第十話 散々な朝2
ガチャリ。部屋のドアが開く。
「おっ。上手く言ったか?」
俺は、彼女に期待を込めて聞いた。
「うん。まあ上手くいったケド……」
彼女は俯いた。
「変なのもくっついて来ちゃった」
「へ? 変なのって?」
俺が言い終わらないうちに、もう一人の足音が聞こえた。
「祐哉! これはどういう事なの!?」
――この金切り声は、絶対に母さんだ。
「母さん。朝から怒鳴んないでくれない? 近所迷惑だよ」
「うるさい。この際、近所迷惑なんてどうでもいいわ。まず、黙って聞いてなさい!」
はいはい、おとなしくしてますよーだ。でも、怒鳴り声が身体に響くのは、辛い……。
「まず、この女の子、家に帰さなかったでしょ」
それは違う。彼女の家はここだ。
違うよ、と呟いてみるが、完全無視。
「次に、昨日の夜、この女の子と、一緒に夜明かしたでしょ!」
母さんは、彼女を指差しながら怒鳴った。
――確かに。俺は、彼女と一緒の部屋に寝ましたよ。彼女の勝手で、そうなっただけの事だけど。
「昨夜はさぞかし幸せだったでしょうね」
ち、違っ。母さん、いくら何でも、そりゃないよ。
「それは違います。お母さん。あたしが勝手に部屋に入ってっただけで、あたしはちゃんと床で寝ましたもん」
ナイスフォロー。彼女も気が利く時あるんじゃん。
床で寝てたっていうのは、半分当たりで、半分はずれだけどね。
「部外者は黙ってて。あと、あなたに『お母さん』なんて呼ばれる筋合いはないわ」
「はい。すみません」
ウソっ。あの彼女が、簡単に引き下がってるよ。母さんに楯突くと、ろくな事が無いって分かっちゃったんだろうな。きっと。
再び母さんの目は、俺に向けられた。
「で、どうなのよ。答えなさい!」
「俺は、そんな事してない。断じてしてない」
「正直に言いなさい。母さん、怒んないから」
いや。正直に言ってるんだけど。
「自分の息子の言う事が信じられないっていうのか?」
こくん、と大きく母さんの首が縦に動く。
「だって、昨日嘘ついたもん」
だから、あれも事実だって。
「母さんは何にも分かってない。俺は嘘なんてついてないんだ。全部事実なんだ」
俺が言い返すと、母さんは
「祐哉の方が分かってないわ。あなたの為を思って言ってるのに、なんで分かってくれないのよ」
と、目に涙を溜めて、走って部屋を出て行ってしまった。
「ねえ、お兄ちゃん」
母さんが居なくなると、彼女が俺に話しかけてきた。
「何だよ」
ぶっきらぼうに言葉を返す。
「湿布、貼ってあげようか?」
彼女の手をよく見ると、そこには湿布があった。
「朝ごはんを持ち出そうとして、台所に行ったところで捕まっちゃって。でも、湿布は無事持ってきたから」
「……ありがとう」
昨日までの彼女が嘘みたいだ。
「冷たいけど、我慢してね」
「うん」
湿布の冷たさと、彼女の優しさが、身体中に染み渡る。
こんな妹だったら居てもいいかな、なんていう考えが、頭をかすめた。
すみません。『コメディー』じゃありませんね。
更新が遅い上に、ジャンルまで、だんだん逸れてしまいました。
これから、頑張って修正をかけて行きたいと思います。