藍色と商売 多忙は敵だ
「すまない、そこの壺を取ってくれ」
「うぁ〜」
「ちょっと、頼んだ物はまだなの?」
「あっと……藍色君、あれも頼むよ」
「う〜ぁ〜」
「香霖! これ借りてくぜ〜」
「魔理沙! 商品を勝手に持って行かないでくれ!」
「みゃ〜あぁ〜」
……収集がつくまで、どういう経緯でこうなった説明しておく。
藍色は地底を出た後、とくに深い理由があったわけではないが、香霖堂に入った。
そこの店主、森近霖之助と意気投合。置いてあった道具に目をつけたのがきっかけだった。
「……これ、草薙の剣?」
「へぇ、よく分かったじゃないか。まさにその通りだよ」
まさか通じる話題があったとは思わなかった。そこからズルズルと話題が広がり、二人のテンションが最高潮になろうとした瞬間。
「お邪魔しま〜す」
と、普段は来ない団体客に恵まれた。忙しくて話せなくなってしまった霖之助を置いて去ろうと思ったのだが……
「藍色! 頼むから手伝ってくれ!」
後は……分かるだろう。藍色は店内を駆け回る羽目になり、霖之助にいいように使われている。
どうして今日に限って……
「助けて〜……」
……終わるまで、しばらくお待ち下さい。
「お疲れ様、助かったよ」
「そう……」
店内の高級そうな椅子にもたれかかる藍色。非売品である。
「手伝わせたのに見返り無いの?」
突然の半強制労働に対して相応の対価を要求してくる藍色を見つめ、今の今まで忘れていたかのような顔をした霖之助。ざけんな。
「……そうだね、なら非売品以外の商品を一つ持って行」
「お邪魔しますね」
お客様である。
どこかで見た銀髪とミニスカメイド服だ。異論は認めておく。
「おや、十六夜さんですか」
「妹様が退屈されているので、暇を潰せそうな物を探しに来ました」
……妹様? 藍色は首を傾げた。
「あの子の暇を潰す物なんてあるかな? 藍色君、悪いけど一緒に探してやってくれないか?」
「また?」
構わないが、要求する物のグレードを上げる必要がありそうだ。
「……あなた、藍色さんでしたか?」
「うん」
いつか風呂で鉢合わせた人、くらいの認識しかしていない藍色。正しい事は正しいが……
「妹様って?」
「……お嬢様の妹ですよ。訳あって館からは出ないのですが」
「ふぅん」
出ないなら会う機会はほぼ無いだろう。別段会いたいわけでも無い。
「暇を潰す物って……」
「何でもいいです。本当に何でも」
範囲が広過ぎる。要求物のグレードがまた上がった。
「……頑張る」
しばらくお待ち下さい。
「あぅ〜……」
再び椅子に倒れ込む藍色。咲夜さんは程良い物が見つかったので既に帰った。
誰かさんのせいで大多数が非売品扱いされていて参ったが……
「もう疲れた……」
「助かったよ。まさか立て続けに人が来るとは思わなくて……」
「……相応の物は?」
「…………分かった。非売品の物でもいくつか意外は持って行きなよ」
かなり嫌々といった感じだ。
「じゃあこれにし」
「失礼します」
今度は半霊とか言う物を引き連れた人。霖之助は藍色を見、藍色も霖之助を睨む。
「頼めないか」
「対価」
「……考えておくよ」
まだ休めそうにない。
「……もうダメ」
妖怪の体力でも疲れるって、どんな運動量だったのだろうか。
「本当にお疲れ様。災難だった」
「うるさい」
首と手以外は一切動かなかったお前が言うな。という意を込めた睨みをきかせる藍色。効果は薄い。
「お詫びといっては何だが、今日は泊まって」
「いく」
嫌がっても泊まるつもりがあったらしい。
「そうかい」
後は特にイベントも無く、二人共が別々の布団に潜り込むまで大した会話も無かった。
「寝ないのかい?」
夜、もしかすると深夜と言えそうな時間帯。唐突に霖之助が藍色に聞いた。
確かに、 藍色のその目は未だに開いているし、眠気があるようにも見えない。
「私は寝ないの」
「寝ない?」
ちょっと謎な言葉が浮かび、疑問に思った霖之助。
「私は寝なくても平気」
「平気なはずが無いだろう?」
「本当」
「……そうかい。冗談言ってないで早く寝なよ」
スルーを決め込んだ霖之助。どうしようもないと認識した藍色も無視を決め込んだ。
「…………へぇ」
そんな部屋の外、耳をすませていた者が居た。
「これは、興味深いかもね……」
夜な上、室内なのに日傘をさした人物は、音も無くその場を去った。
「あの子の近く、スキマが開けないのよね」
「おはよう」
「朝は遅いのね」
もうすぐ昼にさしかかる所だ。
「……結局寝てないの」
「疲れはとれた」
霖之助に最後まで言わせない藍色。やはり藍色は藍色だった。
「じゃあ、好きなの持って行くよ」
「……反論出来ないな。分かったよ」
待ってましたとばかりに藍色はアレを手にとる。
「これ」
「それだけは駄目だ!」
草薙の剣はアウトだった。藍色の舌打ちが店内に響く。
「じゃあ探す」
言うやいなや、無造作に積まれた道具の山を掘り起こす藍色。数分すれば足元は汚くなった。
「片付けは」
「自分でしろ」
それくらい動けよ、動かない古道具屋。
「……これなに?」
草薙の剣とは違う刀を掘り出した藍色。銘は無く、刀身だけで藍色の身長より大きい。鞘は見つからなかった。
「それかい? 普通より大きい以外は何の変哲も無いただの刀だよ。銘柄も無いし、誰かが酔狂で作ったんじゃないかな」
名前も無いそうな。
「君より大きいんじゃ、どうしようも無いんじゃ」
「貰うよ」
「え」
「これは私が貰う」
「え!?」
驚きすぎだ。
「そんなのどうやって持ち歩くのさ……」
「方法なんて沢山あるもの」
藍色の手から刀が消え、上機嫌な藍色は唖然としている霖之助を放置して去ってしまった。
「うちの従業員にしたいなぁ……」
是非お断りさせて頂きます。
なんて茶番はいいだろう。
せっかく手に入れた物だ。出来れば大事に……なんて考えは藍色には無い。いらなくなったら容赦無く捨ててしまう。そういった物が稀に幻想になっているのだが、藍色は知らない。
捨てた、ではなく忘れた、もあるが。
捨てたに含まれるのは主に刀、鏡、妖怪から貰ったしゃれこうべ等。
忘れた、に含まれるのは荷物多数、偉人から貰った扇、唐傘等があったりする。 入手ルートは本人も知らない。
きっとこの刀も……
「試し斬り」
なんて物騒な。周りに堂々とそびえる木に容赦なく狙いを定める。その手には既に身長の何倍もある刀が握られており、大きく振りかぶって……
「えい」
力の抜ける掛け声と共に刀身が風を斬った。
木は根元の辺りから綺麗に分断され、ゆっくりと……
「わあぁあ〜っ!?」
誰かを巻き込んで倒れた。
「……う?」
ちょっとマズいかもしれない。
「ごめんなさ……」
謝りながら悲鳴の元を発見する藍色。木の下敷きになっている黒い布が見える。
「えい」
木を持ち上げ、どかす。見えた姿は……
「……うん?」
どこにでもいそうな魔女がいた。
「藍、ら〜ん〜」
一方こちらは紫色……じゃなくて、八雲紫である。色の名前なので名前の後ろに色をつけるだけで藍色の親戚になれる。
「はいはい、ここにいますよ」
こちらは藍色…………なわけがない、八雲藍。まあまあの反応速度だった。
「ちょっと面白い事が分かったのよね」
「藍色さんですか?」
「そうよ」
資料のような物を広げる紫。無論藍色関連の情報である。
「あの子、百歳なんて真っ赤な嘘よ。最古の情報は億単位よ」
「紫様より年上ですね」
「ちょっと胸が痛いわ……」
やはり年は気にしていた。
「でも、あの子がわざと嘘をついていた感じは無いのよね……」
「この情報だけじゃ、その矛盾はどうにも出来ませんね」
ここで橙がお茶を持ってきてくれたので、喉を潤す事にする。
「ホント、不思議な子ね……」
「月の頭脳達にも手伝ってもらいますか?」
「そうしましょ」
そんな話があるのを藍色は知らない。
そういえば、霊夢はなんとか博麗神社に留まってくれたらしい。紫の肩の荷が一つ下りた。相変わらず賽銭箱は潤っているそうな……
藍色は抜けてるんです。だから色々置き忘れたりしちまいます。
それが稀に妖怪化したりして藍色を探してたりします。藍色は探しません。
あれ? 藍色の設定が凄い事になってる……
まあいいか……