藍色と宵闇 封印は敵だ
「頂きます」
「いただきます」
「頂きますっと」
「めしあがれ!」
「ホーライ!」
今日の人形使いの家は賑やかだった。上海は藍色が夜通しで発声練習に付き合ったおかげか、やや違和感があるものの話が出来るようになった。次は蓬莱か?
「もう、藍色にはなんてお礼を言えば良いのか……」
「ほめても何も出ないぜ?」
「あなたじゃないわよ」
「いやいや、本当に何も出ないんだよ」
そんなアリスと魔理沙の会話を気にもとめず、淡々と食事を進める藍色。
「美味しい」
「だそうよ?」
「ありがとうございます!」
言うなりはしゃぐ上海と、静かに照れる蓬莱。見ているアリスの目は親のようだ。
「うーん、私も使い魔みたいなのが欲しいな」
「きっと主人に似て手癖が悪いでしょうね」
「仕方無いだろ? 目の前にある物が魅力的過ぎるのが悪いと思うぜ」
反省する気は毛頭無いらしい。
「おいで」
「はい!」
藍色が上海を呼び、目の前に座らせて撫で始めた。
「出来れば食べ終わってからにしてよ」
「うん」
上海を肩に座らせ、食を進める。魔理沙は既に食べ終えていた。
「さて、私も片付けないと……」
アリスは食器を人形達に運ばせていた。
「ついでに私のも」
「嫌よ」
残念でした。
「あ」
「あ?」
「い」
「い〜」
只今、蓬莱の発声練習中。結局、藍色に頼んで同じ事を蓬莱にしてもらったアリス。
普段より輝く目をしながら蓬莱に付き合っている。
「よくまあ飽きずにやるよなぁ」
「魔理沙がアリスの立場だったら分かる事」
「そんなもんか?」
そういうのは、その時になってみないと分からない物だ。分からなくても仕方無い。
「うん」
魔理沙の言葉に、小さな返事を返した。
その後、魔理沙が上海と蓬莱にダブルバカジャネーノを食らった以外に特別な事は無く、あっと言う間に昼になってしまった。
「……ん? 藍色、どっか行くのか?」
ドアに向かう藍色に魔理沙が問う。
「うん」
その返事を聞いたアリスが会話に参加する。
「どこに行くのよ」
「知らない」
つまり、風の吹くまま気の向くまま。と言った所か。結局の所、ただ以前のように幻想郷を旅する生活に戻るだけであるが……
「もう行っちまうのか? 寂しいぜ」
「ならついて行ったらどうなの?」
「それはちょっとな……」
魔理沙とアリスが話してる間に……
「……いっちゃいましたよ?」
藍色は居なくなった。上海に言われるまで話していたかもしれない……
「むう、さよならも無しか?」
「別にいいんじゃない? その内また会えるわよ」
確かに、言うほど幻想郷は広くない。しばらくしたら再会する事もあるだろう。ただ……
「地底や冥界、天界やスキマの中にでも行きかねない奴に『その内』が通じるか?」
藍色はちょっと難しいかもしれない。
「…………気長に待ちましょう」
「私は待てないぜ」
「だったら探しに行ったら? 私は上海と蓬莱に付き合ってるから」
「……付き合い悪いな」
「あなたがせっかちで自由奔放なだけよ」
藍色のほうがせっかちだと思うが……
「暗い」
魔法の森は大体の場所が暗い。理由は、日の光が中々届かないから。夜になれば僅かな月の光すら届かず、夜目がきかなければかなり悲惨な事になる。
幸いにも、藍色はいつも昼夜兼行な為か夜目はきくほうだ。それでも暗いが。
「夜の妖怪が羨ましい」
「そーなのかー」
あちらは普段夜しか活動しないので、昼も活動する者よりは目がいいだろう。
「夜の森は不気味だけど」
「そーなのかー」
「……なんでいるの?」
「なんとなくよ」
気がついたら隣にいる夜の妖怪、ルーミアに話しかけた藍色。返事は曖昧だった。
「最近噂を聞いたの」
「噂?」
ルーミアの言う噂が気になるので、歩くのを止めて向き直る。
「二つあるよ。嫌な噂と怖い噂」
「どっちもヤダ」
そりゃそうだ。
「嫌な噂はね〜」
「……何?」
どうやら、ど〜しても聞かせたいらしい。せっかくなので聞いてやる。
「藍色の妖怪は、他者の強さすら変えられる。もしそうなら私も強くなれるかな? なんて……」
「本当」
「そーなのかー」
キラキラした目を更に光らせるルーミア。夜なのに明るいとはこれいかに。
「ちょっとだけ、やってみる?」
「うん」
二つ返事。強い、という事に興味があるのか? それとも……
「わかった」
藍色はルーミアの頭に手を起き、何かをぼそりと呟く。
「終わり」
早いな。そういえば、上海の時も早かった。
「……おぉ」
ルーミアから滲み出る妖力が増え、本人は歓喜の笑みを浮かべる。
「凄いね! これ!」
「そう」
賞賛の言葉をたったの二文字で終わらせる、いつも通りの藍色。約束はちょっとだけなので、すぐに能力を使う。
「あ、もうちょっと待って」
「う?」
ルーミアが止め、藍色はそれに従う。ルーミアは自分の頭にあるリボンを掴む。バチバチと光が弾けた。
「今ならこれ、を……」
藍色が首を傾げてクエスチョンマークを発生させている間に、一際大きい音と共にリボンが破れ去った。
すると、周りの影が一ヶ所に集まるかのようにルーミアを闇が包んだ。
「……む?」
見たことの無い現象に藍色は更に疑問を深めるが、それが異質だという事は十分理解している。
そうこう考えている内に闇が凝縮さらていき、色がついていく。
「ああ、やっと戻れた……」
そんな声が聞こえ、闇が映し出した姿は成長したルーミアだった。
「あ、もういいわよ」
「ん」
あまり気にした様子は無い藍色はまた能力を使い……
「…………うぅ」
失敗した。藍色は結構運が無いらしい。
「あ〜よしよし、次は成功するわよ……」
しばらく、慰められた。
ルーミア曰わく、あのリボンはお札らしい。大昔に封印され、力が抑えられたそうな。
外そうにも触れられず、無理に触れば弾かれてしまうのだが、藍色が能力を使ったおかげで無理矢理触れられ、外す事が出来た。
で、今現在のルーミアは封印直前の力+封印中の成長+藍色の能力の相乗効果により恐ろしい力を得ている。妖怪の賢者が戦慄するレベルだ。
「流石にこの力は大きすぎるかもね〜」
「うん」
現在ルーミアは、藍色と共に夜の森を歩いている。見ようによっては姉妹だ。
「どうしようかな。このままだと八雲が黙ってないでしょうし……」
「そうね」
ルーミアだって幻想だ。幻想に否定されてしまったら消えてしまう。
「……その前に、私を襲わないの?」
藍色の質問に、何を今更と言いたげなルーミア。
「力をくれた恩人を裏切るわけにはいかないでしょう?」
「そう」
それだけで済んだ。
「で、もう一つの噂は?」
「ああ、怖い方の噂ね?」
今まで忘れていたルーミア。怖い噂と言いながら、怖くなさそうな感じで話し出す。
「狂気の塊、悪魔の妹が紅魔館を脱走したって噂よ」
「紅魔館、悪魔の妹……」
ちょっと引っかかるキーワードがあったらしい。そういえばどこぞのメイドが似たような話をしてくれたような……
「知ってる? 『ありとあらゆる物を破壊する程度の能力』を持ってるのよ」
「ふぅん」
興味が薄い。ルーミアは話を続ける。
「紅魔館の方で大爆発があって、メイドが凄い剣幕で走ってるのを見かけた人がいるらしいの」
「そう」
やはり興味が薄い。
「興味無いの?」
「だって、その吸血鬼本人を見た人がいないもの」
確かにそうだ。本人が確認されてなければ、それは所詮ただの噂だ。
「事実なら興味が出るけど、噂はあまり……」
「あ〜、成る程ね」
ルーミアも理解した。
「それだけ」
「そう、ならこの話はもういいわ」
「なら、次は私の話を聞いて頂戴?」
突然、目の前にスキマが開いた。
「あ、紫」
「あ、スキマ」
似たような返事を返した二人に、紫は微妙な顔をした。
「まあ、言いたい事は分かってるでしょう? ルーミア……」
「食べてもいいって事?」
「絶対違う」
念の為言うが、ルーミアは冗談で言っている。
「あなたの力が危険過ぎるって言いたいのよ。再び封印されるか、幻想から消えるか。私はあなたに選ばせなければならない」
「あら、それはまず私より優位にたってから言ってくれない? 力だけなら、間違い無く私の方が上よ?」
「黙りなさい。知識と能力は使いよう、力を知識が上回るのは必然よ? あなたをねじ伏せる方法なんていくらでもあるわ」
「寝言は永眠してから言いなさい。圧倒的な力は策を破るという事を知らないのかしら? 知識人が聞いて呆れるわね」
物凄い気迫に、藍色がちょっと後ずさる。誰だって怖い物は怖い。
「あらあら、そこまで言うならやってみる? 最近イライラしてたから丁度いいわ」
「ああ、そうなの? じゃあ更にストレスを追加してあげましょうか?」
「ウフフフフ……」
「ククククク……」
「……あう〜」
藍色から漏れた一言はルーミアの耳に入り、惜しげもなく解放していた妖力と殺気を消し去る。
「ごめんなさい、迷惑だった?」
「逃げたかった」
藍色は正直である。
「あらそうなの? 今度から気をつけるから許して」
「もう許してる」
「ありがと」
ルーミアと藍色が話しているのを見、紫はため息を吐く。
「もう、刺激が強すぎるわよ……」
「ん?」
紫が藍色を見、言った。
「今ここで約束して。ルーミアの面倒はあなたが見、制御する事を」
「私、猛獣か何かなの?」
猛獣より恐ろしい。
「いいよ」
藍色も、二つ返事は自重するべきだ。
「でも条件」
「……条件って、なんな」
「ある事態や行為が成り立つ前提として必要とされる事柄。または、賛否や諾否を決定する際に設けられる制約。じゃなかったかしら?」
「いやそうじゃなくて……」
ルーミア、今は必要無いぞ。
「条件の内容、中身よ。私が聞きたいのは……」
「でしょうね。で、条件って?」
藍色は人差し指を立て、紫に言い放った。
「この森から出して」
藍色は迷子だったらしい。
「さっきより明るいね」
「でも視界が悪いわよ?」
スキマから出して貰ったのは霧の湖。何気に藍色が大して見ずにスルーした場所だ。紫が気を使ってくれたらしい。
しかし視界が悪く、夜なので足元すら見辛い。妖精も沢山いるので、今の時刻にはあまり来たくなかったかもしれない。
というか……
「あなた達、だあれ?」
間違い無く、タイミングが悪かった。
「あら……」
「う?」
七色の宝石、奇妙に歪んだ時計の針のような棒、正気には見えない赤い瞳。
話題に出たばかりの、最も遭遇したくない人物。フランドール・スカーレットがそこに居た。のだが……
「綺麗」
藍色は宝石に目が行き、
「今ならどうにか出来るかしら?」
ルーミアは余裕を醸し出していた。
「あなた達は遊んでくれるの?」
「私は遊びを知らない」
「同じく」
撃沈。しかし気にした様子の無いフランが遊び方を言う。
「弾幕ごっこ」
「私は弾幕ごっこが出来ない」
「慣れてなくて」
が、やはり撃沈。ちょっと困った。
「じゃあ鬼ごっこ」
「吸血鬼が鬼ごっこ? 笑えないわね」
ルーミアが断るが、藍色は……
「いいよ」
許可してしまった。ルーミアがぎょっとする。
「うん、じゃあ……」
可愛らしい口が裂け、小さな狂気を口にした。
アソボウ?
夜に、閃光が弾けた。
EXルーミアを採用しました。これから藍色の周りには、このような危険人物が平気で同行していくつもりです。
もし同行するキャラに要望があれば、採用する可能性があります。場合によってはEX化しますのでご注意下さい。
ふむ、新しいスペカでも考えるか? その案もついでに募集してみるか……
やや他人任せですみませんが、興味があれば活動報告にどうぞ~
ではこれでノシ