藍色と薬師 実験は敵だ
「ご主人様、また怪我したの?」
「ただ寄っただけ」
永遠亭。藍色はよくお世話になる場所である。今回は旅の途中で寄った。以前の事件から二日後になる。
「ルーミア、お肌艶々だよ?」
「そうね。以前に久し振りの食事をしたからかしら?」
「え? 昨日パン食べたよね?」
「ああ、それとはちょっと違うのよ」
フランはよく分かってないが、どこか理解してしまっている小傘は顔を青ざめた。しかしルーミアはどこ吹く風。
「じゃ、挨拶してから入りましょうか」
「挨拶? ……………………小傘」
「え、私?」
じゃなきゃ駄目なんだ。フランも何故かワクワクしながら見ている。
「……はぁい」
左手を口元に当て、大きく息を吸う。
「こんにちは〜ッ!」
「「「きゃあああっ!?」」」
「お〜」
イタズラ大成功のようで何よ
永遠亭の一部が炎上してるのだが……
「……あれ?」
「大方、永琳が試薬を落として爆発炎上したとかそんな感じじゃない?」
「どう考えても大惨事だよ!?」
「失敗」
「あ」
仕方ないので消火を手伝わせていただきました。
「ああびっくりした。持ってた薬を落としてそれが炎上して二度びっくりしたわよ」
「ごめん」
「その原因があなた達って事を知って三度びっくりしたわよ。何の用?」
「寄っただけ」
「寄っただけでこんなイタズラしないで頂戴。薬の大半がまとめて吹き飛んだわよ」
永琳の説教を食らっている四人。フランの位置は藍色の足の上なので地味に視界が悪い。
「結構危険な薬もあったのよ? 爆発しちゃったから気化して風に吹かれていったわ」
「うん」
「…………うん、じゃなくてね……」
一度大きく溜め息を吐き、フランを下ろして藍色を掴み、腕を引いて別の部屋に……
「何」
「悪いと思ってるなら大人しく残った試薬の実験体にでもなって頂戴」
「嫌」
「拒否権はあなたには無いからね?」
「ヤダ」
「薬の大半が吹き飛んだ私の事も考えてね?」
「みゃ」
「良い子だから、こっちに来なさい」
「みゃあああぁぁぁ……」
「……生きて帰って来なさいよ〜」
怒った永琳は怖いのだ。
「私のせいかな?」
「小傘のせいじゃないよ〜」
藍色が居なくなったので小傘の膝に座るフランが返事。ルーミアはスペルカードの整理をしていた。
「あれ、増えてない?」
「増やしたのよ。あればあるほど要所で適切な物を選べるから」
その全てが弾幕決闘に使えないのは何故か……
「あ、でもあまり沢山にはしないわよ? 覚えきれないから」
「ルーミアなら沢山覚えられるよ!」
「確かに、ルーミアさんなら私達のスペカまで覚えそう……」
謙遜するルーミアを褒める二人。
「……スペカといえば、こんな物を持ってるのだけど?」
服に手を突っ込んで何事か、と思っていると、白紙のカードが沢山出てきた。スペルカードの元じゃないですか!
「ちょ、何でこんなに!?」
「沢山あるね〜」
ルーミアがクスクスと笑う。
「巫女とか賢者とかから貰ったのよ」
正確には盗んだが正解な気がする。紫の懐からすれ違いざまに抜き取ったり、霊夢をセットクして無料で頂いたり、博麗神社のタンスから数枚抜き取ったり。
「強くなった時、以前使っていた物は全部上手く使えなくなっちゃったからね。アレンジしたり新しい物をいくつも作る為にも必要だったのよ」
「強くなったら使えないの?」
「スペルカードのスペックと自身のスペックが噛み合わないのよ。その為にね」
ルーミアが一つを見せてきた。以前使っていた月符「ムーンライトレイ」だ。これを今使うと、効果がかなり違ってしまうらしい。
「強くなるとこんな事も起こり得るのよ。毎日のチェックは大切だから、今からでもやりなさい」
フランを見ながら言う。
「うん!」
パタパタと羽を動かしながら返事をした。続いてルーミアは小傘を見る。
「で、小傘」
「な、何?」
ズイと小傘に寄り、肩に手を置く。
「強くなるとデメリットも多いの。それでもあなたはなるの?」
「え、なんでそんな事を?」
「あなたが誰かの強さを目の当たりにする度に何か考えてたから」
バレてたらしい。
「あまり私を舐めないで頂戴。目を見れば、心の奥底の闇なんてよ〜く見えるのよ?」
「……う〜」
「う〜じゃない」
デコピンを入れられ、ちょっと仰け反る小傘。
「そもそも、この幻想郷で強くなる理由は皆無なのよ?」
「え?」
まるで、自分を否定するかのような言葉だった。
「幻想郷に誰かが襲撃してくる事なんてほぼ無いし、ただ力を持て余してしまうだけよ?」
一応自分にも言ってるつもりのようで、言葉を紡ぐ度になんとも言えない表情になる。
「その力を全力で振るう事は出来ず、誰かと戦っても不完全燃焼のまま終了。加えて、その強さ故に寄ってくるのは物好きだけ。どうかしら?」
ルーミアには友達がいたからまだいいが…………
「身内だけは違うでしょうが、身内で戦う事なんてしないわよね? もしそうなら私が止めるわ」
黙って聞く小傘と、心配そうに見つめるフラン。場の雰囲気は重く、心臓を掴まれているようだ。
「在りし日の力を取り戻すなら良し、誰かに認め、褒めてもらうなら良し、自身より強い者に牙を向けるなら良し。強くなるのには目的がいるのよ?」
「目的?」
「そ。それが何かは言わないけど」
例に上げた目的に、心当たりがある一行の内数名。
「強くなるなとは言わない。目的を見つけ、それを目指す為に強くなりなさい」
「……はい」
「よろしい」
ルーミアは大きく伸びをし、硬かった表情を崩す。緊張感は出番を終えた。小傘はヘナヘナと体勢を崩し、奥で硬直していたフランはルーミアの隣に移動した。
「ま、私の目的は既に達成されちゃったんだけどね」
「ルーミアの目的って何だったの?」
フランの頭を撫でながら言う。
「在りし日の力を取り戻す為。でも私は、ある一件で十分すぎる力を得たわ」
ある一件が何なのかは、あえて二人には言わない。何となく理解しているだろうし。
「だから今は伸び伸びとしながら、自分が強くなる目的を模索してるわ」
「……そっか」
「ま、ゆっくり考えなさい。私はYESもNOも言わないわ」
小傘の頭にも手が置かれた。
「わ」
「ふふふ。可愛い反応ね」
そのままわしわしと手を動かされる。あれだ。ナデナデだ。
「ちょ、ルーミアさん!」
「ルーミア! 私も私も!」
「分かったから暴れないの〜」
その様子を、偶然通りかかった兎が後に語る。
「姉妹ってあんな感じなのかもね」
さて、永琳におぶわれて帰ってきた藍色は、顔は変わらないが非常にグッタリしていた。
「ちょっと、何したのよ」
「眠らない妖怪と聞いたから、睡眠薬を飲ませてみたわ。例の超人が二秒で眠る強力な奴を人間にとっての致死量」
「ふぇぇ!? 藍色大丈夫!?」
やりすぎだ永琳、フランを驚かせてどうする……
しかし、周りを気にせず永琳がルーミアに藍色を渡す。藍色は全くの無反応。
「安心なさい、ちゃんと生きてるから。体も起きてるし、脳に異常もないわ」
「でも永琳、このグッタリは尋常じゃないんじゃ……」
「そうね、初めてのケースだからそれ以上は止めておいたわ。やったら私が危ないもの」
小傘の質問に対してさらりとえげつない事で返す。藍色が大丈夫だったら続けるつもりだったのか?
「正直今すぐ消し飛ばしたいわよ」
「ルーミア、落ち着いて!」
「ルーミアさん! 怒りがオーラになってる!」
ルーミアの周りが心なしか暗い。
「ま、それは置いておきましょう」
「永琳も怖い〜……」
フランがもう泣きそうだ。
「薬の七割を吹き飛ばされたら誰でも怒るわよ。じゃ、今度はただの頼み事」
「頼み事?」
永琳はどこから出したか、大きめのメモを取り出す。
「爆発で吹き飛んだ薬の材料。全部とは言わないから、せめて半分は取ってきてね。屋敷の一部を破壊したんだから、これくらいのお詫びはしてくれるわよね?」
「……まあ、良いけど」
ルーミアが承諾したので、小傘とフランも頷いた。
「それじゃ、私の弟子を同行させるわ。詳しくはその子に聞いて頂戴」
背を向けて部屋を出て行く。
「十字架「与奪の十文字」」
ルーミアが急に十字架を出現させ、正確に永琳の頭に突き刺した。後ろの二人は驚きすぎて硬直した。
「……何よ」
痛みに顔をしかめる永琳が振り向かずに聞く。
「口の反抗はしないから、代わりに行動の反抗、かしら」
指をクイと動かすと、十字架は永琳を離れてルーミアの手元に戻った。
「別に構わないわよ。私も少々やりすぎたと思ってた所だし」
どうやら気にしているわけではないようで、そのままスタスタと言ってしまった。
「……ルーミアさん、何してるのさ」
「二人とも、手を出しなさい」
藍色に膝枕をし、二人に手を出すよう催促する。わけの分からぬ二人は考えながらも利き手を出す。
ルーミアはその手の上に十字架を出し、軽く振るう。血が数滴手の平を染めた。
「舐めときなさい。しばらくは空腹も満たされるでしょ」
ルーミアが藍色の口の中に血を数滴入れている。
「……うん」
小傘は微妙な顔だが、隣のフランを見ると喜んで舐めていた。やはり吸血鬼だからか。
「体の空腹はいくらでも満たせるけど、妖怪としての空腹はたまにしか満たせないからね」
そんな自分も十字架を直接舐めている。妖艶だ。
「……もう入って良いんじゃないかな」
フランが部屋の外を見ながら言う。どうやら、異様な空気を感じて入らなかった人物が居るらしい。
「は、はい!」
少し慌てた様子で入ってきたのは兎耳のついた少女。
「えっと……」
「鈴仙・優曇華院・イナバです。お好きなようにお呼び下さい」
「「りょ〜かい!」」
「分かったわよ」
藍色が話せたなら「じゃあうさぎさん」とか言うんだろうな。
「早速だけど、出発するわよ。とっとと用事済ませたいから」
「は〜い」
「分かった!」
「わ、分かりました」
ルーミアがメモを鈴仙に渡す。それを鈴仙が見た瞬間、顔をひきつらせた。
「こ、こんなの無茶ですよ……」
「何がどう無茶なの〜?」
鈴仙が材料の一部を読み上げる。
「ひまわりの種とか、霊魂の結晶体とか、河童の血液とか……」
ひまわりの種、太陽の畑にしかひまわりが無い。
霊魂の結晶体、下手にゲットすると幽々子が怒る。
河童の血液、河童は人見知りで、中々見つからない。
「あ、全部楽勝ね」
「え!?」
さ、とっとと終わらせますか。
その頃……
「……駄目ね〜」
藍色を探して幻想郷一周の旅。紫は妖怪の山に、
「藍色? ああ、あの噂の……」
「その言い方だと、まだ会ってないのか?」
「そうね。会ったら話をしてみたいかな」
「そうだったのか。悪いな、時間をとらせて」
「良いよ。最近は暇だったしさ」
藍は迷いの竹林に来ていた……
最初に言っておきますが、藍色はちゃんと復活します。そしてちょっと怒ります。
何故藍色を行動不能にしたのか自分でも分からない空椿です。
小傘強化はルーミアの教えと藍色行動不能により後回しになりました。あれ……?
さて、次回はいつもよりハイペースで幻想郷を巡ります。危険な場所も藍色一行には何のそのです。
ついでにお初の場所にもチラチラ行きます。あの看板を出すつもりです。あのお方にもチラリとグレイズするつもりです。
あのお方が誰かって? ヒントをやろう。
ヒントは旧作です(うそ)
ではノシ