藍色と半霊 鍛練は敵だ
いやぁ、疲れた疲れた。三人とも、あんなに長い説教は初めてだ。
「今度、小町にお礼しましょうか」
「うん」
いつになるやら。
さてさて、ひたすら歩いていると到着した場所、階段。
長い階段で該当する場所は三つ。一つ、博麗神社。二つ、守矢神社。三つ、白玉楼。
頂上の見えない長さからして、白玉楼で間違いは無いだろう。
「……やっぱり長い」
「上まで飛ぶわよ」
ルーミアが藍色と小傘を掴み、結構な速度で飛ぶ。やはり幽霊のような、霊魂のような物が藍色にくっついてくる。
「幽霊に好かれる体質だったりして」
「否定出来ない」
「でも、幽霊って饅頭みたいね。美味しそう」
饅頭って以前に言ってたけど、饅頭じゃないぞ〜
ま、もう霊魂とか饅頭とかでどうこう言うのは無しにし、白玉楼に無断で侵入する。
幽々子は藍色の侵入を許可しているので、妖夢も既に気にする事は無いだろう。
「お邪魔します」
「失礼するわ」
「おっ邪魔っしま〜す!」
「ひゃっ!?」
驚きはするが。
「い、いきなり入ってこないで下さいよ!」
「めんどくさい」
藍色の拒否。妖夢はうなだれ、後ろの二人を見る。
「……どなたでしたっけ?」
「ルーミア。私の事忘れた?」
「私は多々良小傘だよ。安心して、確か初体験だから」
「……ああ、そうですか」
思い出した妖夢はルーミアには謝罪、小傘には挨拶をして庭の手入れを続けた。
「皆さ〜ん、こっちよ〜」
どこか間延びした声が聞こえ、振り向くと西行寺幽々子が手招きしていた。
「うん」
藍色が向かったので、二人も幽々子の方に歩いていった。
「久し振りね〜、元気だった?」
「微妙」
「変わらないわね……って、服変わった?」
「うん」
そんな会話の後は、自己紹介や妖夢作の庭を眺めたりなど、のんびりとしていた。
小傘だけは妖夢を驚かしたり、幽々子を驚かしたり、ルーミアを驚かして反撃の裏拳を頂いたりとせわしなかった。
藍色は藍色で白いのに埋まっていた。
それ以外に変わった事は無く、全員が同じ部屋で眠った。藍色は休息だが。
「朝ですよ〜」
元夜の妖怪が朝に起こされるのも面白い。ルーミアは元は夜型だったのだが、藍色に昼夜振り回されている内に昼型になっていた。
まあ、本人は無理矢理夜を作れるので大した被害は無いが。
さて、妖夢の作った朝の食事である。人数が多い事もあって、今朝は随分賑やかである。
「それで、幽々子様は全然やってくれないですよ。これじゃあ剣術指南なんて肩書きだけになりますよ」
「あらあら、それじゃあ藍色に頼んでみようかしら?」
「そんな事をしたらあなた達のおやつの命は無いわよ〜」
「それでもいい。別に困らない」
「わ、私はちょっと気になるかな?」
小傘の意見は放置し、藍色の能力で無理矢理やらせる事になった。流石に朝からやらせる程鬼畜でもないので、昼に予定してある。
「でも、剣術に使う刀だか剣だかはどうするの? 教えるにしても、肝心の武器が無いと出来ないでしょう?」
「倉庫に数年は埃を被っている刀があります」
「じゃ、私が取ってくるね〜」
小傘が白玉楼の中に消えていった。藍色が迷う確率を下げてあげたのだが、戻ってくるだろうか。
まあ戻ってきたのだが。
「あったけど、錆びてるよ?」
「あっちゃあ……」
錆まみれの刀を見つめ、頭を抱える妖夢。幽々子は満面の笑顔。
「これじゃあ教えてもらうわけには行かないわね〜」
しかし……
「貸して」
半ば強引に藍色が刀を奪い取り、能力を使用。錆がパラパラと剥がれ落ち、美しい刀身が姿を見せる。
「新品にした」
「さっすがぁ!」
小傘が賞賛するが、幽々子はまだ嫌がる。
「ちゃんと斬れるの?」
今度はルーミアが刀を取る。
「妖夢、これを見てどう思う?」
「なまくらですね」
また笑顔が戻る幽々子だが、ルーミアはまた藍色に渡し、能力を使用してもらう。
妖夢に見せてオーケーを貰うと、段々幽々子の目に焦りの色が。
「どう? ここまで上等になったなら文句は無いわね?」
しかし、幽々子は最後のわがままを言い放つ。
「か、刀は嫌いなのよ!」
「……だそうだけど」
「出来た」
藍色の手には、先程の刀と形の似た両刃剣があった。
「…………負けたわ」
幽々子は、自分の意志で妖夢の指南を受けた。
「幽々子って才能ある?」
小傘が妖夢に聞いた。妖夢の返答は……
「絶望的です」
アウチ。
「ただ、成長していないわけでは無いです。あれなら、努力次第でどこまでも伸びます」
「生き生きしてる」
「まあ、やっと自身の役を全う出来ましたから」
今、幽々子は自主練習をしている。曰わく、『やってみれば案外楽しい』だそうだ。今後が気になる。
「……私も、運動しようかしら」
ルーミアが軽く伸びをする。
「妖夢、悪いけど見てくれない? 剣に関しては素人だから」
「あ、はい」
ルーミアがどこからかカードを取り出す。
「十字架「磔の十文字」」
銀の十字架を模した剣がルーミアの目の前に現れ、それを掴む。
「じゃ、軽くいくわよ」
そう呟き、目の前の空間に素振りをし始めた。まるでそこに生き物が居るかのような動きを見せる。
「ルーミアさん、軽くには見えないよ」
小傘の突っ込み。妖夢も感想を述べた。
「剣術としては点をつけづらいですが、実戦用としてはほぼ完成されてますよ……」
要するに、魅せる為としては駄目だが闘う為としては卓越しているって事だ。魅せる為の必殺技、スペルカードに真っ向から喧嘩を売っている。藍色のスペルカードもそうだが……
「私の自信が消えて行きます」
ドンマイ。
「終わり」
最後に突きを虚空に刺し、構えを崩す。小傘は拍手を送り、藍色は黙って見つめている。
「それで軽いって……本気は一体…………」
妖夢はうなだれ、幽々子は笑顔をひきつらせる。様々な反応を貰ったルーミアは……
「そうね、ちょっとだけ見てみる?」
妖夢に一言。妖夢は是非! と言う。
ルーミアは軽く頷き、剣を軽く振り上げる。それを見た妖夢は二本の刀を構え、見切りに徹する。
藍色は何か能力を自分と小傘に使う。
「シッ!」
小さく息を吐く音と共にルーミアが大地を蹴る。瞬きする間もなく妖夢を通り過ぎており、その妖夢は一寸たりとも動いていなかった。
ルーミアが地面を削りながら滑り、藍色の目の前まで来た辺りで止まった。
「え、え?」
妖夢は何が何だか分かってないようで、幽々子も苦笑。しかし、藍色達は……
「二十〜三十は行ったかしら?」
「二十八回」
「全部寸止めって……やる〜」
ルーミアは適当。藍色と小傘は藍色の能力により胴体視力を強化していた。
「寸止めって、一思いに斬っちゃうより難しいわね」
ルーミアが妖夢に歩み寄り、背を軽く叩く。
瞬間、妖夢の服に二十八の傷が入った。
「ひゃぁあぁ!?」
その驚きようと言ったら、遠くの小傘が何故か満腹になる程だ。普段人を驚かす事をしないルーミアまで満腹になっている。藍色も軽くげっぷをしていた。
「ま、こんな所かしら。今が満月ならもっと出来たかもね」
藍色がもう一度能力を使用し、胴体視力を元に戻していた。胴体視力が高すぎると目から入る情報が多すぎてすぐに目が駄目になるから……
「さて、服直してあげるから着替えなさいな」
「は、はい……」
夜。何となく泊まってしまった三人だが、今日も世話になる事にしたそうだ。藍色を除いて寝静まった深夜に……
「藍色さん」
妖夢。どうせ起きているであろう藍色の名を呼ぶ。
「何」
「ちょっとご相談が」
藍色は布団から出、妖夢と共に部屋を出た。
「……小傘、行くわよね?」
「勿論」
どうやら妖夢の登場に気付いてたらしく、寝たふりをしていた二人も後を追った。
「ルーミアさんは強いですね」
「うん」
満月とは言わないが、見事な月夜。昼にルーミアがつけた地面の跡を見ながら、妖夢が呟く。
「あの人は、元々強かったんですか?」
「元々とも言えるし、ある日突然とも言える」
元々とは封印されり前で、ある日突然とは魔法の森での出会いだ。
「あなたも、強いです」
「それで?」
前置きは要らない。本題を求める藍色。
「強くなりたいのに、何をやっても成長出来ないんです」
「うん」
「……どうやれば、私は強くなれるんでしょうか」
妖夢が藍色を見る。昼のルーミアに何かを感じたのだろう。
「修行をしても成長しないし、周りは強くなるのに、私だけ取り残されて。私はもう限界なのでしょうか。この剣も、腕も、もう鍛えられる事は終わったのでしょうか……」
藍色は、あまり変わった様子の無い目で妖夢を見続ける。どうやら昼の出来事を引き金に、今までためていた物が溢れてしまったらしい。
「出会って日がないあなたに聞くのは間違ってるとは思ってます。でも、あなたなら私の悩みを聞いてくれそうな気が」
「聞いたよ」
不意に口を開いた藍色。話を進めていた妖夢は口を噤む。
「私は、あなたの悩みを聞いた」
立ち上がり、妖夢の前まで歩いてくる。
「でも、解決はしない。聞くだけ」
「そう、ですか」
妖夢は少し俯く。
「私、もう戻るよ」
妖夢の頭に手刀を加え、背を向ける。
姿が見えなくなる頃、小さな泣き声が聞こえてきた。
「ルーミア、小傘」
と、ここで二人とばったり。
「ご主人様って、意外と冷たいんだね」
「別に冷たくない」
藍色は否定した。
「親しいわけでもない私に聞くのは場違い過ぎる」
「まあ、ね」
ルーミアも同意する。が……
「でも、ちょっとくらい夢を見させても良かったんじゃないかしら?」
「む……」
まさかの反発に、ノーマークの藍色は少々反応に困る。
「何かやってあげれば? 夢を見るのは自由だよ」
小傘の一言と同時に、ルーミアは藍色の方を掴む。
「わ」
「ま、つまり……」
藍色を方向転換させる。
「突き放すより、ちょっとくらい手を握ってあげるのが良いって事よ」
トン。藍色の背中を押し、再び妖夢の前に立たせる。
「う……」
「あ……」
涙で顔が台無しになっていたが、藍色を見ると服で涙を拭き気丈に振る舞う。
「な、何ですか?」
「ん〜……」
藍色は言葉に困り、バツが悪そうに頬をかく。
「やっぱり……何か、しようか?」
半人前に、小さな笑顔が浮かんだ。
場所を変え、白玉楼の長すぎる階段。二人は月を見ながら話していた。
妖夢の話をまとめると、鍛錬を繰り返しても結果が出なくなってしまったらしい。しかし周りはどんどん強くなり、置いて行かれるのが怖い、と。
どうやら、幽々子の伸び具合も関係していたらしい。
「そう」
しかし、藍色はいつもの返事。歪みない……
「強くなれないの」
「……はい」
藍色は妖夢に視点を移す。見つめられた妖夢は少々ドキッとする。
「努力はしてる」
「はい」
しかし、藍色の返事には迷いなく答えた。
「……むう」
妖夢の目に、迷いも見えない。本当に、何が足りないのか疑問に思う程だ。
「適切な答えが見つからない」
藍色も困った。
「どうしても、駄目ですか?」
「うにゅう……」
藍色が考えを巡らせる。巡らせる。巡らせ……
「……無理」
思いつかなかった。
「駄目、ですか」
「むむむ……」
しかし、熱心に考える藍色。やるからには最後までやるのがモットーだとかそんな感じだろうか?
「…………う?」
何か考えついたのか、ちょっと考えを掘り下げる藍色。
「……どうかしました?」
「ちょっと」
藍色が、夜空を見上げる。
「強くなる為に、強いを知る。とか」
「え?」
妖夢が藍色に問いかけようとした時、既に藍色はやる事を完了させていた。
妖夢がそれに気付く前に、藍色が声を出す。
「手合わせ」
「え、え?」
「本気で」
藍色が妖夢に言う。
「まず説明を」
「早く」
「いや」
「は、や、く」
妖夢は諦めた。
「わ、分かりましたよ……」
二本の刀を抜き放ち、上段に構える。藍色は目と鼻の先だ。
「では、行きます!」
迷いなく振り下ろす。
ちょっと前。
「ん〜……ちょっとばかり遠いわね」
「聞こえないよルーミアさん」
「私も聞こえないわよ」
少し遠めの場所で、二人の様子を見るルーミアと小傘。開いた門の壁から家政婦は見たスタイルで見ている。
妖夢が二本の刀を上段に構える。
「やっぱ戦闘になるか」
予想していたらしいルーミア。じゃあこの後の事も……?
「小傘、避難」
「え?」
ルーミアが小傘を抱え、階段から離れるようにダイブした。瞬間……
不可視の刃が二つ、階段を削り、門を貫通して空に飛んでいった。
遅れて凄まじい衝撃が階段を粉々に破壊し、門をただの瓦礫に変えた。
「うっわ!」
「きゃあん!?」
無論、二人にもその余波は到達。距離が離れていた為か、やや衝撃は少なかった。
「っもう! やり過ぎよ!」
つい言いたくなったルーミア。小傘もはうはう言っている。
「せめて白玉楼半壊までにしてね……」
壊れた門から階段を見ると綺麗に三等分されており、目が点の庭師が奥に見える。
これから、藍色の無茶ぶりが庭師と共に始まる。最終的に何を生むのかは、まだ分からない。
ちなみに……
「……あれ?」
「どうしたのよ」
「私、藍色探しに来た筈なのに…………何でお茶飲んでるの?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみなさいよ」
「分からな」
「マジでやる必要ないでしょ賢者のくせ」
「賢者だってたまにはふざけるわよ!」
「ああうるさいうるさい。もう寝るわ」
藍色を探して幻想郷一周の旅。紫は博麗神社に来ていた……
ストーリーは中々浮かばないが、オリキャラのネタはどっさりある空椿です。
(現在五十人位ストックが居ます)
意見場所のリニューアルを最近考えてます。藍色神社の賽銭箱、なんて……ま、どうなるやら。
さて、多分気付くでしょうが、みょんの一日強者体験学習です。果たして白玉楼は全壊を免れるのか?
一部壊、半壊、全壊、白玉楼だけじゃ済まない、のいずれかから予想してみてください。予想だけでいいので。
今回も弾幕ナニソレ勝負です。さあ、どうなるやら……
あ、先に言いますが、妖夢の強さはちゃんと元に戻ります。流石にこのままでいると幽々子が霞むので……
せっかく剣持たせたのにね。
ま、長々続けるのもアレですし、この辺りで。活動報告に埋もれてる意見場所もよろしくお願いしますノシ