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東方藍蓮花  作者: 空椿
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藍色と八雲 不運は敵だ

 忘れられた物が集まる所、幻想郷。人と妖怪が共存し、妖精や亡霊や神までいる場所。

 外の世界で記憶から消え去った者達が、常識の結界を越えて辿り着く秘境だ。


 その秘境に、ふらりと流れ着いた妖怪がいた。


「……ここどこ?」


 藍の髪に藍の瞳の女。服も藍のワンピースで身長は低く、どうみても少女でしかない。場所が場所であれば大きいお友達のお世話になりかねない姿をしている。

 どうにも現在の状況を理解していないらしく、周りをキョロキョロ見渡したり頬をつねったりしている。夢ではない。と理解しているかも怪しい。


「…………う?」


 そのまま全身藍色の少女はフラフラ歩き出した。宛ても無く歩いているので方向は出鱈目だ。

 ちなみに、このまま進むと行き着く場所は妖怪の山と呼ばれる場所。天狗の縄張りなので、このまま真っ直ぐ行くと面倒になりかねない……というか、間違いなくなるだろう。


「ねぇ、そこの妖怪さん」


 しかし、面倒というのは時と場所を選ぶ事は無い。

 背後から声をかけられ、妖怪と呼ばれた少女は声の方を向く。


「アナタは食べてもいい妖怪?」

「ダメ」


 全く間を空けずに返答。意表を突かれたのか、白黒の洋服を来た少女は驚いた表情で固まった。

 藍色の少女もまた、見詰め続けたまま黙り込み、奇妙な沈黙が場を支配した。

 風が木々を撫でる音で我に帰った白黒の少女は、頭のリボンを揺らしながら再度質問を投げかける。


「本当にダメ?」

「ダメ」


 そしてまたもや即答。取り付く島も無いさまに、がっくりと落胆をあらわにする。


「そーなのかー……」


 その姿を視界に入れつつ、藍色の少女はその場に座った。


「つかれた」


 そのような素振りは全く見せなかったが、どうやら疲れて歩けない様子。

 何を思ったのか、その隣に白黒の少女が座り、顔を覗き込んだ。


「アナタはなんて名前?」

「藍色」


 再び繰り出された質問に、相変わらずの即答を口にする。

 しかし、どうにも名前とは言い難い返答。


「ふ〜ん」


 藍色と名乗った少女を興味深そうに見つめ、小さく美味しそうと呟いた。

 口元から垂れる涎が、その発言が本気という事を伺わせる。しかし、ダメと言われた手前か実行に移す気配は無かった。


「ここどこ?」


 そんな物騒な少女に対して、今度は藍色から質問を投げかける。

 少女は少し考えるように空を見上げ、やがて思い出したように答える。


「妖怪の山の近く」


「……妖怪の山?」


 首をコテンと傾け、疑問を露にする藍色。どうも、妖怪の山という地名に一切の心当たりが無いようだ。

 少女も少女でそれ以上にどう言うべきかと悩んで口ごもっていた所に、一つの白い影が空から近付いてきた。


「そこの二人、この先は我ら天狗の領域である妖怪の山ですよ。即刻ここから……ルーミア?」


 白い髪に、耳と尻尾を持った少女が、二人の前にフワリと降り立つ。その背には剣と盾を背負っている。

 そんな彼女は白黒の少女を見詰めながら『ルーミア』と言ったが、どうやらそれが少女の名前らしい。


「あ、美味しそうだけど食べられない天狗」


 どうやら面識があったようだが、ルーミアという少女の中ではその程度の認識だったらしい。天狗の少女は耳と尻尾を力無く垂らしてうなだれていた。


「天狗さん?」


「……えっと、初めて見る方ですね。どなたですか?」

「藍色」


 二度目の自己紹介、そして即答。これが本当に名前であるらしい。


「藍色さんですか……見たことの無い妖怪ですね。私は犬走椛です、初めまして」


 右手を差し出して握手を求めた椛だが、藍色は首を傾げただけで受けない。どうも握手の事をよく分かっていないようで、椛は流石に対応に困った。

 しかし、気を取り直して本来の職務を優先する。すなわち、哨戒を任された下っ端としての仕事である。


「とにかく、これ以上先は我々の縄張りですので、出来れば立ち去って頂ければ」

「わかった」


 とうとう食い気味に答え、言うが早いか踵を返して歩き出す藍色。ペースが全く掴めない椛は流石に困り果てていた。

 先の問答で満足したのか、それとも飽きたのか。ルーミアは藍色を追いかけたりする事は無かった。


「ばいばい」


 そんな二人に対して、手を振るという動作こそしなかったが、一応振り向いて別れを告げる藍色。椛は小さく、ルーミアは両手で大きく手を振った。


「……文さんに報告しとこう」


 やがて藍色の姿が木々に紛れたのを確認し、椛は一言を残して飛び去った。

 ルーミアもまた、椛が見えなくなった頃にふわふわと移動を開始した。


「あ、こっちは駄目だった」


 が、間違って妖怪の山方面に行きかけた。直前に椛が飛び去った方向すら確認していない。

 こっちはこっちで随分とマイペースな性格をしているのであった。







 そんな出来事があった頃森の中にぽつんとある屋敷で、一人唸る女性がいた。


「むむむ」


 彼女こそ、この幻想郷を作り上げ、箱庭として管理する賢者である八雲紫。あらゆる境界を操り、そのスキマを覗く妖怪である。

 難解な計算や思考を涼しい顔で繰り広げるその顔はしかし、今は眉を潜めて虚空に空いた穴を見詰めているばかりである。


「……紫様、どうかしましたか?」


 そんな紫が居る部屋を通り掛かった女性がいた。

 こちらは八雲藍、紫の式神として手伝いや世話を任されている九尾の狐である。発言に合わせて大きな尻尾がゆらゆらもふもふとしている。


「さっき、新たに幻想郷に流れて来た妖怪を見てみようと思ったのだけれどね。場所は分かるのにスキマが映らないのよ」


 そう言われて興味を示したか、スキマと呼ばれた穴を覗く藍。紫の口振りからすれば、この穴には風景なり映像なりが映る筈らしいにだが、今の穴の中は沢山の目が渦巻いているだけである。


「その妖怪の能力か何かですかね?」


「そうでしょうね」


 難しい顔をしてスキマを覗く二人。やがて代わり映えのしない現状にしびれを切らしたのか、溜め息をついてスキマを閉じる。

 そうして紫は立ち上がり、藍について来るように促す。


「こうなったら直接会いに行くわよ」


 間接的に見れないのならば、直接的に出会うのが楽だ。手っ取り早い方法を提示した紫に藍も頷き、もう一度スキマを開く。今度は先程と違い、キチンと部屋の中とは違う自然風景が映っており正常に機能している事が伺える。


「わあっ!?」


 ……しかし丁度、先程藍色と話していた椛の進路の真ん前に開いてしまったようで、スキマに向こうから突っ込んで来る形で対面してしまう。


「あら、白狼天狗の椛さん」


 紫が軽い挨拶をし、藍が吃驚させた事を謝っていた。そうは言っても、椛にとって紫とは上司の上司よりも更に更に偉い人物であり、厄介事の常習犯でもある。捨てられた子犬のようにカタカタと震え出すのも、致し方無いであろう。


「わ、わわわ私に何かご用でしょうか……」


「何でも無いわよ、本当に。偶然にも貴女の前に開いてしまっただけだから」


 カタカタと体を揺らしながら問う天狗を宥める二人。藍は軽いノリのままの紫に変わってペコペコと頭を下げていた。

 結局、数分かけてやっと落ち着かせた。物のついでとばかりに件の妖怪の話を聞き、改めてスキマを乗り越えて新参妖怪を追い掛ける。


 しかし……


「あら紫さん! 丁度渾身の焼き芋が出来たんですけど、如何?」

「ちょうど良いや、新しい発明見てってくれない?」

「おやおや、妖怪の賢者ともあろうお方が珍しい。どうかなさいました?」

「厄いわ……」

「あ、食べられない賢者だ」




「なんでこの日に限って……」


 あまりにも立て続けに、代わる代わる妖怪や神がやって来る。

 一々相手をしている紫は勿論、隣に居るだけの藍も元気が無くなってきた。最初こそ速めに歩いていたのに、今では休憩場所を探すかのような力無い歩みになってしまっている。


「これはちょっと、異常ですね」


「これがモテ期という奴かと真剣に悩んだわ……」


「紫様?」


 しかし、引き続きこの調子が続いた場合、いつまで経っても件の妖怪と会う事は叶わない。それどころか、距離が遠くなっているとすら思える。

 妖怪の山に済む妖怪達も、友好的な連中ばかりでは無い。これ以上の面倒が舞い込んで来るのを危惧した紫は……


「……藍」

「分かりました」


 藍の言葉を合図に、二人は同時に駆け出した。


 人の姿をとっているとは言え、そこは真性の妖怪。人ならざる身体能力を発揮し、瞬く間に目標との距離は縮まって行く。

 もう少しで姿が見えるだろう……という矢先、普段の二人なら有り得ざる失態が発生する。


「きゃあっ!?」

「うぐっ!?」


 比較的大きな木の根に、同時に足を引っ掛けてコケる。二人はゴロゴロと地面を転がり、落ち葉に塗れながら大の字に倒れ込む。


「……もう! 飛ぶわよ!」

「承知!」


 そう言って地を蹴り、移動経路を空に移す。が……


「はうっ!?」


 速度が出る前に、他の木々よりもう一回り大きな木の枝に直撃し、墜落する紫。藍も巻き込まれるように落ち、再度落ち葉の上に転がる二人。


「……あ〜も~っ! 何なのよ本当に!」


 いらつきが頂点に達したのか、子供のようにバタバタ手足を振って暴れる紫。主人がそれなりに取り乱しているせいか、逆に冷静になった藍が起き上がりながら考える。


「おかしい……何故こうもトラブルに巻き込まれるんだ?」


 偶然にしてはあまりにも出来過ぎているし、本調子であれば絶対にしないであろう失敗も発生している。何らかの方法で妨害されていると見るべきだろうし、新参の妖怪がそれを持っている可能性はある。

 紫もまた、『境界を操る程度の能力』という、あらゆる境界に干渉する能力を持っている。しかし、どういう方法をとられているのか分からない現状、紫にも対処が難しい。


「向こうの気配は速度が一定だし、別に逃げてるわけじゃないようだけど……」


「どうなんでしょうね。白狼天狗とルーミアは接触していますし、関連性が何とも言えないんですよね。


「情報が少ないから対策のしようが無いわね」


 立ち上がって枯れ葉を払い、走るのは諦めて距離を保ちながら追いかける。


「橙にも手伝わせます?」


「そうしましょうか」







 そのような事もあり、藍の式神である橙も加わって歩いている。紫は考えながらも前を見据えて歩き、藍は橙に何をしているのかを説明している。


「分かったか?」


「わかりました!」


 元気いっぱいな返事をしてくれた橙。小さくも頼もしい姿に、藍は満足げに頷いた。


「あら、この方向は……」


 藍が状況説明をしている間、情報を紫が何か感づいたらしく、眉をひそめた。


「紫様、どうかしましたか?」


「このまま進むと、紅魔館だわ」


 紅魔館とは、幻想郷でも指折りの実力者であるレミリア・スカーレットを中心とした実力者が住まう真っ赤な館であり、特に好戦的な吸血鬼の妹の存在もあって、屈指の危険度を持つ場所だ。このまま行かれてしまうと問題が発生する可能性がある。


「……門番が足止めしてくれたら助かるんだがな」


「橙、ちょっと先行して怪しい妖怪を足止めしておいて頂戴」


「はい!」


 橙が走り出したのを確認し、紫と藍も顔を合わせて頷き合い、気持ち速めに足を進める。

 が、


「ひゃあ!?」

「うわっ!?」


 橙が飛んで避けたであろう泥沼に、二人してコケて突っ込む。

 もう癇癪を起こす気力も無いのか、紫も黙って立ち上がった。二人の服は見事に泥に塗れており、この後の洗濯を考えて藍は溜め息を我慢できなかった。


「……橙はなんでこけなかったのかしら」


 ぽつりと紫が呟いたのを聞いて、そういえば。と藍も思案する。

 橙が気付ける程度の物を、その主人である二人が気付かないというのも中々おかしな物である。


「後で橙にも話を聞いた方が良いですかね?」


「必要があればね。ところで……」


 藍がふと紫の方を見ると、下半身が丸々沼に使った紫が居た。


「……ちょっと手伝って頂戴」


 また足止めか。溜め息を追加して、藍は主人の手を掴んだ。





 その後、戻ってきた橙からの情報により、何とか件の妖怪は紅魔館の前で発見、門番である紅美鈴も含めて橙が話をした結果、今は門番の隣で待機状態という事が分かった。

 向かう途中にも沢山のトラブルに巻き込まれた二人は、到着した頃には泥まみれになっていた……


「や、やっと着いたわ……」


「やれやれ、最悪日が傾くかと思いましたよ」


 ようやく本題に入れる……と感動すら覚えつつ、件の妖怪を見据える紫。


「こんにちは」


 そうしてようやく対面した藍色の妖怪は淡々と、まるで泥塗れな事など何でも無いように、紫をじっと見詰めていた。


「……大丈夫ですか?」


 美鈴も紫を見詰めていたが。こちらは普通に心配だから見ている様子。流石に泥と枯れ葉だらけの格好は気になって仕方がないらしい。


「大丈夫よ、大丈夫。さ、お話しましょ」


 随分と意地とかやせ我慢が含まれている『大丈夫』だな。と隣の式は主人を見る。

 しかし、この機会を逃したらまたこのような目に遭う可能性を否定できない以上、この対応もやむを得ないといった所だろう。


「……お風呂で話したらいかがですか?」


 見兼ねた門番の一言に、流石の紫も折れた。藍色の妖怪が「うん」と言ったのを皮切りに、その場の動きが決定した。化け猫である橙は嫌がっているが、好意で勧められた手前断れないらしい。泥が付くのも構わず、藍にくっつきながら屋敷に入る。


「じゃあ、お邪魔します」


「橙、行くよ」


「……はい」


「お邪魔します」





「……咲夜さん達が上手くやってくれるでしょう」


 面倒事を主人達に押し付けるという、門番にあるまじき行為をした美鈴は、人知れず安堵のため息を漏らした。




 ……キャラはこれで良かったのだろうか?

 まあ書いた物は仕方ない。このまま行くぜ?


 ちなみに空椿に東方原作知識はありません。

Wikipediaやニコニコ大百科等を参考にしながら頑張ります。


追伸:2019:12/24、本文改訂しました。

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