藍色と彼岸 説教は敵だ
彼岸。死んだ者が最初に来る場所である。
幻想郷の彼岸は一応徒歩でも来れるが、死者の魂が沢山浮遊しているのでお勧めはしない。
死者はここで死神と共に三途の川を渡る。罪の量によって三途の川の距離は変わり、渡りきった後に閻魔によって裁かれる。
これが彼岸の簡単なシステムだ。まあ、藍色達は興味がないが。
「……寝てる」
むしろ、眠っている死神のほうが気になる。
「起こす? 起こす?」
小傘が目を輝かせている。藍色とルーミアは小傘の肩に手を起き……
「「行ってらっしゃい」」
藍色が微妙に能力を使ったのは内緒である。
「うらめしや〜っ!」
「きゃんっ!?」
おお、跳ね起きた。あまりの声量にクラクラしている死神。
「な、何事だい!?」
「あはははは! きゃん、だって〜!」
小傘が腹を抱えて大笑いしているのを、慌てた様子で見ている。ルーミアもクスクス笑っている。
「ごめんなさい、気持ち良さそうに寝ていたからつい……」
まあそれはどうでもいいのだ。藍色が死神に話しかける。
「閻魔に会いたいの」
「四季様に? まぁいいか」
死神が小さな舟に乗る。藍色も後ろに乗る。
「ん? 飛べばいいじゃないか」
「私は飛べないから」
「あ、私達は飛ぶから安心して」
そんな感じで、三途の川を漕ぎ始めた。
「結構長いわね〜」
死神の小野塚小町に、ルーミアが話しかける。
「そうだね。まああたいに距離は関係無いからね〜」
「何故?」
「距離を操る程度の能力。距離に関連する事なら自在に変えられるのさ」
「じゃあ何で今変えないの」
それもそうだ。
「アンタが乗ってるからね。あたいは仕事に従ってアンタの罪に応じて距離を変えなけりゃならないのさ」
「いつもサボってるアンタが言うな」
「サボってるなら、今更ちょっとルール違反してもいいじゃん」
「いや、でもねぇ……」
仕事をする時はしっかりするのがポリシーらしい。困った死神だ。
「じゃあ降りる」
「それなら万事オッケーだよ」
藍色が水面に手をつける。
「あ、泳ごうとはしないようにね。ここはこの船じゃないと浮かないから」
「そう」
ひょいと船から降り、三途の水面に着水した。そのまま歩く。
「え?」
「「あ〜……」」
小町は驚くが、浮いてる二人は納得していた。
「ま、いいや。行くよ〜」
それ以上気にする様子もなく、小町は船を進めた。
案外早く渡りきった後、小町はすぐに居なくなってしまった。藍色は別に挨拶を交わすような事はせず、のんびりと歩く。
やがて巨大な建造物のような物の前に到着したが、出入り口は見当たらない。
「変わった建物ね〜」
「おっきいなぁ……」
ルーミアがそれを見上げ、感想を述べる。と、上の方に誰か居た。
「この建物は、必要の無い時は出入り口を開きませんから」
変わった帽子を被り、高い位置からこちらを見下ろしている。
「こんにちは、藍色の妖怪さん。四季映姫・ヤマザナドゥです」
「う?」
声に気付いた藍色が上を見る。
背が低い故か顎をぐっと持ち上げ……
「みゅう……」
パキッと音がした。痛そうだ。
「……降りますね」
気を使ってくれたようで、建物の中に消えた映姫。首が痛い藍色を気遣う小傘。先程の死神の事を考えるルーミア。
四季が扉を開けて戻ってくるまで、まとまりがあったとは言えなかった。扉、というより、建物その物に四角い穴が空いた感じなのだが……
「お待たせしました。お入り下さい」
三人は言葉に従い、建物に入っていった。
中も静かで、映姫以外は誰も居なかった。映姫はこちらを振り返りもせず、黙々と白い廊下を歩く。
壁も、天井も白い。たまに見える扉だけが唯一茶色だ。
と、映姫は一つの扉を開いて入る。三人も堂々と部屋に入る。四つの椅子とやや小さめの机があり、四人は黙って座った。
「では改めて。四季映姫・ヤマザナドゥです」
「藍色」
「多々良小傘です」
「ルーミアよ」
思い思いの挨拶をし、藍色が口を開いた。
「閻魔がどんな人か知りたかったの」
「そうですか。では、説明しましょうか?」
「うん」
時間がたっぷりあるのか、様々な事を掘り下げながら話す映姫。
よくまあ飽きずに聞けるな、と、自分の主人に関心する小傘と、貪欲に知識を吸収していくルーミア。藍色が理解仕切ってるかは分からないが、ルーミアはまるでスポンジのようだ。何をそんなに熱心に聞く必要があるのか……
「理解出来ましたか?」
「必要な部分は」
「すいません、全く」
「九分九厘は」
誰が誰だか当ててみよう!
「……所で、藍色さん」
「む?」
映姫が、何やら深刻な目で藍色を見る。
「あなたの事は、八雲の話以降詳しく調べさせて頂きました」
「うん」
「その結果、あなたは大変大きな存在と言う事が分かりました」
「私小さいよ?」
「背じゃないですよ」
ルーミアと小傘は乾いた笑みを浮かべた。小傘もそろそろ藍色に慣れてきたようだ。
「まあ、構いません。続けますよ」
どうぞどうぞ。
「多分、大方守矢の一柱が話してしまったでしょう。あなたの年齢や、過去などは」
「うん」
「ですから、その辺りは省きます。これ以降の話はまだ八雲にも話していない事です」
え、話さなくていいの? と言う前に映姫が話し始める。
「あなたの過去を遡った結果、浄玻璃の鏡が全く映らない時間が」
「聞いたよ」
ちょ、閻魔の発言まで!?
「話の腰を折らないで下さい」
「続けて」
「もう……」
何とか説教をこらえた映姫。話を続ける。
「その時間帯を見るのは諦め、私はもっと以前を見ることにしました」
「そこを見る方法は無かったの?」
「残念ながら」
ルーミアの質問に答え、すぐに話を続けた。
「数千万年程遡っても変わりないので、何か映るまで鏡を見続けました」
一体いつまで見続けたのか。映姫の口から出る事は無かった。
「結果、鏡には映像が映りました。どれだけ前かは不明です」
「へぇ」
小傘も興味が出たらしく、先程とは打って変わって熱心に見つめる。
「確かに藍色さんは映りました。が、景色らしき物が映る事は無かったのです。見えるのは無数の光だけです」
「え? 何よそれ」
「私も知りませんよ、空も地面も無い、見渡す限り星空のような場所なんて」
映姫にも知らない事はあったらしい。
「八雲ならあるいは知っているかもしれませんが、あの妖怪に借りを作るのは癪です」
三人の同意を頂いた映姫は話を続けた。と、言っても……
「その場所でもあなたは寝ていましたよ。まるで浮かんでいるかのように」
ルーミアと小傘は藍色を見て、一言。
「「寝坊助」」
「えっ」
んなこと言われても……
「で、その様子を数分見つめていると、私が見ている前であなたが起きましてね」
なんと。
「やはり何も分からないようで、しばらくキョロキョロしてましたが……ちょっと信じられない事が起きました」
「何!?」
小傘の好奇心が爆発し、映姫の言葉に耳を傾ける。
「過去の存在のハズの藍色さんが此方を見つめました」
「う」
「少し場所を変えても、見つめられましたよ」
「……ちょっと信じられないわ」
「私だって信じたくはないですよ。その後、能力か何かを使用され、鏡は真っ暗になりました」
確かにおかしい。過去が未来を見れる事は時間軸に何か影響があったと考えてもいいだろう。
「もう一度、同じ場面を鏡で見たらどうなるの?」
「もう、その場面が映らなくなりました。予想外が続いて、そんな存在なんだと危うく納得しかけましたよ」
映姫は溜め息混じりに藍色を見つめる。
「それなのに、今のあなたは何一つ過去を記憶していない…………そう、あなたは少し自分の事を知らなすぎる」
「う」
嫌な予感を感じ取った藍色だが、逃げる事は不可能だった。
延々と説教を聞かされ、眠れない自分を少々恨んだ藍色だった。
「そして、あなたはスペルカードルールを無視し……」
あっと、まだ終わってなかったか。なんか話題変わってるし。
「そして、あろうことか博麗の巫女を……」
まだかよ!?
「みぃ〜……」
珍しく仕事をし始めた小町のおかげで解放された藍色。隣にいた小傘は深い眠りに入っており、ルーミアですら欠伸をしている。
「災難だったねぇ、四季様の説教は長いから……」
仕事を終了させた小町が藍色とルーミアに言う。今映姫は久々の忙しさに歓喜していると小町が言った。
「でも、いつもより長い気はしたよ、アレ」
あ、そうなの?
「……ま、終わったなら何でもいいわ」
藍色が小傘を揺すって起こす。
「小傘、帰ろう」
「は~ぁぃ……」
また説教を貰いたくは無いようで、三人は早々に退散した。
「ま、アイツラを船で運ぶ時は多分来ないかな……」
小町は、欠伸をしながら持ち場に戻っていった。
ちなみに……
「藍色って妖怪を知らない?」
「一戦交えてくれるなら教えてあげる」
藍色を探して幻想郷一周の旅。紫は太陽の畑に来ていた……
東方旧作キャラに手を出そうか迷う空椿です。
映姫様は悔悟の棒と言う物をお持ちだそうです。直接棒に罪状を書き込み、罪の重さや数で棒の重みが増し叩く数が増える……だそうです。
藍色の罪を書いた棒を映姫が持つとどうなるのか。分かりません。
書いてる途中、小町が藍色の一行に参加した風景が浮かびました。一行全員との接点の無さと良い、藍色と通じるマイペースさと良い、加えるとしたらかなりピッタリ収まったんです。
でも、仮にも映姫の部下なのと、小傘が入ってまだ時間が経ってないのを考えて遠慮しました。小傘と小町って名前も似てますし。
時間が経ったら可能性はあります。ま、もうちょっと考えてみますね。
ではこれにてノシ