藍色と浴場 文屋は敵だ
「暖まるわね〜……」
「そうね」
紅魔館の大浴場。現在面白いメンバーが一緒に入っているが、気にする人物はいない。
「激しい運動の後のお風呂っていいわね」
「いつもは運動しないからわからないんですよ」
「ニャー」
妖怪の賢者と、その式と、式の式。賢者のカリスマは今は崩れており、橙の式は剥がれている。
「広い」
今回の騒動の原因、藍色。浴場が広いのを良いことに泳ぎ回っている。
皆は銭湯とかではやらないように。
「賑やかね……」
「今日に限ってどうしてこんな……」
「…………ふう」
「パチュリー様、結界に包んでまでお風呂で本を読まないで下さい……」
紅魔館の主とその従者と、図書館の魔女とその従者。こちらの皆さんは先客である。
「で、紅魔館の大浴場に何の用なの? 紫」
紅魔館の主、レミリア・スカーレットが問う。紫はわりと早く答えた。
「そこの藍色の妖怪と話をしたかったんだけれど、色々あってね」
本当に色々あった。木に当たり、泥に埋まり、人や妖怪に絡まれ、蔓に引っかかってこけ、その蔓が何を間違ったか2人に絡まって密着した状態で身動きが取れなくなったり……
「……色々、あったのよ」
急に遠い目になった紫を見、追求を止めたレミリア。何故か藍も遠い目をしている。
「じゃ、話を始めましょうか」
飽きずに泳いでいた藍色を呼ぶ紫。すぐに泳いで隣に待機した。
「名前」
「藍色」
即答。紫の言葉を最後まで言わせない。
「ええっと……」
面食らった紫。気を取り直す。
「年れ」
「多分100歳くらい」
更に即答。またも最後まで言わせない。
「あ、あ〜……」
やっぱり面食らった紫。どもる。
「能力は?」
今度は間を置いてから返事をしてくれた。
「あなたは?」
あろうことか質問を質問で返してきた藍色。紫はペースを崩されまくりである。
「……境界を操る程度の能力、よ」
「ふぅん」
あまり深く考えてるわけではない様子。やがて思い出したように質問に答えた。
「確率を操る程度の能力」
「確率、か」
藍が呟いた。
「あらゆる場面や状況、条件に発生する確率を操作出来る能力。0%と100%には出来ない」
藍色が説明するように発言を続けた。離れてゆっくりしていたレミリア達も何だか興味が出て来たのか、全員の視線は藍色に向いた。
「確率に関係がある人物の運や未来にすら干渉出来る」
「……じゃあ、私や藍が転んだりしてたのは……」
「『強者に出会う確率』を極限まで下げた。今は元に戻したけど」
なんともまあ強力な能力だが、0と100にならないのなら、
余程運が良いか、悪い場合は反対の結果になりかねないらしい。
「何よそれ、私の敵じゃない……」
運命すら変化させられる場合がある。という結果にレミリアは苦い顔をした。
パチュリーは何だか目を輝かせている。
「便利な能力ねぇ……」
「結局最後は運だけど」
意外と自分の能力を理解しているらしい。
「じゃあ、今度は私が質問」
「あ、はいはい。いつでもどうぞ」
今度は藍色の質問攻め。あまりのマシンガントークに紫が怯んでいる。
「咲夜、出ましょう」
「はい」
紅魔館メンバーはいい加減に飽きたのか、次々に上がっていった。
「紫様、私達も失礼します」
紫の式達も上がってしまい、藍色と紫は2人ぼっちになってしまったが、質問攻めが終わりはしなかった。
数分後、客室でのぼせた紫を世話する藍色と藍がいた。
「あなた……丈夫ね……」
「別に」
手で扇ぎながら答えた藍色。風は少ししか送れていない。
「のぼせる確率を下げただけ」
「便利だな、その能力」
「本当、羨ましい限りね」
自分の能力を使ってとっとと復活してきた紫。最初からやれば良かったのに。
「他人の芝は青い」
「あなたの芝は真っ青よ」
「私から言わせれば紫様の芝も真っ青ですよ」
2人とも使える範囲が広いからな……と、藍が呟いた。残念ながら2人には聞こえていたが。
「まあ、この様子だと何かに害を与える様子は無いわね。安心したわ」
「害を与える場合は?」
安堵する紫に物騒な質問をする藍色。やめてこわい。
「消そ」
「ふぅん」
またもや紫の発言を切った。いい加減イライラしてきたか、妖力が少々にじみ出ている。
「紫様、抑えて下さい」
それを藍が止めるが、効果はあまりない。
「じゃあ、さようなら」
「ん? もう行ってしまうのか?」
急に立ち上がった藍色を見て藍が聞いてみた。それを頷きで肯定の意を示す。
「長居は悪いから」
「それはレミリアに言ってほしいな。私達はここの住人では無いから」
「別にいい」
それだけ呟いて、部屋の扉に向かって歩く。2人は黙って見ていた。
「ありがとう」
一度だけこちらに向けて頭を下げ、扉を抜けて出て行った。
「不思議な子でしたね。どこに行くんでしょうか?」
「博麗神社じゃない? スペルカードについてちょっとだけ教えてたから」
詳しく聞きに行くのでは無かろうか。
「ま、厄介な事にならなくて良かっ」
突風。部屋の家具が哀れにも宙に舞った。
「毎度お馴染み、清く正しい射命丸でっす! 最近幻想郷に来た妖怪を直接インタビューに……あや?」
残念だが、ここにいるのはストレスの爆発しそうな紫と、その式だけである。
「……うふふ、うふふふふふふ…………」
手際良く、一枚の札を出す紫。藍は静かに立ち去った。
「罔両「ストレートとカーブの夢郷」!」
「あや〜っ!?」
どか〜ん。天狗は空に消えた。
「おや? 何でしょう」
爆音に気付いた門番、紅美鈴が背後の建物を見る。一室から煙が上がっているのが見えた。
「わかんない」
門を通ろうとしていた藍色が答えた。
「おや、もう良いんですか?」
「お世話になりました」
美鈴の質問にお礼で返した。そんな藍色に笑顔を送り、手を降った。
「ばいばい」
「またいらして下さいね」
そして、藍色はのんびり歩き出した。
で、こちらは吹き飛ばされた烏天狗の射命丸文である。
「あいたたた……やられましたね……」
木の枝にだらしなく引っかかったまま喋る文。服はボロボロで黒こげだが。
「しかし! みすみすスクープを逃すような真似をするつもりはありませんよ!」
黒い翼を広げ、瞬く間に空に飛び去った。
「幻想郷最速の名にかけて、必ず記事にしてみせます!」
格好良く言ってはいるが、誰一人聞いている者がいないので端から見れば痛々しいだけだった……
そしてこちらは図書館の魔女、パチュリー・ノーレッジである。 熱心に魔道書のページをめくるスピードはいつもより早い。
「パチュリー様、何か良いことありました?」
小悪魔がパチュリーに聞いた。流石に長年見ているだけあって、主人の変化には敏感だった。
「今日浴場にいた藍色とかいう妖怪の能力がね」
「確率を操る程度の能力でしたっけ?」
「そう。あの妖怪がいたら、私の魔法の研究がはかどりそうだから」
研究に成功率はつきものだ。もしそれを味方に出来たらどうなるか……
「そういう能力を持つ妖怪がいる事がわかったからね。今度お世話になろうかと」
「はあ……」
小悪魔は主人の積んだ本を片付けながら思った。
あの妖怪が簡単に捕まるとは思わない、と。
ちなみに、本を読むスピードが早い=本が沢山詰まれるので、今日の小悪魔に休憩は無かったそうな。
次は巫女です。
伊吹萃香の萃が変換しても出てこないからコピペ安定。
携帯だからなのかな……