藍色と妖精 乱入は敵だ
「あ、ルーミアだ!」
「久し振り〜」
霧の湖。何度か通ってはいるが、特に何もないので藍色はスルーしていた。
今回ここに来ている理由はルーミアのお願いである。最近友人と遊んでいないので、たまには会いに行きたいとの事だ。
「随分元気じゃないの。元気だったか聞く方が馬鹿みたいよ」
「え!? ルーミアバカなのか!?」
「どうかしら?」
扱いに困る氷精に慣れた感じで返事をしている。何年も一緒にいると大体の思考回路が分かると後に語った。
「……あら? あの子達は?」
「えっとね! 大ちゃんはけ〜ねの所! リグルとみすち〜は……」
なんかいきなり考え込んだ。
「分かんない!」
「あら、そう……」
小傘が苦笑いをした。
「……? あんただれ?」
藍色と小傘に気付いた氷精。
「藍色」
「小傘だよ〜」
名字を控えて話す小傘。フルネームより覚えやすいだろう。
「あいいろとこがさね? あたいチルノ!」
「よろしく〜」
チルノ、噂では最強馬鹿と名高い幻想郷最強の妖精。妖精の中では力は間違い無く最強なのだが、幻想郷全体から見てしまえば大した事は無い。
加えて、その辺の妖精に言語を与えた程度の知能。幻想郷最強の妖精という言葉の『最強』の部分だけを不完全に覚えてしまった結果が現在の状態だ。
悪い子じゃないので、邪険にはしてやらないでやってほしい。
「ルーミア、いつのまにかでっかくなった!」
「なったわよ〜?」
チルノを抱き上げ、顔を同じ位置にする。
「ほら、こんなに違うもの」
「すごい!」
「でも前に会ったわよ?」
「え!? いつ!?」
「永琳の所よ」
「え〜っと……」
……また分かんないのか?
「そ〜だった!」
「良かった」
ルーミアがチルノを下ろし、その辺に適当に座る。
「ほら、二人も来なさいよ」
「うん」
「は〜い」
さて、今日はとことんのんびりしますか。旅ばかりもちょっと疲れるし、たまにはゆっくりね。ルーミアが土産袋を開き、沢山の食べ物をその場に出した。
「ねぇ」
「何でしょう」
「別に、やらなくてもいい事よね? 友達作り」
「はい」
藍色達から視点を移し、此方は面倒をふっかけられた天子一行である。メンバーは天子、衣玖、萃香だ。
「じゃあ止める! なんで妖怪なんかに私の生き方を変えられなきゃいけな」
「一生友達出来ないよ」
「うぐ……」
萃香がやや離れた場所から声をかける。
「騙されたと思って頑張りなよ。あと九十五人だろ?」
「その九十五ってのが気に食わないわよ。ちゃっかり自分達入れてるし、私は友達になった覚えは」
「では、九十八人がよろしいですか?」
「はう……」
衣玖の言葉にしょぼくれた天子。
「そこの三人! これから先には……萃香様ァ!?」
いつの間にか妖怪の山に侵入していたようで、椛が飛んできた。しかし、上司の鬼にビビりまくりだ。
「お、丁度良いや。天子、話してきな」
「な、何で天狗なんかと!?」
「別に人間だけを友達にする必要なんて皆無ですよ。そもそも私や藍色さん達も妖怪です」
「わ、分かったわよ……」
天子は渋々と椛に近付き……
「あなた、私の友達になりなさい!」
「総領娘様、落第点です」
前途多難だなぁ。
「ただいま〜」
「あら大ちゃん、久し振り」
「あ! ルーミアちゃん、久し振り!」
「「初めまして」」
「は、初めまして! 大妖精です」
再び視点を移してみると、チルノの親友の大妖精が慧音の所から帰ってきていた。勉強の分からない部分を聞きに行っていたらしい。
「大ちゃんお帰り!」
「ただいま〜!」
「ま、座りなさい。今お菓子広げてるから」
「は〜い」
大ちゃんはチルノの隣に座った。
「私藍色」
「私は小傘だよ〜」
「藍色さんと小傘さんですね! よろしくお願いします〜」
礼儀正しい子だ。でも個人だとすぐ逃げちゃう臆病な子です。今回はチルノが居たから全然大丈夫だが。
「ルーミア! 私喉乾いた!」
「喉? ……飲み物あったかしら」
土産袋を漁ってみるが、飲み物は無い。藍色と小傘を見るが、小傘は首を横に振り、藍色は大きめの鞄を見つめていた。
「…………仕方ないか」
ルーミアは鞄を開けた。
「お! 何それ?」
「飲み物の代わりよ。あまり美味しくないけど……」
「何だか含みのある言い方ですね」
「それ、永琳の薬だから」
「え!?」
「これ美味しくない!」
「あっ!?」
既にチルノは飲み干していた!
「……あはははは」
「む」
やがて煙が。ルーミアが手で扇ぐと、それはそれは美しい女性が。
「……あ? これ凄いよ?」
「チ、チルノちゃん凄く綺麗……」
「飲む?」
藍色が差し出すと、興味が出たみたいですぐに手にとる大ちゃん。
「美味しくないけど」
「うっ!?」
不味いではなく、美味しくないである。極限まで無味なのだから。
やはりポンという音と共に煙が現れ、出てきたのは例外なく美しくなった大ちゃん。
「大ちゃんも綺麗!」
「あ、ありがと……」
「やっぱり綺麗になるか〜」
「小傘も飲む?」
「え」
「ねぇ」
「はい?」
「湖がいつにも増して騒がしいのだけど」
「そうですね……」
こちら紅魔館、ただいまティータイムです。
「またあの妖精達かしら?」
「にしては声が多いですけど?」
「ん〜……ちょっと見てきて」
咲夜が少しレミリアから離れ、窓を見てくる。
「藍色さん達です」
「藍色が?」
「はい」
「……よし、私達も行きましょう」
あ、行くんだ。
「妹様はどうしましょうか?」
「一緒に連れて行きましょう。会えるのを楽しみにしてたし……」
「では、お連れします」
レミリアが腰を上げた。
「美鈴」
「はい」
ちょっと飛ばして門の前。
「寝てたわよね」
「…………はい」
ナイフ一人前入りました。
「行きましょ」
「は〜い!」
「かしこまりました」
「わぁ!? 何が起きてるの!?」
「あ、ルーミアだ!」
「あら、二人も来たのね」
リグルとミスティアも来た。藍色以外大人なので驚いたらしい。
「あ、みすち〜だ! やっほ〜」
「チルノなの? 一体何がどうなってるのさ!?」
かくかくしかじか。
「で、これがその薬らしいの」
「これがねぇ……味はどうなの?」
「無味」
「ふ〜ん」
ミスティアがまじまじと見つめる。
「飲む?」
「「飲まない」」
「そう」
「飲んでも楽しいけどね!」
大ちゃんが自分のスカートの裾を持ち上げてみせる。可愛いじゃないか。
負けじとチルノもやってみせる。ぎこちなくて初々しい。
「二人ともお姫様みたいだね〜」
小傘がニヤニヤしながら言うと、チルノは顔を和らげ、大ちゃんは真っ赤になった。
そんな様子をからからと笑っていると、何やら遠くから別の少女の声が。
「あ〜い〜い〜ろ〜っ!」
「ちょっとフラン! 日傘日傘!」
傘の単語に敏感に反応した小傘が駆け出し、こちらに向けて走ってくる少女に影を作ってやる。
「あ、フランだったんだ」
「小傘、こんにちは!」
妹様こと、フランである。遅れてレミリアと咲夜がかなりホッとした表情をしている。
「フラン、あなた日に当たるとどうなるのか分かってる?」
「ご、ごめんなさい」
レミリアの表情が呆れに変わりそうになった時、やや遠くの藍色が手招きをしていたので……
「隣、良いかしら?」
「うん」
隣に座らせて貰った。日傘を支える為に咲夜も隣に座る。
「私も私も!」
「こらこら、暴れると灰になっちゃうぞ〜」
「はぁ〜い」
藍色の反対側をフランが陣取る。仕方なしに小傘がその隣に。
「あ! ずるい!」
藍色の背中にチルノが飛び付く。そんなチルノを抑える為に大ちゃんまで来た。そしてそんな二人に更にリグルとミスティアが……
「……ちょっと藍色、大丈夫?」
唯一、藍色の正面で不動を決め込むルーミアが聞いてきた。
「狭い」
まあね。
「……聞いていいかしら」
「何?」
レミリアが藍色に聞いてくる。
「あなた、フランに何を吹き込んだの? 最近ずっと図書館で本を読み続けてるんだけど」
レミリア曰わく、藍色と紅魔館で大暴れした後、フランの知識欲はかなり強くなったようだ。能力の応用を知った彼女は、その幅を広げようとあらゆる知識をスポンジのように吸収していった。
その意欲はというと、数時間で速読をマスターし、図書館の半分を丸暗記している現状を見ても少々異常かもしれない。
「そんなに?」
「そうよ。パチェが呆れてるわよ」
ちなみに、能力の応用をしている時の副産物もある。
それは魔法。フランはそもそも魔法少女でもあり、普段から考えている事はフランの応用力を高め、魔法の範囲まで広げてしまった。
今現在のフランをレミリアの言葉で説明すると……
「吸血鬼の身体能力、パチェの知識、魔法、八雲紫のような危険な能力と才能を全部足して割らなかったらこうなるのかなと」
え〜……
「あれ、私そんなに強い?」
「はい。お嬢様が妹様に対抗して」
「咲夜! それ以上は……」
「すみません」
それ以上いけない。フランが藍色の影から見ている。
「私も負けてられないわね」
何故かルーミアも意欲を燃やしている。いやマジで何故だ。
「私も強くなりたいな」
「……あたいも本当の最強になりたい」
君達? 一体何を考えてるのかね?
まあ、流石に小傘はそこまで……
「…………う〜ん」
目が何か決心してるぅぅ!?
「で、何を吹き込んだの?」
「能力の応用」
せっかくなので、皆さんにも言ってみた。
「興味深いですね」
「独特な考え方ね。勉強になったわ」
「大ちゃん! 忘れないうちにメモしないと!」
「うん!」
長い説明だったので、大分時間を食ってしまったらしい。
「それ、平仮名で書きなさいよ? 戻った時に読めないかもよ」
「は〜い」
親友が揃って紙に鉛筆を走らせるのを見つめ、ルーミアも少し笑う。
しばらくして食べ物も無くなり、チルノ達はどこかに言ってしまった。
「中々有意義な時間だったわ。ありがと」
レミリアもそろそろ帰るつもりらしい。
「別に」
「フラン、帰るわよ?」
レミリアが声をかけると、フランは何故か小傘の服を掴んだ。
「うぇ?」
「やだ……」
レミリアに電流が走った気がする。
「藍色の旅の邪魔をするわけにはいかないじゃないの?」
「やだ……」
フランが段々小動物のようになってきた。
「……あの、私どうすれば?」
「私パス」
一番頼りになるルーミアが放棄した。小傘も困ってるし。
「私、藍色と一緒に居る!」
「日光はどうするのよ?」
「小傘が居るから平気だもん!」
私の本分は雨傘なんだけど~とか言っているが、残念ながらスルーされた。
「……藍色はどうなのよ」
ここで一行の最重要人物、藍色に話が振られた。
「む?」
呑気に桃をかじっていた。説明中。
「連れて行く分に問題は皆無」
フランが天使の笑顔を見せる。
「でも、すぐには決められない」
一気にしょぼくれた。
「同行する前に、紅魔館の皆とよく相談して。全員に誠意を見せて、その上で許可を貰って」
「……はぁい」
ひとまず、フランは帰る事にした。
「また寄るから」
声をかけ、帰らせる。手を振って見送った。
「良かったの?」
「うん」
いきなりフランを外に出すとレミリア達を心配させてしまうし、最悪関係が悪化してしまう。
よく相談させ、全員の合意を得れば大丈夫だろう。
「今は待つ」
「そう」
次に寄った時が楽しみだ。
ちなみに……
「……え? 来てないの?」
「うん」
「おかしいわね、未開の地には絶対行くはずなのに……」
藍色を探して幻想郷一周の旅。紫は無名の丘に、
「ふむ、今の今まで居たのか」
「うん」
「ありがとう」
藍は霧の湖に来ていた……
フランとフラグって何だか似てるし、何故か共通点を感じるよね。空に咲くのか空色なのか自分でも分からない空椿です。
そういえば、フランと初めて出会った外来人は戦闘になる呪いでもかかるのだろうか。まあそれはいいが……
多分、この時点で次の展開が分かる読者様も居るでしょうね。分かってても敢えてしらばっくれたら嬉しい。どうせすぐに判明する事だけど。
そして何故この展開なのか? 作者の限界です。スミマセン。
最近一日一回更新を勝手に守っていますが、最近章一つが出来上がる時間が遅くなってきました。タグの不定期更新にマジで陥る可能性大だ。
所でオーバードライブってどう略せばいいんでしょうか? OV? OD? 教えてつかぁさい……
さてさて、お賽銭が入りました。霊夢の気分がよく分かりますが、月一以下の霊夢よりはマシなんでしょうね。なんにせよ、jokerさんありがとう。
そういえば、無名の丘寄ったら後は廃洋館くらいしか行く場所無いような……
ちぃっとばかし場所の捏造が必要なのかもしれない。例えば、幻想郷の最も北に雪の溶けない場所があるとか。
ま、時間はあるのでの~んびり考えます。
んでは、失礼します。
小傘「今日のお風呂の時、藍蓮花のエンディングを勝手に考えてたよね?」
さ、さあ、ナンノコトダカ……