第十七話 失踪?
「祐哉、起きてる?」
部屋の扉が遠慮がちに開く。
俺は、ベッドに乗せていた頭を起こした。どうやら少し寝ていたらしい。そういえば変な夢を見ていた気がする。
「今起きたけど、何?」
目を擦りながら扉の外に向かって答える。
「お母さん、工美ちゃんと一緒にお買い物行ってくるから、留守番頼むわね」
「うん、分かった」
俺はなるべく感情を表に出さないようにしながら、答えた。
「じゃ、よろしくね。うふふ、楽しみだわ」
母さんはご機嫌だ。何故、いきなり彼女と買い物に行こうと思ったのか知らないが、俺としては、二人に早く出発して欲しい。
「じゃあ、楽しんできてね」
「言われなくても楽しんでくるわよ。留守番、本当によろしくね」
そう念を押して、母さんは部屋を出て行った。
途端、俺の我慢していた感情が溢れ出す。
「よっしゃあ!」
一人、部屋で叫ぶ高校一年生。はたから見たら、ただの変人だろう。しかし、この時の俺は、一人きりの時間が嬉しくて嬉しくて、仕様が無かったのだ。
「よーし! やりたい事やってやろうじゃないか」
俺は、大きすぎる独り言を言って、ゲーム機のスイッチを入れた。
「……平和だなあ」
俺はゲーム機を机の上に置くと、呟いた。時計を見ると、二人が出て行ってから、数十分が経とうとしていた。
「平和すぎるのも、何か怖いなあ」
別に平和である事が悪いと言っているのでは無い、というかむしろ良い事なのだが、何故だろう。悪い予感がする。しかも、皮肉な事に、その予感は当たる事が多いのだ。良い事の場合は一切当たらないのに、だ。
「プルルルル……」
唐突に電話が鳴る。俺は、深呼吸して電話のある一階へ降りていった。
「はい。河田ですが」
悪い予感が当たらない事を祈りながら、受話器を取った。
「祐哉! 大変なの」
――残念ながら、予想的中。母さんの声から、慌てている事が窺える。
「え? 何が?」
無意識のうちに、受話器を持つ手が震えていた。
「母さん。一体何があったの?」
「工美ちゃんがいなくなっちゃったのよ……」
母さんは、今にも泣きそうな声で、言った。
あと少しで完結する予定です。もうしばらく、orangeにお付き合い下さい。