藍色と弟子 看板は敵だ
「そんな事があったのね」
幽香からひまわりの種を貰い、軽い世間話をする小傘。
「それなら、今度お礼をしに行かないとね」
幽香が藍色の髪を撫でながら言う。反応は返ってこない。
ちなみに、藍色はルーミアが常時おんぶ状態だ。小傘とフランは日傘の問題で遠慮している。
鈴仙は黒鳥の上から一歩も動かず、幽香をずっと遠巻きに見ている。怖いらしい。
「お願いだから穏便に済ませてね」
「保証は出来ないわ」
「はいはい、もう諦めたわ。小傘、フラン、次に行くわよ」
「「は〜い」」
ルーミアが黒鳥に乗り、スタートから一気にトップスピードに。太陽の畑はあっと言う間に見えなくなった。
鈴仙が落ちそうになったのをルーミアが支えていた。
「つ、次は」
「白玉楼でしょ? 目を通した時に大体は記憶したし、それの場所も何となく分かるわよ」
「さっすがルーミア!」
「フランも見たら覚えられるんじゃないかな……」
話題が無くなった頃に到着。話は長く続かなかったので、考えてみれば滅茶苦茶な速度だ。
「それじゃ、待ってなさい」
藍色を寝かせ、白玉楼の中に消えた。
「……こうして見ると、凄く綺麗な人ですね」
鈴仙が未だに反応しない藍色を見る。息はしてるし、目は開いているが全くの無反応のまま。つねっても動きもしない。
「ご主人様大丈夫かな?」
「能力使いたいけど、何を壊せばいいか分からない……」
二人も心配している。
「師匠ったら、流石にやりすぎですよ……」
「あのお医者さん、悪い人?」
フランが綺麗な瞳を鈴仙に向ける。が……
「藍色に酷いコトしたから悪い人だよね? 私ガ壊シテアゲヨウカナ?」
「フラン! 駄目! 絶対に駄目!」
鈴仙が一気に青ざめた。そりゃ、フランの目から一気にハイライトが無くなったんだから怖いわな。
「はぁ〜い」
さっきの狂気は一瞬で消え去り、いつものフランが顔を出す。
「あ、あは、はははは……」
鈴仙の心境はこうだろう。
速く帰ってお風呂に入ってもう寝たい。
さて、しばらく待ってるとルーミアが帰ってきた。
「はい、次行くわよ」
また肌に風が当たる。実際は滅茶苦茶キツいのだが、妖怪を舐めてはいけない。
「次どこ?」
「妖怪の山。そこに沢山あるからまとめてゲットするわよ」
「了解ぃ〜」
材料の七割はそこにあるそうな……
程なくして適当な位置に到着。真下には河童のにとりが機械いじりをしている。
「とっつげき〜!」
フランが小傘に抱きつき、一緒に飛び降りる。ルーミアは藍色をおぶって浮遊しながら降下し、鈴仙も仕方ないので降りた。
乗客が居なくなった鳥は真っ黒な霧になり、大量の烏程度の大きさの鳥となり山中に広がっていった。
「河童さ〜ん!」
「ん? 上?」
にとりが上を見上げると、開かれた傘のおかげでゆっくり落ちる唐傘と吸血鬼に、いつか見た少女を背負った金髪の女性と、怯えるように距離を離した兎がいた。
「…………ひゅい!?」
ビックリデス!
「なんだ、そんな事なら喜んで差し出すよ」
「助かります」
鈴仙が試験管と小さなナイフを差し出す。にとりは少々痛がりながらも指を切り、血をそれの中に入れて渡してくれた。
「ありがと」
「これくらいおやすいご用だよ。それじゃ、またね〜」
情景に同化して消えた河童を見送り、ルーミアは試験管とナイフを鈴仙に渡す。
「順調ですね」
「そ〜ね」
とはいえ、まだ十分の一も集まってない。
「期間は指定されてなかったよね?」
「そうだけど、出来るだけ早く済ませたいわ」
フランの質問に答え、軽く上を見上げるルーミア。
急に大量の烏が空を覆い、一気に此方に迫ってきた。鈴仙硬直。
「ひゃあ!?」
「私の子よ」
よく見れば、それぞれがその手に何かを持っている。時々手ぶらだが。
「ほら、ボーっとしてないで受け取りなさい。必要な物でしょう?」
「は、はいぃ!」
次々に落ちてくる材料を次々に袋に詰める鈴仙。たまに頭に落ちてきている。
「ルーミア〜、この子手ぶらだよ?」
「じゃあ、何も無かったんでしょ」
というか何故場所が分かったのか。
ルーミアは封印中は幻想郷全体を気ままに移動していたので、見たことのある物もあったらしい。度々天狗に追い返されたが。
「散策?」
「そ。怪しい物は何でも鈴仙に聞いて頂戴」
「で、出来れば程々に……」
『キケン!有毒ガス充満につき死にたい奴だけ近寄ってよし』
「「「「…………」」」」
コメントは差し控える。
「どうします? 他を当たりますか?」
「愚問ね」
「そうそう」
藍色一行が口を揃える。
「突撃よ」
「行くっきゃない!」
「れっつご〜!」
「ええぇぇ!?」
知らない所に行きたがりの藍色舐めんな。ちなみに藍色も連れて行く。
「有毒ガスですよ!? 危険に決まってるじゃないですか!」
「大丈夫だよ!」
フランがVサインを出しながら言う。
「全部破壊しちゃえばいいの!」
「そう来ましたか!?」
というわけで、万事オッケーである。
「はあ、空気が嫌という程美味しいわ……」
振り回され続けて脱力状態の鈴仙。フランは一見何もしてないように見えるが、時々両手を閉じたり開いたりしている。
「これは?」
「ああはい、それもですよ……」
投げやりだな〜と呟きながら変な形の雑草を渡す小傘。専門家以外にとってみれば雑草だが、薬師や魔法使いには非常に貴重だったりする物が大半である。
幻想郷で貴重な物といえば、大体確保の難しい物だ。
ちなみに、貴重な素材ナンバーワンにひまわり系が来ます。当然ですよね。
「……ねぇルーミアさん、さっきから黙ってるけどどうしたの?」
「……………………え? ああ、ごめんなさい。何かしら?」
「……やっぱいーや」
小傘が質問をやめた。今のルーミアを邪魔するのはいけないと考えたようだ。
「小傘、ルーミアは何を考えてるの?」
「分からないよ〜……」
仕方が無いので観察してみる事にした。
ずっと黙って前を進み、たまに変な方向に振り向く。当然何もない。時々藍色を背負い直し、難しい顔を明るく変える事は無い。
ちょっとは相談に乗りたいが、どうにもそれは出来そうにない。
そんな調子で歩いていると、ガスの充満している場所を抜けてしまった。
「あ、出ちゃったね」
別に悪い事は無いのだが。
「もうこの辺りに必要な物は無いので、移動しましょう」
鈴仙がルーミアに声をかけるが、ルーミアは構わず歩き続ける。聞こえてないのか?
「……ルーミアさん?」
気になるのでついていくと、途中でピタリと止まる。
「ねぇルーミア、一体」
「十字架「磔の十文字」」
急に十字剣を出し、警戒態勢に入る。後の三人は思わず押し黙る。
その状態で五分は経っただろうか、急に十字剣の切っ先を空に向ける。
「満月符「フルムーンライトレイ」!」
青い光線が空を突き抜け、雲を貫いた。
「っちょぉ!? なになになんなの!?」
突然の行動に鈴仙が盛大な反応を見せるが、光線が消えたと同時にスペルを両方解除した。
「やっぱり気のせいかしら……」
やっと此方を振り向き、笑顔を向けてきた。
「ごめんなさい、続けましょう」
「あ、いやルーミアさん? この辺りはもう終わったらしいよ」
「なんだ、じゃあ移動しましょ」
「は〜い!」
お馴染みの黒鳥を出して乗り込み、飛び去った。次は霧の湖周辺を探索するらしい。
一行が飛び去った後の森に、急に邪気が濃くなる。そして、溜め息混じりの声が響いた。
「おお怖い、危うくバレるかと思ったよ……」
姿を見せないそれは、面白そうに、かつ驚くような声を出した。
「一体何者なんだろうね、あの女も、あの藍妖怪も……」
「何にせよ、下手に近付かない方が身のためかね。くわばらくわばら……」
さて、こちら藍色一行。
「……む」
「あ」
お姫様の復活である。
「藍色、大丈夫?」
「あんまり」
体調は宜しくない様子。
「体が鉱物の中に埋まってるみたい」
「あら、まだ動けないの?」
「うん」
おいそこ、いしのなかにいるとか言うな。
「やっと口が自由になった」
「やっとって事は、意識はあったんだ」
「うん」
曰わく、目覚めたままの睡眠、意識のある気絶と感覚は似ていたらしい。金縛りもかなり似ている。
「見えてたし、聞こえてたし、感じてた」
「感じてたの?」
藍色の矛先は小傘に向いた。
「つねらないで」
「ご、ごめんなさい……」
……しっかり意識はあったようだ。
しかし依然として体は動かないので、結局おんぶ続行となった。
時間は飛ばして紅魔館である。霧の湖に寄るついでに来てみた。目的の物はここには無いが……
「おかえり、元気にしてた?」
「うん!」
姉妹の挨拶を交わしておくのは良いことではないか?
「……で、藍色はなんでおぶわれてるの?」
「私が説明するよ〜」
フランがピンからキリまでバラします。
少女説明中……
「ふ、ふふふふふ……」
レミリアが真っ赤な槍を出現させ……え!?
「咲夜! 戦争だ! あのマッドサイエンティストを死より辛い目に」
「レミリア! 待って待って〜!」
「待てん! フランの恩人を酷い目に遭わされて落ち着ける物か!」
レミリアの大暴走と、
「……さて、ナイフの手入れをしないと」
乗り気の咲夜。
「新しい魔法書でも使いましょうか」
そして動き出した図書館と、
「準備運動しないと……」
門を離れる門番…………永遠亭オワタ……
「お姉様! 目が凄い血走ってるよ!」
「当たり前だ! フランはあれだけやられて怒らないのか!?」
「それは勿論殺シタイ位ニ怒ッテルヨ! アハハハハ!」
「わーっ! わーっ! 皆落ち着いてーっ!」
皆洒落にならない。仮にも幻想郷の実力者がマジ切れだからな……
一番危険なのはフランだがな!
「心配してくれるのは嬉しい」
藍色が皆を宥める。
「でも、止めてほしいの」
藍色の一言で、紅魔館から殺気が消え失せた。ああ焦った……
「ケリは私がつけるから」
ダニィ!?
「藍色、きっとあなたが一番おっかないわよ」
「う」
ルーミアがある一点を指差す。その先には……
「…………………………はっ!? い、一体何が!?」
今の今まで放心していた鈴仙が……
「……む」
ちゃんと謝り、紅魔館のメンバーに別れを告げて素材集めを再開した。ああ怖かった……
しかし、これで終わらないのが悪魔。密かに文を呼び出すレミリア。
「じゃ、伝言宜しく」
「了解しました!」
翌日、永遠亭に大量の妖怪が襲撃をかけ、藍色達が戻ってきた時には永遠亭は全壊していた。
「……藍色」
「何」
「もう何もしないから、次からこんな事をしないように説得して回って頂戴。一生のお願いだから」
「うん」
永琳の苦労は絶えない。
その頃……
「だ、誰もいない……?」
藍色を探して幻想郷一周の旅。紫は紅魔館に、
「……む!? 見つけたぞ藍色!」
「みゃ」
藍は永遠亭に来ていた……って見つかってるし!
天か色か分からない空の空椿です。最近の決まり文句になってきました。
試験的にあの人が出現。ルーミアも完全には察せなかったという……
本格登場は今は決めてませんが、いつかは出そうと思ってます。
以前感想に貰ったのをきっかけに、魔界にもちょっと行こうかな~という考えがあったりします。
なので、これからチラチラと旧作キャラを出すつもりでいます。そのための今回の登場です。
ただし、頻度も少なくキャラも限定的です。期待はしないように。
では、失礼しますねノシ