藍色と混戦 驚愕は敵だ
「禁忌「恋の迷路」!」
「むっ!?」
藍が突っ込んできた瞬間に宣言。しかし、パターンは読まれていたみたいで、安全地帯を走り回られている。
「……密度が薄いなぁ」
その割に回転が早い。しかし、九尾相手だと関係は無かった。
さっきの禁忌「カゴメカゴメ」も緑の小弾が少なかった変わりに黄の大玉が多かった。この二つも考える必要があるらしい。
「次!」
禁忌「恋の迷路」を解除すると同時に、次を宣言した。
「禁弾「スターボウブレイク」!」
藍が警戒して距離をとると同時に、
「わっ……わわわ!?」
一際強い雷が発生し、全く違う物が発動した。
「……あれ?」
無手だったフランの右手にあったのは、なんと大きく歪んだ巨大な弓。矢は無い。
今までと違う現象に、藍どころかフランすら驚いていた。
「え? え?」
「……うむ?」
見ていたルーミアまで一瞬思考が吹き飛んだ。流石にこうも変化するとは思いもしなかったろう。
「っ!」
フランが羽を羽ばたかせて空に浮遊し、弓を素早く構え弦を引く。構え方は本で見た。
すると、弓と弦の間に紅い光が集まり、一本の矢を発生させた。
「ま、まずい!」
本能的、衝動的にまずいと感じ、次の一撃の回避に全神経を集中させる。
「せ〜ぇの〜ぉ……」
弦を更に強く引き絞り、目を細める。
「でやぁぁ!」
放たれた真紅の矢は、驚異的な速度で藍に迫る。回避すら間に合うか、最早賭けの域だった。
ズドンと轟音が響き、舞うのは地面の欠片と少量の鮮血。
「っがぁ!?」
左の頬は紅に染められ、背後に発生した轟音に三半規管を狂わされる。
「な、なんて威力……」
「でぇい!」
「だあぁぁっ!?」
勘だけでダイブした。一瞬後に真後ろは爆発し、衝撃に乗って藍はかなりの距離を飛んでしまった。
「ぐ、う……」
更に追撃が来るか? と思ったが、流石に射程外らしく、フランは矢をつがえたまま動かなくなった。
「…………うむ、落ち着いた」
ゆらりと立ち上がり、頭の中では既に様々な計算を始めていた。矢の速度や距離を割り出すのは得意技だ。
「……情報が足りないな、出来ればあと一発」
しかし、答えを出すには至らなかった。だから新たな情報を得る為にも、体を傾け追い風を受けて駆ける。
「行くぞ!」
「むっ……」
接近してきた藍にしっかり狙いを定め、時に先を読んでチャンスを待つフラン。あまりに正確過ぎて恐ろしいが、フランは弓その物を使った事はまだほとんど無い。
しかし、それを成し得てしまうのは才能か知識か。はたまた両方か?
「早いね……」
時間が経つ程にフランの精神は落ち着いて行くが、藍は逆に焦りが出て来た。
目の届く先でずっと狙われていて、気分が良いわけがない。
「くっ!」
疲労と自由の利かない体が、遂に藍の足を滑らせた。
「隙あり!」
集中力が高まっていたフランはそれを逃さない。またも真紅が地面を爆破した。
「そっちがなぁ!」
捨て身の回避をした藍が爆風に乗り、右の爪を突き立てる。カウンターだ。
基本的に弓使いは近距離の対応手段が無い。近距離の素早い相手を狙うのは難しいのだ。が……
「えいっ!」
まさか、弓を振りかぶって来たのは計算外だろう。吹き飛ばされたのに気付いたのは地面に落とされた後だった。
「な……え?」
「あ〜あ、やっぱり消えちゃった」
フランが壊れてない弓を上に投げる。端の方から弾幕となり分解され、弓は消えた。
長く持った方だが、いい加減にスペルカードその物の時間が来てしまったらしい。
「まあいいや! 楽しかった!」
別のスペルカードを取り出し、笑顔で構える!
「続行だ!」
「こ、このぉ……!」
視点は変わり、こちらは賢者と付喪神である。
「紫奥義「弾幕結界」」
いいいいきなり容赦ねぇなお前さん!?
紫の姿は消え、広範囲を魔法陣が回転する。
「……耐久スペル?」
「似た感じね」
何処からか紫の声が聞こえたが、姿は確認出来ない。
「でも正確には、同じ名前であって違う物。あなた達を無力化する為に作り替えたのよ」
辺りを回っていた魔法陣が弾幕を並べる。その量は尋常ではない。というか、避けさせる気は無い。
「ぴゃあ!?」
並べられた弾幕が一斉に襲いかかる。成る程、死合いなら避けさせてあげるわけにはいかないな。
「びっくりさせないでよ!」
回避、回避、回避。たまに傘で弾き飛ばして隙間を作る。
次は真後ろから来た。それも回避、弾き、受け流す。
「……嘘、全部捌いちゃったの?」
既に第二波の用意はしているが、まさかあれをどうにかされるとは思ってなかったらしい。
「……これは驚いたわね」
「それはどう……もぉう!?」
第二波をまたも流し、そのまま何回も何回も捌いてしまう。
「……はぁ」
いや流石におかしい。いくら体の能力が上がっても、判断力や第六感まで強化されるとは考えにくい。
「まさか……ねぇ」
遠目に藍色を見る。普段より輝く瞳は小傘を見つめている。勿論こちらは見えないので小傘を見るしか無いだろう。
「……!?」
そのハズだった。しかし、藍色は横目でこちらを見つめた。短時間だが、確実に。
「まさか、見えてるとでも……」
「よっし!」
別の場所から声が上がる。思考を中断して見ると、全て捌いてしまった無傷の小傘が居た。
「……頭が痛いわ」
「人に攻撃してなんでそっちが痛くなるの?」
さあねぇ。
「仕方ないなぁ。次はこっちから行くよ?」
小傘が傘を振り回す。その度に高密度の弾幕がばらまかれ、紫に回避を強制させる。
「弾幕? 肉弾戦かと思ったのに……」
藍色達の事だから、と予想の外れた紫。実は理由があるのだが、気付いてはいない。
「どりゃあ!」
一際大きく振りかぶり、弾幕の波を放つ小傘。色とりどりの弾幕に、小傘の姿が視認出来なくなる。
「豪快ねぇ」
余裕を持って回避し、気付く。
「あら?」
居ないのだ。
「逃げた……わけじゃ」
「こんばんはっ!」
「ッ!?」
真上からいきなり小傘の笑顔が振ってきた。更に密度の高い弾幕が炸裂し、思考を乱された紫は防御を余儀無くされた。
「くっ! やって」
「これまたびっくり小傘ちゃん!」
「きゃっ!?」
今度は真後ろだ。今度は見る余裕も無かった。
「へへ、賢者の驚き二つ頂きました〜」
上機嫌な小傘が遠くに確認出来た。
「や、やってくれんじゃないの……」
口が裂けても舌噛んだなんて言えない紫。
「いいわ、あなたをちゃんと強敵と認めてあげようじゃないの」
「ん? 良いの?」
「このままコケにされたままは好かないからね……」
扇を開く。目の中にあった余裕の色はなりを潜めた。
「耐えてみなさいよ。妖怪の賢者の名にかけて、あなたを必ず地に叩き落としてあげるから」
「そっちこそ、あんまり驚きすぎて舌噛んでも知らないよ?」
……それがな、もう噛んでるんだ。
「小傘はどう?」
「良い勝負」
「そう。フランはちょっとびっくりな出来事が発生したわよ」
「後で聞く」
傍観者の二人は、その場に座って身内の行動を見逃さないようにしている。そこに……
「見ない顔ね、あんた誰?」
参加者が。カッターシャツにサスペンダーで吊ったもんぺと、なかなかどうして見かけない格好だ。
「藍色」
「ああ、最近噂の」
藍色も有名になったもんだね。
「あなたは?」
「藤原妹紅」
「ふぅん」
曰わく、竹林で案内人をやっているそうな。
「なんでこっちを見な」
「身内を見てるから」
案内人だろうがお構い無しでした。
「身内?」
「唐傘と吸血鬼」
「……凄いメン」
「それほどでもない」
宴会の時の方が凄いだろうよ。
「それにしても、スペルカードルールは一体どうしたのよ? 流血試合になってるし……」
「そ〜いう戦いなのよ。戦って傷つけて、倒した方が勝ちの正真正銘の死合い」
会話に参加しなかったルーミアが声を出す。視線はフランから外さない。
「リグルとミスティアからよく聞くわよ。あなたも似たような事してるじゃない?」
「あれは……ね」
反論は出来ないみたいだ。
「ま、痛い思いをしたくないなら大人しく見てなさい。何か学べる所でもあるでしょ」
「そーする」
適当な場所に座り、藍色をチラチラ見ながら光弾を見つめていた。
「禁弾「カタディオプトリック」!」
小さくパチパチと音が鳴る。しかし、発動してみるとあまり変化は無いように見える。
以前に紫に似た物を攻略させられたのか、慣れた感じで回避を繰り返す藍。
「これは良し、かな?」
少々修正は必要かもね。解除した。その瞬間……
「んぁ?」
視界が反転し、空に落ちて行く自分。
「やあぁっ!」
狐の掛け声が耳を通り、次に響いたのは痛みだった。
「うっ!」
地面に突き落とされたのを理解したフランはすぐさま立ち上がり、目の前に来ていた爪を寸前で回避した。
「わっ! とっ! ひゃあ!?」
回避した先に更に反対の手が迫り、爆転して回避をすると駄目押しのように追い詰めてくる。地面に次々と穴があく。
「シャァッ!」
体勢を変え、振り上げるように出された爪が、フランの額をかすって帽子を吹き飛ばす。
「あっ!?」
つい目で帽子を追う。
「余所見とは余裕だな!?」
遂に藍の爪がフランを捉えた。小さな腹に腕が貫通し、血を撒き散らす。
「ゴブッ……う……」
こみ上げてくる血が発言を邪魔する。腕はすぐに引き抜かれた。
「吸血鬼という種族の力に振り回され、余裕を振りまきながら戦った結果だ。呪うなら自分を呪え」
藍が右手にスペルカードを握り、フランの首を掴む。
「悪いが、もし死んでしまっても紫様なら生き返らせられるのでな。少し寝ていてくれ」
なに、すぐまた目覚めるさ。と口だけを動かす。
「幻神「飯綱権現降臨」」
かなりの至近距離から発動し、容赦なくフランを弾き飛ばした。
「ちょっと九尾〜」
「なんだ宵闇の、次はお前か?」
ルーミアが声をかける。
「決着したかは相手を確認してからにしなさいよ」
「必要ない。吹き飛んださ」
「そ〜ぉ……」
ニヤニヤニヤニヤ。ルーミアは笑みを崩さない。
「じゃあ、混ざっていいかしら?」
「混ざるも何も、既に吸血鬼は潰した」
「それはオーケーととっていいのね?」
スッと立ち上がり、笑みを消す。
「捕まえる為、なんて可愛らしい理由に包んでるけど、やりすぎと考えないのは月の魔力かしら?」
「正当防衛という理由に包んだ実験もどうだかな」
「さあねえ?」
ルーミアは藍の隣を通り過ぎる。
「少なくとも、倒すで止めるのと殺すで止めるのは違うわね〜」
ルーミアが息を吹き、残った土煙を飛ばす。
「ま、何でもいいかしらね。妖怪は所詮月には勝てないのよ」
フランを優しく立たせ、耳打ちする。血は止まっていた。
「……さ、私達も好きにするから、藍色を捕まえるという名目の下に暴れなさい」
フランから手を離すルーミア。フランが倒れる事は無かった。
「ほら、まだやる?」
「……うん」
これは驚いた。まだ動けるのか。
「禁忌「フォーオブアカインド」」
またもフラン達が藍に襲いかかるが、動きは鈍い。
「続きはまた今度にしましょうか」
「分かった」
フランが白紙のスペルカードを出した。
「む?」
「大罪「ラストジョーカー」」
フッと藍が暗くなる。上に何か?
「なあっ!?」
回避。真上から落ちてきたのは『五人目』のフラン。
「…………アハハ」
しかも、かなり危険な目をしている。
「暴れないで、倒すだけだよ」
周りのフランが言い聞かせる。
「さて、私も混ざるわね? 見てたら我慢出来なくなっちゃった」
ルーミアも何故か十字架の短剣を両手に構えている。
「は、謀ったのか!?」
「ちょっとだけよ」
六つの暴力が一斉に襲いかかった。
「どおりゃあああっ!」
「きゃっ!?」
上空から雨のように弾幕を撒き散らし、紫の弾幕が迫ればすぐにどこかに移動される。
たまにとんでもない速度で移動される為、紫は先程から驚かされてばかりである。
「はああっ!」
「ひゃああ!?」
紫は紫で密度の濃すぎる弾幕で確実に小傘の精神力を削いでいる。
段々と回避が危なっかしくなってきたので、ちゃんと効いているみたいだ。
「いい加減に当たって倒れてくれないかしら!?」
「嫌だ! 当たったら痛いじゃない!」
「私はさっきから痛いわよ!」
主に舌がな。
「しっかし、なんでそうも避けられるの? 驚きすぎて寿命が無いも同然なのに無くなりそうよ」
「考えるのは得意でしょ〜」
「だったら考えさせなさいよあなたは……」
「お断りだ〜っ!」
「んぐっ!?」
確実に紫の舌にダメージを与える小傘。
「ああ驚いた…………驚いた?」
驚いたと言えば……ねぇ。
「あなた、能力使ってる?」
「ぎっくぅ〜」
ビンゴだ。
小傘の能力は『人間を驚かせる程度の能力』。だが、藍色の能力の加護を受けて実質人間の枠には収まっていない。
それは言いかえれば、『相手を強制的に驚かせる程度の能力』で、更に……
「つまり、あなたは『私を驚かせるような行動』をしているってわけね……」
「ば、バレるの早くないかな……?」
瞬間、紫が狂ったように笑う。笑う笑う、そして、
「冗談じゃないわよ!」
泣きながら怒った。
「つまりそれは、かなり曖昧な『相手を超える能力』と変わらないじゃないの!」
勝てるか!
「あは、ははははは〜」
「んもう! 戦い損よ!」
そんな紫への対応は……
「ごめんなさ~い」
テヘペロ。
「ああああああっ!」
ついにキレた。紫は辺り構わず弾幕を撒き散らし、小傘どころか遠くの藍色や藍まで攻撃した。
「ちょちょちょちょ! ご主人様ぁぁぁ!」
小傘が泣きながら助けを求めたのを確認し、藍色は立ち上がって宣言した。
「否定証明「絶対確率」」
更に、手には何故か以前の式が。紫が気付いた!
「そ、それは……」
藍色が軽く振りかぶる。思わず展開させていた弾幕が消える。
「嫌~~っ!」
スパーン。
「もう元気だよ!」
「はいはい良かったわね~…………ハァ」
数分後、そこには藍色にこき使われる紫の姿が!
「紫様、気を確かに……」
「もう疲れたわよ……心身共に……」
「へ〜ぇ、あの八雲紫をねぇ……」
妹紅が面白がっている。屈辱だろうなぁ。
「さて、そろそろ夜を消さないとね」
藍色がフランを小傘の隣に移動させ、唐傘を開かせる。
「お疲れ様」
「はいはい」
ルーミアに周りの夜が集まり、段々と日差しが戻ってきた。既に夕日だが……
「じゃ、妹紅さん。またね」
「んぁ、もう行っちゃうんだ」
「ご主人様は筋金入りの旅人だから、あまり長いところにいるとソワソワしちゃうの」
だから紫に足止めされた時はいつにも増してイライラしていた。仕方ないか。
「そう。じゃあ、また今度会いましょ」
「うん」
結局、紫の式を放置して藍色達は去った。
「ちょ、この式……」
「それ、橙なら剥がせると藍色さんは呟いて」
「藍! 橙を呼びなさい! 早く!」
「はははははい!」
「面白い奴だったなぁ」
楽しみが増えた妹紅だった。
「ああ、藍色、小傘は戻さなくていいの?」
「そういえば。やらないの?」
「……………………う」
「え?」
「……うぇぇ……」
「「「あ…………」」」
一方のこちら……
「天狗は頭が固いですね」
「仕方ないさ、あいつらは」
「…………人里に行く」
「「え?」」
天子一行友達百人の旅。一行は妖怪の山を下山していた。
詳しい描写は気が引けましたが、フランは藍をこれでもかと言うくらいにボコボコにしました。フランちゃんヤメテ。
小傘をまさかのチートにした魔改造厨の、天か色か最近決めたくなった空椿です。長い? スマン。
天子一行ネタは無事に役目を終えたので、次回からは幻想郷一周の旅に戻ります。お疲れ様でした。
いやいや、もうちょっとだけ続くんじゃよ。
さてさて、次はどこに行こうかな……
空椿でしたノシ。