第十九話 置手紙
「鍵、掛けてかなかったの? 無用心だこと」
母さんは、力なく笑った。
俺は、急いでたから、と答えて玄関のドアを開けた。靴箱の上に、紙が一枚、置いてある。
「母さん。この紙……」
俺が指差して言うと、母さんはそれを取り上げて、読み始めた。
「今まで、大変お世話になりました。私は無事未来に帰る事が出来るようです。迷惑ばかりかけて、ごめんなさい。本当に、楽しい日々でした。3日間ありがとうございました」
俺は母さんの持っている紙を奪い取る。
「工美より――だって」
俺はその紙を母さんに押し付けると、家の中に入った。無言で部屋へと向かう。
「祐哉……」
母さんの声が、微かに聞こえた。
俺は、部屋に入るとベッドに直行した。勢いよく、顔面から布団にダイブする。
「がほっ」
とかいう訳の分からない奇声を発しながら、俺は布団にのめり込んだ。
良かった。あんな、はた迷惑な奴、ずっと家に居てくれたら困ると思ってたんだ。自分から帰ってくれるなんて、嬉しい限りじゃないか。
――そう思うのに、何故かすっきりしなかった。
俺は顔を布団から離し、ベッドに座りなおす。
「どうしていきなり帰っちゃうんだよ」
無意識のうちに呟いていた。
「どうして紙切れ一つだけ残して帰っちゃうんだよ……」
――何でだろう。俺はそんな事これっぽっちも思ってないのに。
「どうして、どうしてなんだよー!」
彼女が居なくなって、何となく広い感じのする部屋に、俺の声が響いた。
「祐哉。ご飯出来たわよ。降りてらっしゃい」
母さんの声が聞こえる。いつの間にか流れていた涙をごしごしと擦ると、大きな声で返事をした。
「うん、今行くよ!」
俺はちょっとわざとらしかったかな、と一人で苦笑しながら、一階に降りて行った。
更新がかなり遅れてしまい、申し訳ありませんでした……。
インフルエンザでダウンしたり、テストがあったりと、色々大変だったんです(汗)
みなさん、体調管理はしっかりしておいた方がいいですよ(苦笑)