藍色と人形 軍隊は敵だ
魔法の森には、あらゆる場所にキノコが群生している。それはもう、あっちにもこっちにも……
中には魔法に使えるキノコもあり、積極的に使う魔法使いも意外といる。
「うし、こんなもんか」
魔理沙もそうだ。故に、キノコ狩りはもはや習慣になっている。ちなみに、今日はちょっと違う。
「沢山ある」
今日は白と黒、森の緑に、藍が追加されている。まあ、毎度お馴染みの藍色なのだが。
「悪いな。手伝っ」
「悪いと思ってないくせに」
「お、バレたか」
藍色は魔理沙のキノコ狩りに参加していた。複雑な理由は無く、単なる好奇心から来ているのだが。
流石に慣れている魔理沙より量は少ないが、それでも沢山見つけたらしい。
「もう十分じゃないかな?」
魔理沙の終了の合図。藍色は手を止めた。
「そう」
「そうだ」
意外と似たような二人なのかもされない。
さて、と声を出して箒に跨がる魔理沙。藍色が何となく後ろに乗った。
「行くぜ〜」
魔理沙の声と共に、藍色の足が宙に浮く。
藍色はあまり飛ばないので、楽しそうに体を揺らす。
「おいおい、危ないぞ?」
「落ちないからいい」
勿論能力を使っている。能力頼りな気もするが、それが藍色なのだろう。
「お前は何で飛ばないんだ?」
「私は飛べないから」
多くの妖怪や神は、あまり意識しなくても飛ぶ事が出来るが、藍色は飛べないらしい。
藍色が飛ぶ時は能力を多重にかけ続ける必要があり、一つに失敗したらどこかしこで矛盾が発生して墜落しかねない。
と、藍色は魔理沙に説明した。
「へぇ……苦労してるんだな」
「うん」
そんな会話を続けていると……
「お?」
やや遠くに土煙を発見した。
「何あれ」
「何って、土煙だよ」
そりゃそうだ。
「まあ、行ってみ」
「早く」
急かされたが、断る理由も無いので急行してみた。
「うわぁ……」
広がっているのは、動物のなり損ないのような異形達の群れだった。全部気絶しているだけで、死んでない。
「あっち?」
藍色が森の奥を指差す。微かに戦闘の音が聞こえてくる。
「だな」
二人は早めに現場に急行。途中の木にぶつからなかったのは幸いだろう。
「魔理沙様の参上だぜ!」
「う?」
元気な魔理沙とのんびりな藍色。二人が参加した場所には、大きめの怪物がいた。
そちらばかりに目がいきそうだが、よく見れば怪物の足元に誰かがいた。
「あら、魔理沙じゃないの」
魔理沙の知り合いらしい、人形のような少女。周りには小さな人形達が浮遊し、隊列を成している。
「よっ、見に来てやったぜ」
「どうせならあなたが吹き飛ばしなさいよ」
と、愚痴を言っている少女。この間に人形達が怪物に連携攻撃を仕掛けていた。
その小さな体に似合わない大きな武器を軽々と振り回し、相手に確実に傷を与えている。
「へぇ」
興味を示した藍色。人形達を飽きもせずに見続ける。
やがて沢山の武器に蜂の巣にされたそれは、バランスを崩して倒れた。生きているのが不思議だが。
「で、こいつら何なんだ?」
「最近森に住み着いた妖怪。襲ってきたから正当防衛の名の下に痛めつけてたのよ」
つまり襲い返したような物じゃなかろうか……
「まあいいか……って藍色?」
魔理沙が藍色の方を見たのだが、藍色は一つの人形をじーっと見ていた。
「可愛い」
「シャンハーイ」
「……可愛い」
何か心に響いた物でもあったのだろうか?
「あら、上海が気に入ったのかしら?」
「うん」
魔理沙はその様子を見、ちょっと困ったような笑顔をしていた。
「私には人形の可愛らしさは分からないんだがなぁ……」
「バカジャネーノ」
「てめっ!?」
人形相手に喧嘩を売られる魔理沙だった。
「あぁ、一応言うけど、私が言わせた訳じゃないわよ?」
「人形が勝手に?」
「シャンハー」
「意志があるの?」
ついに人形も声を遮られた。種族は全く関係ないらしい。
「意志の有無は分からないのよ。確認する方法が私には無いから……」
「そう」
「シャンハーイ……」
見ようによっては意志だけでなく感情もありそうなんだが……
「何とか出来ないのかしらね?」
「口がきければ分かるんじゃないか?」
魔理沙が腕を組みながら言った。それに深い意味は無い。
「そうね。口がきけたら分か」
「やってみる?」
ここで藍色が口を挟んだ。
「出来るの?」
「可能性はある」
「シャンハイ?」
可能性を自在に操る藍色だから成せる技である。魔理沙が藍色の能力の説明をすると……
「……私の家でやってもらっていいかしら?」
「うん」
お邪魔する事にした。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね」
そういえばしていない。藍色はいつもの短い自己紹介を済ませた。
「私はアリス・マーガトロイドよ。よろしく」
「よろしく」
人形が椅子を引いてくれ、別の人形がお茶を運び、また別の人形が荷物を持ってくれる。
「不思議な家だろ?」
「綺麗」
魔理沙が絡んできたので、返事する藍色。
「でも人形ばっかなんだぜ?」
「ちゃんと整頓してある」
ちょっと返事の内容がずれている気がするが、わざとだろうか?
「……私の家と比べてるのか?」
「別に」
わざとのようだ。
「さて、上海の事なんだけど……」
「シャンハーイ」
「やってみる」
上海の頭を撫でながら能力を使用する藍色。
「人形って魂や心が宿りやすいらしい」
藍色がポツリと呟いた。
「まあ、妖怪の山にも似たようなのがいるしなぁ」
「そうね。厄神って言ったかしら?」
「そう」
藍色も知り合ったあの人である。
「だから、心みたいな物は作った後に自然と宿す可能性が高い」
「……そうなのかしら?」
「私に聞かれても困るぜ?」
そんな二人を気にもとめず、藍色が上海を持ち上げてアリスの方を向かせる。
「まずは発声練習から」
「終わったのか?」
「うん」
少々硬直していたアリスだが……
「あ。言ってみて」
「……あ?」
次の瞬間、顔を笑顔にした。
その後、アリスが部屋にこもり、退屈になった魔理沙は本棚などを物色していた。
RPGの勇者一行に似た感じに見えるのは何故だろう。
「お? 見たこと無い奴だな」
「荒らしすぎ」
全く聞いていない所を見るに、無駄な注意だったらしい。
「……む」
意味もなく周りを見渡すと、上海とは違うものの、周りの人形よりもきびきびとした動きで棚の掃除をしている人形を見つけた。
「……可愛い」
「ホーライ?」
視線に気付いたらしく、こちらを見て来る。上海がシャンハイと言っていたからこっちはホーライか?
「おいで」
「ホーライ!」
そのまま抱っこして珍しくニコニコする藍色。その様子を魔理沙に発見された。
「なんだ。人形好きなのか?」
「多分」
本人には微妙に分かっていないらしい。
「私は人形よりキノコのほうが心が惹かれるかな……」
「バカジャナイ?」
「んがぁっ!? いい加減キレるぞ!?」
どうやら魔理沙は人形に好かれないらしい……
「藍色、慰めてく」
「無理」
救済も無いらしい。
アリスが部屋から出たのは夜になってからだった。
「ごめんなさい、つい夢中になって……」
「上海はどうしたんだ?」
「まだ部屋。今はちょっと席を外してきただけよ」
アリス曰わく。会話が可能になり、ちゃんとした意志と心が確認出来たらしい……のだが、今まで通り簡単な命令を与えないと動けないそうな。
「やれやれ、ボッチにやっと家族が出来」
アリスが魔理沙を睨んだ。
「潰すわよ」
「勘弁してくれ」
魔理沙の減らず口はきっと治らないだろうな……
「そう」
あくまで興味のなさげな藍色は抱いている人形を撫でているだけだった。
「あら、蓬莱じゃない」
「ホーライ」
「蓬莱」
「そう、蓬莱」
名前が聞けたので、蓬莱の名前を呼びながら撫でる行為を再開する藍色。
撫でられ続ける蓬莱も気持ちよさそうだ。
「ん〜、そろそろ帰るかなぁ」
飽きてきたらしい魔理沙が藍色を出口に追いやろうとする。
「あれ? あんたたち今同居してるの?」
追記が遅れたのだが、今現在は魔理沙の家に藍色は泊まっている。相変わらず眠らずに夜も活動しているが、魔理沙の眠りを妨げているわけではないので魔理沙も黙認している。
「今はな。ほら、帰るぞ〜」
「泊まる」
まさかの急な一言に驚く二人。何故か蓬莱が嬉しそうにしている。
「おいおい、人様の家に押しかけてその上泊まるなんてなぁ……」
「あなたの家に泊まった時もそんな感じだった」
「いや、そりゃそうだが……」
次の言葉に困る魔理沙。ここでアリスが口を開く。
「私もオーケーした覚えは無いんだけど……」
「……駄目?」
「…………駄目よ」
キラキラした目にやられそうになったが、こらえたアリス。
「悪いけど、帰っ」
「ホーライ」
蓬莱の一言に遮られた。
「……む」
ちょっとピクリときたが、気にしない。
「今日はタイミングが悪」
「ホーライ」
「連絡さえあれば泊め」
「ホーライ」
「明後日なら」
「ホーライ!」
「ああもう! 何なのよ!?」
ここまで遮られると、気にせざるを得なくなった。
「と、に、か、く! 今日は駄目!」
「ホーライ……」
何だか、かなり残念そうだ。
「終わったなら帰るぜ〜」
既に家の外だった魔理沙が窓から声をかける。
「……ん」
残念そうな藍色が家のドアに手をかけ……
「ん?」
服の端を、小さな手が掴んでるのに気付いた。
「……ホーライ」
「どうしたの?」
分からない。
そんな様子を見ていたアリスが……
「上海、ベッドの用意を手伝って」
「おい、アリス?」
「魔理沙は帰りなさい。暗くなるわよ」
魔理沙を一蹴しながら家の奥に引っ込むアリスに、藍色と蓬莱がついていった。
取り残された魔理沙は……
「ひ、一人にしないでくれよ〜」
藍色との数日の同居生活で、すっかり寂しがり屋になっていた。
「……八雲紫、あなたは藍色についてどう思いますか?」
「簡単よ? 可愛くて、規格外で、この上なく面白い子。幻想郷に良い刺激を与えてくれそうよ。あなたは?」
「白です。しかし、場合によっては黒に転じます」
「まあね、本人すら自覚していないような力を持ってるみたいだし?」
「妖力は年齢に比例しますし」
「……まあ、もし何かあったら私がどうにかするわよ」
「そうしてください」
「まあ、大丈夫だとは思うけど……ね」
二人しか居なくなった部屋で、小さな会話をする八雲だった。
\シャンハーイ/ \ホーライ/
ドールズは意外と好きだったりします。さあ次はどこに行こうかな?