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東方藍蓮花  作者: 空椿
103/114

藍色、波紋を染める

 幻想郷に住む、大方の生命は選択を迫られた。


 幻想郷に多大な影響をもたらした、一人の妖怪のが眠りにつく事に関して。


 妖怪として在るがまま眠りにつかせるか、それとも無理をしてもう少し起こすのか。


 ほぼ全ての生命は、当然の選択をした。無理をさせるべきではないのだと。


 これに抗う者が、納得していない者が少なくとも数人居る。もしかしたら、他にも居るかもしれない……







「……ふーん」


 新聞の内容は、要点を纏めればそんな感じになるだろうか。それを適当に流し読みしつつ、レティは一つ息を吐いた。


「前々から結構騒がしてたけど、また大きい話題が出るなんてね」


 冬の妖怪……だと言うのに、その住まいの暖炉は小さな火を放っている。無論、それは来ている客人の為であり、レティは暖炉から離れた所で客人に話しかける。


「もういっそ、いつもの事でしょう?」


 話しかけられた相手……幽香はそう言ってから、手作りしてきたクロワッサンを頬張る。美味しく出来たようで、その顔は実に満足げ。


「確かにそうだけどね~」


「なら良いじゃない」


「……そうね。私にも頂戴」


「はいどうぞ」


「ふふ、ありがと」


 余程美味しそうに見えて食欲をそそられたのか、レティはクロワッサンを要求。渡されたバスケットからクロワッサンを吟味し、やがて気に入った物をひょいとつまんで、一口。顔が綻んだ。


「さて、どうしましょうか」


「ん~、最高」


 季節外れの雪の積もる蓮華畑を景観としつつ、クロワッサンをかじる幽香の目は、少し遠い。


「で、どうって何よ?」


 お茶を一口飲んでから、よく分からない言葉を投げた幽香に問い掛ける。


「藍色をどうするか……かしらね」


「藍色を?」


 幽香もまた、今回の藍色の事に関してはかなり悩んでいるようだ。


 幽香も妖怪であるから、同じ妖怪である藍色の事に共感できる。これが仮に知り合いの範囲であれば幽香は無関心で通していただろうが、彼女は他の皆に比べればやや強い関わりを持っている。

 年を跨ぐような時間すら過ごさなかったと言えど、その関係は親友以上と呼ぶに値するだろう。


 故に迷う。妖怪として彼女を尊重するか、親友として彼女に思いの丈を伝えるのか。


「この疑問に正解なんて無いのでしょうけど、それでも納得の行く答えが出ないの」


「……ふーん」


「貴女はどうなの?」


「え、私?」


 唐突に問われたレティは、多少驚いた顔をする。


「う~ん……何とも言えないわ」


 何とも言えない。と言ったレティにも、彼女なりの悩みを持ち合わせていた。


 本来彼女は冬以外を眠って過ごし、冬は一転して大きく張り切ると言う生き方をしていた。規模こそ違えど、藍色とやや似た行動パターンであると、最近本人は思ったらしい。

 しかし、蓮華畑に住み着いてからは状況が変わった。レティの妖気に触れ続けた藍蓮花がそれを取り込み、周囲の気候を冬に変えてしまった事が要因。

 彼女は年中冬で過ごす事が可能となり、一定期間に活発的に活動する必要性が無くなった。その為、現状に合わせて人と似た周期で眠りにつくようになった……

 つまり、レティは藍色によって根本の『在り方』が変化したと言う事になる。


「何とも言えないけど、あの子が決めた事を尊重したい……と思ってる」


「……尊重、ね」


 今しがた幽香も頭の中に出した単語ではある。しかし、意味は同じでも考えている物が違う。

 幽香は妖怪を、レティは藍色を。この違いはやはり、付き合い方や性格から来ている物……


「……なのかしら?」


「ん?」


「あ、えっと。何でもないわよ」


 ついつい、考えている事が口に出てしまったらしい。慌てて取り繕ってはみたが、その疑いの視線からは逃れられそうにない。どうしようもないので、無言で通して無理矢理終わらせる。

 ……幸か不幸か、その考えが看破された故に追及は来なかった。







 最近、幽香がレティの家に遊びに来る頻度が増え始めている。

 レティの家は蒼天の花園にあり、その蓮華畑こそ藍色が戻ってくる唯一の場所。最近一目見る事も叶わない親友の姿を、微かな希望にすがって探しに来ている……と、幽香は自分をそう評した。


 実際、それは概ね正しい。

 昔の藍色が何処に戻っていったのかは知る術が無いが、今の藍色が戻る場所は蒼天の花園ただ一つ。姿を見るとしても、それはここだけだろう。

 それでも見当たらないと言う事は、やはりまだ戻ってきていないと言う事だが……


「もぐもぐ……」


「……ふぅ」


「食べないなら全部食べちゃうわよ~?」


「お好きにどうぞ」


 そう言って、また溜め息。


「……溜め息しても、あの子には会えないわよ~?」


「分かってるわよ、そのくらい」


 けれど、どうしても出てきてしまう。そこまで言う事はしなかった。

 どうしても幽香には解せない疑問があって、しかしその疑問の答えがある程度予想できてしまっている。自身を悩ませるもう一つの問題が、溜め息の原因である。


 『あの一件』から少しばかり時間は経った。ただ眠るだけなら戻ってきても良い。あの好奇心と気紛れの塊のような子が、広い月の都と言えど留まるとはとても思えない。

 ならば、何故姿を見せないのか?


 考え付く事が幽香には一つ。藍色本人か、はたまたその周辺の人物か。そこまでは分からないが兎に角、会いたくない又は会わせたくない事情がある……と言う事。でなければ、何の音沙汰も無いと言うのはあまりにおかしい。

 ……言ってくれれば力になるのに、全く。


「相談されないのも困ったものねぇ。かしら」


「……貴女はいつの間に心を読めるようになったの?」


「幽香の表情から読み取りやすいだけよ。はいどうぞ」


 口を挟んだレティが差し出したのは、空っぽのバスケット……どうやら、本当に全部食べられてしまったらしい。早い、早すぎる。


「貴女はいつも考え込み過ぎなのよ。そんなに藍色が気になる?」


 そう言われてから時計を見れば、思いの外時間が経っている事に幽香はようやく気付く。


「ま、貴女は過保護な位がきっと丁度良いわ」


「……貴女は、ちょっと淡白よね」


「貴女と一緒になって猫可愛がりしてもね」


 そう言ってニヤニヤ笑ってくる。どうも、ある意味で良い友人は此処にも居るらしい。

 ここに来てようやく、自分も恵まれた環境に居る事を自覚した幽香であった。


「たまにはハメでも外しなさいよ。相手したげるから」


「殴り愛を御所望かしら?」


「貴女の拳と言う名の愛はちょっと重いかも」


 ……ちょっとで済むだろうか?


「……ま、確かにたまには暴れてみたいかも。感情のままに」


「そうすると洒落にならないからやめてるのよね?」


「よくお分かりで」


「でもその点は、ここなら大丈夫なのよ。知ってた?」


 レティの言ったその言葉の意味を、どのように捉えるべきか幽香は悩む。何が大丈夫なのかを言われてないのだけど……

 と言う気持ちを察したらしく、レティは言葉を続けた。


「ここの蓮華は一種の妖怪のような物。再生力が高くて、千切れても折れてもすぐに治っちゃうのよ」


 この前、花冠作った時に分かったのよ。と、実際に作った藍蓮花の花冠を見せてくる。彼女のいつも着ている服を彷彿とさせるような藍、野良妖精の力とそう大差無い程の小さな妖気。


「へぇ、確かにそうみたいね」


「普段からここに居るから、貴女よりこの花には詳しいわよ?」


「あら妬けちゃう」


 折角なので花冠を被り、似合っているかとレティに感想を求めてみた。その返事が「案外イケる」なのが、イマイチパッとしないのだが……


「……ま、そんなわけだから、貴女のマスタースパークでもない限りは力強く立ってるわよ」


「へぇ、そうなの。強いのね貴方達」


「……何なら、試してみたら? 鬱憤ばらしも兼ねて」


 疑問の声を上げる前に暴風とも取れる速度で飛来してきた何者かが、家の扉を破壊する勢いで開いた。

 開けた時に追従してきていた風が扉の中に入り、中はそれはもう滅茶苦茶に。暖炉の火すら消えてしまう風を連れてきた彼女……


「幽香! お前はどうなんだ!?」


 ……文々。新聞にもあった『納得していない者』、その筆頭。霧雨魔理沙は、開口一番そう叫んだ。


「答えろよ! お前もあいつらと一緒なのか!?」


「な、何よいきなり。突然何を言い出すかと思えば、全く」


 早期に気付いていたレティは兎も角、不意を突かれた形になる幽香の心臓は早鐘を打っている。思考も纏まっていないし、思わず構えた日傘を下ろす以外の行動を取れない。

 物凄い速度で箒を飛ばしてきた魔理沙も息が荒く、何度も叫んだのか声を枯らしていた。目も少し赤いが、涙でも流していたのだろうか?


 魔理沙が喚き、幽香が慌てる。そんな乱れた場に一声。


「…………緑茶で良いかしら~?」


 レティはマイペースであった。







「んぐ、んぐ……」


「凄い風だったわよ、もう。最初は文が来たかと思った位だわ」


「暖炉、消えちゃったわね。貴女には寒いでしょうし、付け直しましょうか?」 


「そうねぇ、お願いしとくわ」


「ぷはあっ! おい幽香!」


「まずは落ち着きなさいよ。はいおかわり」


 ダン、と置かれた器に幽香が茶を注ぎ、魔理沙がそれをまた飲み干す。その一連の流れをあと三回繰り返して、漸く魔理沙の気持ちは落ち着いた。


「……で、何の話?」


「ああ、藍色の事だよ」


「……あの子の事だったのね。いきなり言われても気付けなかったわ」


 一応、荒ぶっていた魔理沙の怒声から候補は絞っていたのだが、確信には至らなかった模様。ちなみに、レティは新聞を見ていた時点から「魔理沙は納得してないでしょう」と漠然と考えていたらしい。結果的に大当たりである。

 魔理沙の質問にはとりあえず、先程まで考えていた通り「どちらとも言えない」と言った。悩む理由まで言う気は無く、魔理沙もそれだけではやや納得しにくいらしい。

 それでも平静を取り戻した魔理沙はそれに対して何を言うでもなく、小さく息を漏らした。


「……ハッキリしない、って返事はお前が初めてだよ」


「他の奴等はやっぱり?」


「『眠らせる』の一点張りだよ。こんな時、妖怪が多いってのは私にとっては不利だな」


 同じような考えを持つ者が居ないかと、紅魔館や白玉楼、永遠亭や命蓮寺にも。とりあえず、顔見知りの居る所には片っ端から飛んでいったらしい……が、結果は涙の跡が静かに語っている。

 幻想郷の長命な存在は皆、藍色の妖怪としての在り方を優先している事が魔理沙の情報で確固たる物となった。新聞だけではちょっと分かりにくい。


「……霊夢は? あの子は人間でしょ?」


 ……では、数少ない短命である人間はどうなのか? それをレティが聞いてみた所、魔理沙は苦虫を噛み潰した顔で、思い出しながら言った。


「霊夢も同じだ。博麗の巫女らしく『在るがまま、平等に』だと。あいつには友人関係とかも何も無いらしいな」


 思いっきり皮肉である。

 霊夢も藍色に対しては、厄介事を起こされつつもそれに悪い感情はあまり抱いていなかった。更に言えば、博麗神社にお賽銭が貯まるようになり生活が安定したと言う恩もあるのだ。

 少なくとも、霊夢にとっての藍色は数少ない『特別』の一人である事は間違い無い。そうでなければ、今の博麗神社の賑かさは無かったことになっているだろう。


 ……どうやら、恩義を感じているからこそ眠らせる。と言う選択をしたらしい。魔理沙の口からはそう聞こえた。

 では、咲夜は? これも聞いてみたものの。


「『お嬢様に付き従います』」


「ああ、やっぱり?」


 あのメイドは、眉一つ動かさずにそう言ったのだ。そして問題のレミリアはやっぱり眠らせる派であり、本人にそうではない意志があろうともこれでは望み薄である。

 咲夜は自身の感情を押し殺す事が出来る人物であるし、今回もそうなのだろう。咲夜本人が藍色に対して何を思っているのかを知る事は出来そうにないが、レミリアが手のひらを返さなければ咲夜も梃子でも動かない。


 レティは次に、妖夢について聞いてみた。半人半霊で人と比べれば寿命は長いが、妖怪と違って明確な寿命がある。彼女もまた、間違いなく今生の別れとなる側の筈だが。


「…………あいつは」


「何よ」


「……幽々子の」


「あ、もう良いわ。ごめん」


 妖夢の頭も固かった。この忠犬共は、と魔理沙はその時思ったらしい。

 幽々子が妖夢の剣術指南に渋々ながら付き合うようになったのは間違いなく藍色の影響である。妖夢の数少ない恩義の一つで、律儀な彼女は恩は必ず返す性格をしている。

 それでも、幽々子は首を縦には振らなかった。ならばそれに付き従う者として、主人の傍に居る事を優先したのかもしれない。本人に詳しく聞ければ良いのだが、生憎とショボくれていた魔理沙にそこまで考える事は出来なかったようだ。


 さて、残る人間……と言って良いのか分からないものの、早苗はと言えば。


「その顔を見れば分かるわよ。もう」


 魔理沙が詳しく言う前に全て察した。どうやら早苗もまた、二柱が口を挟んで止めさせたようだ。

 しかし、早苗は藍色との交流はあまりしていない。恐らく止められようが止められまいが、藍色の話題で過敏に反応する事は無いだろう。


 ……詰まる所。


「本気で納得してないのは貴女だけなのね」


「……ああ」


 魔理沙が話した中では、だが。

 それでも彼女に、賛同する者は居なかった。


「……何でだろうな」


「ん?」


「借りがある奴は絶対に多いだろ? 何でそれを返す事をしないんだってな……」


 ついには俯いたまま、ポツリポツリと呟くだけになった。

 現実を痛感して悲しくなったのか、一人が辛いのか。涙は語らない。


「借りたら返す。貴女程積極的じゃないだけだと思うわよ~?」


 暖炉に新たな火を起こしたレティが戻ってきた。が、過程で失敗したらしく、指先をくわえながらの登場である。妖怪の再生力ならば、まさに『唾を付ければ治る』と言った所か。


「総じて長生きして、寿命がハッキリしない妖怪みたいな存在はね、『何かを返す』って行為を重要とは思わないの」


 どういう事だ、と言わんばかりに顔を上げた魔理沙と、目を閉じてゆっくりと聞く幽香の二人に、レティは笑いながら語る。

 流石に指をくわえるのは止めた。


「そもそも、人間は繋がりを大事にするでしょう? 交遊関係とか、恋愛関係とか。貸し借りと言う行為も、繋がりの一つではある」


「……そうだな」


「それはね、人間は基本的に群れて暮らす生物だから。集団での行動を望んで、孤独である事を嫌うからよ」


「……私も普段一人だぜ?」


「貴女だって、退屈になったら誰かの所に行きたがるじゃない。本当に孤独が良い奴なら退屈すら感じないもの」


 総じて孤独な存在と言うのは、自身とその周辺だけで世界が完結している。例を挙げれば、とレティが前置きして指差したのは幽香であった。

 幽香としても正にその通りであり、自身の家と太陽の畑があれば本当に数百年幸せに暮らせると考えていたりする。納得したのか、腕を組んで数度頷く。

 ただ、数百年をとうに生きてしまった幽香は流石に退屈したので、出歩いて花を見て回っている。それでも人との関わりに積極性が無い辺り、やはり一人が好きなのだ。

 ……少なくとも、少し前まで。


「そんな人間とは違って、妖怪は基本的に群れない。天狗みたいな集団行動をする妖怪ならまだしも、普通の妖怪は単独行動しかしないもの」


「……そうか? 幻想郷の奴等は大体何処かで集まってると思うけど……」


「幻想郷の中しか知らないからそう思うだけよ。狭い環境だからこそ顔見知りが多くなるだけ」


 そろそろ立ったままも飽きたのか、魔理沙の隣の席に座って腕を組む。


「つまり、なんだ。妖怪ってのは、本質的には一人でも良いから、今回の事はある程度気にしてないのか」


「概ねそんな感じかしら~? 少なくとも、永く生きる中の一つの別れは重要とは捉えないからね」


 …………長くなったが、要するにだ。

 今回の件、余程の事が無い限りは妖怪は何もしない。


「元気出しなさいよ。行動しなくちゃ始まらないって、貴女が言わなきゃ似合わないじゃないの~」


「…………慰めてるなら失敗だぜ?」


「あららら?」


「言葉不充分かしら。もう一声どうぞ」


「えっとえっと、う~ん……」


 秒針が十五数えた頃に。


「も、もう少し頑張ってみましょ」


「不合格」

「今一番聞きたくなかった応援かもな」


 レティ、今世紀最大の失敗であった。







「じゃ、世話になったな」


「何も持っていって無いでしょうね」


「こいつの家から何かもって行く気にはなれないな」


 下手をすれば、永久に春が拝めなくなっちまうな。と言いながらレティを見る。笑顔が実に冷たい。


「ああそうだ、帰る前に言いたいのだけどね」


「お?」


 人差し指を立てながら、幽香が考えつつも口を開く。


「妖怪って確かに孤独ではあるけど、己の欲には実に忠実なのよ」


「……知ってるぜ。それがどうした?」


「貴女の行動、私は間違ってはいないと思う、それだけの事よ。だからもうちょっと続けてみなさいな。もしかしたら」


 その後に言葉を続けず、微笑みだけで会話を区切るも納得したような、してないような魔理沙だが、それでも少しは元気は出たようだ。


「励ましたつもりなら、及第点だな」


「あら嬉しい」


「幽香は凄いのね」


「貴女がちょっとズレてるのよ?」


 自覚しろと小突く幽香と、痛がるリアクションをするレティを笑いながら、箒を飛ばす。


「じゃーな」


「地底にまで突撃するような事は止しなさいよ?」


「取って食われても文句言えないからね~」


「怖い怖い。それなら取って食われないように注意しながら行くぜ!」


 要らぬ忠告だと蹴りはしなかったものの、足だけは止めない。

 それでこそいつもの貴女、とレティにピースサインで見送られながら、魔理沙は空に消えていった。


「……嵐みたいな子よね~」


「毎度の事よ」


 ふう、と溜め息。彼女の相手は中々に疲れたようだ。


「……そう言えば、今日の月は何だったかしら?」


「ここは何時でも満月よ?」


「ここじゃなくて、ちゃんとした月齢よ」


「あ~……何だったかしら? 普段引きこもってるから分からないわ」


 出歩けと一蹴。


「で、それが何?」


「……何となく、ではあるのだけどね」


 幽香は空を見上げてみる。この花園でだけいつも爛々と輝く満月は、それでも何も語らない。


「何か起こるなら、次の満月かしら」


「……そうかもねぇ。あの子、月に愛されているから」






 蒼天の花園は、今や太陽の畑以上に成長した。流石にこれ以降の拡大は幽香が意図的に止めているものの、藍蓮花の妖力は充分となった。

 限界まで遅らされた月の移動は遂に完全を迎え、永遠の満月が約束された花畑。藍色が寝ても覚めても、その月は変わらず彼女を見詰めるだろう。

 怪しくも、藍色の否定する『完全』が、ここにあった。







 悩むのは性に合わないんじゃァ無かったのか?


「……でも、もう少し悩むわ。立場か自分か、優先する事を」

「悩むまでも無ェな。行こうぜ、ブン殴りに」



 君は現状を肯定しないだろう。


「当たり前だろう? 借りた物は、相手が生きてないと返せないんだよ」

「なら私と組まないか? 物申したい事があってな」



 主からの命令よ? 我が儘を言いなさいって。


「それでは、生涯ただ一つの我が儘を」

「なら、それに従いましょう。私達は貴女を尊重するから」



 進言くらいすれば良いと思うのですが?


「言いません。しかし私らしく、斬って伝えます」

「貴女らしくて良いでしょう。お待ちしてますよ」



 ……何だ、藪から棒にそんな事を。


「ですが、どうしても。どうしても相談したくて」

「良いよ良いよ。私も、柄にもなく神に答えでも聞こうかと思ったんだ」





 一人の魔女が起こした波は小さい。

 それでも波を感じた彼女達は、いずれ動き出す。


 日が暮れて、月が昇る。今宵は半月、お休みの時間。

 でも、あとちょっとだけ。見たい物が、あるのだ。

 どうも、風邪を引いて元々少ない体重を更に二キロ減らした空椿です。現在も喉は充分には回復しておりません。


 私がこれから何を書くのか、皆様には薄々感付かれてるのではないかと最近思い始めました。うーむ、私の書き方ではバレバレではないのかな、と。

 そうやってずっと悩むのもあれなので、もう開き直ってかなりストレートに近い何かを最後にブン投げました。多分これで大方の皆様は気付いたでしょう。


 そしてこれからの展開もこれにて確定。実に簡単、『締めくくり』です。

 頭の中の道通りに進むかどうかは、やっぱり行き当たりばったりの書き方では不安なのですが……やるしかないですな。




 幕を閉じるまでが、作品ですので。

 そんなわけで、これにて。ではノシ

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