最終話 工美ちゃんッ!
大変遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
反省が活かせない人ですみません。。。
最終話だという事で、気合入ってます(嘘です。まとまらなかっただけです;)。いつもの二倍以上の文字数になってますので、読みづらいかもしれませんが、最終話という事で、お許し下さい。
「パタパタパタ」
スリッパの音が近づいてくる。俺は、得体の知れない影におびえて、ただ震えている事しか出来なかった。
「パタパタパタ」
音がだんだん大きくなる。これは、確実に誰かが近づいてきている事を示していた。
「パタパタ、パタン」
足音が、止まった。急に目の前が暗くなる。
……来た。
影が目の前に立ちはだかった時、俺は下を向いて目を瞑っていた。
――ああ神様。俺はここで死ぬのでしょうか。わずか十五年と数ヶ月で、俺の命は終わってしまうのでしょうか。どうか、かわいそうなこの若き少年をお助け下さい……。
「何やってんの?」
聞き覚えのある声に頭を上げると、そこには、腰に手を当てて俺を見下ろした彼女の姿があった。
「今お前が言った台詞、そっくりそのまま返す。お前、帰ったんじゃなかったのか?」
俺は、腹が立った。
こんな奴相手に、あれ程までの恐怖心を抱いたという事に。
「えーっとぉ……。ちょっと手違いがあって」
えへ、なんてはにかまないでくれ。頼むから。なんとなく調子が狂う。
それと。心配して損した。あの夜流した涙を返してくれ。
「ん? 誰か来たのかい?」
突然、男の人の声がした。
……この声は、誰だ? 彼女の声でも、俺の声でもない、となると、彼女以外にも家の中に誰かが居るという事だ。
俺の顔の筋肉は、知らないうちにひきつっていた。
「あぁ。祐哉君か」
俺よりは少し背が高くて、眼鏡をかけた、やさしそうな男の人が、彼女の後ろから現れた。
「俺は、確かに祐哉ですけど。おじさん、誰ですか?」
俺がそう問うと、その男の人は、おっとこれは失敬、と言って話を続けた。
「私は、工美の父だ。――というより、未来の君のお父さん、って説明した方が早いかな?」
「『未来のお父さん』と言う事は、母さんの再婚相手……?」
俺が呟くと、彼は頷いた。
「ちょっと早いけど、よろしく」
そう言われ、右手を差し出される。俺は無言で、その手を握り返した。
手と手が離れた、丁度その時に、母さんが帰ってきた。
「ただいま!」
そして、玄関先に居る彼を見て、目を丸くする。
「誰なの? この人。もしかして――」
母さんは、何を思ったか、買い物袋を取り落とした。
彼女と彼女の父親から話を聞いた母さんは、
「じゃあ、この方は工美ちゃんのお父さんなの? それはそれは、失礼しました」
と言って、彼に会釈をしている。
「それで、どうしてここに戻って来たの?」
俺が質問すると、彼女は苦笑して、
「お父さんが、色々仕出かしちゃってさ。『頼れるとこはここだけだ!』って思って」
と答えた。その隣では、彼女のお父さんが頭を掻いている。
「ゴメンな。こんな頼りないお父さんで」
「未来には帰れないの?」
俺が聞くと、彼女は無表情で頷いた。
「どうするの?」
「どうしよう……」
「……」
一瞬、静寂が辺りを包む。
――静かだ。隣に居る人の息遣いが聞こえるまでに。
「じゃあさ、家に皆で住んじゃおうよ」
静寂は、母さんの突拍子もない一言によって破られた。
「はあ? どうしてそうなるんだよ!」
これは俺。
「えっ。いいの!?」
これは彼女。
「そんな、申し訳ない事……」
これは彼女のお父さん。
……これが、同時に聞こえたんだから、静寂なんてあったもんじゃない。
「だって、未来の世界では、一緒に住んでるんでしょう? それがちょっと早まるだけじゃない。ね? 問題ないでしょ?」
何が『問題ないでしょ?』だ。問題大ありじゃないか。
「そうだねぇ……」
「うーん。そうかもなあ」
ちょ、ちょっと、何で納得しちゃってるの?
「はい。じゃあ、全員一致で、決まりね」
あの。母さん? 俺、賛成してないんだけど。
「あ、そうと決まったら、挨拶しなきゃね」
彼女は満面の笑みを浮かべて言う。
勝手に話が進んでるーっ! 完全に俺は部外者だな。
「今日からまたお世話になります。よろしくお願いしますね」
「もちろんよ。楽しくなりそうね」
「良かったな、工美」
勝手に三人で盛り上がっている。
――ああ、頭痛い。
この三人は、絶対どこかズレている。まともに突っ込みが出来るのは、俺だけだと言えそうだ。
「果たして俺は、この三人についていけるのだろうか」
なんだか、とっても心配だ。
「ねっ、祐哉」
「え?」
いきなり話を振られ、戸惑っていると、母さんが手を握ってきた。
「祐哉も協力してよね。今日はご飯、二人分も多く作んなきゃいけないんだから」
そう言う母さんの顔は、いつにも増して輝いて見えた。
「うん、分かった」
自然と笑みがこぼれた。
さっきの問題は、今考えなければいけないという訳でもないし、後で、退屈で退屈でしょーがない時に考える事にしよう。
まあ、なんとかやっていけるだろう。この家族だったら。
母さんと一緒に台所に向かううちに、俺の頭の中でそんな考えが出来上がっていた。
今まで読んで下さった皆様、こんな駄作に付き合って下さいまして、有り難うございました。
ご感想、ご評価、いつでもお待ちしております。
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