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東方藍蓮花  作者: 空椿
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藍色と盗人 早足は敵だ

 八雲紫、古明地さとり、藍色の三人は地霊殿を並んで歩いている。紫がスキマに腰掛けて浮遊しながら移動しているので二人になるのかもしれない。歩いている理由はさとりの妹、こいしを探すためである。

 藍色の荷物の中身をパクってくれたこいしの事を一番知っているさとりに藍色がついて行き、それを観察するように紫が後を追っているというのが現在の状態。


 藍色も紫も能力を使えば簡単に見つけられるのではと思うが、藍色は色々な確率を上げてもまさかの連続失敗をしてしまい、紫は見つけても逃げられるだけなので諦めた。

 ちょっと運命に見放された気がして藍色はしょんぼりしている。


「珍しく大失敗したわね」


「たまにはこんな事もある……」


「紫さん、藍色さんは誰がどう見ても傷ついているのであまり触れないように……」


 心が読めなくても察する事の出来るレベルの暗さ。紫は空気を読んでいなかった。


「私じゃ逃げられるし、藍色は能力に依存しているから実質無力。頼りはあなただけよ、さとり……」


「藍色さん、気を確かに」


「……あら? 私マズい事言っちゃった?」

 うん。


「……そもそも永琳さんは何故そんな薬を藍色さんにそんな薬を?」


「別に深い理由は無いらしい」


「謎のチョイスですね」


「うん」


 永琳は最近出来た薬の効果を試すために持ってきた、と後に主張した。結果的に輝夜が最初に飲んでしまったのは気にしない。


 藍色の能力によって藍色の心が読めなくなったさとりは、普段より気軽に話す。藍色も怖がらずに話せる辺り、関係は良く見える。

 会って一時間も経ってないと言ったら何人驚くだろうか。経緯が経緯だからこの状況も分からなくないのだが。


「まあ、あの人ですからね……」


「知り合い?」


「何度かお会いしましたよ。私のペットが病気になってしまった時にお世話になりました」


「ふぅん」


「私も暇潰しに会う、ですか。あなたはいつもそうですよ、八雲紫さん」


「へぇ」


「話させて、ですか。お断りします」


 藍色との差が激しい! えこひいきだ! と抗議する紫の発言すら奪うさとり。藍色の反応は鈍い。

 やがて紫は諦めたのか、ついてくるだけになった。


「しかし、成長したこいしですか。興味をそそられますね」


「そう?」


「今までと全く違う面を見れるんですよ? 気になりません?」


「微妙」


「そうでしたか……」


 あまり興味がわかないらしい。話題を逸らしてまた話す事にしたさとり。

 そうこうしていると……


「あら、古明地の妹さん」


 紫が歩いていたこいしを発見した。

 髪は伸び、活発そうな雰囲気は消えて妖艶な姿を映している。


「あ、見付かった」


 何が面白いのか、クスリと笑って三人から背を向ける。


「こいし、待ちなさい」


「ヤダ」


 まさかの拒否に脱力したさとりに目もくれず、立ち去ろうとしたこいしに藍色が急接近した。


「鞄の中身返して」


「どうしようかな〜」


 明らかに返す気には見えないこいし。無意識に取ってしまったのだから罪悪感くらいは感じてほしいのだが。


「返して」


「え〜?」


「返せ」


 ついに脅迫紛いのお願いになってきた藍色。イラついているらしい。


「じゃあ、私を捕まえられたらいいよ」


 目の前から動かないこいし。藍色はすぐに手を伸ばした。

 が、その手はなぜかこいしに届かない。


「……う?」


 三度ほど手を開いたりした辺りで異変に気付く。どうやらいつの間にか距離を取ってしまっていたらしい。


「じゃあね〜」


 軽い足取りで行ってしまうこいし。藍色の足は動かなかった。


「…………藍色さん?」


 藍色はこいしが見えなくなった辺りで崩れ落ちた。さとりが心配して近寄ると、その細い腕をさとりの腕に絡めた。


「恐怖したのね。無意識に」


 後ろの紫はどこか納得した顔だ。成長した分、今までと違う能力の使い方を察したのだろうと推測する。


「う〜……」


 初めて見せる小動物のような姿に、至近距離にいたさとりは慌てふためいた。


「え? あ、藍色さん?」


「あらあら……」


 一応、紫も初見なのだが……

 こちらの顔に動揺は見れなかった。内心かなりテンパっているのはさとりにだだ漏れだが。


「予想以上に厄介ね。身体能力だけなら可能性はあったのだけれど、頭まで良くなると大変よ……」


「心の中で慌てているのは分かっているので、無理に平然を装わなくていいですよ」


「……ハァ」


 立ち往生していても進展しないので、紫が藍色を抱きかかえてこいしを追った。


「こうしてみると、この子って結構小さいのですね。ああ、あなたの考えもそうでしたか」


「だからせめて話させてくれないかしら?」


「私小さくない……」


 声に覇気は無く、そのせいかいつもより数倍小さく見えてしまう藍色。そんなにこいしにキツくやられたのだろうか?


「多分こいしは強めに能力を使ったわけではないでしょうね。言ってしまえば藍色の心根が予想以上に弱か」


 じ〜。


「……ごめんなさい、失言だったわね」


 藍色の好感度が下がるのを感じた紫だった。


「強めに使ったら近付く事すら出来ないのでは?」


「かもねぇ。ちょっと本気出そうかしら?」

 幻想の賢者が本気を出すとは、結構大事なのかもしれない。


「三時間で元に戻るけど」


「もう一度飲まれたりしたら拉致があかないのですが」


「いつかは無くなるけど」


 確かに、時間が経てばあの薬は無くなるが……


「それでいいの? と紫さんが聞いていますが」


「……ヤダ」


「もう私の心の声を代弁しなくていいわよ……」


 性分でして、と言うさとり。


「で、あそこに居るのは誰かしら?」


 紫が視線を逸らしてどこかに向ける。さとりがそれを追ってみると、大きな翼を揺らしながら歩く者が居た。


「あら、お空じゃない。何をしているのかしら……」


 言うなれば、何もしていない。


「そうね、あの子にも手伝って貰いましょう」


 紫が言う。のだが、さとりは嫌がっている様子だ。ペットを面倒に巻き込みたくはないのだろう。


「何でもいいから下ろして」


 復活したらしい藍色が主張した。言われた通りに藍色を下ろす紫だが、非常に残念そうにしているのをさとりはしっかり見ていた……


「……って藍色? どこに行くの?」


 足音を立てずに走り出した藍色に問う。


「追いかけるの」


 理解に苦しみかねない答えだが、地霊の主と賢者はしっかり理解出来たようだ。

 つまり、こいしを追うらしい。


「さっきみたいにならないように」


 一応念を入れておくさとり。素直に聞き入れたかはやや心配だ。


「……心が読めないって、やっぱり不安?」

 唐突に紫が聞いてきた。一応さとりは藍色の心が読めないから、ちょっと心配なのか。


「いえ、安心しましたよ。気を使ってくれていると思えたので」


 実際は藍色は自分の為にやったのだが。覚妖怪に心を読まれるのは怖かったので能力を使った。それだけなのだ。


「そう。じゃあ、行きましょうか」


「分かりました」


 話も落ち着いたようなので、また歩き出したのだった。





 ほんの数分後、火車のお燐とお空をこいし捕獲に協力してもらい、現在は三人で廊下を歩いている。

 お燐は黒猫状態なので三人と一匹と数えるのかもしれないが。


「藍色は大丈夫かしらねぇ……」


「余程の事が無い限りは大丈夫かと……」


 ペットは藍色が誰だか分かってないので黙って聞き流す。


「まあ、暴れはしないと思うわよ?」


 と、言おうとした口を噤む紫。


「わ〜♪」


「止まってよ」


 地霊殿の『壁』を走る成長したこいしと、その『すぐ後ろ』にピッタリ張り付くように走る藍色。

 やたらと早い速度の為、紫が溜め息を吐いた頃には二人は通り過ぎていた。


「……暴れてますね」


「そうね」


 その場に佇んでいると二人がUターンしてきたので、さとりが声を上げた。


「こいし、壁を走らないで頂戴」


「え?」


 自覚した途端に床に落ちたこいし。藍色も墜落している所を見ると、彼女達は無意識の影響下にあったらしい。


「わわわっ! 危ないよ!」


 空中で一回転して見事に着地。誰も居ない方向に走り出した。


「逃がさない」


 なんと空中を駆けてショートカットをした藍色。異能を日頃から見ている紫も、これには流石に驚いた。


「お燐、追って頂戴」


「ニャーン」


 お燐は人型になり、二人に負けない速度で向こうに消えた。


「お空はスペルカードの準備を」


「はい、さとりさま」


 お空は右手についた筒を廊下に向け構える。


「ちょっと止め方が荒いんじゃない?」


 紫がさとりに聞いた。


「多少荒くないと止まらなそうだから」


 そんなさとりも手にはカードが。


「……ま、藍色と猫さんに当たらないようにするわ」


 紫も止めなかった。

 さて、しばらく構えていると三人が走ってきた。


「二対一は酷いよぉぉ〜!」


「捕まえる」


「ニャーン」


 中身は子供の大人が泣きながら走ってきた。そんな姿に同情はせず、さとりとお空は宣言した。


「爆符「ペタフレア」!」


「想起「恐怖催眠術」」


 自重しない。


「ちょっと〜っ!?」


 弾幕と言うか弾壁と言えそうな物を奇跡的に回避していくこいし。


「お燐!」


「あいよっ! 妖怪「火焔の車輪」!」


 後ろからの追撃。


「無理っ!」


 こいしはパンと両手を合わせた。


「えぇいっ!」


 その体制でなにやら力を込めたこいし。次の瞬間、こいしは前方の弾壁を走って抜け出した。


「抜けられた!?」


 驚愕するさとりを通り過ぎるが、悠然とそこに居た賢者に顔を歪ませる。


「空の弾幕が無意識に右に逸れるようにして、小さく出来た隙間に割り込んだ。咄嗟の判断でここまで出来るなんてね」


 その細腕を突き出し、宣言した。


「境符「四重結界」」


 結界が廊下を覆い、逃げ場が消えた。


「あっ……」


 その肩に、小さな手が置かれた。


「返せ」



「ハイ……」





 その後、こいしは正座をさせられた。





「どうも、家の妹が迷惑をおかけしました……」


「問題無い」


 謝るさとりに返事をする藍色。手には薬の一つ無くなった鞄が下がっている。


「やれやれ、とんだ観光だったわね……」


 結局何しに来たのか、紫はすぐにスキマに消えてしまった。さとりの第三の目がしっかりと紫を見ていた。


「初めましてを言うのも遅れたねぇ……」


「……うにゅ?」


 お燐とお空はちょっと困った顔をする。お空はちょっと別な気もするが。


「足が……痛い〜」


 しっかり足が痺れてきた大人こいし。どうも大人になってもこいしは結局こいしだったらしい。


「……こいし」


「何よ〜……」


「ご飯は持ってきてあげるから、今日はここで食べなさい」


「え」


 そのうちこいしの膝にお空を乗せそうだ。


「……じゃあね」


「あれ、もう行くのですか?」


「うん」


 一応観光が目的だったので、要件が済んだら次に行くだけだ。


「良かったらまた来て下さいね」


「うん」


「その時はしっかり自己紹介するよ」


「ま、またねぇ……」


 別れの挨拶も程々に、藍色は次の目的地に向かった。





 そして帰り道にまたあの三人組に出会い、たんこぶを作って地底を去った藍色だった。







「橙、おいで」


「はい、紫様」


 軽く橙を抱き上げた紫。


「藍色、軽かったわね……」


「?」


 地霊殿だけに、藍色の抱き心地を想起する紫だった。


 はい、地霊殿終了です。

初めて二部構成にしてみましたが、上手くいったか心配です……


 さて、次はどこに行こうかな。

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