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東方藍蓮花  作者: 空椿
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藍色、肉薄を染める

「そぉれ!」


 小町が体を大きく回転させながら、叩き付けるように鎌を振るってくる。その第一撃の標的となったのは椛だ。

 先端で突き刺すように迫るそれを、普段から持ってる盾で止める。が、鎌と拮抗したのはただの一瞬だった。


「チッ!」


 ミシリ、と音を鳴らした盾を放り捨てるように離し、身を翻して下がる。その手を、盾を容易く両断した鎌が掠めていった。


「一撃すら保たないとはな!」


 鎌を大きく振り抜いた小町に、体を捻りながら剣で突く。間違いなく当たる距離、タイミングと確信し。


「おっと危ない」


 ……しかし、小町の鼻先で止まってしまう。


「……クソッ! 『距離を操る程度の能力』か!」


「おうとも!」


 軽く笑いながら鎌を切り上げてくる。腕を伸ばしきった姿勢の椛は動くに動けず、その身は容易く二つに分けられるだろう。


 無論、それは一人ならばの話。


「失礼!」

「じゃーん!」


 そうなる直前、椛の背を飛び越えるように妖夢とこいしが姿を現した!


「おおっ?」

「ぜあっ!」


 楼観剣……大太刀による突き、それが不意の攻撃として繰り出される。正に辻斬りの面目躍如と言えよう。

 それをかなり大袈裟に仰け反る事で避け、更に飛来した弾丸を鎌で的確に切り落としながら、すかさず能力で距離を離して逃げられる。

 事態を振り出しに戻してから、小町が悠々と喋り出した。


「怖い怖い。いきなり退場させられるかと思ったよ」


 いやー、危ない危ない。

 何処か惚けたように言う小町だが、椛はその内面をしっかりと"見て"いた。


「掠りもしませんか」


「……いや。案外効いてる」


 身体能力は圧倒的に差がある。藍色の後押しが入っている事を二人はよく知らないが、そもそも剣士を相手にするには有利な『距離を操る程度の能力』を有する小町に、真正面から戦うのは無理がある。

 しかし、今のような戦闘中の不意打ちには本当に驚いていた。溢れんばかりの身体能力による回避が成功したに過ぎず、その内面は本当に焦っている。大袈裟な回避もその為だ。


「いきなり挑戦的な事をする羽目になったが……意外と成功したな。良い出だしだ」


 そうは言いつつも、二度もやりたくはないと呟いた。


 恐らく、小町は身体能力に思考の方が追い付けていない。椛にはそれを上手く断定できないが、不意打ちは効く事を理解した。

 ならば、最初からこいしを強く警戒するのも当然だろう。彼女は不意打ちの常習犯のような存在だから。


 ただ……


「アイツ、本気でぶった斬る気だったな」


「殺気全開でしたね」


 遠慮も何も無く、本当の本当に椛を切り捨てる気だったのが分かる一撃。

 死合いのルールから外れてないか? と椛は思ったが……先の発言からして、元死神らしく、現世に送り返す事が可能だからこその全力であるようだ。

 一応、藍色一行には立場上用心棒として雇われているので、或いは職務に全力を出しているのかもしれない。


 それ故か……


「……自慢の盾だったんだが」


 今は遠い地面にある、たったの一撃……それすらもマトモに防げなかった盾の残骸を見る。

 ……もし当たれば、一刀で彼岸に飛ばされるだろう。この剣でも打ち合うのはマズそうだ、と考える。


「必要に迫られたなら、私の刀を……」


「いや、それはいい。だが前には出てくれ。私の今の武器では真っ二つだ」


 妖夢の二振りの刀なら、その頑強さも含めて充分に打ち合えるだろう。が、その戦闘スタイルを崩させてまで助けてもらう訳にはいかない。

 それに……


「……まだ始まったばかりだ。焦らずにいこう」


「分かりました! まずは私が……」


「はいはーい! じゃあ私が最初!」

「え、ちょっと!?」


 了承を得る前にこいしが二丁の銃を乱射し始める! 一番槍を奪われた形になったが、遅れて妖夢も飛び出していく。


「おいおい、チームワークはどうしたんだい?」


「どうにも妖怪の山に置いてきてしまったようでして!」


 こいしの弾丸を捌きながら、迫ってきた妖夢に対し鎌を振り下ろす小町。


「はあっ!」


 それを身体を捻るように回して避け、そのまま楼観剣を振り上げ……


「ほれ」


 空振る。また距離が遠くなっている。がら空きの胴体に鎌を横に振りかぶり……


「ならば次だ!」


 小町が攻撃を繰り出す前に、椛が側面から斬りかかる!


「お、そっちか」


 妖夢から目をそらし、鎌を振り上げて剣を弾き、椛に接近して蹴りを叩き込む。

 剣を持たない左腕で止めたものの、遠くに吹き飛ばされた椛を尻目に、再び斬りかかってきた妖夢を難なく鎌で受け止める。


「まだまだァ!」


 白楼剣と大鎌を鍔迫り合いながら、楼観剣での突きを繰り出す。今度は十二分に届く距離のはず!

 ……が、当たる前に鎌を強く押され、堪らず吹き飛ばされる。元より空中である為、踏ん張りも効かないままに離された。


「おいおい、がむしゃらに攻撃しても良いって物じゃあない……よ!」


 鎌を円を描くように回転させ、横から飛来した弾丸の雨を弾く。


「意表を突くなら、もっと頑張るんだね!」


 回転させ続ける鎌を振りかぶりながら、そう言って。


「……え、ちょっと!?」


「そぉら!」


 ぶん投げた。豪快に。

 最早円盤のようにも見える回転で、妖夢に迫る。のだが……


「一体何のつもりで……」


 ハッキリと見えている攻撃である為、横に移動して簡単に避ける事が出来た。

 しかし。


「例えばこんな風にさね」


 真後ろに現れた小町が鎌を掴み、勢いをそのままに振り下ろして来た!


「うぐぁッ!?」


 突然の登場でこそあったが、しかし妖夢はこれを二振りの刀で止める事に成功した。


「こ、こんな事まで……!?」


「どら、驚いたろう? 不意を突くのはうちの可愛い家族が散々教えて……おや?」


「でやあっ!」


 そのまま押しきろうとしていた小町だが、後方からの椛の振り下ろしを確認して妖夢から離れ、距離を取る。


「危なっかしいねぇ。余裕を持ちなよ」


「チッ……大丈夫か?」


「な、なんとか……こいしさんは?」


「援護が難しいだと。アイツがヒュンヒュン飛び回るからだそうだ」


 溜め息混じりに椛は告げた。

 此方からしてみればそう目立つ物では無いが、こと遠距離から見ると位置がブレるらしい。元々の戦術か対策なのかは分からないが、細やかな距離調整を繰り返しているのだろう。

 小さく相談する二人を見ながら、いつの間にか距離を離した小町はクククと笑った。


「オイオイ、まだ始まって早々だよ? アタイはまだ有効打を貰ってないんだけどねぇ?」


「ほざけ。その賑やかな口に脳天に鉛玉と刃物を一緒にくれてやる」


「おいおい、殺意満載じゃないか。少しは楽しもうって気概は無いのかい?」


 最初から殺しに来たお前が言うな。そんな視線を受け……


「やる気はまだ満載って所だね、良い事だ」


 微笑みを浮かべながら、小町はごそごそと懐を漁る。やがて抜き去った手に握られていたのは……




「じゃあ、そろそろ真面目にやろうか」


 『スペルカード』。

 弾幕勝負としての見映えとは無縁の、ただただ戦闘力に特化した死合い用のそれ。


「武器も良いけど、やっぱりコレが無いと地味だもんね」


「……もう少し慢心してくれれば楽だがな」


「冗談! こんな"真剣"勝負を適当にやるなんて……」


 鎌を上に放り投げ、そのスペルカードを掲げる。


「勿体無いにも程があるよ! 輪廻「暗キ渇望華ト散ル」!」 


 そう宣言した瞬間、放り投げた鎌が急速に巨大化し、距離を離した筈の二人にすら届きうる程になった。


「「は」」


 そして、落ちてきた鎌を軽く受け取り、挨拶代わりと言わんばかりに振り下ろす!


「なああああっ!?」


 堪らずお互いの距離を離す。その二人の隙間を、間髪入れずに巨大鎌の刃が切り裂いていった。


「む、無茶苦茶です!」


「いいや、無茶も何もないさね! 序盤も序盤、この程度切り抜けておいで!」


 更に小町は、鎌を手元で大きく回転させ、ミキサーのように振り回す。

 まるで重さを感じさせないかのような挙動に、離れた筈の二人は纏めて竜巻が如き攻撃に晒される羽目になった。


「だれが馬鹿正直に行ってやるか! 天狼「流星激昂 -オーバーバニッシュ-」!」


 対抗するようにスペルカードを宣言、そのまま剣を振り斬撃を飛ばす、が…………


「お、あの時使ってたらしいスペルカードか。イイね」


 放った斬撃は小町に当たる前に、ただ適当に振り回されているだけの鎌に撃墜される。

 遥か彼方の筈の小町の声が響くように聞こえてくるので、鎌以外の距離も狂っているのかもしれない。


「駄目か」


「どうするんですか!?」


「どうもこうも、何とかするしかないだろう! お前も何か手をッ!」


 言い切る前に、振り抜かれた鎌を避け椛が離れる。


「何とかって……これをですか!?」


 鎌の全長という距離を操ったスペルカードと言うのは、簡単に分かる。攻撃も単なる大振りで、距離さえ詰めれば仕留めるのは容易い。

 しかし単純ゆえの暴力に、自身の声すら霞む程の暴風に、何の対抗手段も思い当たらない!


「よーむ!」


「はい!? って、こいしさん?」


 絶えず斬撃を繰り返して反撃を試みる椛ではなく、妖夢に接近して来るこいし。

 銃を手に持たずホルスターにしまっているのを見るに、この鎌の竜巻の前では銃撃も効果が無いようだ。


「一先ず此方へ!」


「はーい」


 こいしを腕で抱き寄せて一緒に回避する。凄まじい音を鳴らしながら、頭の上を鎌が通り過ぎて行った。


「それで、何かご用ですか!?」


「いや、特に無いよ?」


 妖夢がぐっと押し黙ったのは仕方がないかもしれない。


「あ、でも。よーむなら何とか出来るかもーって思ったら、勝手に来ちゃってた」


「へっ!? 私ですか!?」


「だって椛は忙しそうだし」


「私も今まさに忙しいのですが!」


 こいしを抱えている分、余計に仕事が増えている……が、こいしがそれを気にしているとは、妖夢には思えなかった。

 本当に、無意識の行動は全くもって読めない。


「多分よーむじゃないと近付けないよ? 椛は早くないし、私も近付けないもん」


「そう、言われても! この状況じゃあ私もッ!」


 豪、と側を鎌が通り抜ける。風に煽られながら飛ぶ中、妖夢以外に何の反応も示さないこいし。


「一体、何を根拠に私に出来ると!?」


「私達に出来ないなら、よーむには出来ると思ったから……かな?」


 ……どうにも腑に落ちないが、本当に根拠足る物が無いのだろう。正に無意識によって浮かんだ勘なのかもしれない。


 鎌を寸前の所で回避しながら、妖夢は小さく息を吐いた。

 先程小町も言ったが、この戦闘は始まったばかり。こんな所で無駄に消耗するより、突撃してでも切り開いた方が可能性は見えるかもしれない。

 それに、時間がかかるのは相手の思う壺。


 ならば……


「……全く、分かりましたよ! そこまで言うなら……」


 こいしを背負う体勢に変更し、改めて正面に向き直る。

 遥か遠くの小町がニッと笑った気がした。


「期待はしないで下さいよ!?」


「してる!」


 こいしを抱えたまま、小町に向かって飛翔する!


「良いねぇ! それじゃあ楽しもうじゃないか!」


 彼方の小町の声が聞こえてきたと同時に、妖夢に迫る刃の密度が目に見えて増加する!


「ぐうぅ──ッ!」


 距離感の狂う程の大きさと密度の鎌の群れ、その僅かな隙間を縫うように突っ込んでいく。

 しかし、その巨大な刃を避けるのに直線の速度はともかく、上下左右の方向転換がまるで不十分だ!


「だ、駄目! 当た──」

「まっすぐ!」


 不意に聞こえた声に、妖夢は"無意識に"従った。

 その直後、グイと妖夢の身体が強く引っ張られた。その身体が寸前に有った場所を、鎌が掠めるように通り過ぎたる。


「こんな感じでどう?」

「……すみません! 助かります!」


 妖夢の背中に引っ付いたままのこいしが、身体を彼方此方と引っ張って妖夢の身体を振り回す。

 回避を完全に任せ、妖夢はただ前に向かって飛び続ける!


「ひゅう! 二人羽織にしては出来が良いね!」


「どう、もぉ!」


 上手く行っている。触れ合った時間すら少ない即席のコンビではあるが、妖夢が驚く程に距離が縮まっていくのが分かる。

 だが……遠い。少々大きくなったものの、小町は未だ点のように小さな姿でしか見えない。

 届くか? そう疑問が浮かんだ直後、妖夢とも小町とも違う方向から声が聞こえた。


「貴様は私を忘れたのか!? 狗符「レイビーズバイト」!」


 スペルカードを放り投げながら、椛が弾幕を牙のように並べ食らい付かせるように発射する!


「そっちもスペルカードか! でもさぁ」


 振り回す巨大な鎌を、一度そちらに向けて振るう。

 そうするだけで、椛の弾幕の全てが弾けた。


「並べてるとこうだよ?」


「ああそうかいッ!」


 角度を変え、方向を変え、上下も左右も何度も何度も牙を突き立て、その度に鎌を振り回して撃墜される。それどころか、妖夢を狙うついでとばかりに反撃までしてくる。

 小町は椛の方をちらと見やるだけで、妖夢達しか見ていない。ただ振り回してる鎌に翻弄され、近寄る事すら許されず、こうやってちょっかいを出すしかない状態の相手を強く気にする事は無いと、暗にそう言っている。




 そうだ。それで良い。

 お前が私に構ったその一瞬、アイツらが前に進めるなら。 


 だが、それはそれとして私は腸が煮え繰り返っているんだ。


「今は牙を研ぐだけにしておいてやる。後悔するなよ」







 開戦してから十分にも満たぬ邂逅、その優位は最初の不意打ちを除けば常に小町にあった。

 手遅れになる前に向かいたい妖夢達三人と、ただ時間を稼げば良い小町。どちらに余裕があるかは一目瞭然だろう。鎌を投げて不意打ちをしてみたり、全体的におしゃべりなのもその表れだろう。


 一転、いざ攻撃を開始した時、小町は本気で斬りかかる。距離を支配し、徹底的に相手に攻撃を叩き込むのだ。

 そこに込められた殺意に加減は無く、迂闊に飛び込んできた二人を切り捨てる事を躊躇わない。


 本気と余裕の意識をスイッチのように切り替えているように、心の線引きを行っているようだと妖夢は考える。

 故に、今のこのスペルカードによる嵐も、どこか適当にやっているように感じた。こいしの介入を面白がって見ているのも、その考えを後押しする。




 ならば、その意識のスイッチの切り替わるその時。

 小町の琴線に触れるその一瞬を突けたなら?


 幾百、幾千の刃を掠り、時に二振りの刀でもって弾き、それでも真っ直ぐに進みながら。妖夢は一瞬だけ、胸元をちらりと見る。


「……よーむ?」


 返事はしなかった。

 すると、何かが通じたのだろうか、無意識にでも察したのだろうか。

 もう幾度も繰り返した、身体を引っ張る動作の時にどさくさ紛れに手を突っ込まれた。


「これかな」


 そう言いながら、一枚のスペルカードを抜き取った。


「大丈夫。代わりに言ったげるから、よーむは合図だけしてね」


 ……言ってもいないのに、意図が伝わるとは。

 心でも読んだのか。それとも、無意識に正解を選びとったのか。


 妙に穏やかなこいしの声を聞いて、妖夢の心が澄んだ。








 視界が染まる。

 限り無く黒と白に近い空間に入り込む。


 色ではない、見逃してはいけない一挙、一動を探るように。


「ほら、もっと頑張りな!」


 今か。


「喧しいッ!」


 いや、まだか。


「いい加減にしつこいよ!」


 いや、今か。


「そこまでされたら"鬱陶しい"位には感じて──」


 何か、小さな──。


「るけど────」


 切っ掛けが────。








 瞳が 真っ直ぐに 妖夢を映した 。




「獄界剣ッ!」


 そう叫んだ瞬間、こいしが弾かれたようにスペルカードを掲げ、

 妖夢の背を思いきり蹴った。


「「二百由旬の一閃」!」


 小さくも力強い後押しを受けた背が、前へ前へと加速する。


 迫っていた刃を抜け、風を越え、いつしか音を置いて。


 鎌を握り直していた小町の目が驚愕の色を見せる。

 瞬きも止まる一瞬の空白、余裕から本気に変わる一瞬の"無意識"。


 その刹那を超えた清浄を掴み、妖夢が駆け抜ける。


「──────」


 小町の溢れんばかりの身体能力が反応をしたのか、一歩更に加速した妖夢の距離が遠退く。


 遠く、遠く遠く遠く遠く、遥か彼方。きっと、視界にすら映らない程に引き延ばされるであろう距離を、尚早く駆ける。


 始まりがもっと遠ければ、今よりもっと引き延ばされて撃墜されただろう。

 踏み込みすぎていたならば、妖夢が走る前に足を潰しにかかられただろう。




 ただ、そうはならない。この一瞬だけは。


 この二百由旬と一押しの距離を断ち切る一閃が、届くのだという確信がある。


「ぁぁぁああああッ!」




 甲高い音より先に、輝く火花よりも先に。

 硬質な何かに当たったという衝撃を感じた。


「ッおぉぁ!?」

「ぎっ……!」


 ──寸前で鎌を滑り込まされた。

 スペルカードが攻略されたと判断されたのか、効果を失い元のサイズに戻った鎌で受け止められる。


「がっ……ははっ! 驚いたよ!」


 ギリギリと鍔迫り合いながら、しかし妖夢は前に前にと押し迫る。

 逃がしてなる物か、ここで仕留めるという気迫をもって。


「捕らえ……ましたよッ!」


「確かに、一枚は攻略されちゃったよ。でもさぁ」


 小町が笑い、鎌を押し返す。

 ただスペルカードが攻略されたに過ぎない小町と、既に傷の絶えない妖夢。そんな両者の力には圧倒的な差があった。


「あたいはぜぇんぜん元気だよ! 初めの一枚でそんなに消耗して、どうするってんだい!」


「……確かにボロボロになりました。力の差を明確に理解しましたとも。しかしですね」


 押し負けそうになりながら妖夢が笑う。

 違和感を感じた小町の背に、




「私は一人ではありませんので」




 影が射した。


「があああッ!」


 椛が上から飛び掛かり、左手に持つ剣を振り下ろす!


「──成る程」


 剣撃が当たると思われたその時。

 バキリ、と音が響く。


「初っぱなよりはマシだよ」


 小町が片手を離し、剣の鍔に拳を突いていた。

 無惨な音を鳴らして、天狗の剣は半ばから折れていた。


「で? 丸腰になった白狼を連れた剣士はどうやってあたいを倒すんだい?」







「誰が丸腰だと?」


 そう言い放ち、改めて右手で小町の肩を掴み。




 ──ガブリ。


「──なあっ!?」

「はい!?」


 この戦闘で初めて飛び散った鮮血。

 それは妖夢も驚愕した、小町の血だった。


「なあああああッ!?」


 鎌を離してしまった手で、思いきり椛を叩く。

 椛はそのまま小町から離れたが、ふらついた体勢の小町を妖夢が蹴り飛ばす。


「ぎッ!」


 満足な受け身を取る暇も無く、爆音と共に花畑の中に消える。

 それを睨み付けながら、無造作に血を吐いた椛が妖夢の隣に降りてくる。


「狼のそもそもの武器を忘れていたらしいな」


「椛さん……なんと野性的な……」


「攻撃出来れば何でも良い。それより……」


 椛の目が細められる。その先は、先程出来た土煙。


「これでもう遊んではくれないぞ。気を引き締めろ」


 土煙が晴れ、遂に花畑から小町が姿を現す。




「成る程。真面目にかかるしか無くなったかい」


 無表情。先程のお茶目な死神のそれではない、形だけとはいえ、一行に傭兵として雇われた物の"仕事の顔"だ。


「良いよ、認める」




「アンタ達は"外敵"さね」

諸々の事情は活動報告にて。

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