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東方藍蓮花  作者: 空椿
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藍色と船頭 怠慢は敵だ

 彼岸。別にもう一度来る理由は無い。

 のだが……


「……楽しいの?」


「うん」


「うん!」


 彼岸花を飽きずに観察する藍色とフラン。小傘はつまらないようで、フランの日傘をしつつも欠伸をしている。

 ルーミアは余った時間を思考に費やしている。小傘が気になって話しかける。


「何考えてるの?」


「ん? 能力の応用と行き先と紫の行動予測とスペルカード案」


「……ぜ、全部一度に?」


「並列思考って奴よ。暇だから覚えてみたの」


「それ、暇だからって覚えられる事じゃ……」


 知らない人はググりなさい。とんでもないから……


「能力の応用は大体固まったわ。行き先については全く。紫は多分こちらを追う人員を増やしてるんじゃないかしら。スペルカードについてもさっぱりよ」


「す、凄い……」


「慣れたら出来るわよ」


 ルーミア曰わく、今は7つまでならなんとかなるらしい。えぇ〜……


「あなたも退屈なら何か考えておきなさい。暇な時に考える癖をつけると後々役に立つわよ」


「は〜い」


 返事をし、フランと藍色を見る。フランはニコニコし、藍色は無表情。


「……むぅ」


 思えば、自分のご主人様は感情表現が苦手なんだな。と思う。笑わないし、泣かない。

 これは前から見ているから分かるのだが、何故表現が乏しいのだろう? 小傘はそれが分からない。

 何か理由があるのだろうか……? 誰か教えてほしい物だ。誰も知らないと思うが。だって本人が知らないもの。


「ま、いつか分かるかな」


 とりあえず、思考を移し


「おや、来てたんだね」


 船頭が向こう岸から帰ってきた。タイミングが良いのか悪いのか……


「藍色の希望でね」


「へぇ〜……彼岸花を見るのがそんなに楽しいかね?」


「楽しいよ!」


 藍色と一緒に見ていたフランが答えたが、藍色は返事をしなかった。


「一体何が楽しいのやら……」


「それを考えてる暇があったら次を送りなさい。たまってるわよ」


「ふぇ〜い……」


 順番待ちしている魂を連れて三途の川をゆっくり漕いでいった小町を見送り、ルーミアは考える事を再開した。


「ねぇルーミアさん」


「何?」


「白玉楼行かない? 妖夢達見に行くのも面白いかも……」


「そうねぇ、後で提案してみましょう」


「行く」


 聞いてたなら何か言ってほしいぜ……


「彼岸花はもういいの?」


「うん」


 小傘とルーミアの間を通り、スタスタと歩いていく藍色。


「フラン、行くよ」


「は〜い」


 三人もあまり間をあけずに歩き出した。


「…………ん〜」


 その背中を死神が見ていたのには気付いていない。







 最近、白玉楼には驚くべき事が起きているのをご存知だろうか。

 ……え? ご存知ない? ああはい……


「あら藍色。こんにちは〜」


 最近、白玉楼の主が剣術指南を素直に受けているのだ。

 あ、それは知ってる? さいですか……


「皆さんこんにちは。今日も通りすがりですか?」


「今日は見にきたの」


「あらら。それじゃ、面白い物は無いけどゆっくりしていってね〜」


 幽々子から許可を貰い、縁側に並んで座る一行。幽々子は藍色お手製の剣を無駄なく振るい、妖夢は二本の刀で風を切り裂く。

 幽々子はただの素振りだが、妖夢はそれは見事な剣舞を披露している。


「随分上達したのね」


「まあね〜。妖夢も見ての通りよ」


「上達……してますかね?」


「綺麗な剣舞を舞えるなら上達してる」


 藍色の賛辞に少々顔を赤らめる妖夢。


「私は本物の剣舞は見たことないな〜」


「本物の……って、本にあったの?」


「うん」


 何でもあるな大図書館……


「ふぅん」


「フランは賢いんだね」


「褒めて褒めて〜」


 三人で頭を撫でる。よしよし可愛いやつめ。


「まあ、妖夢もこの調子なら半人前から抜け出せるかしらね〜」


「元々が半人前だから、妖夢が一人前になるには常人にとっての二人前」


「さ、先は長いなぁ……」


「向上心」


 藍色、酷い事を言ってやるな。


「でも、妖夢の剣術は凄いよ?」


「うんうん」


 小傘とフランに言われ、やる気を出す妖夢。来たときより張り切っているように見える。


「飴と鞭ね?」


「そう」


 実は乗せられていただけのようだ……







「お疲れ様」


「ありがとう。妖夢、皆のお茶淹れてきて貰えな」


「私も行く」


 言い切る前に藍色が口を開いた。断る理由も無いので、妖夢と一緒に廊下を歩く。


「藍色さん」


「何?」


 歩きながら会話を始める。


「ちょっと頼み事があるんです」


「頼み事」


「はい」


 キッチンに入り、茶葉などを取り出す。機器の要所要所に『にとり』の字が…………あいつか。


「お茶を飲み終えたらでいいので、私と勝負し」


「いいよ」


「てくだ…………あ、ありがとう御座います」


 いきなり発言を被せてきたので言葉を止めるのも出来なかった。まあそれはいい。

 気がついたら藍色がお茶を全員分淹れきっていた。妖夢出番なし。


「運んで」


「あ、はい」


 盆を運ぶ妖夢。藍色はついていく。


「なんで急に?」


「理由は無いですが、知り合いと戦ってみるのも良いと」


「そう」


 言いながら、スペルカードを全部出す藍色。全部で三枚だ。が……


「これは使えない」


 肯定証明「偶然確率」をポケットに戻した。確かに、今更白玉楼を破壊するわけには行かないか。


「ああ、あれですか……」


「うん」


 というわけで、白紙のままの物を出す藍色。あれ、作るの?


「周りに被害の無い物を……」


「うん」


 流石にそれくらいは分かってる。前回は周りを気にせずに破壊してしまったが……


「あ、お帰り」


 到着。皆に渡し、二人も縁側に着席した。


「ゆっくり飲みなさいよ」


「は〜い」


 藍色の茶は刺激が強い故……


「……!?」


 あ、妖夢が……







 さて、どうにか復活した妖夢と藍色が庭で向かい合っている。幽々子はそのお茶の味にずっと驚いている。


「……半人前と亡霊の驚き頂きました〜」


 正確には拾いましたが正解かもしれない。


「では、よろしくお願いします」


「うん」


 長短のハッキリした二本の刀を両手に構え、体勢を低くする妖夢。

 対して藍色は全く構えず、その場に突っ立ったままだ。これが藍色の構えなのだが、知らない相手には舐めているように見える。

 曰わく、この体勢であればいかなる方向への攻撃も防御も平等なんだとか。


「じゃ、合図は私がやるわよ〜」


 幽々子が右手を上げている。二人は黙って頷いた。


「藍色頑張れ!」

「ご主人様頑張って〜」

「二人とも無理するんじゃないわよ〜」


 三人の声援を聞き、頃合いと感じた幽々子は響く声を放った。


「始め!」


「否定証明「絶対確率」」


 これが無いと始まらない。すぐさま発動し、動いていなかった妖夢の頭に踵をプレゼントした。


「っぐ!」


「ぴゃ」


 しかし、刀を振り上げて藍色の右足に傷を返す。防御が無理ならカウンターを狙うしかないと考えた故の手段だろうが、ちょっと浅かった。


「ハアッ!」


 体を大きく回し、藍色を叩き斬らんと刀を迫らせる。が、それは自分の背に打撃が入った事で外れた事を分からされる。


「っくう!?」


「む」


 地面に激突する前に突き刺された右肘。鳩尾に入ったが、妖夢も刀を藍色の頬を裂いた。

 そして足を藍色の体に回し、もつれながら激突。文章にすると長いが、ここまで五秒も無い。


「よくやる」


「いつまでも負けてられませんからね!」


 妖夢が大きく跳躍し、距離を取る。


「いざ!」


 地面に足をついた瞬間、ビキリと地が割れた。


「うぐ」


「参ります!」


 思わず体勢を低くする藍色。判断は正しく、頭に常に乗っていた小さな帽子は遂に主人の元から離れた。


「あ」


「でえぇっ!」


 勢い良く振り下ろされた刃を軽い蹴りを出した事により回避。そのまま妖夢を足場にして離れ、落ちてきた帽子をキャッチした。


「……あ〜あ」


「そこ! あ〜あとか言ってる場合じゃ」


「獄界剣「二百由旬の一閃」!」


 千を一瞬で零にする速度で距離を詰められ、音を置き去りにする突きが放たれる。


「そうだね」


 刀身の面に手の甲を当て、逸らす。勢いのままに突っ込んできた妖夢の胸元に掌打を加える。

 痛みで息を吐き出した瞬間、追撃の膝蹴りを首に入れる。


「っはぁ!?」


 更に空中で体を回し、脇腹に足を叩き込む。


「む」


 そして転移し背中に蹴りを放ち地面に叩き込む。合計五発を入れた藍色はフワリと庭に降り立つ。


「だああっ!」


 轟音を響かせ、大地を割る速度で飛んできた妖夢の跳び蹴り。軽い藍色は容易に吹き飛ばされた。


「ぴゃっ」


「やぁぁ!」


 大きく振りかぶられた二本の刀が、何度も何度も振り回される。藍が徐々に赤になる。


「へ、変符」


 片手で致命傷を退け、片手でスペルカードを握る。


「「命中率と回避率」」


 無理矢理妖夢を迎撃。弾壁で斬撃ごと押しのけた。


「痛い」


 見事に手痛い反撃を貰い、血を噴き出す藍色。スペルを解除し、白紙のカードを出す。


「やっぱり、無手だと辛いから」


 能力だろうか、空から巨大な刀が降ってきた…………あれ? 前に見たような……


「これを使う」


 藍色がその刀に白紙のカードを当てた。白一色が藍一色になった。刀も消える。


 最初からこうしておけば良かったと呟いたのが聞こえたのは……







「何事だい……?」


 小町だけであった。







「武器、ですか」


「あくまで武器使いに対する手段だから」


 そのカードを掲げ、宣言する。


「砕覇「サムタイムチェイシング」」


 先程と違い、藍の刀身をした長い刀が出現……おい?


「第二幕」


 藍色が初めて構えをとり、地を踏みしめる。


「合間合間にとんでもない事をしますね…………よし」


 妖夢も構え、神経を研ぎ澄ませる。


「行くよ」

「行きます!」


 三つの刃が交差した。







「やぁ、あたいも混ぜとくれ」


「……あんた、また来たの?」


「まあね〜」


 縁側の観覧席に参加する小町。


「あ、死神さん? 最近いつにもましてサボってるって聞いたけど……」


「いやあ、藍色の噂を聞いたらいつにも増して仕事に身が入らなくてね」


「藍色有名だね〜」


「まあご主人様だからね……」


「別に良いでしょ。知られてて損な事は無いし」


 小町が仕事をしないのは問題ありだが。


「……あら、藍色が本気で潰しにかかってるわ」


「あら? あれは本気じゃなかったの?」


「殺してしまうかもしれないからねぇ。実力に差があると」


 手加減の必要が無いという事は、それに値する力があるという事。それなら遠慮はいらないだろう。


「でも、妖夢は押されてるね」


「強烈な力は卓越した技術を上回りかねないからね。言うなれば、剛能く柔を制す。剛強は柔弱に勝つ。かしらね。本来は逆だけど」


「自分にも言い聞かせてるみたいだねぇ」


「私も剛派だからね」


 そういうもんか?


「む」


 藍色が上段蹴りを放ち、妖夢の両手を上に弾き飛ばす。


「くぅ!」


 そのまま数歩後ろに下がり、妖夢の刀では間違い無くリーチ外の距離から刀を振り下ろす。

 それを刀を交差させ、防御する。しかし……


「え!?」


 藍の刃がそれをすり抜け、顔面に迫る。次に感じたのは、真っ二つに割れる頭の……





 ではなく、鈍器で叩かれた感触だった。


「〜〜〜〜っ!?」


「峰打ち」


 直前に刀を返したらしい。流石に殺っちゃうようなヘマはしないか。


「ど、どうして……?」


「スペルカードになるような武器がただの武器と考えるのは妥当じゃない」


 刀を消し、妖夢の頭を見る。コブがある……


「何らかの能力があると疑ってかかるべき。あの刀は『確率で相手の防御を無視する』能力を付与した物」


 大体三割程度の確率だそうだ。ただし、少しでも攻撃の要素が入っていたらそれは除外されるとか。


「……これで十分?」


「はい……」


 峰打ちだからいいが、そうでなければ間違い無く死んでいる。つまりは妖夢の負けになる。


「じゃあ……次」


 藍色が小町を見る。


「今ここで斬られるか、仕事に戻」


「さて、戻るか……」


 小町逃走。


「……お疲れ様。能力かなにかで手当ては?」


「今やる」





 本日の被害。

 藍色の服。以上。







「今回は着替えあって良かったわね」


「うん」


 というわけで、今日からまた偽天狗服だ。







 一方のこちら。


「……ああ、あなたね」


「何よ、悪い?」


「別に……」


 天子一行友達百人の旅。一行は紅魔館に立ち寄っていた。


 はいはい、刀回収。直前までチルノのオモチャでしたが、無問題。ちょっと冷たいけど。

 どうも、天か色か分からない空の空椿です。





 サボり魔小町。藍色に気を取られちゃってるみたいです。

 四季様に叱られても知らんぜよ?


 さて、藍色の服が大破しました。

 ええ、またです。想像した紳士諸君はあとで藍蓮神社の裏に来るように。



 幽々子はしっかり剣の訓練中。その内剣舞を披露します。

 妖夢だって成長してます。もう半人前なんて言わせない!





 ま、生粋の人間からしてみれば半人前です。半人半霊ですし……

 じゃ、失礼しますノシ

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