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東方藍蓮花  作者: 空椿
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藍色と昔話 忘却は敵だ

 服は天狗の仕立て屋に任せ、今は布団の中に居る藍色と諏訪子と神奈子。ルーミアはまだまだ元気で、今は天狗取材班を撃退している。

 神奈子は精神的にまいったらしく休憩、諏訪子はただの昼寝だ。藍色は服が無いので仕方無く潜っている。


 不運のせいかはさておき、なんだかよく服が無くなる藍色。どうしてだろうか。


「服が出来るまで、少なくとも一週間はかかるそうです」


「そう」


 早苗の説明を受ける藍色。それに返事をし、隣の部屋を見る。

 藍色の視線の先、部屋の向こう側には紫が倒れており、藍色は面倒に巻き込まれる前に逃げたかった。



「それまではここでじっとしてて下さいね。まさか参拝者にあなたの全裸を晒すのはまずいですし……」


「私じゃなきゃ良いの?」


「そんな訳ありますか!」


 その辺りの常識は持ち合わせていた。良かった良かった。


「それと」


「何ですか?」


 藍色が早苗を見る。


「もう、あの神様を強くとか、私を強くとかは言わないの?」


 出会い頭にそんな感じの事を言われたのを思い出した藍色。


「ああ、その話ですか」


 早苗が話し始めた。


「諏訪子様と神奈子様はもう強いのだと、今回で痛いほど分かりましたよ。私は、やっぱり自分で強くなろうかと」


「そう」


 藍色は布団に潜り直し、目を閉じる。


「では、私はもう行きますね」


「うん」


 早苗は出て行き、部屋に静寂……いや、諏訪子のいびきだけが聞こえる。


「あんたの事、紫から詳しく聞いたよ」


「ふぅん」


 どうやら起きていたらしい神奈子が藍色に話しかけた。


「多々良小傘はあんたの忘れ物なんだって?」


「うん」


 小傘は天狗の仕立て屋の所に居るはずだ。服のデザインを見てくれているらしい。


「今度は忘れてやるなよ」


「努力する」


 今は物ではなく者なので、多少はマシになるだろうが……


「あとは、全然眠らないとか……」


「そうみたい」


 一体何が要因で眠らないのか、本人が分からなければ仕方無い。神奈子は何故か難しい表情をしたが、それが何なのかは分からなかった。


「他には?」


 藍色が他の話題を求める。


「八雲紫をあしらったとか、覚の姉妹と出会ったとか」


「それも真実」


 さて、次の追いかけっこの相手は誰になるんだろうね。


「あとは、相当長生きとか」


「う?」


 ここで藍色が疑問符を出す。


「情報によれば、お前はそんじょそこらの妖怪なんかより長生きらしい。あの八雲紫よりも、な」


「紫って七十歳位?」


 あくまで自分が百歳だと思う藍色。


「いんや、物凄く軽く見積もっても一千万だよ」


 あえて軽く見積もって言う辺りに神奈子の優しさが浮かぶ。そんな神奈子を放置して藍色が更に悩み始める。よく分かってないようだ。


「つまり、あんたが覚えてないだけで、実際は物凄い長生きだっ」


「そうなの?」


 藍色が少し考えるが、どうやら思い出した事は全く無いらしい。


「詳しくは紫も分かってないが、私が知ってる事を教えてやるよ」


「お願い」


 藍色が頼むとは思わなかったようで、ちょっと驚いた神奈子だが、すぐに話を進めた。


「まず年齢。これについては紫の倍以上って事しか分からなかったよ」


 紫の年齢については言わないでおく神奈子。紫、良かったね……


「浄玻璃の鏡ってのがあってね、これがあれば過去を例外なく見ることが出来る筈だったんだ」


「筈?」


「ああ、ある時を境に真っ暗になってしまったんだよ。閻魔ですら首を傾げていたよ」


 映姫曰わく、『浄玻璃の鏡に異常は無い』だそうだ。


「閻魔?」


「閻魔が知りたいなら、次の行き先は彼岸にしな。あの死神も通すだろ」


 藍色の行き先が決まった。


「じゃ、次は幻想入り前の出来事を話そうか」


 神奈子が話を続ける。廊下側の襖が小さく開いているのに二人は気付かない。


「ハッキリ言うと、あんたの年齢と同じ数だけ時を戻して見てたら……」


 ちょっとだけためる。


「アンタ、寝てたよ」


「寝てた」


「うん」

 神奈子は話を続ける。


「それも、一ヶ月なんて一瞬な位にね。数千万年は寝て過ごしてたよ」


「す……」


 なにやらとんでもない数字が出た気がする。


「それより先は起きてたよ。今のアンタと大して変わらなかったけど、強者との戦いを毎日のように続けてたよ」


「うぇ」


 毎日かよ。


「更に五十年遡ってみたら……」


「みたら?」


「寝てた」


 またかい!?


「また数千万年程ね。次に起きてた時は戦いを一度もしなかった」


「そしたら?」


「遡る事一千年。また寝てたよ」


 どうやら、起きている時間にブレがあるらしいが、寝ている時間は変わってないようだ。


「これ以降は鏡が真っ暗でね、確認は不可能だったよ」


「むぅ」


 藍色は少し困った雰囲気が見える。自分自身が意外と厄介な生き物なのだと自覚したらしい。


「一緒に居た月の頭脳が出した結論はね、『一般的な活動時間と睡眠時間のサイクルが尋常ではない位に長い』だそうだ。その場の皆はそれで納得したよ」


「そう」


 納得はしたが、理解しがたい事だ。それで何故生命が維持出来るのか不思議でならない。


「それと、一度眠ると記憶がリセットされるみたいだ。覚えてるのは名前、能力、能力の使い方、言語だけみたいだ」


「やっぱりそう」


「あ、自覚はあったのかい?」


「意識が現れた時、その四つだけが頭にあったから」


 しかし、それだけではまだまだ分からない事だらけだ。何故そのようなサイクルなのか、何故浄玻璃の鏡が途中で見えなくなったのか……


「これ以上は今調べてる途中さ。また分かったら連ら」


「うん」


「ハハ……」


 そういえば、記憶はリセットされたものの、妖力は年々蓄積されていたし、マイペースとせっかちに一切変化は無かったとの事。それを見た全員はちょっとホッとしたらしい。

 あと、藍色の寝顔に紫が母性本能を掻き立てられていたのだが、それに気付いたのは霊夢と神奈子だけだった。霊夢も少し暴走していたが…………それは言わないでおこう。


「何か分かったかい?」


「全然」


 思い出せないらしい。


「思い出せる確率……なんてどうだい?」


「う」


 ピンと来た藍色。言うより早いか、黙々と能力を使用する。が……


「むぐう……」


 ことごとく失敗した辺り、運が無いのがよ〜く分かる。気分的には、宝くじを大量購入して全部外れた感じと似ている。


「あちゃあ、失敗したのか」


「うん」


 ある意味でお約束とも言えるが、それでもやはりこの運の悪さは凄いだろう。


「運が上がる確率とか考えてみたかい?」


「随分前から」


 そうだったのか……


「アンタも大変だね」


「そうね」


 神奈子が寝返りをうつ。


「じゃ、もう寝るよ」


「そう」


 一言おやすみと言い、規則正しい寝息を部屋に追加した。

 それを確認し、天井を見上げる藍色。

 藍色にしか分からないが、実はこの時も能力を何度も使用しているそうだ。成果は無い。


「入るわよ〜」


 ここでルーミアが登場。実は全て聞いていた。


「なんだかややこしい話をしてたみたいね」


「うん」


「ま、それはどうでもいいんだけど」


 ルーミアは話を流した。


「で、物は相談なんだけど」


「何?」


 ルーミアは隣の部屋を見やり、言う。


「八雲が起きる前にここ出」

「服が」

「能力使えば良いじゃない」


 藍色が台詞被せられるとは珍しい。


「そうする」


 藍色はちょっと天井を見上げる。能力使用時にはよくするが、本人は特に理由は無いと言う。


「一時間後に届く」


「ま、一週間に比べたら早いわね」


 どう考えても驚異的なスピードだ。


「それまで待機ね」


「いつもの事」


 二人はジャンケンをしながら小傘を待った。ちなみに、藍色は五十戦二勝四十八敗した。







「ご主人様〜、ルーミアさ〜ん」


「こんにちは、藍色さん」


 小傘と一緒に哨戒天狗の椛が一緒に入ってきた。小傘を送ってくれたそうだ。


「あら、もう出来たの?」


 白々しいルーミアだが、演技が上手すぎて二人は気付いていない。


「うん。なんか途中で急に天狗が集まってきて……」


 最終的にはデザイン画まで奪われたらしい。出来上がりも見ていないそうだ。


「それは、ちょっと楽しみになるわね」


「よろしければ、私にも見せて頂けませんか?」


「いいわよ」


 と、言うわけで……

 藍色一人が別の部屋に入って着替え中。ちょっと四苦八苦してるみたいだが、問題は無さそうだ。

 神奈子も待ってる途中で起き、諏訪子も目を覚ます。諏訪子の服はまだ届いていないので、布団にくるまりながら藍色を待つ。


「困ったら呼びなさいよ」


 ルーミアが言うが、


「もう出来た」


 出番は無かった。


「はいはーい! それじゃあ御披露目の時間です!」


 騒ぎたがりの小傘が襖の前に立つ。諏訪子が何故かノリノリだ。

 ルーミアが苦笑いをしている間に、小傘が襖を勢い良く開けた。バキッて音がした気がする。


「え、ちょ?」


 藍色よりそっちの音が気になった神奈子だが、出て来た藍色を見て更にビックリした。


 なんせ藍染の天狗装束だ。もしかすると椛が一番驚いてるかもしれない。


「似合ってる?」


 皆は首を縦に振る。


「藍色が天狗装束ってのも面白いけど……」


 ルーミアがその服をまじまじと見る。


「なんで哨戒天狗の服?」


「私とお揃いですね」


 肩が開いてなかったり、布の量が少なくてすっきりしていたりと、少々違いはあるが、哨戒天狗のそれとよく似ている。


「小傘、何でか知らない?」


「えっとね、デザイン画は奪われたんだけど、私が幾つか要望出したの。それが反映されたのかな」


 なんて言ったの?


「『出来るだけ動きやすく』と『藍色に』だよ」


「で、動きやすくする為に哨戒天狗の服をベースにして、藍染にしたと」


 藍色はそれらを聞きつつ、部屋の中を軽く動いてみせる。


「軽い」


「良いですね、それ。私も今度頼もうかな〜」


 哨戒天狗の椛からも高評価を貰ったので、有り難く着ていこう。


「じゃ、用事も無くなった所で……」


 藍色とルーミアと小傘が見つめ合い、一斉に外に。


「ち、ちょっと!?」


 二柱と椛が驚く。


「八雲が起きる前に失礼するわよ!」

「おっ邪魔しましたぁ!」

「またね」


 思い思いの挨拶をし、ルーミアが藍色を抱いて三人は空に消えた。掃除をしていた早苗が口を金魚のようにパクパクしていたのが少々滑稽だ。


「あ、嵐みたいだったね」


 諏訪子が溜め息混じりに言った。もう居ないのだから、文句の言いようも無いが。


「まぁ、また会えるだろう」


 神奈子もちょっと困っていた。


「……じゃ、私も失礼しますね」


 用が無くなった椛も、見回りに戻って行き、神社はまた静けさを取り戻した……









 最後に一つ。


「あれ、藍色達は?」


「逃げたよ」


 藍色を探して幻想郷一周の旅。紫はまんまと逃げられていた……


 この話で捕まえられると思った?

 まだだよ!


   まさに空椿



 な気分になった空椿です。

 さて、藍色の服は動き回る事に定評のある哨戒天狗、椛の服をアレンジしました。色は無論藍色です。


 さてさて、次は彼岸です。映姫様です。

 果たして藍色相手に説教が始まるのか、書きながら決めます。



 しかし、彼岸といえば死者ですねぇ。

 レイラ・プリズムリバーが個人的に気になりますが、多分出ることは無いでしょうね……まあいいか。


 それでは、失礼しますノシ





 おーい、誰か魅魔様の行方を知らんか?

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