの調子に。ルーミア達はホッとした。
「……幻月〜、殺気が痛いよ?」
「うっせぇガキンチョ! お前には興味ねェんだ!」
本当に何にでも噛みつくが、攻撃を仕掛けないのは力の差を感じてるからとかなんだろうか?
「しかし参ったわね。藍色が誰かと戦わないと幻月は離れてくれないだろうし……」
「何だよ、俺が居るだけで問題があるのか」
「大分ね」
「強いならそれくらいどうにでもなるだろォ?。近付く奴を例外なく消し飛ばせば万事解決だ!」
「あなたとは根本的に違うのよ。私達は他人との繋がりを大切にしてるから」
「あァ?」
ルーミアが駄目だこりゃと呟く。幻月と藍色達は合わないようだ。
「なんか私みたいだな〜」
フランが幻月を見ながら言う。幽閉されてる間の自分と通じる所があるみたいだ。
「何だよ。幸せ絶頂のお前には俺は分からねェだろ?」
「それはつまり、あなたが私の事分からないんでしょ?」
フランが幻月に笑いかける。幻月が軽く距離をあける。
「幻月は以前の私と似てる」
「……ああそォかよ」
「うん」
その会話を最後に、幻月と一行の距離はかなり開いた。何があったんだろうか。
「……藍色、幻月は何であんなに遠いの?」
「知らない」
勝手についてきて勝手に怒って勝手に離れる。確かに、本人にしか分からないだろうこれは……
「……ま、藍色が誰かと戦ったら勝手に居なくなるんじゃない?」
「……居なくなったら居なくなったで困りそうだけど」
……まあ、厄介事は全部八雲に任せよう。全員そう結論づけ、幻月を取り敢えず現状維持する事にした。
「おや? また君達か」
いつかの鼠さんだ。名前を聞き忘れたあの……
「なんだか面子が増えているな」
「初めまして!」
「ああ、初めまして。かなり遅れた自己紹介になるが、私はナズーリンと言う。毘沙門天代理の寅丸星の従者だ」
「……寅?」
藍色が若干身構えた。
「……もしかして、君達は藍色御一行か? ご主人が追いかけてる」
「うん」
「ならあまり構えないでくれ。今はご主人とは連絡をとってないんだ。つまり、私はフリーだよ」
ナズーリンは笑顔を返してきた。ルーミアが見たところ、確かに悪意が無いとの事なので構えを解く。
「じゃあ自己紹介しようか。私多々良小傘!」
「フランだよ!」
「ルーミアよ。それで、こっちが噂の藍色」
「よろしく」
「ああ、よろしく頼む」
やっと自己紹介が終了した。やり残しはいけませんよ。
「あと、向こうに……」
「……ああ、誰か居るな。誰だい?」
「幻月。諸事情で一緒に居る」
「君達の仲間じゃないのか」
「うん」
可能性的に無くはないとも伝えておく。そんな幻月は距離を離して家政婦は見た状態だ。なんか可愛い。
「……幻月可愛い」
「うっせェ馬鹿野郎!」
小傘が驚いてルーミアに隠れた。
「ふむ、まあ良しとしておこうか。害は無さそうだ」
「今は、ね」
今後何かあるだろうな。あれだし。
「見んな!」
「無理な相談」
幻月はいつまで藍色に粘着するのだろうか。
「まあ良いさ。聖が許可を出しているから自由にしてくれ」
「一応言うが、廊下は走らな」
「走るなーッ! 次からはスペルカード使ってでも止めるぞ!?」
怒られた。手に持つのはペンデュラムの模様が描かれた物だ。
「あら、スペルカードで私達は止められないわよ? 良い意味でも悪い意味でも」
「安心しろ。聖とマミゾウの提案で、非スペルカード決闘用の物をそれぞれ一枚は所持している。本格的な決闘は出来ないが、対抗は可能さ」
つまりはその情報は紫も持ってると考えるのが恐らく自然だろう。ここ最近は命蓮寺に行ってないからスキマで連絡を取られているだろう。
「……マミゾウ?」
小傘が気になった人名を問う。
「二ッ岩マミゾウ、狸だよ。会うかい?」
「確かに挨拶はするべきだね。会おうよ」
「了解。案内するよ」
ナズーリンに先導を頼み、世間話をしながら廊下を進む。
話題は藍色の事とか……
「本人も分からない謎か。私が独自に調べてみようか?」
「暇ならお願い」
能力の応用とか……
「……しばらく貸すよ?」
「む、すまないな。ちゃんと返すよ」
幻月とか……
「ははは、ボロボロにやられてしまったのか」
「笑うな鼠。消し飛ばすぞ」
「……分かったから、殺気は収めてくれ。私はそういうのには弱いんだ」
あと、ナズーリンのスペルカードについてだ。この話題は意外と膨らんだ。
「要するに対肉弾戦闘用って事だね」
「間違ってはいないが、私のスペルカードは攻撃用では無いんだ」
「へぇ? 聞かせて貰おうか」
なんと幻月が反応。対藍色用でも作るのか?
「ベースは視符「ナズーリンペンデュラム」。弾幕を撒き散らすのを止め、強度を上げたんだ。数は制限は無いが、私の集中力が物を言うからたかが知れてるな」
「強度の検証とか済ませた? なんなら私が手伝うよ!」
フランは破壊力ありすぎです。
「問題ない。聖に全力で殴ってもらったが、大した傷はつかなかったよ」
聖がどれくらい強いかは不明だが、相当硬いというのは伝わった。
「私は戦闘が苦手だからね、守護に集中する事にしたのさ」
「参考になった」
「役に立てたなら本望だ。さ、この部屋がマミゾウが基本的に生活している部屋」
「お邪魔します」
「最後まで言わせろ!」
やはり藍色は藍色でした。
「馬鹿者! 部屋に入る時には声をかけんか!」
「みゃっ」
怒声に少々驚く藍色。部屋の中には狸の尻尾を揺らす女性が居た。
「ごめんなさいね、お邪魔します」
「うむ、それでよい」
挨拶が大切なのが良く分かった日常の一コマ……ってそんな大層な物じゃ無かっ
「こら! お主もか!?」
「あ゛ァ゛!?」
「マミゾウ! そいつは止めておけ!」
「ナズーリンは黙っておれ!」
「そうだ! チビ鼠は引っ込ンでやがれェ!」
互い譲らぬ意地が喧嘩に発展しやがった!
「……眠れ」
藍色が両手をパンと叩くと、マミゾウと幻月が同時に倒れた。拍手。
「……やっぱり幻月……」
「言わないようにね」
言ってしまうと、邪魔である。残念だが……
「夢月を連れてきたら……駄目ね、余計に厄介が増えるわ」
「夢月が強さの話題を出して幻月が攻撃を仕掛けるという嫌なコンボが出来上がるよ」
フランの言うとおり。夢月は居た方が幻月が活発化してしまうので、居なくて正解だ。
「……起こさないのか?」
「うん」
その内起きるし。
「話はしないのか?」
「起きたら」
……ま、どうにでもなるだろう。
起きたマミゾウに旅の記録をしてみた。反応は……
「な、中々面白い旅じゃのう」
「退屈はしないよ?」
「退屈どころか、暇すら無いんじゃないか?」
「休む暇はあるよ。今とか!」
「話を休憩にしてしまうとは、精神面で強いのじゃな」
そういうもんかな? フランも小傘もこれでいて結構しっかりしてるからなぁ。
ちなみに、幻月はまだ寝ている。寝言で「畜生、皆滅びろ……」なんて言ってる辺り、らしいと言えばらしい。
「藍色と付き合ってたら自然とそうなるわ」
「なんじゃ、精神の問題では無いのじゃな?」
「精神なんて高等な物をこんな所に下げてくる事がまずズレてる」
藍色の的を射たような射てないような発言に、妙な雰囲気になるマミゾウだった。
「まあ構わないんじゃないかな?」
「そうそう、発想は大事だよ」
「……むむ、このような子供に教えられるとは、儂も未熟だのう」
マミゾウが悩む。しかし……
「安心なさい、片方は強い主人に影響されてるし、もう片方は人間じゃ一生かけても読み切れない量の本を丸暗記した天才よ」
「私は藍色がご主人様なら喜んでついていくかな」
「私も速読術覚えようかな」
「ふむふむ、中々面白いのう」
藍色達を気に入ってくれたらしい。良かった良かった。
「しかし、八雲紫に喧嘩を売るのはマズくなかろうか?」
「今は問題無いわ。彼女達は旅に刺激をくれるもの」
「ヘマしたらアウト」
「ま、ね」
「具体的にはどうアウトなのか、聞かせてくれないか? 少し興味がわいたよ」
ナズーリンも聞いていて興味が出て来たのだろう、会話に参加を始めた。
「要約すると、紫は藍色を使って幻想郷に異変を起こそうとしてるのよ。霊夢のだらけきった気を正すだけだから、大した異変にはしないでしょうけど」
「ふむ、異変か……」
「どんな異変かのう?」
「さあね。日常にある成功、失敗の確率を全て半々にしてしまえばちゃんとした異変でしょう」
それ、不味くないか?
「やるつもりは毛頭無い」
「ま、八雲の実力によるわね。あっちも成長しない訳ないもの」
「やっぱり強くなってくる?」
「ま、ね」
ならそれを越える発想をすればいい。相手が勝ちに来ても、勝ち続ければ万事解決なのである。
「お主らは本当に面白い奴らじゃのう。儂も興味がわいた」
「興味は良いけど、敵対はしないで。本気の敵意は嫌いなの」
特に、八雲勢の星だろう。あのお堅い頭は藍色一行を良くは思ってない。夢子は敵意というよりルーミアに対するライバル心、紫は本来の目的の為だろう。
「ご主人か? 確かに、君達とは合わなさそ」
「既に良く思われてない」
「……遅かったか」
うん。
「……なら、少し手伝いでもしようか?」
「そうじゃな、儂らで良ければ力になろう」
「「ありがと!」」
「今は頼る事は無いから、また今度お願い」
「……よろしく」
「……幽香、テメェ殴り殺して……ぐぅ」
幻月はまだ寝ていた。
そんな会話がある時、ちょっとした問題が……
「紫さん、どうかしましたか」
「……命蓮寺にスキマが開かないのよ」
「紫様、命蓮寺に藍色さんが居るのでは?」
これは誤算だ。スキマが開かない場所は幻想郷には存在しないハズなのだ。藍色の周辺を除き……
「……………………あ」
気付いた紫が、立ち上がる。
「準備なさい! 命蓮寺に行くわよ!」
藍色を『追って』幻想郷一周の旅。紫達は命蓮寺に向かう!
命蓮寺の皆さんは少し強化されました。しかし、藍色一行と八雲メンバーにしか通じない強化でした。つまりだれも気にしない。
どうも、天か色か分からない空の空椿です。ナズーリンは個人的にお気に入りです。
幻月は同行中、暴力的ですがその力を振るう前に藍色が手をうっちゃう。苦手と感じたら離れて観察して克服する。簡単な思考回路ですが難しい感じです。
次回は多分戦闘になるので、それを幻月が一度観察すればついて来る理由がひとまず無くなります。まだついていく確率はありますが。
頃合いと思ったので言いますが、八雲メンバーのスペルカードも募集しちゃおうかなと考えました。それについては改装された藍蓮神社に来て下さい。お待ちしてます。
それにしても、スペル名を考えるべき人物が多いですね……我ながら面倒な事をした物です。しかし、かなり今更なのでやり遂げてみせますよ!
さて、近々クロスの予定が出来ました。作品と作者様はその時になったら言います。お楽しみに。
では、失礼しますノシ