題十三話 母さんと彼女
今更ながら、不定期更新ですみません。
一週間に一回は更新していきたいと思います。
お兄ちゃんが家を出て行ってしまうと、あたしはお母さんと部屋に二人きりになってしまった。
お互い、口を利こうともせず、ただ黙って向かい合っているだけだ。
「話って何?」
沈黙に耐えられなかったあたしは、勇気を出してお母さんに言った。
すると、お母さんは、最近の若い子は口の利き方も知らないのね、と溜め息とつきながら、こう答えた。
「せめて『話って、何ですか?』って言わなきゃ。ね? それは、まあいいんだけど……」
お母さんはそこで言葉を切った。お母さんの表情を見て、あたしはピンと来た。
「あ。お兄ちゃんとあたしの関係の事だな」
って。
案の定その後続いたのは、そのような内容の事だった。
「祐哉とは上手くいってるの?」
「いや。そういう関係じゃありませんから」
あたしはきっぱり言い切った。
「じゃあなんで家に居るのよ」
お母さんの顔は相変わらず穏やかだったが、声にはどこか冷たい響きがあった。
「説明すると長くなりますけど。それでもいいと言うならお話します」
あたしも負けずに冷たく言い放つ。
「話してみてよ」
お母さんは鼻で笑って、
「ほら。早く話してごらんなさい。言い訳をじっくりと聞いてあげるわ」
あたしの話を促した。
「分かりました」
あたしは大きく息を吸い込んだ。
「まず、あの時の事からお話します」
――とうとう着いてしまったな。
俺は大きく息を吸い込んだ。
あれから俺は、出来るだけゆっくりと買い物を済ませ、出来るだけゆっくり帰って来た。
何故かって? それは怖かったからだ。女二人の話し合いが怖かったからだ。
ごくり、と唾を飲み込む。
「いざ出陣っ!」
俺は気合を入れて家へと入っていった。
「ただいまぁ……」
控え目に声を掛ける。もちろん、と言うかなんと言うか、反応は無い。
ちょっと寂しい気もするが、静かだと言う事は、何も無い証拠なのだろう。俺は、少し安心した。
「ドタドタ、バタン。ギャーッ」
突如、二階の方から凄い音が聞こえた。俺の耳が正しければ、恐らく俺の部屋だろう。
買い物袋を玄関に放り投げ、俺は急いで階段を駆け上がった。
「何事だ?!」
勢いよくドアを開ける。
「あ、祐哉。帰ってきたの?」
「お兄ちゃんお帰りぃ」
俺は、目を疑った。
……こ、これは何なんだ?
目をごしごしと擦ってみるが、目の前の異様な光景は、そのままだった。
――母さんと彼女が踊っていた。さっきの変な音は、このせいだったのだろう。
「一体俺が居ない間に何があったんだ?」
俺が言うと、ふわりと彼女が微笑んだ。
「色々あってさ。事情は分かってもらえたし、まあいいんじゃない?」
「そうそう。ごめんねえ。お母さんとんでもない誤解してて」
母さんも同調する。
彼女の言う通り、分かってもらえたのはいいけど、
「この部屋何とかしてくれ!」
俺の部屋は、母さんと彼女のせいで滅茶苦茶だった――。
工美ちゃん目線と言っても、最初の方だけになってしまいました。
いやー。難しいですね。工美ちゃん目線。
それでは皆さん。良い年をお迎え下さい。